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14話 不穏な食い違い

 そうか、クラウより、俺は強いんだな。

 

「っひ!」

 

 急におびえたような声を出す。

 なんて情けない男だ。

 それでも俺を殺した人間かよ。

 

「さっきの尊大な態度はどうした。言ってみろよ、劣等って」

 

「く、来るな! 来るな!」

 

 俺が軽く足を前に出して、歩き出すだけで腰を抜かしたクラウはそのままの姿で後ずさる。

 ……本当に、情けない姿だ。

 

「ガ、ガーラ! な、なんとかしろ!!」

 

「……無茶言うなよ」

 

 仏頂面だが、額には汗が浮かんでいる。

 心なしか、足もすくんでいるようにも見える。

 

 ちらりと視線をガーラに移せば、びくりと身体を震わせる。

 そのまま、目を下に向けてしまった。

 

 なんだ、これは。

 

「……もう、終わりなのか?」

 

「っぐぐ……」

 

 杖先すら向けてこようとしない。

 

 なんだこれは。

 

 こんな、こんな弱かったのか?

 俺は何もしていない。

 まだ、何もしていない。

 

「ふざけるなよ……」

 

 この程度の奴が、俺を殺したのか?

 そういった、感情がふつふつと沸いてくる。

 

 コイツにとっては理不尽な感情かもしれない。

 だが、コイツは理不尽に俺の命を奪った。

 その怒りが、今また目を覚まし始めていた。

 

「ふざけるなよ!! お前は、その程度の人間なのか!? もっと、力を見せろ! 俺を殺したなら、それなりの力を、見せてみやがれ!!」

 

 俺は! この程度の! こんな情けないクソ野郎に!

 いや、違う。

 きっと、まだ、コイツには力があるはず。

 

 感情のままに剣を振るう。

 光の刃がクラウの横の大地を軽々と削り取る。

 戦慄したようなクラウの顔も、今は見たくはない。

 

 俺を見ろ。お前が殺した俺の力だ。

 抗ってみろ。抗えるだろう? でなければ、俺は何のために強くなったんだ。

 貰い物かもしれないし、チートかもしれないし、俺自身の力とは言えないかもしれない。

 

 それでも俺が今使っている、俺の力だ。

 なかったかもしれない命で使っている力だ。

 理不尽に奪われたこの命を……

 

「ゆ」

 

 …………おい、おい。やめろ。

 

 

「───許して、下さい」

 

 からんと、落ちたのはクラウの杖だったのか。

 それとも俺の剣だったのか。

 

「……はは、そうか」

 

 独り相撲だったのか。

 よくよく考えれば、当たり前だよな。

 初心者や子供のような弱い人間を食い物にするやつが、強いわけがなかった。

 

 ただ、俺は殺された事で、コイツを高く見すぎていたんだ。

 コイツは、ただの屑だ。

 敵役(てきやく)でも敵役(かたきやく)でもない、ただの、弱い、クズだったんだ。

 

 

 もう、いいか。

 

「【開け、光輝の幽世門(かくりよ)】」

 

 瞬間、俺の足元から巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 更に、その魔法陣を囲うように小さな魔法陣が合計で十個出現し「駄目!!」

 ……思わず、その声に反応したのか、そこで動きは止まった。

 

「……ティリアス」

 

 止めたのはティリアスだった。

 俺の手ごと剣をつかんで、止めていた。

 いや、実際掴まれても止まるはずはない。

 だから、止めているのは俺自身であるはずだ。

 

それ(・・)を行ったら、貴方は同じ(・・)になります。だから、駄目です」

 

 そう言うティリアスの眼を見て、俺は気づいた。

 瞳に移る俺の顔は、なるほど、醜悪に歪んで見えていた。

 

「…………お前はそれでいいのか?」

 

 角を折られた鬼。それがティリアスだ。

 復讐に駆られてもおかしくはないし、そもそもクラウを庇う側の人間ではなく、同じく襲う側の人間、いや鬼のはずだ。

 

 言いたい事を理解してなお、ティリアスは首を横に振った。

 

「気持ちはわかります。だから、単純にこう言いましょう。相手は、貴方の価値を下げる様な、意味のある人間ではないと」

 

「……なるほど、わかりやすい」

 

 単純に情に訴えるよりも、俺にとっては効果的だ。

 殺せば、消せば、当然俺はお咎めなしと言うわけにはいかないだろう。

 だから、そうして欲しくない。コイツ、クラウのためではない。

 

 俺自身の為に、止めると。

 

「まあ、そうだな。命の恩人には、逆らえんよ」

 

 そう言って俺は発動をやめると思った瞬間、地面の魔法陣が消える。

 

「だが、どうするん……」

 

 この後の対処をどうするつもりかと聞こうとしたが、俺が魔法を止めたと思うと離れていく。

 クラウの元へとスタスタと歩いていくと

 

「おごぉ!」

 

「は!?」

 

 が、顔面を殴りやがった!

 そのまま流れるようにマウントポジションをとると。

 

「これは私の分! これはユウの分! これは角の分! これもこれも!!」

 

「おぶぅ! ごば! やめべぇ!」

 

 こ、拳が乱舞しておる。

 手加減なんてないかのように殴り続け、拳によって顔がどんどん腫れていく。

 

「まだまだぁ!」

 

 振るった拳はすでに20を超えている。

 未だ拳の雨は降り止まない。

 

「……女って怖え」

 

『と、トゥールーは優しいですからね、マスター?』

 

 面倒なので回答は拒否する。

 見ろよ、観客も凄ぇ静まり返っている。

 ガーラなんて目をひん剥いてみているだけだぞ。

 

 いや、あれは声をかけて自分が標的になるのが怖いだけだな。

 気持ちは俺も一緒だからわかる。

 

「まだ終わっちゃいませんよ……」

 

 ぐったりし始めたクラウの胸倉をつかんで無理やり身体を起こす。

 空いた右腕でまたひたすらに顔を殴り続けている。

 

 修羅、夜叉、羅刹、鬼女……そう言った単語が頭に浮かぶ。

 もはや顔は見るも無残な姿になっている。

 ひでぶと爆発しそうな顔だが、あいつ生きてんのか……?

 

 

「ふん…………鬼の友人に手を出した報いですよ。それと、子供たちの分も」

 

 ようやく掴んでいた胸倉を話してマウントポジションから立ち上がる。

 軽く太ももあたりを汚れを払う動きをした後。

 

「ふん! 地面でも舐めているといいです!」

 

 とどめの蹴りを放つと仰向けだったクラウの身体を無理矢理うつ伏せに変える。

 ……地面と熱烈キスになったな。

 

「ふう、さてユウ」

 

 そう言って俺に声をかける。

 

「はいなんでしょうか?」

 

「どうして敬語なんですか? はい、次どうぞ」

 

 何気ない顔と動作で指さした先は周囲を血で染め上げた芸術作品となったクラウ。

 ……え、ここから俺追撃するの?

 いや、もう、お腹一杯ですけど。

 

「い、いや、俺の分もやってくれたみたいだからそれでいいです」

 

「そうですか? 遠慮しなくていいんですよ、と言うか、敬語はやめて下さいよ。今更ですよ?」

 

 遠慮とかそういう問題なのか?

 俺の復讐心も思わずドン引きするぐらいなんだけど。

 

「じゃあ、こっちの番ですね」

 

 鋭い目線で突き刺したのはガーラ。

 殴られている間一切動きをしなかったガーラは、視線を受けると。

 

「す、すまねえ! 許してくれ!」

 

 ど、土下座だと!?

 この世界にはドゲザ文化があったのか!

 

 しかし、うーん、土下座か。

 ガーラにも背後から斬られた恨みはあるっちゃあるんだが……

 

「聞こえない」

 

 その頭を足で踏みつける怖いお姉さんがいるからなあ。

 と言うか、マジで怖え。

 女性ってこんなんなの? ティリアスが凄いの? 鬼がやばいの?

 

『やはりあんな鬼は斬り捨てるべきでは?』

 

 お前もお前で怖いこと言うな……。やっぱり女性は恐ろしいってことだな。

 

 っと、そこで思い出した。

 

「おい、ガーラ。お前、俺から奪った鱗があるだろ、返してもらおうか」

 

 もしかしたらクラウの方が持っているかもしれないが奴は現状話すことは出来ないだろうし。

 このタイミングを逃したらこいつもしゃべれなくなってしまうかもしれない。

 

「う、鱗……?」

 

「そうだ、俺から奪ったあの青い鱗を返せ」

 

「さっさと出さないと踏み込みますよ」

 

「あだだだだだだだ!!」

 

 もう若干踏み込んでるじゃねえか。額が地面に押し付けられているぞ。

 

「し、知らねえ!」

 

「ほう……どうやら命がいらないようですね」

 

「そのようですなあ。おい、よく考えろ。顔面整形不可避にされるのと鱗を渡すのとどっちがいいか、わかるよな?」

 

 脅しとして光の刃も放っておこう。

 これやっぱ便利だな。ワンアクションで出るあたり汎用性高い。

 

 それを横目で見て、震えだすガーラ。

 ふん、全くもって情けない男だと思う。

 

 いや、そう思っていた。

 

「知らねえ! 知らねえんだ!」

 

「……それは、お前は知らないが、クラウが知っているという事か?」

 

 クラウに渡したというのは十分考えられるが。

 

 

「本当に知らねえんだ! そんな鱗見た事も無い(・・・・・・・・・・)!!」

 

「何……馬鹿言うな。なら何故俺を襲ったか言ってみろよ」

 

「それはお前が…………お前が……」

 

 声が小さくなっていく。

 


「わからねえ! なんでお前を襲ったのか(・・・・・・・・)わからねえんだ(・・・・・・・)!! 本当なんだ!!」

【TIPS】

各個人によって当然性格も考え方も違うのは当たり前である。

しかし、不思議と種族中では同じような考え方をしている者が多い。

吸血鬼は紳士、あるいは淑女の様な華麗さを求めたり、鬼は嘘を嫌い頭を使う事が苦手だったりと。

勿論当てはまらない者も多いが、何故そういった共通認識があるのか。不思議である。

───魔法学院 生物学教師の雑談

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