虎太郎の役目の終わり
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まわりを見回して気が付いた。
あの“パパ”と呼ばれた人はマサルだ。大人になったマサルだ。凄く大きくなったんで全然気が付かなかったよ。なんて事だ。
エリも大きくなって、きれいになったなあ。
お父さんとお母さんは頭がすっかり白くなって、顔がシワシワになったけど、確かにお父さんとお母さんだ。
みんな戻ってきた。
俺は役目を果たしたんだ。
「お母さん、誉めて、俺をなでて、昔みたいに」
そう言って俺はお母さんに近付いた。
お母さんの手はシワシワになってしまったけど、ほんの少し触れたそれはすごく暖かくて柔らかかった。
ああ、役目が終ったから、今度こそ本当にさよならだ。
俺は自分がいつ死んでしまったのか分からなくなるほど、長くこの世に留まってしまったから。
でも、不思議だな。
もう俺はこの世から消えてしまうというのに、ちっとも怖くも悲しくもない。
とても暖かくて、良い気分だ。
人間の言葉を借りるなら、“幸せ”だ。
すごく幸せな気分だ。
あの日と同じ、どんよりとした鉛色の雲が空を覆い、ちらちらと雪が落ちる寒い日なのに。
俺はとても幸せな気分だったんだ。
「家守りの猫」
おわり