お片付け
見事に血華が咲いた。おそらく即死だ。ぴくぴくと手足の先が痙攣を二秒ほどしたがピタッとそれも止まる。
そのかわりと言っては何だが、頭部を潰した際に飛び散った脳漿、血、がミッツへと派手にブチ撒けられてホラー映画の様になってしまっていた。
「ふー、私の力でも当たればハイオークも対処が可能ですね。コレで安全の確保と言う意味でも、戦力としての意味でも確認は取れました。」
ミッツが淡々とそう口にする。俺はソレに少々の寒気に襲われる。
別にミッツに対してでは無く、その姿にだ。何処のサイコホラーだと。
斑に服に赤い斑点ができている。額の汗を袖で拭う仕草。その片手には血まみれのメイス。
何処をどう見てもヤバいのである。ドン引きだ。
ちなみに俺の衣服は汚れを受け付けない。魔法でそうやってバリアを張っているおかげである。
「お、おう。じゃあ皆の所に戻ろうか。・・・その格好だとちょっとコワイので綺麗にするから待って。」
俺はシミ取りをイメージする。繊維の隙間に入り込んでいる汚れや血を魔力で押し出して取り除くイメージである。思い描くのは衣類用洗剤のCMだ。
その魔力をミッツの血斑な服に流す。するとどんどんとソレは元の真っ白なモノへと戻っていく。
「どうもありがとうございます。・・・エンドウ様はどんな事でもできてしまうのですね。さすがです!」
感動されたが、おそらくはミッツもこれぐらいは俺のやったイメージを説明してしっかりとソレを理解できたならば可能だと思う。
そもそもミッツだけではなく、おそらくは魔力を持つ存在ならば誰でも可能だと思えた。そう、この世界の魔力を持つすべての人が可能だと。
だけどここではソレを口にしない。ソレをここで俺が言った所でどうにもならない。
俺はインベントリにミッツの仕留めたハイオークを放り込んで片付けをする。
もちろん周囲の血臭も魔法で風を派生させて飛ばし、地面に染みた脳漿や血も地面に沈める。
ソレが終わってからカジウルたちの所に向かい始めた。
向こうもそこまで離れた位置で待機していた訳では無いのですぐに合流を果たす。
「よう、大丈夫だったか?その様子だと良い結果だったみたいだな。」
「ねえ?ミッツ、貴方その服、何でさっきと違ってそんな綺麗になってんの?・・・あー、なんか言わないでも分かるわー。」
「まあ、コレで今日は拠点に戻ってゆっくり休んで明日の朝にでもギルドに戻ろうぜ。」
マーミはミッツの服の汚れが無い事にツッコんできはしたが、どうやら俺の仕業だと言う事を察してそれ以上は続けなかった。
皆はここまで森の中を歩き回り、走り回ってきているので汚れが付いていて当然である。
なのにさっきハイオークの元に行く前のミッツの服の汚れが今は無い。それは俺が血のシミのついでに汚れも全て取り除いたからだ。
「あー、拠点に戻ったらみんなの分もするよ。だから今は戻ろうか。」
俺はワープゲートを作る。拠点から今居る位置は相当に離れているのだ。
なので普通に戻るなんて事はしない。難しい事は一切考えずに一瞬で戻って、とりあえず今日の残り時間はゆっくり過ごすためにワープゲートを作る。
「エンドウのコレに慣れちゃいけねえ、と思っていても便利過ぎて逆らえねえ・・・」
「もうどうにでもなれ、よね。エンドウが居なくなったら私たちもうやってけないわ、きっと。」
「あんまり今は細かい事を考えるのは無しにしようぜ?もう俺は今日は疲れた。」
「そうですね。ハイオークの件はコレでもうお終いですし。後はギルドへの言い訳だけ。それも明日にですし、残りはゆっくりと疲れを癒しましょう。」
森の中をラディはレーダーを張りっぱなしで居たので精神的な疲れが大きいのだろう。
俺はもう慣れた、というか、脳内コンピューターが勝手に処理してくれているのでそこまでの疲れが無いだけだ。
俺の脳内には魔法でスーパーコンピューターをイメージして作用させている。これが実現していて実際に実用できているのだから魔法と言うのは何処までも不思議で恐ろしい。
こうして俺たちはハイオークの全ての処理を終えて森の中に作った拠点へと戻って来た。
中に入る前に残りの三人の服に魔力を流して汚れを取り除く。
カジウルはそれに「おお?」と驚き、マーミは「はぁ~」と溜息を一つ、ラディは「ありがとよ」と礼の言葉を言って家の中に入った。
後は各々の自由時間だ。各自自分のしたい事をしながら時間を過ごす。
カジウルはひたすらだらだら。マーミは弓の調子を見ている。ラディはストレッチを続けてついでにマッサージも追加しているようだ。
ミッツはどうやら精神集中をしたいらしく小部屋の方へと入って行った。どうやら地道に魔力量を上げる特訓をしているようだ。
そうして食事も済ませ、後は寝て明日に帰還するだけ。
こうしてハイオーク討伐依頼はつつがなく?終わりを迎えた。
そして翌朝。この日も皆同時に起きた。
食事の用意も昨日と大体同じだ。俺とミッツで用意を始める。
そこにマーミが俺に質問をしてきた。
「ねえ?この家はどうするの?たった数日のために作ったとは思えないこんな完成度の高い家をここに置いて行くの?」
どうやらこの作り出した家の処分の事を聞きたいようだ。
それもそうだろう。こんな森の奥に突然の家である。これをこのまま残して言った場合にここを見つけた人が驚愕するに違いない。
なんの脈絡も無くいきなりこんな立派な家が森の奥に建っていれば、この世界の人たちにとっては驚かない訳が無い。
いや、俺だって何も知らなければ驚くだろう。そんなモノをここに置いて行くのか?と言うのはもっともな疑問である。
「処分はするよ。けど内装をちょっと凝ったからインベントリに入れて持ち運び出来るようにしようかと。これが有ればどこに行っても取り出せばすぐだしね。」
一々行く場所毎に魔法で作り出す手間を減らせるし、何よりちょっと自分でお気に入りだったりする。
家具も作った、ベッドもソファも、部屋も各自作り、そのドアもちょっとデザインを凝った物にしたのだ。
でもこの大きさである。正直言って持ち運びとか馬鹿か?と自分で言ってて思ったのだが、できない事も無いと言う感じでもある。
なので青い国民的アイドルの猫型ロボットのように、スモールラ◯トも無ければ、ビッグ●イトも持ってはいないが、この家を持ち運びするつもりではいる。
「ホントに私はトンデモナイ人物を仲間に入れっちゃったわよねぇ。」
その言葉を俺に今更言うマーミ。その目はジト目である。
丁度その時に朝食ができたのでソレをテーブルに並べて食事だ。ソレを黙々と食べる。
食べ終われば終わったでカジウルがシミジミと口に出す。
「あー、こうして外に出たって言うのにこんなあったかい飯とか、もう戻れないぜぇ~。」
満ちた腹を軽くポンポンと叩き「不味い飯に戻れない」と嬉しい嘆きを吐くカジウル。
「戻りは森の中を通って行こう。エンドウの「アレ」は使わずにな。」
ラディはそう戻るプランを提示する。それを説明し始めた。
昨日俺が服を綺麗にしてしまったので、森の中を這いずり回っていたとしてソレは不自然だと。
数日の森の中だから汚れは付いて当然。汗臭くて当然だと言う。
そこでせめて帰りは森の中を通り、多少は汚れて帰るべきだと。
そしてギルドに戻る前に「風呂」に入ったと言って良い訳するのも追加すると言う。
「あー、そうか。久しぶりに風呂に入りたいな。師匠の家に戻ったら熱々の湯で温まろうかなぁ。」
この俺の呑気な発言にカジウルが乗ってくる。
「おう、その時は俺も入れさせてくんねえか?風呂一つ入るのにも少々の金が要るからな。エンドウならそこら辺タダなんだろ?入れさせてくれ。」
「カジウル、セコイな。でもまあ良いってエンドウが言ってくれたら俺もお願いしたいね。」
ラディもカジウルに突っ込みつつもソレに便乗する。ミッツも乗って来た。
「私も入らせて頂けると助かります。普段から清潔にしてはいますが、お風呂を毎回なんて贅沢ですからねぇ。」
「ちょっとあんたらだけズルいでしょ。私もその時は入れさせてよね?」
マーミもどうやら風呂に入りたいらしい。こうしてギルドの話は何処へやらと言った感じで家から皆は出る。
そして俺は家を収納するためのインベントリを開くのだった。
地面に。そう、これをそのまま入れるには持ち上げるなんて言う入れ方はできない。
なので家の下に展開する。音も無く広がっていくインベントリと言う「異空間」。
ソレは一気にパッと広がり家を呑み込んだ。そしてソレをやった張本人の俺は何とも無い。
「なあ?エンドウ?なんで俺たちと一緒に居るんだ?こんなマネができるならホント、別の商売もできるだろうに?」
カジウルがそう心の底から「呆れた」と言った感じでそう聞いてくる。
確かにどうしてだろうかと俺もちょっと頭を斜めにして考える。
「別に金を稼げれば何でも良かったのかもな。で、マーミに誘われて本格的に冒険者ってのが割と自分に合ってる?と感じたのかもね。今じゃこのパーティで良かったと思ってるよ?」
カジウル以外の残り三人がまだ呆けている。さすがに家を丸々一軒インベントリに呑み込んで何も無い事を受け入れるのに時間を要するみたいだ。
だが真っ先に正気になったのはミッツからだ。
「エンドウ様の限界は何処にあるんでしょうか?これだけの物を消してしまえる、しかも一瞬で。計り知れません。底が見えません・・・」
これ位で驚く事だろうか?散々ここに至るまでの間に俺が何をしてきたのかを見ているのに。
で、それを全力スルーするのはラディだ。
「よし、じゃあ戻ろう。ここに何時までも居た所でやる事は無い。話なら歩きながらにでもすればいいだろう?」
ラディはこの何とも言えない空気感を変えるために歩き出す。
ソレにマーミが続く。大きな溜息をついて「もう驚いていてもしょうがない」と口にして。
で何故だかカジウルが俺の返事に感動したらしく、グスッと鼻をすすってその後を続いた。
どうやらカジウルは精神が不安定になっている様に見える。あんな俺の一言で泣く程だったか?とちょっと疑問を持つ。
しかしどうやらハイオーク討伐をこうして全員無事に完了できた事で動揺しているらしい。
昔と今がどれ程に強さに違いが出たのかのそのギャップにも心揺さぶられたようだ。
このパーティで良かった、そんな俺のテキトウに答えた何気ない一言にどうやら不意を突かれたようだ。
カジウルはこうして精神的に弱い部分がぽろっと出てしまう性格と言うのが分かった事は良い事なのだろう。
こうして俺たちは森を抜け帰還する。門に着いた時にはかなりの汚れが付いて何処から見ても「頑張りました」と言った風に見える。俺以外が。
俺は常時発動している魔法で汚れが付いていない。なので俺だけが不自然だ。
しかし俺はわざと魔法を解除して森の中を帰ったりしなかった。だって解除して汚れ、後でまた綺麗にし、そしてまた魔力を纏わせるのは只の手間だと感じているのだ。
もうこのバッツ国からは退去する予定なのである。ならばちょっとくらいは「変」と思われた所で痛くも痒くも無い。
これにマーミから白い目で見られたが、それもちょっと斜めに顔を逸らしてやり過ごす。
そうして門番から入国の確認をされるときに今回の依頼の件を話された。
「お前さんたちだろ?確かハイオークの討伐の件を受けた冒険者は。すまないな。この国所属じゃないってのにこんな危険な事をさせちまうなんて。後から依頼を受けようとしたこの国付きの冒険者が一人も居なかったとは情けない話だ。」
どうやら俺たちの事が噂になっていたようだった。コレにカジウルが応じる。
「いや、俺たちも力足らずでよ。すまないな。一頭しか片付けらんなかったのよ。情けない事にな。身の丈に合った依頼を受けなけりゃよかったと反省しているんだ。」
苦笑いを浮かべてそう答えるカジウル。その肩には大きな袋。
もちろんその中に狩ったうちの一頭が入っている。しかしその袋の中身は「小分け」にした一部だ。
俺たちも同じような袋を担いでいる。もちろんこれは話を合わせるために、一々こうして獲物を解体したモノをみんなで分けて運んでいると言うアピールだ。
今の「つむじ風」全員が身体能力向上の魔法で一頭丸々担ぐ事など簡単にできるのだが、それでは目立ち過ぎるのでこうして手間をかけている。
「いやいや、ハイオークをこの日数で、しかもその人数で一頭狩れりゃ凄いだろうに。一頭減っただけでも負担はだいぶ減る。おっと、長く引き留めてちゃ悪いな。通ってくれ。」
門番はそう言ってギルドに向かう俺たちを見送る。かなり印象の良い人だった。
そして俺たちが出発した後にこの依頼を受けようとした冒険者が居なかった事も分かった。
「どうやら俺たちのこれからの話の流れは上手く行きそうだな。」
ラディはちょっと安心したように言葉を吐く。
カジウルが調子に乗ってこんな依頼を受けるからだ、そう言った方向に話を持って行ってギルドに申し出るつもりなのである。ハイオークの再度調査を。
「事実だものね。そりゃ私たちの演技が必要無い位に。」
マーミは嫌味を口にする。確かに何も確認をしないでカジウルはこの依頼を受けたようなモノだ。
しかしカジウルはコレに反論した。
「お前ら何も言わずに俺について来たくせによく言うぜ。そのセリフは門を出る前に一言諫言を口にした奴が言う資格が有るんだろうが。」
マーミがソレで即黙る。どうやら珍しくカジウルが言い勝ったようだ。
「私たちは全員カジウルに文句は言えないですよ。強くなり過ぎていてそこら辺の自覚が追い付いて無かったんですから。あ、エンドウ様は違いますね。」
俺は冒険者としてまだまだ未熟も未熟であるので、どうやらミッツは俺は違うと言いたいらしかった。
「まあ今回はどう考えても皆同罪だな。反省の色をみんなで見せつつ話をギルドにすれば簡単に行くんじゃないか?別に誰が悪いとか無しにして気楽にいこうよ。」
俺はそんな風に四人へ返す。すると皆はお互いの顔を見合って同時に苦い顔をして「ははは」と笑った。
そうこうすればギルドに到着だ。そして中に入って早々に受付嬢がこちらに寄って来ていきなり頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。このような依頼は本来なら余所の冒険者では無く我がギルド所属の冒険者全員へと要請をするはずの物でした。処理の途中にどうやら行き違いがあり、一般応募の方へと依頼が張り出されてしまいました。受けていただいた「つむじ風」の皆様が今回の件で出費された準備物資購入に使われた金額を我がギルドにて保証返金させて頂くと共に、追加で謝罪金をギルドからお支払いいたします。お手続きを致しますので個室の方へとおこし頂いてもよろしいでしょうか?」
俺たちはポカンである。当初の予定が大幅にズレた。
でも、ここでマーミの立ち直りの速さが光る。
「ちょっとカジウル!アンタが最初に良く確認しとけばこんな事にならなかったのに。」
最初に打ち合わせをしていたセリフを言い放つマーミ。それに続いてラディ。
「ああ、そうだな。でも結果は儲けたと言って良いんじゃないか?」
ソレを肯定するミッツが短くまとめる。
「そうですね。ちょっと話の筋は変わりましたけど。」
ギルドにここで俺たちが「申し訳無い」と謝る予定だったのだが、逆にいきなり謝罪をされてしまった事には驚いた。
でも行きつく所は変わらない。再調査をギルドに俺たちからお願いする、着地地点はそこだ。
ここでカジウルが受付嬢へと申し出る。
「あー、すまないが、ハイオークの調査をお願いしたいんだ。俺たちはこの日数で一頭、狩る事ができたんだが、他のがとうとう見つけられなくてな。討伐の依頼数を充分と熟せ無かった代わりにこちらで調査の資金を提供する代わりと言っちゃなんだが、狩ったこの一頭をギルドで無償で引き取ってもらう事で代わりとしたい。一頭は駆除できたので依頼を失敗扱いにはして欲しくはないんだが、そこら辺を調整お願いできないだろうか?それと、異常に巨大なモーグルと遭遇した。後でその場所を教えるからその分の報告もさせて貰う。」
こうして俺たちがあらかじめ相談して決めていたセリフをカジウルが口にする。ちょっと早口めで。
ソレを受けた受付嬢はしっかりと返事をしてくれた。
「事情は承りました。私の判断ではこの場で決める事ができないのでギルドマスターに報告をしてまいります。ではこちらの個室でお待ちください。」
こうして後は返事を待つだけとなる。流れはおかしくないし、上手く行っていると感じる。
後はここのギルドマスターが柔軟性のある考えの持ち主である事を祈るばかりだ。
「まあここまでくりゃ大丈夫だろう。うーん、いきなり謝られたのはビックリしたぜ。」
案内された部屋でカジウルは椅子に座り伸びをする。どうやら緊張をしていた様子だ。息を吐いて肩を落とし力を抜いている。
「そうよね。確かによーく考えてみたら私たちが受ける様な依頼じゃないのよ。一般の方に張られていたとか、ね。無い事もないわねそういうの。でも、って言うか、確かそれをすぐにカジウルが受けたのよね?張られてすぐに。」
マーミはジトっとした視線をカジウルに向ける。
「おそらくはそのせいもあってギルドの方も確認が大分遅れただろう。間違えて張った事に対してどれくらいの時間が空いてから気付いたかは知らんが。だとしてもカジウルが速攻でこの件を受けた事は少なからず影響は出ているんじゃないか?」
ラディは揶揄うようにカジウルを見る。
「とは言え、このギルドの対応は凄く良かったですね。こうして謝罪するだけじゃ無くて金額まで保証すると言ってくるなんて。」
マーミはギルドが謝罪と金額保障という下手に出て来た事に言及する。
「あーあー、分かったよ。俺が今回は悪かった。しかしよ?ここまでギルドが対応してくるって言うのは、アレか?今回の「行き違い」って奴を黙ってろ、って言う口止も入ってるのかね?」
カジウルは鋭い所を突いたようだ。ラディがそれを「だろうな」と言って付け加える。
「確かにここの国の冒険者は毛皮の金で暮らしている事で大分怠け者だ。だけどその食い扶持が荒れてしまう原因くらいは余所の力なんぞを借りずとも要請が出れば仕事をするだろうからな。そこら辺をあんまり大っぴらにしないでいろ、って言うのも入っているだろうさ。」
「じゃあハイオークをタダで出す代わりに調査費用ってのは無くても良かったんじゃない?」
マーミが疑問を呈する。これにはミッツが。
「でも体裁を整えると言う意味でも、私たちの実力を隠すと言った意味でも、やっておいた方がいいと私は思いますけど。」
どちらにしろ出しておいてもいいだろうと。
「とりあえずハイオークは残り九はあるし、一頭くらい良いんじゃないの?けちけちしないでさ。」
俺が最後にそう一言軽く言うと皆はまたしても苦笑いをする。
「あー、そうだな。そう言えばそうだな。」
「そう言えばそうよねぇ。確かにそうなんだけど。」
「そう考えれば俺たちゃ金持ちだな。一頭くらいは・・・って、エンドウ、お前この一頭がどれくらいの金額になるか知ってて言ってるか?」
「エンドウ様はおそらく知りませんよラディ。ですが考えて見ればエンドウ様のお力ならこれくらいの金額なんて直ぐに稼ぐ事ができますね。」
こうして俺の「知らないからこそ」の言葉は流される。
そしていったい一頭がいくらするのかを聞きそびれてしまう。
ソレは部屋に先程の受付嬢と一人の老人が入って来たからだ。
「ほっほっほ。すまんな。少々待たせちまったかい?自己紹介をさせてくれ。私はこのギルドの長をやっているジルべと言う。以後見知りおいてくれ。」
どうやらギルド長自ら説明をしに来たようだ。かなりの高齢のおじいさんである。
コレにちょっと四人が緊張気味になる。それもそうだろう。逐一ギルド長が説明を冒険者にして回っていたらキリが無い。
許可だけ出して書類処理などは職員に全部任せてしまえばいいし、説明もそうすればいいだけなはずだ本来は。
なのにこうして直接本人が来たと言う事は。
「何か今回の件以外でお話があるんですか?」
俺は率直に聞いてみた。コレにまたしてもギルド長は「ほっほっほっ」と笑う。
「鋭いね。しかも遠慮も探りも無い。なかなか好きだよ私はそう言うのも。だが先ずは最初にハイオークの話をさせて貰っていいかね?」
コレに皆は一つこくりと頷くだけ。そして全員が着席してから話が始まった。
「今回の件ではウチの手違いで君たちにこの様な危険な依頼が回ってしまった。本来ならあってはならない事だ。今の時期は職員が皆、気を緩ませていたようだ。ハイオークなんてのは滅多に起きない事でね。だからこそちゃんとしなけりゃならない所だったんだが。それがどうも注意も意識も足りなかった。未熟も未熟さ。このギルドの代表としてこの通り頭を下げさせて貰う。」
ギルド長は立ち上がって丁寧な所作で頭をこちらに下げてくる。コレにビシッと背筋を伸ばした皆。
そしてゆっくりと姿勢を正したギルド長が説明を続ける。
「その事に関しての保証として、話はもうされたと思うが、準備に使った金はこちらで持たせてもらう。そしてそれとは別に充分な謝罪金を支払うつもりだ。で、私としてはコレで話を収めて欲しいとお願いしたい所だったんだが。そちらからの「申し出」の事で話し合いが必要だと思ってね。」
ここで受付嬢がお茶を運んでくる。どうやら長い話合いをする気マンマンである。
「ハイオーク一体を出してまで調査。金があり余るよ。君たちつむじ風が申し訳ない、などと言った理由だけで出すのに余りにも不自然さを感じてね。調査をするだけならそこまでの費用は掛からない。なのに君たちは一頭丸々出すつもりだろう?さて、本当の所を話して欲しいね?」
どうやら「何を」と言った所は具体的には理解できていないが、「隠している」と言う事は見抜かれているらしい。
これが年の功と言うモノなのだろうか。先程までニコニコとしていたギルド長は鋭い眼差しをカジウルへと向けている。
しかし次にはその視線は俺へと向けられていた。
「君は知らない顔だね。最近仲間に入ったのかな?そしてどうやら、私の目に狂いが無ければ、君が今回の件の中心、かな?」
この間違ってもいないが、合ってもいない微妙な指摘にちょっとばかりドキっとさせられる。
このギルド長の発言に四人が誰も答えない。プレッシャーを感じているのか、どう返答すればいいのかを迷っているのかもしれない。
で俺がコレに先ずは答えた。そしてその内容は変に誤魔化さない。
「言うなればハイオークを出すのは「黙っていて欲しいから」です。詳しくは聞いてほしくないのでソレだけ言わせて頂きます。もうギルド長は確信を持っているご様子なので言い訳はしません。これ以上は何もおっしゃらずに「承認」していただきたい。」
俺のこの言葉に「つむじ風」四人が固まる。アレだけ相談していたのにもかかわらず、こうして俺があっさり白状したからだ。
しかし四人は何も言ってはこない。どうやら俺が何もかもをすっ飛ばして話をした事で諦めたようだ。
「ほっほっほっ。いいな君は。気持ちのいいくらいにキッパリとしていて。回りくどいのが御嫌いかな?いくらでも「説明」はできただろうに。それをしない。誤魔化そうとも。しかもその理由が私が「確信」を持っていたから?はっはっは!これは愉快だ。その上で何もこれ以上は聞くなと言ってくる。追及してもこれ以上は喋らないと言う強い意志が乗っているね?良いだろう。今回の事はこれ以上は無しだ。君たちの望む形に処理をしよう。」
こうしてハイオークの件はお終いだ。受付嬢がカジウルへと一枚の書類を差し出してくる。
警戒しつつもソレを一通り読んだカジウルがそこへサインを入れる。するとその書類を今度はギルド長へと受け渡す受付嬢。
コレにギルド長がサインを入れてコレにて終了らしい。
しかし話はこれとは別でまだあるらしく、ギルド長はお茶を一口飲んで喉を潤してまだ話を続ける。
「さて、まだもう少し話をしたいのだが、よいかね?」
コレに俺たちは顔を見合わせて頷く。これから何を話されるのかとドキドキしつつも落ち着くために皆もお茶に口を付けた。




