57話 資格
流石に乱舞していく魔法を掻い潜って戦うのは難しいと判断し、さりとて10発の幽世門では当然相殺には足りない。
しかしいきなりティルトニクスを使うのは早すぎると思って、ある程度魔法を蹴散らしてくれればいいかなと言う気持ちで放ったアグリシアだったが。
「残り、5人か。随分と減ったな」
アグリシアを撃った後、立っていたのは5人だった。
鎧姿の男、魔法使いのような女性、半裸の男、仮面の女性。
そしてあのルーカスと言う男の5人だ。だがこの5人はアグリシアを防いだわけではなく、俺の魔法の軌道の問題だろう。
一応大きく左右に動いて魔法を相殺してくれればいいなと思っていたらその通りに動いてくれた。
おかげでほぼ全部の魔法はアグリシアが防いでくれたわけだが、ちょうど正面にいた奴らはそのアグリシアの魔法攻撃からそれていたというわけだ。
「な、なんだ、今の、魔法は……戦術級の大魔法だぞ、それを、たった一人で、しかも、詠唱も無しで……」
驚愕を隠せないようにそんな声を出す。
わずかに足が震えているが……見なかったことにしてやろう。
「驚いているようだが、この魔法よく防がれる事が多かったんだがな」
シルヴやらアルマダやらとかな。
通じるのは大体明らかに弱いやつだったからなあ、必殺技とはいえ強敵相手には頼りないと思っていた所は、うん、悪いけどあった。
正直牽制とかのレベルで撃ったとはとても言えない雰囲気だ。
「っく、正直かなり君を高評価していたと思っていたが、それでも足りなかったみたいだね……」
苦笑いをしながらそんな事を言うルーカス。
少しだけ、杖が下がるのを見たのか見なかったのか、その時ルーカス対して周りが声を掛ける。
「ルーカス様! まだ私達がいます!」
「そうです! それにあんな強大な魔法を撃ったんだ、相手は疲労困憊でろくな魔法を撃てないはず!」
「万が一、撃ってきたとしても我々が盾になります!!」
「やりましょう! まだ、終わっちゃいない!!」
声をかけられ、あっけにとられたような顔をした後、ニヤリを笑顔を見せる。
そして、下がった杖を強く握り締め、上へとあげる。
「皆……ありがとう、君たちの思いが伝わったよ。大丈夫だ、僕たちはまだ戦える!! まだ力を出し尽くしちゃいない! そうさ! 僕達は、勝てる!! そうだろ皆!!」
「「「「オオー!!!!」」」」
まるで勝鬨のような声をあげて奮起する。
そしてルーカスは俺に杖を突きつけて、強い視線を投げつけながら叫んだ。
「君がどれほど強大な力を持っていようとも! 僕は、僕等は必ず勝つ! 人間を、舐めるなよ!!!」
あの、俺をどこぞのラスボスみたいな最終決戦扱いするのやめてもらっていいですか?
後さらっと俺を人外扱いしないでくれます?
「あー……なんていうかさ、そんな俺を化物みたいに言われても困るんだが」
化物ってのはな、吸血女王とか普段二つ名が出ない【記憶融姫】ことアルマダの事を言うんだ。
あと怒った時のティリアスかな。
そんな俺の言葉にやけくそ気味にルーカスが吠えた。
「あんな魔法を軽々撃つ相手が化物じゃなくてなんだって言うんだ!!!!」
酷いこと言うなあ。
まあ化物扱いされて傷つくようなメンタルはしていないしどうでもいいといえばどうでもいいんだが。
とはいえ、アグリシアでほぼ半壊。それにアグリシアを見てあの様子なら悪いが俺に負けはなさそうだ。
もう一回撃てば終わりそうだし、最悪の場合ティルトニクスがあるしな。
油断大敵といえばそうかもしれんが、ま、予選だしなあ。
流石に予選の段階でティルトニクスを使うような相手はいないか。
「ま、化物でも怪物でもなんでもいいさ。けど悪いが今回は勝ちを狙っているんだ。だから勝たせてもらう」
なんかセリフがどことなく悪役っぽいなあと思いながらアグリシアをもう一度撃って終わらせる。
その瞬間
「これは、使うならば決勝でだけと思っていたんだけどね、そうも言っていられないみたいだ」
アグリシアを撃とうとした俺の手が止まる。
嫌な予感がしたからだ。
……そう、よく考えてみろ。
見落としている事が、なにかあるんじゃないのかと。
気の所為? いや、何かあるはずだ。
「我家に伝わるこの神器を、使わせてもらおう」
何を見落としている?
考えろ、考えろ、何か、何かがあるんだ。
この嫌な予感を振り払えない何かが。
「光栄に思ってほしいね、本当にこれは使いたくはなかったんだ。たとえ決勝でも、使う必要がなければ使わないつもりだった。僕の力ではないから」
……まて、そうだ。
そう最初に魔法の同士討ちがあった。
それはいい、【白亜守護陣】で防ぐことが出来た。
だからこれは問題ない。
「これが、レッドパッチワーク家に伝わる神器」
……そうだ。その後だ。
【白亜守護陣】で防いだ後、砂煙が晴れて、飛んできた最初の一撃を俺は危機感を持って防いだんじゃないのか。
アルトリウスと防御を重ねてまで。
それは何故だ。
「闇を焼き払う炎の神器、その名を」
それは、トゥールーが警告をするほどの一撃だったからだ。
そして俺もそれを防ぐべきだと判断した程の、そんな一撃だったからだ。
ルーカスが撃った炎の槍とやらではない、脅威と感じた、そんな魔法の一撃。
なら、その一撃はどこから来た!
「『黄金の灼……』「馬鹿!! 後ろだ!!」 え?」
間の抜けた声を出すルーカスの後ろ。
そこに一人の人物が立っていた。
「すまんなぁ 『睡蓮の棘』」
ルーカスの後ろに音も無く近づいていたその人物が、そっとルーカスの首筋に指先を触れさせるとルーカスはばたりと倒れる。
その後、転移光に包まれて消えていった。
……死んだわけではない、一瞬変顔で眠るのが見えたからだ。
残る3人はいつの間にやらいなくなっていた。
恐らく、あの人物が倒したのだろう。
あの、仮面の女が。
いや、違うか。
「参加資格は新規登録から一年以内、だったか」
なるほど、確かに参加資格はそれだった。
逆に言えば、参加資格はそれだけだ。それを満たしていれば、参加できる。
つまり
「一年以内の登録であれば、ギルド員でも参加は可能。そういうことか」
そう言うと、仮面の下で少し笑い、その仮面の女性は、つけていた仮面を外す。
そこから出てきた見覚えのある顔。
「───なあ、アリス」
「ふふ、ばれてしまったなぁ」
仮面を外すと現れたぴょこんと跳ねる、狐耳。
「そうユウの専属受付嬢……アリスちゃんやで」
【TIPS】
冒険者の間では詮索はご法度と言われている。
それは知られたくない秘密を知ったことによる刃傷沙汰も数多く存在するからである。
だからこそ明らかに姿を隠したいフード姿や仮面であったとしてもそれについて詮索する様な事はしないのが
冒険者の間では暗黙の了解となっている。




