55話 珍しき悪くないこと
「さて……俺一人で参加することになったわけだが」
「これはあの狐処刑案件でしょ、ふつー言うよね?」
珍しく怒った雰囲気でマキナが口をとがらせながらそんな不満を述べる。
狐……ああ、アリスのことか。
まあ確かに何であの時言わなかったんだとも思うが。
「まあ、思い出したくもない騒ぎの時もあったし、確かに言ってくれと思うが……」
「なんか歯切れ悪いじゃん。何、惚れた? 耳か? 尻尾か? 胸……はないな、何にやられた?」
「お前殴るぞ。……確かに俺達が組んでいるってのはまあ知っているかもしれないがな」
「明確に新王杯に出ると言ったわけじゃないですから、それを察して言ってくれというのは少し虫の良い話ですね」
俺の言いたいことを代弁してティリアスが言うが、その顔はそれでもなあと言わんばかりの不満顔だ。
「それでもさぁ! こう……あるだろ!? 一人で出るのかとかさぁ! 一ヶ月あったんだからぁあああ!」
「それ俺達にもブーメランだぞ。出るなら調べとけって言われたらそれまでだろうが」
正直、特に難しいルールは無い事もあり、新王杯については全く調べていなかった。
しかしまさか人間以外参加禁止とは……。
参ったな、ほぼ常に4対1は流石にキツイんじゃないか。
「くそぉ! くそぉ! ちっくしょおおおおおおおおおお!」
地団駄を踏むマキナ。
なんかすっげえ悔しそうだな。
「お前なんでそんなに怒ってんだよ。そんなに出たかったのか?」
「当たり前じゃん!!」
「へぇ、こういうのにはあんまり興味が無いと思っていたが……ちなみに理由は?」
胸を張り、腕を上げてマキナは高らかに言った。
「新王杯に出て並み居る敵を鎧袖一触しながらなんだあの美少女は!? と注目を上げつつも自分のやった事をわからないようになにかやっちゃいましたととぼけながら優勝した結果素晴らしい是非我が国へと王様から勧誘を受けアタシは一つの国に収まる器じゃないんでねとかいいつつもアイドルとしてなら喜んでと
───言いたい人生だった」
「はい」
「え、アタシの野望聞いた感想2文字?」
「長いし意味不明だし夢見てんじゃねえぞ」
「乙女の夢をなんだと思ってるんだ」
どこが乙女の夢だよ、全然乙女じゃねえよ。
最強系の小説じゃねえんだからさぁ。
「ま、まあマキナちゃんの夢もわからないでもないですけど」
ティリアス!?
「えーアイドルにしてはちょっとねぇ……ふふ、体型とか色々足りてないんじゃないかな」
「黙れ貧乳が」
「ぶっ殺す」
「は? 事実で切れんの? ごめんねごめんねー!! 事実でごめんねー!」
「その首要らぬと見える」
「やんのかこらああああ! てめぇが仕掛けた戦争だろうがああああああああああ!!」
「ふ、ふたりとも人が見てますしあんまり騒がない方が」
「「巨乳は黙ってろ」」
「黙るのはお前らの方だ!!!」
マキナとアルマダの頭に拳を叩き込み物理的に黙らせる。
多少強すぎたような気もするが、まあ静かになったから良しとしよう。
『疑問。マスターは胸が大きいのと小さいのどちらが良いのでしょうか?』
お前、たまに喋ったと思うとそれかよ。
一応周囲に人が居る時に話すと色々面倒なので普段は喋らないみたいだが。
『周りが結構騒がしいのでこれぐらいなら大丈夫かと』
その判断基準はどこから来るんだ。
「……どうなんですか?」
「ティリアス?」
なんか目を合わせてじーっと見てくるんだが。
「ちら」
「……」
「お前らもかよ……別にどうでもいいだろうが」
地面に伏せながらこっちに視線を送る二人。
それらを無視して俺は話を続ける。
「それよりも、こうなったからには仕方ねえ。どこまで行けるかわからないが、まあ一人でもやるだけやってみるさ」
今更他のメンバーを誘う時間もない。
と言うか、組む人間が居ない。
「……ま、いいですけどね」
不満そうにそう言うティリアス。
……そこのダウンしている二人もじとっと俺を見るんじゃない。
「というか、マキナも貧乳じゃん」
「アタシは可変式だから~」
「偽乳……」
「は?」
「じゃあ行ってくる。ティリアス、悪いがそこのバカ二人を頼むわ」
「頑張ってください、応援してますよ」
手を振りながら片手にマキナとアルマダを掴んでいる。
……凄え力だな。
「ア、アル、アルトリウスモードで殴らなくてもいいじゃあん……」
「頭が、頭が痛いー」
「二人共自業自得ですよ、全く……次騒いだら私からコツンってしますからね」
「コツンで済むの……?」
「背中に鬼を背負っているんですがそれは」
戦々恐々としている二人を見て少しだけ笑う。
全く、いつもどおりだなコイツらは。
「まあやれるだけ、やってくるわ」
そんな自信のないような事を言うと三人は顔を見合わせる。内二人は持たれたままだったが。
三人はぱちくりと瞬きをしたと思うと、クスっと笑い合う。
そしてティリアスが持っていた二人を下ろす。
「……な、なんだよ」
そんな妙な雰囲気に一瞬戸惑う俺。
後ろ髪を引かれる思いで奥に向かおうとすると
───バシンと背中を叩かれた
「!?」
てっきり、マキナあたりかと思ったが。
「ティ、ティリアス?」
叩いたのはティリアスだった。
ティリアスはすうっと、息を吸い込むと両手を握り、叫ぶように行った。
「馬鹿!! 優勝でしょ!!!」
そんな、そんな激励を口にした。
普段言わないような声と口調に驚いた俺を更にバンっと背中を叩くのはアルマダ。
「そろそろさ、ご主人様の凄い所、見せるとこだよ!」
にへらと笑いながらそう言うアルマダに続いてドンと押すようにしたのはマキナ。
たたらを踏みながら奥に進まされる俺にマキナは言った。
「アタシ達の代表みたいなもんなんだから、無双してこい!!!」
親指を立てるマキナ。
俺はそれを見て、初めて。
そう、この世界に来て初めてかもしれない。
「……ああ、ちょっくら、優勝してくる」
家族以外に、親愛という様な感情を抱いたのは。
珍しすぎるアイツらの応援は、きっと珍しく皆と一緒に戦える舞台を、いつもの様な失敗から一人になり、そうきっと珍しく、残念がっていたのだろう。
今までは一緒に行動する事はあっても、ともに戦うことはなかったし。
それぞれの関係も少しいびつなこともあり、多少なりとも距離があったと思う。
けど、きっとなんだかわからないが。
アイツらも何かを考えていて、何かを感じていて。
俺とは違って、感情を進めようとしたのだろうというのをなんとなく感じた。
だからこそ、こんなにも柄にない事をしている。
だからこそ、こんなにも柄にもない感情を抱いている。
あるきながら、そんな事を思っていると
『マスター』
「なんだ?」
『……嬉しそうですね』
「そうか?」
『ええ、そう想います。勝ちましょうね』
「ああ、そうだな」
歩いた先には、既に多くの人が集まっていた。
コロシアムの中、まさしくイメージする通りの広い円形の観客席となにもない平地が広がる場所に、数十、数百まで上るだろう人の群れ。
正直、自分がどのぐらい強いのかわかっていない。
シルヴには強いと言われたが、実感としては無い。
勿論俺が最強だと思っていないし、優勝とは言ったもののこの中に俺よりも強いやつがいる可能性はそれこそ限りなく高い。
……そもそも、俺が使える技はそんなに多くはない。
まず、【真なる白夜の王】
起動しないと強さが激減する、俺の基本モードと言っていいだろう。この状態をアルトリウスモードと読んでいる。
白い光を纏う様になり、剣から白い刃が出る【光羽】が使えるようになる。
最近は無くても出るようにはなったが、連続で出す【光羽蓮華】はこのアルトリウスでなければ使えない。
連続で出せるのは5発ぐらいが限界だ、それ以上出そうとすると一瞬身体が止まってしまう。
次に【光輝の幽世門】
剣を地面に突き刺すと10の魔法陣から10の敵を追尾する光の玉を魔法陣から生み出す魔法だ。
正直派手な見た目の割にそこまで強くない見掛け倒し感がある。
最近連打出来るようになった。
そしてメイン必殺技【軌跡を喰らえ、驕れるもの】
前は幽世門から使っていたが単発でも出せることに気づいたのでより使い勝手が増した魔法だ。
光の龍を生み出すという見た目も大満足な技で威力も非常に高い。
幽世門の玉を食べさせることで強化でき、強化すると二対の翼が六対になり大変にかっこいい。
もうこれだけでいいんじゃないかなってぐらい良い魔法なんだが、見た目通りそこそこ体力を使う。
数発なら問題ないが連打していると流石にキツイ。
強化するとそれはもうかなりの疲労感だ。2発目は正直撃ちたくないぐらいに疲れる。
俺が使える攻撃的な魔法はこれぐらいか。
後は魔法を広範囲にする【皆に手を】、自分の状態を回復する【精神回帰】、盾として複数枚出せる【白亜守護陣】の3つ。
そして、俺の切り札<疑似英雄譚・白き誓い>
全身を白い鎧で覆う、攻撃的な姿かと思ったら防御に厚いタイプだった俺の最強モード。
アルトリウスよりも強化されて、筋力や動体視力も上がっているので全体的な能力が向上している。
かなり強いが長時間使うことが出来ず、大体5分くらいが限度だ。
しかも使った後は疲労感も高いし身体がガタガタになる、文字通り切り札だ。
……そのティルトニクスの状態でのみ使えるのが<総てを塵に>
巨大な魔法陣から無数の流星が円を描きながら中央に極太ビームを撃つ最強技。その威力はアグリシアも遥かに超えている。
恐らくティルトニクスの力を全部放出しているのだろう、使うと時間制限に関わらずモードが解ける。
んでほぼ撃った後はぶっ倒れている。一発限りの大技といえば聞こえはいいが自爆技に近い。
…………なんか使いやすい技が少ねえなと感じるな、こう並べると。
ティルトニクスはほぼ決め専用、出来れば後がないって時に使いたいと考えると基本はアルトリウスモードだろう。
果たして、これでどれだけ突き進めるか。
ぎりっと拳を握りしめる。
正直な所、勝ちたいとは思っていても負けてもいいと考えていた事も確かだ。
勝ち進んだとしても、もらえるのは翁が居るかも知れないというレベルのダンジョン、機械仕掛けの時計塔に行ける権利だけだ。
それほどどうしても欲しいというものではない。
けれども。
「……言っちまったからなあ。優勝するって」
柄にもない言葉を吐いてしまった。
しかし、まあ、珍しくアイツらがあそこまで言ってくれたんだ。
たまには、本気で挑んでもいいだろう。
……しかしまあ、妙な奴らだよ。
同じ境遇ってだけで俺と一緒にいる鬼。ティリアス。
何故か俺に勝ったのに使い魔になった悪魔。アルマダ。
なんだかんだノリで付いてくるアンドロイド。マキナ。
俺達の間の関係はそんなもんだったし、いつ離れてもおかしくなかった。
けど、なんやかんや、出会ってからずっと居る。
「全く、不思議なやつらだ」
そんな、まあ……馬鹿な仲間たちのために勝ってきますか。
【TIPS】
大きな悲しみがあると悲しみを怖れるあまり臆病になることは決して弱さではない。
そこから進めなくなり立ち止まることが弱さなのだ。




