ペディ女王陛下
広々とした空間に巨大なステンドグラスから鮮やかな光を大理石の床に映す。正面には薔薇をモチーフにした紋章が大きく刺繍してある巨大な垂れ幕が下がり、赤い絨毯が伸びる。脇には巨大な歴代の当主の肖像画が連ねていた。垂れ幕の元に豪華な長椅子があり、そこに座るのは、きらびやかな紫のドレスに身をまとった、金色に輝く髪がカールした赤い目の美しい少女。
その名は、ペディ女王陛下。
この煌びやかな部屋は体の小さな陛下でさえ、権威を振りかざすには十分であった。侍女のエレナを、この一人では有り余るほどの空間に、常に一人遣わせていた。おもむろに豪華な装飾をした重い扉が開き、一人の壮年の長髪でひげを生やした上級軍人が颯爽と現れた。エドガー大佐である。
遅いぞ!昼寝でもしていたか?
滅相もございません。
戦況はどうか?
ヴァル地方の制圧にはかなり時間がかかっている模様です。
一体何をしておる!我がローゼリア王国の存亡の戦いなのだぞ。
は!しかし向こう側の抵抗は激しく慣れない地形のために苦戦しているのであります。
まぁよい。よしなにやっておくれよ!
大佐は敬礼をしそのまま去っていった。まだ女王経験の浅いペディは、戦乱のまっただなかで、エドガー大佐のクーデターにより陛下に仕立て上げられ、以前の腑抜けた王は隠居生活を余儀なくされている。父でありながらペディは不憫に感じていた。対するエドガーは私を立て実質的な権力を握っているのである。ただ、エドガーはこの国をもっと良くしたいという願いを熱弁し、ペディにも忠実なのである。
エレナよ、私も動くべきだろうな。
覚悟はできております。
それにしても、この薔薇、いつ見ても美しい。
絨毯の脇の長テーブルに飾られている薔薇を眺める。
薔薇にはトゲがあるが清潔な水を保ってやらなければすぐ腐る。人間も同じだと思わぬか?
左様でございます。
わたくしも、いつまでも美しく清廉でいたいものよ。
・・・誠でございます。
エドガー以下軍人どもには、この部屋に一切入らぬよう伝えろ。厳重に扉も閉めておけ。
承知しました。
内密に、ヴァル地方南の山あい一帯を支配するアルデンの国へ向おうと決心する。ここを味方に付ければ、山に囲まれたヴァル地方など、一気に潰してしまえる。エドガーのような無骨者にはできない荒業だ。
支度部屋でペディは光の反射する靴を脱ぎ、足をさらす。指先には薔薇のように赤いペディキュアをしていた。そして、ドレスを脱ぎ布で身を隠すように纏い、密かに小高い山の上に立つローゼリア国の南西へエレナとともに馬を走らせた。




