魔神の暗殺者2 オッカムside
5年前だと
レフ18歳
オッカム20歳です。
この適当な感じは若気のいたりですね。
「俺も退屈してたんだ。楽しく殺ろうか」
声をかけるとともに足を踏み出す。
オッカムは鞘から剣を抜きながら、懐に忍ばせていた暗器の小型ナイフを投げる。が、あっさり魔法で落とされた。
「うわぁ、ハンデありかな?魔法で落とされるとか、わかっていても反則だ。ズルいなぁ」
「・・・それなら、」
魔神様が何か言いかけたが構わず切りかかると、腰に吊るした剣柄に手を掛けるのが見えた。
―――――キンッ。
剣と剣がぶつかる高い音が鳴る。
今まで他の暗殺者と対峙した時に1度も触れなかったのに、ブラットフォード公爵が初めて剣を抜いたのだ。
そのまま切り合いを暫く続けてみる。
ブラットフォード公爵は顔色ひとつどころか表情ひとつ浮かべず、涼しい顔でオッカムに剣を返したり受け流している。
魔法を使わずに、だ。
「へぇ、飾りじゃなかったんだ」
「普段は使わないからな。魔法は反則なんだろ?」
「え?マジでいいの?」
どうやら本当にハンデをくれるらしい。
さっき言いかけたのはこれかぁ。悪いことしたかな?とか思いつつもフェイントをかけながら腕を振るう。
今まで問答無用で暗殺者を魔法で始末していたのにお優しい事だ。
言ってみるものだと思うが、逆に言えば魔法を使わずともオッカムを倒せる自信があるということだろう。
自らが言い出しといて何だが、舐められているようで良い気はしない。実に勝手ながら何とも言えない気持ちになる。
自分の力を過信してる訳じゃないけど、強者と戦うのが好きなだけあって俺も決して弱くはない筈だけどなぁ。
「魔法を使った方がいいのか?どっちだ?」
「心読むなよ!?ってか、何でわかるの?」
「何の話だ?」
自分勝手な心の内を見抜かれた様で焦ったが、ブラットフォード公爵は紫の瞳を瞬きながら首を傾げた。
その瞳が全てを見透かしていそうで怖いのだが、どうやら先程オッカムがハンデをくれと言いつつくれていいのか聞いた疑問に対しての問いだった様だ。
「・・・いやー、俺弱そうって舐められてるのかなって」
「俺は剣や武術も扱えるつもりだ。お前が今までの雑魚とは違うからこそ、魔法で消すのは惜しいから剣を抜いた」
何の感情もこもらない淡々とした声だが、話の内容からオッカムを評価してくれていたようだ。
良い意味での意外な評価に一瞬虚をつかれたが、直ぐに気を取り直し剣を構える。
しかし、ちょっと口許がにやついてしまうのはご愛嬌だ。
「わぉ!光栄だね。しっかし、能ある鷹は爪を隠すかー。王家の最終兵器は俺らと格が違うね。他の魔術師も使えるの?」
「いや、軍人とは言え普通の魔術師どもには飾りだ。俺とて暫く使ってないから錆び付いた。お前もそうだろ?」
「俺の剣を難なく受けといて嫌みだなぁ。まぁ、確かに今の権力主義のお貴族様や甘やかされたボンボン相手じゃ錆び付くね」
「嫌み、か?本気でないお前の剣ぐらいは受けれる」
さっきより重くなった一撃に、口笛を吹いて笑みを漏らす。オッカムが様子見で手加減していたので、ブラットフォード公爵も合わせていたらしい。
これで国一の魔術師なのだから世の中不公平だ。
喩えオッカムが本気で対峙していなく、遊んでいたとしても。
「魔神様もまだ本気じゃないよね」
「ああ・・・魔法がハンデなら、お前も暗器は使うなよ」
「ははっ、いいね、いいね!暗殺者相手に言うセリフじゃないけど」
「・・・先に暗殺者からハンデよこせと言われるとは思わなかったがな」
「違いない!でも、魔法で瞬殺されたらつまらないからね!」
「つまらない?」
「俺はふにゃふにゃ野郎じゃなくて、骨のある奴と戦いたいだけだからね」
「・・・暗殺者に向いてないな」
「まーねー、俺は臨時だからね」
「臨時?」
「魔神様がモテモテ過ぎて暗殺者不足らしいよ?いよっ、色男!」
言いながら素早さに重さを加えていく。
それでいてフェイントや足裁きで翻弄するので温室育ちやボンボン兵士ではオッカムに勝てるものは少ない。だが、悲しいかな権力主義の軍部では出る杭は打たれるので、本気を出すことなくのらりくらり過ごしている。
更に、腕のたつ上司は忙しくて空いてないし、平兵士のオッカムより役職が上過ぎて訓練場になかなか降りてこない。
戦闘大好きオッカムには残念な職場である。
魔術師なのに腕の良いブラットフォード公爵はレアだ。
まぁ、暗殺しに来たからこそ剣を交える事ができているのだから上司と条件はあまり変わらないが。
むしろ、殺るか殺られるかでハイリスクどころではない。
「ははっ、毎日暗殺しに来ようかな?」
「それは暗殺なのか?――――おい」
ふざけるオッカムに呆れた声で返事をしていたブラットフォード公爵が目を眇た。
初めて感情らしい変化を感じた。
同時にオッカムも異変に気付いたが、しれっとフェイントからの突きをかましてみる。
本当に魔術師かと思うぐらい涼しい顔で弾かれたのが解せない。
「ちっ・・・何かな?」
「舌打ちしてる場合か。しかも、しらばっくれるな」
「はいはい、ふーむ。20人くらい?そのうち邪魔が入りそうだなぁ」
「19だ」
「細かいな。モテモテ過ぎでしょ、魔神様」
「・・・」
ブラットフォード公爵と切り合いながらも感じる気配から、新たに暗殺者が此方を窺っているのがわかる。
気配がバレバレな時点で数打ちゃ当たる戦法の雑魚どもだ。
恐らく、オッカムとの戦闘で疲れたところか殺られたところをオッカムごと襲い、自分達の手柄にするつもりだろう。せこい。
無視してもいいのだが、オッカム達が戦闘を楽しみ過ぎて長引けば、雑魚暗殺者が痺れを切らして乱入してきそうな気もする。
手練れや猛者ならばそれも一興だが、雑魚しかいないとなると興が削がれそうだ。
「悩むなぁ。さっさと殺るべきか、怒らせて楽しむか・・・それが問題だ」
「お前ごと毒針の餌食かもな」
「え~!?雑魚相手に!?そりゃないよ、つまらなさ過ぎるでしょ!」
「奴等は楽しさなど求めてないだろ」
「ちぇっ、邪魔になる前に殺ろうかな」
「・・・お前本当に何しに来た?」
「強い奴とたたか、ごほんっ。・・・暗殺?」
「・・・」
あ。無表情ながら残念な奴をみる目になった!?
自分だって暗殺者と遊んでるくせに。
・・・・ん?
急にブラットフォード公爵が黙って思案し始めた。
首を捻って「ああ、そうか」とか呟いている。どうした魔神様?
その様子を訝しく思ったのは当然オッカム以外にもいるわけであって、
「おっと。・・・せっかちな雑魚だなぁ」
本当に毒針っぽいのが飛んできた。
剣で叩き落としたから何かは不明だけどね。
魔神様も思案したまま見向きもせず払い落としてるし。死角からなのに。この、人外め。
「おい、お前」
急にブラットフォード公爵がオッカムに視線を向けてきた。
「はいはい、何かな?」
「戦うのが好きなら、俺と軍を半分潰さないか?」
「・・・は?」
魔神様が変なこと言い出した!?
この人軍務大臣なるんだよな?
今、軍を半分潰すって言ったよな・・・何で?
「軍の腐った膿を出す」
「ああ!権力主義の?」
「そうだ。だから、こう言う奴等が来るわけだが」
チラッと周りを見ると、暗殺者達がじりじりと間をつめてきていた。
呑気に話してる時点でかなり舐めてる。
「俺もしかりだからねー。・・・今寝返っても裏切るかもよ?」
「そうなったら消せばいい」
「無表情で言われるとこわっ!当然だけどさ、普通は敵側から引き抜かないでしょ。何で俺?」
窮地に陥り、寝返りを促すなら理解できる。
しかし、別に今雑魚に囲まれていてもブラットフォード公爵は追い詰められる訳ではない。人外レベルの魔法を使えばオッカムもろとも瞬殺だろう。
それなのに、何故暗殺者のオッカムを誘うのかわからない。
「割りと気に入った」
「・・・は?」
ブラットフォード公爵は何の表情の変化もなくしれっとぬかした。
オッカムはぽかんと間抜けな顔になってしまった。
魔神様に気に入るとかあんの?
「お前は別に依頼主に忠誠を尽くしてる訳でもないし、特に従う気ないだろ?」
「ははっ、だから?」
「戦えて楽しければいい、だから俺の暗殺を引き受けた」
「仰る通りだが、別に今魔神様と全力で戦えれば、」
「後、暇な時は俺の戦闘訓練の相手をしてくれ」
「のった!」
あ。即答しちゃった。
ちょっと考えなさすぎだったか?ま、いいか。
魔神様と何度も訓練できるとか絶対楽しいだろうしね!
「では、剣を使う俺より多く殺さず捕縛できたら、この後も『暗殺者と対峙した時の訓練』に付き合ってやる」
「わぉ!いいですね。俺が余裕で勝ちますよ」
この後オッカムが勝ったが、かなり僅差での勝利だったので悔しくて『暗殺者と対峙した時の訓練』に熱が入りすぎ中々決着が着かず、迎えに来たブラットフォード公爵の部下にふたり揃って怒られた。
それからの5年は、第3部隊の裏や『秘密の影』の壊滅、軍の変革による権力主義の反魔術師派の失脚、ブラットフォード公爵への暗殺者との戦いが楽しくてあっという間だった。
まぁ、当然実家の男爵家では俺の存在は無かったことになったけど、元々忘れ去られてたし気にならない。
むしろ父の馬鹿な仕事を受けて良かった!
「オッカムさ~ん!!」
クレーターを眺めていたら、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。
声が聞こえた方を振り向くと、淡い金髪に緑の瞳の少女が駆け寄ってくるところだった。
柔らかく可愛らしい顔立ちの15歳の少女は、オッカムの護衛すべき人物だ。
他の人ではなく態々自らが迎えに来てくれたらしい。
彼女は兄と違いとても優しい。
「ははっ、護衛対象なのに態々迎えに来てくださりありがとうございます」
「いえ。急な任務お疲れ様です、オッカムさん。」
「只今戻りました、フェレイラ嬢。バタバタしてしまい何だかすみませんね」
「オッカムさんひとりで妖精界には入れないから仕方ないですよ。でも、何でこの場所で待ち合わせなんですか?」
「俺を呼び出した上司があけたクレーターを再確認しておこうかと思いまして。フェレイラ嬢も見といた方がネタになるでしょう」
「えっ!?《イノンドの魔神》に呼ばれてたんですか?」
フェレイラが驚いたのか大きな瞳を見開いている。
オッカムはこの話を振りたくて待ち合わせ場所をここにした。
先日、上司ブラットフォード公爵が10年のしがらみから解放されたのだ。実の妹であるフェレイラとの関係を隠す必要がなくなった。
そこで、兄の記憶がないフェレイラが客観的にどう思っているか聞いてみたかった。
「そうですよ。人使いの粗い上司ですからね」
「はぁ~、そうなんですね。近隣国に《イノンドの魔神》と呼ばれる軍務大臣ブラットフォード公爵ってどんな人ですか?」
「どんなって、人外の美貌と魔力持ちの無表情無頓着な鉄仮面冷血男ですかね」
事実だから悪口じゃないよ。
むしろ、今中途半端にフォローするより、実物に会って思っていたより好印象だった方が良いと思うし、グッジョブ俺!
「・・・何だか王都で会うのが恐いですね」
「おや?王都に戻るんですか?」
「はい。師匠に冬に北の魔術師のところへ行ったら、最後に春は中央の魔術師であるブラットフォード公爵へ会えと言われました」
「ははっ、ナイスタイミングですね!丁度、レフ殿の結婚式がありますよ!それに合わせて行きましょう!」
「そうなんですか!?・・・恐そうな噂をもつブラットフォード公爵の花嫁さんが気になりますね」
恐いって言っても、フェレイラ嬢の実のお兄様だけどねー。
花嫁のモルディーヌ嬢溺愛で多少解りやすくなったし、フェレイラ嬢には甘そうだから大丈夫だと思うな。
まぁ、会ってサプライズの方が面白そうだから黙っとこ。
「面白い令嬢でしたよ。レフ殿も大丈夫ですって、顔見知りな俺も立ち会いますから!」
「ありがとうございます。ところで、顔の怪我はどうしたんですか?」
「ははっ、男前になりましたか?」
「・・・そうですね。心配して損した気がします」
「心配ありがとうございます!では、行きましょうか」
いやー、結婚式に間に合いそうで良かった良かった!
感謝して下さいよ、レフ殿。
呼んで頂きありがとうございます
オッカムがヒーロー(?)話
『セイレーンの心臓』ものろのろ更新してます!




