↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深夜の裏庭 ―夜の庭の、その裏側。本編では語られなかった、魔女と幻獣のあれこれ。―  作者: 彩羽やよい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

1.プレタポルテとオートクチュール

 突然すみません、ちょっとすけべな話をさせてください。

 一発目から大変申し訳ありません。

 ここは深夜の裏庭なのでどうか許してください。


 何が言いたいかというと。

「ベルローズ、なんであんなにルシアン相手だとへろへろになるんだろうな」

 って、作者なりに考えていたのです。


 もちろん、単純にルシアンがものすごくしつこい。

 これはある、めちゃくちゃある。

 ヴィクトルがサクッと終わらせるのに対して、一晩中抱きっぱなしみたいなことを平気でやる。

 獣であることと体力バカと独占欲が合わさると、こういうことになってしまうわけですね。仕方がないのです。


 でも、それだけじゃないんじゃないかなと思って。

 私の中では、ヴィクトルがプレタポルテで、ルシアンがオートクチュールなんですよ。


 ちなみに「プレタポルテ」と「オートクチュール」という言葉を使っていますが、何のこっちゃという方もいらっしゃると思うので、先に簡単に説明しておきます。

 プレタポルテは、あらかじめ作られた既製服。

 オートクチュールは、採寸から始めて、その人のためだけに仕立てる一点物。

 この違いが、私の中ではヴィクトルとルシアンの違いにかなり近い。


 ヴィクトルって、ものすごく『勉強』させられている。

 どういうふうに勉強させられてたのかについてはまた、別の癖(ヘキ)の話になってしまうのであれなのですが。


「一般的にはここをこうすると、こういう反応をする」

「この反応が出た場合は、次にこうする」

「この状態ならここをこうしたほうが効率がいい」


 みたいな。

 人間の身体について学習していて、一般的な反応パターンを知っている。

 だからベルローズに対しても、普通ならここでこうなるというところから入って、実際の彼女の反応を見ながら微調整していく。

 ものすごく精密で、ものすごく効率的。

 これを読んでくれてる方がヴィクトルのテクについて知りたいかどうかは別として、たぶん技術としては相当高い。


 じゃあそれに対して、ルシアンはどうなのか。

 人間の姿を嫌悪して生きてきたので、そもそも人間として誰かを抱いた経験なんてないはずなんですよ。

 もちろん獣としての交尾の仕方は知ってる。そこは知ってる。

 幻獣として生きてきたんだから、そういうこと自体を知らないわけではない。


 でも、それと「人間として誰かを抱く」のは、当然ながら別の話です。

 人間の女性を相手にして、どう触れるのがいいのか。

 どうすれば心地いいのか、どこまでなら大丈夫なのか。

 そういうことを、誰かに教わったわけでもない。

 ヴィクトルみたいに、人間の身体について体系的に勉強してきたわけでもない。

 なのに、今となってはベルローズを一晩でへろへろにする。

 ……どういうこと?


 いや、まあ。たぶん、そういうことなんですよね。

 ルシアン、めちゃくちゃ見てるんだと思う。

 最初から「人間の女はこうするもの」みたいな型を持っているわけじゃない。

 ベルローズがどうするかを見ている。


 触れたときにどう反応するか、どこで呼吸が変わるか。

 どこまで近づけば自分から距離を詰めてくるのか。

 逆に、どんなときに少し身体を引くのか。

 言葉で「嫌」と言ったとき、本当に拒んでいるときと、恥ずかしくて強がっているときの違いだって覚えていく。


 そしてもちろん、本当に嫌なら止まる。そこは別。

 そのうえで、


「これは嫌なんじゃなくて、恥ずかしいだけだな」

「今はこっちのほうがいいんだな」

「今日はあまり余裕がないんだな」


 とかそういうことを、いちいちそれはもう律義に覚えていく。

 たぶんルシアンにとっては、それが『勉強』なんですよね。


 教科書を読んだり誰かに教わってわかることじゃない。

 ベルローズ本人を見ながら、毎回少しずつ覚えていく。

 だから、経験を積めば積むほど上手くなる。ただし「女性一般」に対して上手くなっているわけではない。

 ベルローズに対してだけ、どんどん上手くなっていく。

 ここがオートクチュールなんだと思うんですよ。


 ヴィクトルは、人間の身体について大量の知識を持っていて、それをベルローズという個体に当てはめていく。

 ルシアンは、ベルローズしか見ていないから、そもそも型がない。


 毎回、今日はどうなんだろうから始まる。

 昨日よかったことが、今日も同じとは限らない。

 昨日は余裕があったけど、今日は最初から緊張しているかもしれない。

 いつもなら平気なことを、今日は嫌がるかもしれない。

 逆に、いつもより素直に自分から近づいてくるかもしれない。

 その全部を見て、そのときのベルローズに合わせる。


 しかも厄介なのが、ルシアンの場合、これを本人が技術として認識していなさそうなところなんですよね。

 たぶん本人からしたら、


「ベルローズがこうしてきたから、こうした」

「嫌そうだったからやめた」

「こうしてほしそうだったから応えた」


 くらいの話なんじゃないかなと思う。ものすごく当たり前のこととしてやっている。

 でも、それを何度も何度もなんっどもしつこく繰り返した結果。

 ベルローズ専用の取扱説明書が、ルシアンの頭の中にどんどん出来上がっていく。

 しかも、その説明書を書いているのはルシアン自身じゃない。ベルローズ本人です。

 毎回の反応が一行ずつ追加されていって、気づけば誰よりもベルローズのことを知っている。

 そりゃ強い。そりゃへろへろにもする。


 そして、ここにはたぶんルシアンが獣であることも関係している。

 獣って、人間みたいに言葉だけで全部を伝えるわけじゃない。

 相手の匂いだったり、呼吸だったり、身体の動きだったり、距離だったり。そういうものを読む。


 ルシアンはそういう感覚がものすごく鋭い。

 だから、人間として誰かを抱いた経験がなくても、相手の変化そのものを読むことには長けている。

 そしてベルローズは、そういう細かな変化を隠そうとする人なわけです。

 平静を装い、何でもない顔をする。自分の中に全部しまい込む。

 ……なのに、ルシアンには見抜かれる。

 そりゃあ、へろへろになるよ。


 普段なら自分で整えて、自分で隠して、自分で終わらせているものを、


「今、こうしたいんだろ」


 と、いちいち拾われるんだから。

 しかも、それをしている本人には、


「俺はあんたを見てるだけだ」


 くらいの自覚しかない。なのにルシアンにとっては、それが一番自然。

 一般論なんて知らない。他の女がどうなのかも知らないし興味がない。

 ベルローズがどうするのかだけを知っている。


 だから、ヴィクトルが人間の身体を知っているのに対して、ルシアンはベルローズそのものを知っていく。この違いなんじゃないかなと思う。

 それこそが私の中での、

 ヴィクトル=プレタポルテ。

 ルシアン=オートクチュール。

 という感覚なのです。


 ……いや待って。


 人間として誰かを抱いた経験もほぼない獣が、毎回ベルローズ本人から学習して、最終的に本人を一晩でへろへろにするって。

 これ、改めて考えると相当ですよ。

 ルシアンお前、才能の方向性がすごいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。