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32話 やれやれ

「ここは……っ痛」

 

 目を覚めまして起き上がった時に身体に痛みを感じる。

 筋肉痛に似ているが、これがティルトニクスの代償だろうか?

 これだけなら、全然優しいと思うが。

 軽い頭痛もするが、まあなんとか我慢が出来る範囲だし。

 

「起きたか」

 

「うお、シルヴか。何だ、居たのか……」

 

「随分な挨拶であるな。見舞ってやった事にお礼は無いのか?」

 

 そう笑いながら言う。

 ……そうか、訓練後俺は倒れて、シルヴが連れてきてくれたのか。

 

「そうか、いや、助かったよ。ありがとう。ここは、客室みたいだが」

 

「うむ。まあ我にも監督責任があるからな。……調子はどうであるか?」

 

「ん、まあ多少身体が重くて痛いぐらいか。特に大事はなさそうだ」

 

「それならば良い。一応、回復魔法は掛けておいたが、暫くは休んだほうが良いだろう。お主が倒れたのは力の使いすぎ故な」

 

「使いすぎ、か。……俺の力はどうだった?」

 

 評価が気になる。

 最後には倒れてしまったとはいえ、今の俺がどれぐらいなのか。

 それを知りたい気持ちが強かった。

 

「強い」

 

 きっぱりと言い切った。

 

「このまま訓練を続ければ、更に力を手に入れることが出来るであろう。……だからこそ、聞いておきたいのだが」

 

 真剣な表情で視線を俺に向ける。

 茶化せない雰囲気の中、シルヴは俺に問いかけた。

 

「お主の目的は、目標は何だ?」

 

「……目標か。特には決めてなかったな」

 

 異世界に来てから、唯一目標を立てたのはクラウをボコる事、鱗を取り返す事だ。

 しかし、それが終わってからは、目標と言えるものはない。

 強いて言えば、翁について調べる事だが、目標と言えるほど強いものではない。

 

「お主は強い。だがな、強すぎる力は軋轢(あつれき)と恐怖、嫉妬を生む。それは闘争となる。過剰な力は、必要がなければ持たないほうが良い」

 

「……強くなるのに反対なのか?」

 

「違う。強くなる事が目標ではいかんということだ。力は手段、何のために力を求めるか、何のために力を振るうか、それがわかっていなければ力に溺れてしまうという、まあ、長き時を生きてきた老婆からの忠告よ」

 

 何のためにか。

 確かに俺は今強くなることが目的になっていたが。

 

「自分はそうならない、と思っている者ほどそうなるぞ。なにせ、溺れるつもりで強くなる者は居ないのだからな」

 

 その言葉を聞いて、脳裏に浮かんだのはクラウだ。

 ……確かに、ああはなりたくはないな。

 

「まあだから、丁度良い区切りと考えてここで目標を決めてはどうか? という提案である。まあ直ぐに答えを出さなくても良い。身体を休めているだけでは暇であろう。宿題だ……さて、我はお主が起きたことを伝えてくるである」

 

「……あの二人はあんまり来てほしくないな。うるさくなりそうだ」

 

「ふっふっふ、気持ちはわからんでもないがな、そういう騒がしさもお主には必要だと思うぞ。ではな」

 

 そう言って部屋から出ていく。

 一人になった俺は、一旦周りを見回してみる。

 特になんの変哲もない部屋だ。俺が寝ているベッドに、部屋には机とソファーがあるだけで、それ以外には特になにもない。ああ、一応窓は有るか。

 清掃はされているようだが、少々殺風景とも思える。

 

「目標、ねえ……」

 

 うーん、なんだろうか。

 男なら誰もが一度は目指す世界最強とか?

 確かに、この世界に来て目的ってないんだよな。

 

 ……一応はあの翁に言われた言葉はあるが、別にしたからどうこうって話もなかったし、優先度は低いんだよな。

 

「……普通なら元の世界に戻りたい、なんて思うのかね」

 

 俺にはそんな気はないし、なれない。

 そもそも元の世界に戻ってもなにもないし、今よりもいい方向に進むなんて思えない。

 

「はあ、どうするかな」

 

 本当に、なにもないんだなと思ってしまう。

 

「まあ宿題ってことなら、考えるしか無いよな。先生には従わないとな」

 

 自分で言って苦笑してしまうが。

 

 と、そこでノックの音が響く。

 

「ノック? エクレアさんか、ティリアスかな?」

 

 シルヴって可能性もあるが。

 アルマダはありえんのは間違いない。

 

「……失礼するっす」

 

 だが、予想に反して現れたのは別の人間だった。

 見たことがない人物に俺は少し戸惑う。

 

「あ! と、突然ごめんっす。自分はチルっていうっす。この城のメイドっす」

 

 わたわたと手をふって無害アピールをする。

 チル……ああ、残りのメイドか。ツボ割った。

 

 しかしこっちは普通のメイド服なのか。白と黒の。

 髪色がピンクなのは凄いが。しかもショート。

 

「ああ、一応話は聞いたこと有る。けどどうしてここに?」

 

 その言葉を聞いてぐっと拳を握りしめるチル。

 そうして

 

「その、お客さんにいきなりこんなことを言うのも申し訳ないっすが……

 ───お願いします。友人を助けてほしいっす」

 

 そういって、土下座をした。

 

 

 

 

 

 

「なるほどな」

 

 突然の土下座に驚いたのもあるが、友人を助けるという言葉が気にかかった俺はとりあえずソファーに座らせて話を聞いた。

 俺はベッドから動こうとしたが止められたのでそのままベッドにいるが。

 しかし、若干しどろもどろ身振り手振りではあったが内容はなんとなく把握した。

 

「友人がさらわれたから助けてほしい。だがシルヴやエクレアさんが行けない都市『ハルサラ』という場所にいるため、二人に助けを求めれないから俺に助けを求めた、と」

 

「そうっす……急なお願いで申し訳ないっすが、なんとかしてもらえないっすか!? じ、自分で出来ることならなんでもするっす!」

 

「お前な……女の子がなんでもするって言うのはやめとけ」

 

「だ、大丈夫っす。こ、こうみえてもけ、経験豊富っす! 千人ぐらいの男と付き合ったことも有るっす!」

 

「お前何歳か知らねえけどよ……」

 

 仮に見た目通り18歳位と想定してもおかしいからな?

 あとそれ嘘って俺はわかるからな?

 

「……本当に大事な友達っす。でも自分じゃ助けに行けないっす」

 

 どうやら、話を聞く限りはその『ハルサラ』という都市は人間以外を迫害している街らしい。

 

「お前がお願いすれば、それでも二人は動いてもらえると思うが」

 

「だ、だめっす。仮に行ったとしても絶対に問題になるっす! あそこは本当に厳しくて、見つかっただけでも襲われる程っす」

 

 そりゃまた過激な。

 

「返り討ちにしたら、その都市全体だけでなく、危害を与えたってことで手配が回るっす。そうすると、この城に討伐隊が送られて来ることも十分考えられるっすよ……それは流石に出来ないっす」

 

「まあそれで人間である俺に白羽の矢が立った、と」

 

 間違いではないんだが……即答は出来んなあ。

 助けになってやりたい気持ちはあるが。

 

「無理なことをお願いしているのはわかっているっす。でも、ギルドに依頼するわけにも……」

 

 ギルドはそうやって人の依頼を受ける事もできる。

 しかし、ある問題からそれが出来ないらしい。

 

「……それは言えないのか?」

 

「受けてくれるって確約してくれるまでは、答えれないっす……申し訳ないっすけど」

 

 どうやら、その人物に何らかの事情もあるらしいが。

 

「その友人は、シルヴとかエクレアは知らないのか? そっちの友人方面で助けを求めるとか」

 

「…………」

 

「言えない、か」

 

 参ったな。流石にふせられた情報が多すぎる。

 

「い、いまならこの豊満な身体が貴方のものにっす!」

 

「豊満……?」

 

 小さくも大きくもない胸とぷにぷにした体つきにみえるが。

 

「さ、更にその……は、はじめてもあげれるっす」

 

「お前さっき千人の男とか言ってなかったか。というか、報酬を求めるわけじゃねえけどよ。他にないのか?」

 

「ないっす……お金も全然無いっすし、それ以外の貴重な物とかも持ってないっすから、本当この身しか……だめっすか……?」

 

「上目遣いで見るなよ……そんな俺が性欲モンスターに見えるか?」

 

「……自分に出来るのはそれしかないっすから。お願いと身を差し出すしかないっす。お願い、します。お願いします。助けて下さい……」

 

 再び、頭を下げる。

 ……くそ、こういうのに弱いんだよな。

 ったく、本当卑怯だよな……涙ってやつは

 

「はあ……二つ条件がある。それを守ってくれれば、受けてやる」

 

 がばっと顔を上げて喜色を浮かべる。

 

「受けてくれるんっすか! 条件はなんすか! 鞭っすか!?」

 

「お前頭ピンクすぎじゃね? ……一つ、もし助けれなくても文句は言うな。俺も頑張るけどよ、絶対助けるなんて安請け合いは出来ない。わかるな?」

 

「う……そ、そこを曲げてもらうわけには」

 

「気持ちは分かるがな、俺も絶対助けれるなんて言えない。相手がどんなのか、その都市のことすら知らねえんだ。無責任な事は言えん」

 

 出来ます、なんて今の状況から言えるわけもない。

 逃げ道や言い訳かもしれんが、嘘は言いたくない。

 一応、真摯に頼み込んでくる相手だしな。

 

「うう……わかったっす。で、でも本当にお願いするっす」

 

 ……なんだろう。見た目から判断が出来なかったがすごくこいつ良いやつだわ。

 

「二つ目、二人に許可は取る事。勝手に出ていくわけにもいかんしな」

 

「う、それは、駄目っす」

 

「駄目じゃない。むしろあとでバレて勝手に行動される方が不味いだろう。俺が行くって事を伝えて判断してもらえ、それが報連相って事だ」

 

 よくこういう事を隠してこっそり行く奴が多いがとんでもねえ馬鹿だ。

 後でバレた時にもっとヤバイ事になることがわかってねえ。

 反対される? 誠心誠意お願いして駄目ならそれこそ駄目だろ。

 

「俺も説得はしてやるから、な?」

 

「わ、わかったっす! お、お願いします!」

 

 素直だなあ。

 誰達とは言わんがこれぐらい素直な子にならんものかね。

 

「んじゃ、とりあえず行くか」

 

「え? いや駄目っすよ! まだ身体が本調子じゃないっすよね!?」

 

 ……癒やされるわあ。

 

「な、何で頭を撫でるっすか……」

 

 おっと、つい手が伸びてしまった。

 イケメンがやれば無罪だがそれ以外は痴漢で捕まる大技をつい。

 ……う、訴えられないよな?

 

 ……大丈夫みたいだ。困惑はしているが手をはねられたり大声を出す素振りはない。

 

「お前は妹枠だな」

 

「え? 自分一人っ子っすけど……」

 

「属性の話だ。……早く助けたいんだろう?」

 

 そう言うと、少し困った笑みを浮かべたが、素直にうなずく。

 

「ありがとうっす……」

 

「うむ、癒やされるなあ……」

 

 しばし撫でながら俺は向かった。

 そう、あの二人達が居るであろうあの部屋へ。

 

 ……ていうか呼んでくるって言っておきながら来ねえな。

 

 

「……おい」

 

「あっ……」

 

「あちゃー」

 

「あら……」

 

「う、うむ」

 

 理由はわかった。

 てめえら……

 

「扉に張り付いて聞き耳立てるとはいい度胸をしてやがるな」

 

「ボク今来たばかりだよ!」

 

「私もです!」

 

「……その、申し訳ありません」

 

「つ、つい気になってな……いや悪かったである」

 

「……ま、いい。話す手間が省けた。で、聞いてたんならわかるだろ?」

 

 二人の頭にゲンコツを落としながらそう問いかける。

 ったく、この二人は俺が嘘が分かることぐらい知ってるだろうに。

 頭の中空っぽかよ。

【TIPS】

知識によって発音の仕方が違ったり、意味が違ったりする。

それを方言として認識しているらしい。

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