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12話 敵討ち

「ん、んん…………ここは?」

 

「あ、起きましたか」

 

 目を覚まして、聞きなれた声のほうを見れば。

 

「ティリアス、か」

 

「もう、運んでくるの大変だったんですからね」

 

 疲れましたと言わんばかりの不満そうな顔をみせたが、俺の様子を見ると頭を傾げる。

 

「……どうかしましたか? 何か嫌な夢でも見たんですか?」

 

「夢、夢か。何か、見たような気がする、でも思い出せんな……」

 

 何かを、掴んだような。

 何かを、識ったような。

 

 だが、何一つ思い出せない。

 

「夢なんてそんなものですよ。それより現実ですよ、現実」


 その悩む俺を見てあっけらかんとティリアスは言い放つ。

 むう、まあ確かに夢を気にしても仕方ないか。

 思い出せないわけだし、どうでもいい夢だったんだろう。

 

「そうだな。ってああ、あの後俺は気絶しちまったのか……まさかリアルで気絶なんてことを体験するとは」

 

 本当に意識ってふっと飛ぶんだな。

 いや初めての気絶経験だったが、当たり前だが何も覚えてないな。

 脳のブレーカーが強制的に落とされた感じ。

 

『マスターマスターマスターマスターマスター!!! 心配致しました! 心配致しました!!』

 

 ブレーカー落としてえ……。

 

「寝起きにうるせえなトゥールー!! 頭に響くんだよお前の声!」

 

『ううう、心配しただけですのに……』

 

 全く、本当人間っぽい人格だ。

 若干涙声っぽい所とかな。同情はしねえ、頭ン中でなんとなくこっちをチラチラみている様な、芝居っぽい仕草なのがわかるからな。

 

『ん? ……マスター』

 

「うるせえって何度言えばわかる」

 

『何か、されました?』

 

 もっと具体的に言えよ。

 何かってなんだよ何かって。

 

「ずっと気絶してた俺が何かできると思うか? 何かしたならお前かティリアスのどっちかだろ」

 

 その言葉で慌て始めるのはティリアス。

 わたわたと手をせわしなく動かしながら挙動不審な動きをした後。

 

「何もしてません」

 

「お前それで誤魔化せると思うなよ。やたらめったら斬りからのアグリシア食らわせるぞ」

 

「それ殺人予告と一緒ですよね!? ほ、本当にまだ何もしてませんよ!」

 

 こいつまだとか言い出したぞ。

 ポーカーフェイスもなっちゃいねえし。と言うか目は泳ぐ汗は流すわでポーカーフェイスとかってレベルじゃねえ。

 鈍感系難聴主人公だってわかるぞ。

 

「後三つ数える間に正直に言わなければ俺は真の力を解き放つことになる。ひとつ」

 

「盛り上がっている部分が気になって触ろうとしてましたごめんなさい!!」

 

 盛り上がっている部分……?

 あっ……。

 

「触ったのか……?」

 

「触る前に起きました!」

 

「正直で宜しい。ったく、痴女が」

 

 痴女!? とショックを受けるティリアス。

 わざとらしく顔に手をやって……いやこれは素だな。

 トゥールーみたいに演技でやっているわけじゃなさそうだ。

 

「なんで痴女扱いに……」

 

 意味は通じているらしいが何故そう言われるのかわからないらしい。

 まじかよコイツ、純粋にもほどがあるだろ。

 どうやって生きてきたんだ。

 

 ちなみに盛り上がっている理由は起きたからだ。

 つまり、朝だ。仕方ない。俺は悪くない。

 

「ん、あれ、なんでこんな話になったんだっけか。ああ、トゥールーが変な事を言い始めたからか。なんもしてねえってよ、じゃあお前じゃねえか」

 

『トゥールーではありません。しかし……いえ、気のせいですね』

 

「やめろよ、そういう時大体気のせいじゃねえんだよ……」

 

 だが、思考に入ったのか反応がなくなる。

 ま、追及しても大したことじゃないだろう。

 それよりも、やることがある。

 

「……さて、ティリアス」

 

「はい? どうしました」

 

 俺はとびっきりの笑顔を見せて、言った。

 その言葉を聞いて、ティリアスも一瞬驚いた後、にやりと笑った。


 「クラウ、ボコりに行くぞ」



────────────────

──────────

─────

───




「ここに顔出すのも、何日ぶりだろうな」

 

 俺はギルドの前に立ってそう少しだけ感慨深く言う。

 実際的には、一日しか経っていないのだが。

 えっと、俺が死んで……死んでってすげえ言霊だな。

 死んで起きて昼になっていたからおよそ一日。そこからティリアスに出会って、気絶して、今か。

 もう数日は経ったような感じなのは、まあ意識がない時間があったからだろうなあ。

 幸い、俺が気絶していた時間は一時間もないらしく、まだ太陽は傾き始めたぐらいだがまだまだ明るい。

 

「しかし、今更だがもう鱗を売り払ってたりしねえかな」

 

 クラウをボコるという目標は当然だが、一番の目的はそれだ。

 鱗は何とかして取り返してやりたい。

 異世界の最初の友人からの、プレゼントだしな。

 

「おそらく大丈夫でしょう。高額の換金物はギルドで検査の後に払い出されますから、まだあるかと」

 

「なら良いんだがな。そもそもクラウがいるかって問題もあるが」

 

 ふむと顎に手を当てて少しティリアスが考えこんだ後。

 名案のように言った。

 

「来るまでギルドで張り込めばいいのでは? または知ってそうな人を締め上げるとか」

 

「……まあ手段としちゃ無しではないけどさあ、もっとさあ」

 

 効率的な手段があるんじゃねえかな。

 ティリアスはもう少し知的なイメージがあったが、イメージだけか。

 ……そういえば鬼だったな。頭が筋肉でも仕方ねえか。

 

「馬鹿にされた気がします」

 

「気のせいだ。んじゃ、ギルド行くぞ」

 

「あ! ちょ、ちょっと待ってください、フード被りますから!」

 

 そういいながら急いでフードをかぶって顔を隠す。

 そう、今のティリアスはいつものパチモン着物ではなく、前会った時のローブ姿だ。

 どうやら人前では隠したいらしく、買い物の時も必ず被って出るそうだ。

 

「隠す必要あんのか?」

 

「だ、だって……」

 

 だってもなにもねえと思うが。

 俺も模擬戦したときバグレベルの技で勝ったが、あのレベルがゴロゴロしているとも思えないんだよなあ。

 結構強かったと思うし、それなら隠れる必要もないと思うが、まあ本人が気にしている所を無理にする必要はないか。

 

「ふう、落ち着きます」

 

「……まあ、それでいいならいいけど」

 

 しかし割とどうなってんだろうな、このローブ。

 胸部分は膨らんでねえし、頭の角の部分も盛り出してないし。

 魔法、で片付けれるのがこの世界の理不尽な所だ。

 

 そんな他愛の事を思いながら俺はギルドの扉をくぐる。

 視線が集まるが、気にせずに俺は受付に向かう。

 

 俺に気づき、受付嬢が挨拶をする。

 

「いらっしゃいませ、どういったご用件でしょうか?」

 

「ああ、ここにクラウって奴がいると思うんだが「あぁーーーー!!!」 ……俺の周りはうるせえ奴しかいねえのかよ」

 

 忘れていた奴をうるさい声で思い出してしまう。

 そう、それはあの受付嬢。

 

「受付するときはウチを指名してって言ったやんかー!!!」

 

 似非関西弁の狐。アリスである。

 そういえばギルドにはコイツがいたか……。

 

「いけずや……兄さんいけずやで、ウチの事捨てるんか……?」

 

「人聞きの悪いことを……」

 

「やっぱり巨乳なんか!? 胸が全てなんか!? 小娘よりも豊満な肉体が好きなんか! ロリコンちゃうんか! すけべ!」

 

「人聞きの悪いことを!! 誰がロリコンじゃ!!」

 

 くそ、面倒な。

 と言うか本当にコイツに用はないんだよなあ。

 

 しかし無下に扱っても面倒になりそう……はあ。

 

「わかったわかった、アリス、お前に頼むわ。すみません、アリスに頼むことにしたので……」

 

 大変ねと言わんばかりの苦笑を見せた後、了解したように手を振ってもう一人の受付嬢は離れていった。

 ……おい舌を出してべーするな、そういう所だぞ人気がないのは。

 

「ウチあの人嫌いやもん」

 

「いい人みたいだったが、なんでだ?」

 

 くだらない理由なんだろうが。

 

「胸が大きくてウチより人気があるから」

 

 くだらなすぎる理由だった。

 ただのひがみじゃねえか、そういうとこだぞアリス。

 

 

「まあそれは置いておいて、探したいのはクラウって奴と、後は、そのクラウから何か買い取りしてないか?」

 

「ほん? ちょっとまってーなー調べてくるわ」

 

 そう言って奥に行って、暫くすると戻ってきた。

 

「今は依頼に出とるな。ただそろそろ帰ってくる頃やで。買取はしとらん見たいやなー少なくともギルドではしてないみたいやで、どや! 褒めてもええんやで?」

 

「はいはい凄い凄い、ふむ、しかし戻ってくるのか……」

 

「なんや、そういえば一緒やと思ったけど別行動だったんか」

 

 ん? ああそうか、アリスの視点だとクラウと俺が一緒に行った後の事は知らないのか。

 ……まあ、わざわざ言う必要もないだろう。

 

「そんな所だ、じゃあ、クラウが来るまで待たせてもらおうかな」

 

「え? 依頼受けへんの? 丁度ええ依頼があるんやで」

 

「今度な」

 

「あ、ちょっと……行ってもうた。なんや、雰囲気変わったか?」

 

 アリスから離れて、壁際にあるテーブル席の椅子に座る。

 

『マスター。必ず殺しましょう』

 

 と、トゥールーがそんな言葉を吐きかける。

 かなりの苛立ちと怒りを感じているみたいだ。

 

 俺がクラウに何をされたか、話したからだろう。

 敵愾心を露わにして憤っている。


「物騒なこと言うな。そりゃ、俺もそういった気持ちもあったさ」

 

 殺された恨みと言うのは確かに強かった。

 すぐにでも復讐してやりたい気持ちもあったし、今でも人間不信は残っている。

 あの痛みと苦しみはきっと今後も忘れることはない。

 

「けど、まあ、生きてるんだよな」

 

 結果オーライと言うわけではないが、そのおかげで力も手に入れたしティリアスと言う友人もできた。

 流石に感謝するとは口が裂けても言えないし、本当に死んでいたら何も出来なかったことを考えると許すという事は出来ない。

 

「けど、殺すかどうかは……あいつ次第だ」

 

 俺の中の復讐心は、燻りで済んでいる。

 未だ人を殺したことがない俺は、現実世界に慣れ親しんだせいか殺されたとしても、相手を絶対殺そうという強い意志まではなかった。

 甘いと言われれば、そうなのだろう。

 異世界に染まったとはいえ、価値観まではそうそう変わらないみたいだ。

 平和な日本ボケ、と言えるだろうか。

 

『優しいのですね、マスターは』

 

「まさか……臆病なだけだ」

 

 結局の所、殺すのが怖いだけだ。

 その時、入り口からぎぃっと音がして誰かが入ってくる。

 

 その姿を見て俺は。

 

「……行くぞトゥールー」

 

『仰せのままに、マスター』

 

 そう言い放って俺は立ち上がる。

 そして真っすぐ向かう間に、何故か俺はまだ剣を出していないのにトゥールーと話していた事を頭の片隅で疑問に思ったが、降り払う。

 今は、一つの事だけ考えればいい。

 

 俺が歩いていくと、相手は近づいてくる俺の姿に気づく。

 と、同時に驚いた表情が見える。

 その表情に内心笑いながら声をかける。

 

「───どうした、死人でも見た顔をしてるぜ。クラウ」

 

「貴様……何故、生きている……」

 

 目的である、クラウについに俺は出会う事が出来た。

 

「お前に会うために、地獄の底から這いあがったぜ、とでもいえば満足か?」

 

「戯言を。致命だったはずだが、ふん、腕が鈍ったか」

 

 どうやら、何かの拍子で殺しきれなかったとクラウの中では結論付けたようだ。

 そうだろうな、俺もお前の立場だとそう思う。

 けどな、違うぜ。今の俺はな。

 

 前の俺とは、何もかもが。

 

「良いのか、口調を変えなくて。最初に会った時みたいに敬語でもいいんだぜ?」

 

「貴様こそ、生きているのであれば隠れ潜む鼠のように逃げていればいいものの、何故姿を現したのか、理解に苦しむ」

 

 っは、尊大な態度は変わらずかよ。

 まあ、そのほうが俺もやりやすい。

 わかりやすい悪役のほうが、倒しやすい。

 

「そうだな、友人風に言うなら……盗られた誇りを、取り戻しにかな」

 

「友人? ふん、なるほどな、そいつに助けられ、そして助けを求めたわけか」

 

 どうやら、俺自身が復讐に来たとは考えていないらしい。

 無理もないか、クラウからすれば一日程度しか経っていないからな。

 その一日で、どれだけ変わったかを知らずにな。

 

「表に出ろよ。叩き潰してやる」

 

 このセリフを言う立場になるとは思わなかった。

 そんな場違いな感想がつい頭に浮かんでしまう。

 

「ふん、貴様をこの場で屠っても何の意味もない」

 

 そう言って入り口に引き返していく。

 俺はそれを黙って見送る。だが、クラウは途中で足を止めた。

 

「……邪魔だ」

 

 入り口をふさぐようにしているのは、ローブを着た人間。

 若干苛立つクラウに対して、その人物はこう口を開いた。

 

「そうですね、私も友人風に言うのであれば

───表に出ろ。叩き潰す」

 

「ふん、貴様がその仲間か。義憤と言うやつか? それとも金で雇われたか?どちらにせよ下らん理由で……っ」

 

 口を一瞬閉ざす。

 理由は、俺にもわかる。

 

「この顔に、見覚えはありますか?」

 

 ローブの人間、ティリアスかフードを外して顔を晒したからだ。

 

「……貴様、いいだろう。纏めて処理してくれる」

 

「ええ、楽しみにしてますよ」

 

 そう言って、ティリアスは入り口を出ていく。

 その後を付いていくクラウ。

 更に、もう一人。

 

「…………ふん」

 

「お前もだぞ、なあ、ガーラ」

 

 もう一人の人物、それはガーラだった。

 俺とティリアスを交互に見た後、舌打ちをしながらクラウの後を付いていく。

 

 ……俺も行くか。

 

「な、なあ……」

 

「アリスか、悪いが今は話している時間は……」

 

「なんで争おうとしてるのか、理由とか、状況とか、よ、ようわからんけどな!」

 

 こちらに駆け寄ってくるアリスはすうっと息を吐いた後、こう言った。

 

「……頑張ってな!」

 

 コイツは……。

 

 何にも知らないくせに。

 どっちが悪いかも、なんでこうなったかも知らないくせに。

 

 出たのが、ただの応援の言葉か。

 

 まったく。コイツは。

 

「おう、サンキューな」

 

 そういうとこだぞ、アリス。

【TIPS】

この世界では死にやすい。魔獣という存在が居るからである。

この世界では生きやすい。魔獣という素材が居るからである。

前者は弱者、後者は強者の理。


もしそう思っているなら君は前者ということになるな。

───さまよう話す魔獣より冒険者へ

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