13話 暗い感情
「さて、と……」
嫌悪の目線を二つ受けながら俺はギルドの入り口を抜けると、そのまま真っすぐにティリアスのほうへ向かう。
ティリアスから離れて二人、クラウとガーラの二人がいる。
周囲には面白がった観客……野次馬が多く集まっていた。
どうやら、お互いに戦いあうという所しか知らないらしいが、面白そうという事だけで集まってきており、聞こえる限りはどちらが勝つか、だれが勝つかで賭けまで始まっている。
その状態でも誰か止めようという人間も警察のようなものが止めに来る様子もない。
「こういった、お互いに戦いあうと言うのは珍しいことではないのですよ」
と、ティリアスが俺の疑問を読み取ったように口を開く。
話を聞けば、危なくなったらギルドやら警察やら冒険者やらが仲裁に入るとかで死人が出ると言うことがなく、娯楽の一つとして扱われているらしい。
喧嘩も花、とはよく言ったものだ。
……俺が攻撃すると血の花になるがいいのか?
「私も、借りがあります。先にやらせてもらいますよ」
それを知ってか知らずかそう言い放つ。
が、俺は首を振ってそれを否定した。
驚いたような表情を見せるのは、俺がここで断ると思わなかったのだろう。
何かを言いかけるティリアスを手で制す。
言いたいことはわかっている。
俺が戦闘をするという事は、相手のHPを貫くという事だ。
つまりそれは、殺人を意味する。
「大丈夫だ、そのつもりはない……」
だからこそ、そう答えた。
若干不満そうな顔をしつつも、引き下がったティリアスを見て眉をひそめるクラウ。
「む、貴様ではないのか。……ふん、まあ前座を片付けるとしよう」
全く俺の事は敵とみなしていないらしい。
まあ、しょうがないこととはいえ少しイラっとするな。
「闇は嘘に堕落し、光は真を語る。汝、真実を証明せよ。……来い『真と偽の境界剣』武想顕現」
すっかり慣れてしまった詠唱をして、剣を取り出す。
そして
「アルトリウス、起動」
『肯定。【真なる白夜の王】発動します』
その一言で、俺の姿が白く薄く発光し始める。
俺の姿を見て少しだけほうっと息を軽く吐いたクラウは、顎に手を当ててこんな言葉を吐いた。
「HP程度は纏えるようになっていたか……これで、殺してしまう心配はないな」
軽く笑いながらそんな皮肉を言ってきやがる。
その余裕顔がいつ消えるか楽しみだ。
「あの、アレは使うんですか……?」
と、こっそり耳打ちをしてきたティリアス。
……どれだ?
「どれ?」
「めったらと光る龍のやつです」
両方かよ。
いや、しかしどうするかな。
ぶっちゃけなんも考えてなかった、と言ったらティリアスは怒るだろうか。
……怒るだろうなあ。
ちらりと視線を送れば、それはやめとけと目が語っている。
いや、クラウの実力がわからないのはある。
俺を殺した時の実力が全てだとは思わないが……正直負ける気もしない。
はっきり言うと、この状態まで持ってきた時点で俺の勝ちは確定している。
あとはどう料理するかなんだが……。
「先に戦うという事は、何か案があるんですよね?」
言葉の後ろには、私を差し置いて先にやるんだから、と言った意志が込められているのは言うまでもないだろう。
そこで、いやー先にぼこぼこにされると後でやりにくいじゃん? とは言えない。
逆にぼこぼこにされるかもしれん。
「勿論だ」
だからそう答えた。自信たっぷりに。
「へえ……ふーん……」
「なんだよ」
「てっきり先に倒されると後がやりにくい、と言う理由かと思いまして」
エスパーって怖い。
「おいおい、そんなわけないだろ?」
そう思いつつ、俺は顔には出さないようにふてぶてしくそういった。
手を広げて首をかしげる外人のポーズをする徹底っぷりに帰ってきたのは疑心の眼であった。
「話は済んだか?」
「ああ!」
「あー!?」
大声でそう返す俺に対して逃げたなと言わんばかりのティリアスの声。
しかしその声は俺の返答に湧き上がった観客の歓声によってかき消された。
「我が意を得よ、我が意に従え。這いつくばれ下等、『悪意のるつぼ』武想顕現」
あ、こいつ歓声に紛れて詠唱しやがった。
そんな聞かれたくないならもっとこっそり出せよ。
「相手をしてやろう……かかってこい」
まるで大ボスのような立ち振る舞いをするクラウ。
いいのか? その位置だと俺の秘技やたらめったら斬りで終わるぞ。
……でも使用禁止にされちまったしなあ。
と言うかよく考えると観客が周りにいる状態で使うとやばいな。
大量殺人犯になりかねん。
アグリシアなんてもっとやばい、大量失踪事件になる。そして誰もいなくなった。
あれ、俺やばくね?
「トゥールー。いい感じにクラウだけ殺さずになんとかボコにできる魔法とかねえのか?」
『否定。最低でも余波は出るかと』
ううむ、威力が高すぎるのも問題か。
とはいえ、ここでティリアスに交代するのも醜聞が悪いなあ。
……やむを得ん。
「行くぞー」
若干やる気なさげに突撃する俺。
それを見て笑うクラウ。馬鹿にしているらしい。
まあ、実際突撃とか見たらそういう感想になるのも仕方ねえがむかつくわやっぱ。
「また剣を振るだけか……阿呆め【魔弾】」
そう言って言葉を発したのは例の魔法だ。
形が見えない透明な弾丸が俺を……透明な、弾丸が……。
あれ、見えてね?
なんかぼんやり見えるんだけど。弾丸っていう割に完全に球体だけど。
……とりあえず避けておくか。
「む? ち、運のいい奴め。ならば【魔弾】【魔弾】」
杖を左右に振って二度唱える。
ああ、杖先で分からなくしてるのか。
微妙に小細工してくるなコイツ。
「ほいほいっと」
「何!? ぐ、避けただと!」
「まあ、見えるしな」
そう言って半分軽く振った剣を杖で防ぐクラウ。
そのまま鍔迫り合いのようになる。
「見えるなどと戯言を……そういう能力だと思わせれると思ったか、この力、間違いなく身体能力向上。ふん、最低限近接武器として必要な固有能力は持っていたという事か」
え、全然力入れてないんだけど。
クラウめっちゃ踏ん張ってるんだけど。
……えい。
「ぐぐ……ぐお!? きょ、【強化】!」
お、そのまま押し込めると思ったが押し返してきたか。
……えいえい。
「おおお!! 【強化】!【強化】!」
必死すぎワロタ。
と言うかこの形態、力も強くなるのか。すげえな。
「な、なんという膂力。っく、この短期間でこれほどとは……そうか、貴様一体どんな契約を結んだ!?」
え? いや特には?
あ、いや、トゥールーと結んだと言えば結んだか。
『今結婚の話をしましたか?』
してねえよ。結しかあってねえよ。
「っち! やむを、得ないか! 【魔爆】!!」
突然の衝撃に俺は思わずたたらを踏んで後ろに下がってしまう。
クラウは痛そうに後ろに吹き飛んでいったが、あっちのほうがダメージ受けてんじゃねえか。
と、体勢を整えて立ち上がったクラウはすかさず俺に杖を突きつける。
「多少はやるようだが……近接武器と言う劣等では勝てんという事を教えてやろう」
「格好つけてるがお前さっきから俺に一切何も出来てないからな?」
「そう言えるのも今の内だ。……深淵なる闇の力、夜を染める漆黒、全てを滅ぼす炎と交じり撃ち滅ぼせ!【暗黒炎】!!」
杖先から飛び出す黒い炎。
火炎放射のように噴出した炎は俺の身体を直撃する。
「ふ、ふははははは、決して消えぬ闇の炎だ。身体能力向上だけでは耐えきれんぞ、くくくく」
「ああ、そう」
横に振るった剣が身体を纏っていた黒い炎ごと吹き飛ばす。
周囲に炎が散るが、まあ観客には届いていないから大丈夫だろう。
「……これで終わりか?」
もちろん、俺は一切の痛み、ダメージを負っていない。
形ないものを斬る、それは当然炎であろうと、魔法であろうと関係ない。
振るっただけで闇の炎(笑)であっても、切り裂き散らす。
……やっぱチートだわこれ。
「ばか、な。こんな簡単に、魔法を……。こ、の……化け物が」
「あーあー出た出た。勝てないからって相手を化け物扱いする奴。……ボスプレイするなら、もっと余裕をもったらどうだ。なあ、どうした、次の魔法を打たないのか? 白ける恐怖顔を見せるなよ、なあ、どうした……笑えよ……?」
そういいながら、俺自身の口角が上がっていることに気づき、左手でそっと抑える。
しかし、これではっきりした。
───そうか、クラウより、俺は強いんだな。
どくんと、暗い感情が僅かに俺を侵蝕した気がした。
【TIPS】
精神を左右させる魔法は数多く存在する。例を挙げれば恐怖に陥れたりする【狂乱堕落】といった魔法だろう。
しかし、永続的に作用する魔法もある。それは強大ではあるが故に中には副作用がある魔法だ。
それは例えば身体の一部を使う禁呪であったり、あるいは精神を淀ませるものもある。
しかしそういった魔法は秘匿されており、知る機会すらほぼ無いと言ってもいいだろう。
だがもしも仲間がおかしいと思った時は注意するべきだ。
自分で、正常でない事を知ることが出来ないから厄介なのだから。




