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31話 女王の感想

「…………皆、無事か?」

 

 そう言って我は三人視線を向ける。

 まず言葉が返ってきたのはエクレアからだった。

 

「はい、アルマダ様もティリアス様も、傷一つありません……ですが」

 

 そこで我は手で制し、言葉を止める。

 今の状況はわかっている。我の身体だからな。

 

「流石に、無茶をしすぎたか」

 

 こみあげてくる血を何とか飲み込む。

 主として血を吐くなんて無様な真似は見せれん。

 

「失礼致します」

 

 そう言ってエクレアが近づいてくる。

 なんだろうと思っていたが口元を拭かれてようやく、口から血が流れていることに気づいた。

 ……意味なかったじゃない。

 

 そこで、こっそり耳元で囁いてくる。

 

「……無茶しすぎです。神器を呼び出すまではまだしも、特格魔法を無詠唱で連続して放つなんて」

 

 やれやれ、ばれてしまっていたか。

 二人きりの時ぐらいしか話さない口調で言ってくるあたり結構怒髪天を衝いてしまったのかもしれんな。

 

「すまぬな、だがそうせざるをえなかった。……わかるだろう?」

 

 その言葉に答えは返ってこなかった。

 ふ、口を真横に結んだ時点で答えている様なものだ。

 

「あれは我すら殺す(・・・・・)可能性があった。勿論、直撃を受けての話で、更に仮定の話ではあるがな」

 

 それでももしかしたら、と言うレベルだ。

 恐らくは大丈夫だろうと思ってはいたが。

 

「恐ろしいな。ああ、本当に恐ろしく感じている。吸血女王なんて大層な名前を抱いておる我だが、僅か二日の人間に殺される可能性があるとは」

 

 自慢だが、我は吸血女王と言う二つ名持ちだ。

 二つ名を持つというのはそれだけで上位クラスの力を持つ。

 世界で、だ。勿論その中でもピンキリではあるがな。

 戦闘に長けない我は戦闘力では下の方だが……

 

「それでもドラゴンが1000人居ても負ける気はしない。その位の自負はあったのだがな」

 

 ドラゴンが1000人居れば都市一つ軽々灰に変えることが出来る。

 それでも我にはかなわないだろう。龍クラスだと厳しいが、それでも対抗は出来ると思っている。

 

「幸い、相殺はできて良かった」

 

 安堵した。

 それでも、相殺まで至った。

 

 特格魔法に対して、相殺だ。つまり、同等レベル。

 

「……どう、なさいますか?」

 

 厳しい目で此方を見つめてくる。

 ……っふ。

 

「っわ、な、何故頭を撫でるのですか?」

 

「無理に悪人になろうとしなくても良いのである。彼は大事な客人、いや友人(・・)だ。……わかるな?」

 

 その言葉の裏に潜んだ真意をちゃんと見抜いたのか、若干安堵したように頭を下げる。

 気持ちはわからんでもない、がな。

 

 このまま強くなった時、我は彼を止められるのだろうか。

 命を狙われたりしないだろうか。

 そう思ってしまうほどの、力ではあった。

 

 もう少し我に悪意があれば、今意識がない彼を、ユウを手にかけていたかもしれん。

 

 しかし。

 

「わかっているだろう? そうならないように導くのが、王の仕事だ」

 

 エクレアも悪く思っていないようだし、悪い人間ではない。

 ……もっとも、言いたくはないが、人間はすぐ心が移り変わる生き物ではあるからな。

 注意だけはしておかねばならんのだろうな。

 

「えっと、良く状況がわからなかったんですけれど……」

 

「おっと、すまぬなティリアス殿。何、ユウ殿が強力な魔法を放ってな、相殺する為に我も魔法を撃っただけのことである。勿論お互いに傷は無いのである」

 

 表向きは、と続くがそれは黙っておこう。

 無理な連続魔法行使はやはり負担が大きい。

 

 おっと、ユウの姿を見つけて駆け寄っていくティリアス。

 麗しき友情であるな。

 

「エクレア、皆を客室に連れていってくれ。ティリアス殿もアルマダ殿も、ユウ殿はエクレアに運ばせる。しばしユウ殿が目を覚ますまで休んでいるのである」

 

「いえ、そんな事なら私がしますよ」

 

 おお、豪快に持ち上げたでござるな。

 ……いや待て。

 

「ティリアス殿。その持ち方は、その、どうだろうか?」

 

「? 何か?」

 

 皿を持つように片手で持ち上げて手のひらでバランスをとっているのは、運び方としてその……。

 

「いや、まあ、いいのである……エクレア」

 

「はい、皆さま此方で御座います」

 

「わかりました。しかし、訓練とはいえ魔力の使い過ぎで倒れるなんて……」

 

 ほう、何も言わないと思っていたがユウが倒れた原因が魔力不足とわかっていたか。

 

 そうして案内するエクレアを先頭に、ユウを持ったティリアスが進んでいく。

 その後をアルマダが続くが、ちらりとこちらを見ると。

 

「……隠してくれた事自体には、感謝してるよ」

 

 そう小さくつぶやく。

 近くにいるティリアスにも聞こえない程だが、我にはわかるように。

 

 そうして誰もいなくなった訓練場。

 灰色の壁で覆われた四角の部屋。

 

「……やれやれ、流石は七天魔公。お見通しであったか。わりと頑張ったのであるがな、結局騙せたのは一人だけか」

 

 そう言って、我はもう一つの魔法(・・・・・・・)を解く。

 

 

 その瞬間、周囲が一変する。

 あらゆる地面、壁が粉々に砕かれ、めくりあがり、本来見えない壁奥の結界も見えている。

 その結界もヒビと魔力暴走が起こっている。

 やれやれ、壊れなかっただけよかったが、暫くは使えそうにないな。

 

 一面殺風景だった訓練場は、廃墟と言わんばかりの有様だ。

 

「特格クラスの魔法がぶつかればこうなるか……しかし、本当に恐ろしい。この世界に呪いあれルナティック・ティアーズを使う事になるとは、夢にも思っていなかったである」

 

 そう呟きながら既に消した杖を思う。

 

「我の切り札の一つであるが、見られていたかな?」

 

 思い浮かべるのはユウとアルマダ。

 

「まあ、その時はその時である」

 

 さて、と。

 まずは結界の暫定修復と閉鎖であるな。

 やれやれ、初日から随分と飛ばしてしまったな。

 

「こういうのを、藪をつついて蛇を出す、と言うのだったか。ふっふっふ、出てきたのは蛇ではなかったがな。龍の雛を育てるのも、悪くない」

 

 エクレアとくっついてくれないだろうかと少し真剣に悩みながら、作業に取り掛かった。

 

「……我は、駄目だろうなあ」

 

 流石に人妻はなあ。

【TIPS】

 シルヴァリア・ハーケンブラッド

 二つ名:吸血女王

 属性:子持ち、未亡人、巨乳(F)、王様

 使用武器:神器 魔哭剣【コントリアス】 血月鎌【ガルディズ】 黒ノ極杖【この世界に呪いあれルナティック・ティアーズ

 ───吸血鬼マニア ダルダダーンの隠しメモより

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