敵、味方
入ってすぐにギルド長は書類仕事を止めて椅子から立ち上がった。そして先ずは謝罪から始まる。
「今回の件はすまない。私がヤツを止めるのが一歩遅かった。だが、書類の件は安心して欲しい。何処にもバレる要素は有り得ん。そこだけは守る。」
コレに俺は大丈夫だと言っておく。あくまでも俺たち「つむじ風」がギルド長と話し合ったのは書類の件だけだ。
ソレがバレる事が無いのならそこの所は何ら問題は無い。
「しかし、これはぶっちゃけなんですけど。もしかしてお国の使い様が来たのってそもそもバッドモンキーの皮の件での流れでアレヨアレヨ、ってやつですよね?しかも俺関連。」
コレにピクリとギルド長が反応した。
「こればかりは・・・どうしようも無かった。あの件は既に処理済みで、しかもあの時点でフクレが目を付けてしまっていたのだ。私がヤツを止めようと思った時には動き出されていてな。しかも、エンドウ、だったな?その他の珍しい希少な魔物の素材やら、希少な果物なども、その後に買取所へ入れていただろう?それもより後押しになってな。それらをもう隠し立てする事もままならなかった。」
どうやら「つむじ風」はついでで、目的は俺、ピンでの事らしいと察しがついた。
「どうやら剥製の件で、国がソレを耳に入れたのだ。バッドモンキーの全身剥製。しかも傷がほぼ無い事。それを為す事の出来る冒険者。フクレの要請にすぐに国も動き始めたようでな。あ奴は自分がそう言った冒険者を国へと報告をする事で自分のコネや地位や権力を得ようとしている。あいつには参った物だ。」
「事情は分かりました。で、こちらに戻って来ても大丈夫ですか?それとそのフクレって副ギルド長は「落とす」事は可能そうですか?」
こうなるともう気になる所はさっさと聞いてしまう方が良い。
それと厄介者の排除はできるのかどうか?だ。
「・・・すまない。守れる範囲でギルドは君たちの保証と安全を約束はさせて貰う。しかし国に余りこれ以上はギルド自体に目を付けられ過ぎるのも避けたい。それと、フクレの処分は、難しい。あくまでもこうした報告は国への利益を考えて、と言った建前ができている。なのでこれをギルドで処罰対象にする事はできん。なのでフクレはこのまま副ギルド長のまま居座り続ける。」
非情に苦い顔で俺にそう告げるギルド長。美しい顔が台無しになるくらいの苦々しい顔になってしまった。
「それだけ聞ければもう大丈夫です。あ、それとこのマルマルから本拠を変えたいんですけど、どういった手続きが必要ですか?」
コレにちょっと悲しい顔に変わるギルド長は答えてくれる。
「冒険者カードを一旦白紙に戻すためにギルドの読み込み機に入れるだけだ。そうしたら次に腰を据える場所のギルドで再び読み込んでもらうだけでいい。そうか、仕方が無いものな。こうなればすぐにでもここから出なくては自由は無くなったも同然だからな。」
「今の所は明日バッツ国からこちらに戻る予定なんです。で、皆で相談してからになるんですけど、多分ここマルマルからすぐにでも離れる事になると思うので。そいつらに捕まらなければドウと言う事は無い?って感じの認識で良いですか?」
俺は確認事項を淡々と聞いて行く。
「ん?んん?ん、あ、ぁあ。そうだな。一度見つかると奴らはしつこい。もう既につむじ風がこのマルマルに居ないと言うのは奴らも知っているはずだ。門にも見張りを置いて直ぐにでもお前たちを拘束しようとしてくるだろう。」
「何ソレコワイ?断っても良いんですよね?でも確か活動に制限が掛けられるって言ってましたか。」
「そうだ。確かに断る事もできる。しかし御触れが出るな。この国から出る事はまかりならないと。奴らは馬鹿ばかりだ。冒険者をそうして「生きたまま殺す」ような真似は何処まで行っても国の損にしかならんと言う事がまるっきりわかていないのだから。」
俺とギルド長はソファに座って会話を続ける。そこにお茶も出されてゆっくり腰を据えて話し合いをしている。
「国に仕えるようになったとしてもその裏にはクソみたいな理由、か。マジでこの国終わってるな?あっと、それで、後はえーっと?ギルド長に「味方」っています?」
この質問にどうやらギルド長は首をかしげる。何故そんな事を聞くのかと言った感じだ。
「味方は一人でも多く欲しい所だが、何故そんな事を?」
「じゃあ明日にでもクスイって商人を訪ねてください。俺の名前を出して。その後は話合い次第って感じですかね?こっちとしてもギルド長が「味方」に入ってくれたらもっとやりやすくなりそうですから。」
なんの事かと言った感じに困惑の表情になるギルド長だが、すぐにパッと顔を俺に向ける。
「魔力薬の?君が関わっているのか?君は一体何者・・・」
「あ、それから俺はこれから希少な魔物の素材はサンネルって商人に捌いて貰う事になってます。丁度今日はエルダートレントって言うのを買取してもらいました。」
ギルド長はコレに驚愕して顔面崩壊しかけた。美人が台無しだなぁ~と思ったが、すぐに元に戻って冷静になる。
まあ冷静になっているのは表面上だけというのが俺の脳内レーダーには映っちゃっているのだが。
「ギルドでの魔力薬の直接販売を?・・・それと希少素材の流れを私に教えてくれるのね?解ったわ。ありがたく受け取らせてもらうわね。これじゃあ私が貴方に借りが返せない程だわ。」
どうやら大分頭の回転が元に戻ってきたようだ。硬かった口調が今は崩れている。少し緊張が解けて来たのだろう。これでギルド長の椅子も安泰に出来るはずだ。
「あ、それとマクリールって知ってます?まあクスイの所に行けば分かると思いますけど。俺の名前を出せば味方に付いてくれますよ。」
「君は本当に何者なのかしら?でも、まあ、今は私もそんな事を追及してる場合じゃないわね。貴方からは私を罠に嵌めようって感じは受け取れないし。信じちゃって、頼っちゃって、良いのね?」
真剣な目でそうギルド長に見つめられる。で、ここで俺は釘を刺す。
「秘密ですよ?誰にも言わないでください。それとこれから俺が見せるものも。じゃあ今の所はもうこれで聞きたい事はザックリ聞いたし。今日はもうお暇させていただきますね。」
そう言って俺は椅子を立つ。コレにギルド長は見送りのために立ち上がる。
そうして俺はまだ机の上に紙の山ができている方へと目をやる。
「早い所あの机の書類を片付けなきゃいけないでしょ?手伝いましょうか?それ位の時間が無い訳じゃ無いので。」
書類仕事なら俺も今まで散々してきた。なので苦労は知っている。この様な紙の山を見て少しでもギルド長の負担を減らしてあげたいと思ったのだが。でもこの申し出は断られた。
「アレの中には機密も入っているから、扱わせられないわ。ありがとう、その気持ちだけ受け取らせて。もう今日はそれ以上のモノを貰っている事だしね?」
「じゃあまた近いうちに。では。」
俺はそう言ってワープゲートを作ってクスイの庭へと戻った。
この時にギルド長の様子を確認していない。きっと驚きで顔が変顔になっているだろうなと思ったくらいだ。
このワープゲートの説明はまた今度の機会に時間があった時でいいだろう。そう言った判断だ。
そして俺は勝手知ったる他人の家、とばかりに家の中へと入るのだった。
「只今戻りました。クスイはコッチに戻ってる?あ、居た居た。師匠も話聞いて貰えますかね?」
二人はお茶を飲んでくつろいでいた。そこに俺が戻って来たので視線が集中する。
黙って二人が頷いたので俺はギルド長から聞いた話をここで説明した。
「ふむ、明日ですか?ならば使いを出して・・・いや、これは密会にした方が宜しい様で。表に出さない方が良いですな。」
「ならば問題は無い。エンドウに頼めばいいだけだ。お前が繋げる縁だ。文句はあるまい?」
クスイとギルド長が会う事は大きな事であり、そしてソレは大っぴらにしちゃいけないと言う。
コレに俺はそんなモノなのか?と言った疑問が持ち上がるが、そこら辺を呑み込んだ。
俺がまだまだ知らない事など一杯ある。なのでこの二人がそう言うのなら俺はソレの通りにするだけだ。
「じゃあ俺は皆の所に一旦戻ってからこの話をして相談してきますね。その後にギルド長の所にもう一回顔を出してきます。クスイ、時間はどれくらいがいいの?」
そう言うと朝早めがいいだろうと口にする。クスイはどうやらそのギルド長との面会で話を一気にある程度詰めてしまい、その日の内に動くつもりであるようだ。
「私の正体をどうするかだな。協力はしよう。だが若返った事はどう説明する?」
師匠がその問題を口にする。クスイもどうするかと言った悩み顔だ。
コレに俺はあっけらかんと言ってしまう。
「何にも言わないで良いんんじゃないですか?説明責任がある訳で無し。教えられるモノでも無いでしょうし?ましてや俺はマクリールって知ってます?って言っただけですしね。正体説明した後に若返った師匠を疑ったりしてもソレが普通でしょう。ギルド長は味方が一人でも多く欲しいそうだし、クスイと一緒に話をすればそこら辺はあんまり追及してこないんじゃないですか?魔法使いが一人仲間になった?くらいにしか?」
テキトーな事を言っているようだが、別にどう転ぼうと俺としては構わない。
なにせ話し合いはギルド長次第だと一応は告げている。なので余りにも失礼をするようなマネもしないだろうし、下手を打つ事もないだろう。
「じゃあ俺は向こうに戻りますね。早めに国の使者の話をしておいて心の整理もさせなきゃいけないだろうし。」
こうして俺はまたワープゲート作ってバッツ国の宿へと戻る。
「いやー、あちこち歩き回って疲れたなぁ。営業巡りしてた時の事思い出すわ。」
新入社員、最初の頃は先輩に連れられてそう言った仕事をしていた。
流石に長年を得て上へと昇進していくとそう言った仕事も少しづつ無くなり、その内に何時からか外回りなどをしなくなってずっと書類との格闘に移るようになった。
そんな昔の事を懐かしみつつ俺はつむじ風メンバー全員に声を掛ける。
もちろんちゃんと皆が宿泊する部屋へと向かい、そのドアをノックしてだ。
戻った事、事態があまり芳しく無い事。そこら辺の話が有るから集まるようにと。
そうして俺の取った部屋へと全員を集めて話を始めた。
全てを説明し終えてからの皆の反応は。
「しょうがねえ。別の所に拠点を移すのは決定だな。」
「あーあ、慣れた所から他に移るって結構疲れんのよね。しかも馴染むまで時間かかるし。」
「俺の勘が悪い意味で当たるかよ。あのままマルマルにうだうだと留まってたら直ぐに見つかってたかもな。」
「この際どうせなら拠点を取らずに自由許可を貰った方が良いのでは?」
カジウルはどうしようもないと納得し、マーミは諦めた様に意気消沈しつつも受け入れる。
ラディは自分の勘が当たった事に小さく震え、ミッツが妙な事を言う。
「自由許可って、何?その名の通りってヤツ?」
俺は疑問をそのままの意味で捉えたが、どうやら間違いはないらしい。
「えっと、そうですね。自由気ままにいろんな所に何の申請せずに移動できる許可です。そのまんま、ですね。」
ミッツが身も蓋も無い、と言った感じで説明してくれる。
今回のバッツ国へ行くのに遠征と言う申請をしている。それは拠点をマルマルにしているからなのだが。
どうやらそれらの手続きをしないでいい許可らしい。
「拠点を置けばその場所のギルドで細かい所はあるのですが、融通を利かせて貰える部分もあったりするんです。でもそこら辺を受けられないのが自由許可ですね。本来なら冒険者とは自由業と言っていいのですけど、秩序も必要で。だからこうした妙な事になってるんです。」
所属させる事で管理が上手く行く。あちこちフラフラとしょっちゅうされちゃギルドも扱いが面倒だと。
だから地に足を付けてくれたらサービスは出すよ、そうじゃ無ければ世話は焼かない。
当たり前の事をやっているだけであるようだ。
ミッツの説明が終わると自由許可の事に対して反対の意見が出る。マーミだ。
「私はちょっとなー。腰を下ろしてそこで安定して冒険者したいわ。徴兵なんてマネしてるのはマルマル、そもそもシーカク国くらいだし。別にその他へ行ったらギルドに所属申請入れてそこでじっくりと活動すればいいじゃない?」
最もな意見だ。別に無理して自由許可を得なくともこのパーティーでどこか別の地に行ってそこで腰を据えればいいだけの話だ。
でも続いてラディがちょっと嫌な顔をして話始めた。それは少々「やり過ぎだろ」と言いたくなる事案で。
「なあ?国が冒険者に指名手配を出す事知ってるか?そう言った事は本当に稀に、稀、と言った感じなんだがな。何の罪も犯していないのに、無理矢理しょっ引いて連行するっていうのがある。それで半ば脅してそのままお国に組み込まれちまうんだ。」
俺はこれを聞いて「これがいわゆるフラグと言うモノか」と何だか非現実を見ている気分になった。
今のこの自分の状況やらこの世界に来た経緯やらがもう既に非常に非現実なモノではあるのだが。
もうそこら辺はどうする事もできなかった事だと整理が付いている。俺の中で。
今はちゃんとこの世界で「生きている」という実感をちゃんと持っている。
最初は確かにフワフワした気分がずっと心の中にあり続けはした。
でも森の中での生活、経験でそこら辺は吹っ飛んだと言っても過言では無い。生死の境にいきなり放り込まれればそう言った感情は無用なモノでしかなくなるのだ。
だからとも言えないが、こうして時々そう言った吹き飛んだモノが何処からともなくフッっと現れる瞬間がある。
すると思考がちょっとだけ止まって間抜けな顔を晒してしまう。
「エンドウ、これは俺の勘なんだが。いや、本当に当たって欲しく無いと心の底から思うんだが。お前、その指名手配になるんじゃないか?」
メンバー皆はラディの勘は当たると言ってはいなかったか?そんなモノをこんな時に口にすると言う事はだ。
「あー、ヤベぇな?もしかしたら、それ、当たってるんじゃないか?いや、当たるんじゃないか?えーッと、ラディ。お前そう言う事はもうちょっとだな・・・」
カジウルが何とも言えない顔になる。これは要するに、こういった時のラディの勘は「確実に」当たると言う事だ。
もう何度かこういった場面がこの「つむじ風」には合ったのだろう。良い事も、悪い事も、こうしたラディの「勘」はかなりの確率で当たってきたと言う事のようだ。
「見つからない事が一番良いってか?その次は見つかっても捕まらない。んで、次点で捕まったら逃げる。国の手出しが容易にできない場所にいるのが手っ取り早いな。」
これでも俺はラディの勘に対して深刻に悩んでいる。だがそんなあっけらかんとした反応にマーミが一言物申してきた。
「あのね、アンタはうちのメンバー。分かる?アンタ一人の問題じゃなくなってるって事。いい?私たち全員が狙われてたらどうすんのよ?」
コレにそれもそうだったと思い出す。バッドモンキーの件からあれよあれよと俺だけがターゲットにされて目を付けられたと言った経緯で俺一人の問題だと考えてしまった。
あのギルドの前で目撃した使者は「つむじ風」と俺たちパーティー名を口にしていたのだ。
これはそのまま俺だけがしょっ引かれるだけの問題じゃないのだ。それをしっかりともう一度頭の中に入れ直す。
「じゃあもう今日中に全部処理をしちゃってマルマルに近寄らない様にしちゃわないといけないな。こういった事は早い方が良いだろ?皆必要な物を最低限だけでいいから準備しちゃってくれよ。」
皆に俺はそう提案する。コレにカジウルが「しゃーねえ」と椅子から立ち上がる。
マーミも「あーもう!」と今の状況が状況なだけに続いて直ぐに準備へと部屋に戻る。
ラディも「時間は・・・まだあるな」と言ってどうやら今日暗くなる前に全て片付ける事に賛成と言った感じ。
ミッツも「指名手配なんて最低です!」と憤りを見せていた。
こうしてギルドでの手続きの最低限の準備だけをする。そう、所属ギルドを白紙にする手続きを今日中にしてしまおうと言う魂胆だ。
国の使者は今日、ギルドで見かけたのだ。その時にバッツ国へと俺たちが行ってしまっている事を口に出していたのなら話は簡単。
奴らはギルドに今の所はもうこれ以上は用は無いのだ。ならば近づく事は今暫くは無いと言う事。
でも、ここは一つ用心をしてワープゲートでギルドへと一気に行ってしまう事にした。クスイの庭に行くのではなく。
「ギルド長室に飛んでそこで事情説明もちょこっとしてから手続き、それからまた宿に戻ろう。それから次に向かう場所を決めようか。」
コレには誰も意見は無かったのでワープゲートをギルド長室へとつなぐ。
そこで顔だけをそこに突っ込み、ギルド長以外が居ないかの確認をしてからワープゲートへと皆を入るように促す。
そして最後に俺が通って部屋に入るとギルド長に声を掛けた。
「さっきと今でたびたびスイマセン。ギルド長、ちょっといいですか?」
俺の声にビックリしたのか書類仕事中で下を向いていたギルド長の顔がバッっと跳ね上がる。
そしてつむじ風のメンバーが全員集合している事に思考が止まったようで暫くの間を無言でこちらを見つめ続けて来た。
「・・・驚かさないで欲しいのだけれど・・・しょうがないわよね。聞きたい事が山ほどあるわ。でも、秘密なんでしょう?これからは手順を踏んで欲しいわね。こう言う風に突然来られても困っちゃうわ。」
机の上の書類が多少は減っている。しかしまだまだ時間が掛りそうだ。
俺はおもむろに机へと近づき、一枚の書類を手に取る。立ちあ上がろうとするギルド長を手で制して。
「うーん?仕分け位はしておきましょうか。これとそれと・・・アレとコレと・・・」
俺は素早く一瞥しただけで書類の整理をしていく。シュババババっと。
ギルド長がその書類整理の速さに唖然としている短い間に、俺の書類分けは瞬く間に終わる。
「さて、少し事情を話しますね。手短に終わらせますので。」
俺が代表してギルド長に説明をする。自由許可を得たいのでここでお願いしたいと。
ギルドカードを白紙に、そしてこのマルマルで自由許可の発行手続きを処理して欲しいと。
「はぁ~。それ位なら簡単にできるわ。この部屋に機材を持ってくればいいわね。受付カウンターでもできるけど、それは・・・避けたいのよね?」
「そうですね。ここに「つむじ風」が来たと言う事は秘密にして欲しい所です。秘密がいっぱいになっちゃいますけど、大丈夫ですかね?」
コレに苦笑いを返してギルド長は大丈夫だと言う。そして「つむじ風」に向かって労いの言葉を掛けた。そこへ謝罪の言葉も。
「短い様で長かったかしら?それとも逆?つむじ風の皆、お疲れ様だったわね。私が至らないばっかりにこんな事になってごめんなさい。じゃあ機材を取って来るわ。」
ギルド長自らが機材を取って来てくれるらしい。ここに俺たちが居る事を少しでも知る者を増やさないためのようだ。
ギルドスタッフをここで呼び出して取りに行かせたりすると、俺たちがここに「今」居ると言う情報が拡散する可能性が上がる。
ソレは避けたいのだ。それを知ったらどれくらいのスピードでここに徴兵の使者が突撃してくるか分からない。
こうして機材を持って戻って来たギルド長が、早速俺たちのギルドカードを順番に受け取りつつ手続きを行っていった。
処理は簡単。ただ単にカードをその機材のカード差し込み口に入れるだけ。そして出て来たカードにはもう既にたったそれだけで処理はされているそうな。
きっと魔法の掛かった機材なのだろう。俺はコレに感心した。
「は~、たったのこれだけで手続きが終わりなのか。魔法って凄いなぁ~。」
コレに全員が俺にツッコミを入れてくる。
「お前が言うか?」「あんたね、自分を棚に上げるの?」「これだけの事をしてきておいてお前」「感動を忘れない、エンドウ様素敵です!」
ミッツだけが何やらおかしなことを言っているようだったが敢えて聞こえないフリをしてスルーする。
ギルド長はコレがどうやらおかしかったようで「ふふふふ」と少しだけ笑った。
「では、長居をあんまりするのもアレなので、ここでさっさと退散しますね。あ、それと。明日の朝にまたお迎えに上がりますけど。クスイの件で。またここに顔を出すって感じでいいですかね?時間的にはどれくらいがいいですか?」
この言葉に色々察したのかギルド長は手を額に当てて「はぁ~」と溜息を一つ吐く。
「早朝、にしましょうか。日が出てすぐ。それでいいわ。色々と忙しい一日になりそうだし、時間はいくらでも欲しい所よ。そこら辺の事は先方に話をしておいてくれるのよねあなたが?」
「はい、また向こうにも顔をちょっと出してきますので。じゃあお仕事頑張ってください。とその前に。」
俺はギルド長へと魔力を流す。もちろん床を通して直接本人に触れずに。
コレにギルド長は「ん?」と少しだけ違和感を覚えたようだ。でもそれを気にせずに俺は再びワープゲートを作って皆を宿へと戻す。
「お疲れの様ですしちょっとだけ元気をおすそ分けしておきました。じゃあ、俺もコレで。」
ギルド長に流した魔力は疲労回復を目的としたモノだ。テレビ番組やらCMでやっている「あー疲れが取れるぅ~」と言った感じの。
今日の書類仕事で疲れが大きくなっては、明日のクスイとの話合いをするのに大変だろうとの配慮である。
だがコレにどれだけの効果があるかは俺にはサッパリと予想が付かなかった。何しろ始めて掛ける魔法である。しかも他人に。
俺の流した魔力が無くなれば自然と元に戻るはずだ。でも、その「反動」がどうなるかは分からなかった。穏やかに元に戻っていくのか、どっと一挙に落差が押し寄せてくるのか。
魔法の実験をいきなりするのは止めろと言われていたが、この程度では悪い影響は出ないだろうと思っての事だ。それとギルド長を慮っての事である。
ソレに明日になればその結果も分かる。放置する訳じゃ無い。その時にはフォローもちゃんと入れるつもりだし。
気遣っての行動なのでそこら辺は大目に見て欲しい所だ、と思った時点でこれらはただの言い訳に過ぎないと思いなおす。
これは俺の思い付きとしか言いようのない行動だ。本人に許可無く魔法をかけたのだから何処までも自分勝手な行動であるのだ。
(俺はこんなにも人で無しな性格だっただろうか?)
ちょっとだけ自分の事に嫌悪感を抱いてソレを忘れる。
次は皆で何処に向かうかの相談だ。既に俺たちは自由許可を得て何処へでも気ままに旅をする事ができる。
その内に腰を据えたいと思える土地があるかもしれない。そうすればそこでまた拠点登録をし直す事もできるそうだ。
でも俺はこの次に向かうための話し合いに参加しないでクスイの所のもう一度戻る事にした。
「皆で行きたい所の相談をしててくれ。俺はクスイの所にまた顔出してくるから。んじゃ。」
この世界を詳しく知らない俺がどうのこうのと意見は言えない。というか出せない。
当然土地やら地名など、地理も知らないからだ。何処にどんな国があるのかも、道中にどんな都市やら街、町、村が有るかなども全く知らない。
計画を立てるなら俺など居なくても皆に任せる場面だここは。
なので俺は自分の今持っている役割を果たすのみである。なので俺はまたすぐにワープゲートを作って今度はクスイの家の庭に移動する。
「はぁ~。まだまだ終わらないなぁ。でも、まあ。頑張りますか。もうひと踏ん張り。」
ここまで有れよコレよとこれだけの事を一日でやらなくちゃいけなくなったのは、一体全体誰のせいだと言うのか?
答えはもちろん「誰のせいでも無い」と言ったものなのだろう。
でも俺からして見たらフクレ、そして国のせいだ。何せ奴らは俺の、そしてつむじ風の「自由」を奪おうとしているのだから。
ソレに捕まらない様に動かなくちゃ俺たちに明日は無い。と言うと大げさではあるのだが。
それでも心境はそんな感じに似ている。ぶっちゃけ捕まったら余計にややこしい事になるのは目に見えている。
このシーカク国は周辺諸国から仕掛けられるかもしれない戦争に備えている、と言った理由で徴兵をしているが。
コレがもし戦力が充実したなら?もし、戦争をして「勝てる」などと馬鹿な事を考えるようになったら?
ソレだけの戦力が整ったならもしかしたら戦争をこちらから「おっ始める」可能性も無くは無い。
この国の貴族は馬鹿ばかりだと言うのはもう話に聞いていて知っている。だからこそ余計に捕まる事は避けたい。戦争になったら利用されるのがオチだ。
奴ら貴族たちは自分の事だけにしか興味が無い。俺や皆がもし「強さ」を見込まれてしまい最前線に組み込まれでもしたら?
おおそらくは俺たちが敵兵を無双状態でなぎ倒す光景が出来上がるだろう。
そうすれば貴族どもは調子に乗って俺たちを散々利用しようとしてくるに違いない。自分たちの利益だけを追求しようとして。
そしてそれ以上に俺たちが目立ち、活躍し、栄光と名誉、そして英雄などと称えられようモノなら次に貴族の考えそうな事と言えば「排除」だろう。
あんまりにも馬鹿な考えだ、と言われても俺はこの考えを変えない。
何故なら貴族というヤツは下を見下す生物だからだ。そんな奴らが下の「冒険者」出身の俺たちが易々と自分たちの「上」になる事に指をくわえて見ているだけなどあり得ない。
奴らが本当に心底「馬鹿」である事は師匠の話を聞いているのでもう理解できている。
奴らが「冒険者」という職業を見下しているのも、馬鹿にしているのも、もう知った。
徴兵を断ると活動を制限される。普段から冒険者がどれだけの経済効果を生んでいるのかも知らずに、考えずに。これだけでもう貴族と言うモノが、国と言うモノがどういった考えで動くのか直ぐに察せられる。
冒険者などは塵芥、自然と湧いて消えるモノだと捉えているのだ。
「ふざけんなっての。」
こうして小声でそう呟いてストレスを吐き出し思考をリセットする。そうしてからクスイの家に入る。
「ごめんごめん、クスイ、もうちょっと話いいか?」
こうしてギルド長が面会は早朝を希望している事を伝える。そこでもう少しだけクスイと魔力薬の話をした。




