表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/327

これからの事、話は長い

「さて、君たちはうちのギルドの依頼を受けてくれていたらしいな。この時期に出る依頼を受けてくれる冒険者は非常に珍しくてね。そこで、まあ、率直に言おうか。ウチのギルドの専属にならないかい?」


 コレには驚いた。何せもうそろそろシーカク国、マルマルの都市に戻ろうかと言っていた所にこれだからだ。

 俺だけでは無く他の四人も驚きを隠せていない表情をしている。


「君らつむじ風がマルマルで活動していると言うのは知っている。場所をこちらに移す気は無いか、そう言う単純なものと捉えてくれていい。専属、というのも難しく考えないでくれ。こういった時期に出る受け手の無い依頼を処理してくれる冒険者が欲しくてね。そう言った意味で報酬としては色を付けて出す、くらいにみてくれたらいい。毛皮の時期の狩猟依頼も受けてくれて構わないのだ。他の冒険者たちは良い顔をしないだろうが、それは私が直々に出て説明をしてもいい。それ位の手間は掛けてもいい、こういった時期に突発的に現れる深刻な依頼をこちらの要請ですぐに熟してくれる冒険者を専門で抱えたいと言うのが中心でね。どうだろうか?その他は全て自由でいい。今まで通りだ。こちらから専属だからと言ってその他で関係無い所で縛るような事はしない。要請をしたとしても断る権利も認めるよ。」


 かなり良い条件だ。こちらで冒険者活動をしても構わない位に。むしろここまで俺たちに美味い話なんて騙されているのでは?と疑ってしまえるくらいには。

 これでは寧ろ向こうに戻らないでこちらに鞍替えしてしまった方がメリットが大きい。それなりの手続きはきっと必要になるだろうが。

 ソレを差し引いてもこちらでやっていく事に何らデメリットが無い事が恐ろしい位だ。


 でも、これをカジウルが待ってほしいと言葉を放つ。


「向こうでちょっとまだ片付けないといけない案件が少々ありまして。そのお話は大変、そりゃもう非常に嬉しいモノなのですが。返事にはお時間を頂きたく思います。我々もその様な突然の話に驚きと理解が追い付いていないモノで。話合いをする時間を貰えませんでしょうか?」


 いつものカジウルの印象とはエライ違いなその返事と態度に俺はちょっと笑いそうになる。けどそれは今の空気には相応しくないので我慢するが。


「分かっているよ。返事はいつでも構わない。むしろこの話は最初から私も即答は無茶だと思っているからね。しがらみやその他の手続きなどもある。ゆっくりと待たせて貰うよ。充分に話し合いをしてほしい。私も余り簡単に話を受けられても「軽く見られたか?」と思てっしまいそうになるからね。こちらから申し出て頼んでいるとしてもね。話は以上だ。何か質問や疑問が出てきたら納得のいくまでこちらも返答と説明をさせて貰うよ。では、これで。」


 ギルド長と言う立場ならただでさえ忙しい身だろう。今の時期が毛皮シーズンで無いにしろ。

 そう言って席を立ち部屋から出ていくギルド長。それを俺たちは全員で席を立ち頭を下げて見送る。

 受付嬢も部屋を出ていく。その際に「ゆっくりとしていっていただいて構いません」と付け加えた。

 どうやらこの部屋でよく相談してくれていい、と言う事らしい。

 宿に戻ってからもきっと話し合いはするだろうが、とりあえず直ぐに話し合いたい事もあるだろう、とそう言った気遣いからみたいだった。


「じゃあちょっとだけ先に今この場でお互いの意見を出してみるとするか。」


 カジウルがそう話を切り出す。そこに俺はちょっと待ってと水を注す。


「あー、残念なお知らせです。ここにあの時の物と同じものを感知しました。出よう。誰がどんな意図で設置してるのかは知らないが。あ、ちゃんと盗聴防止の措置はこの部屋に入った時からやっておいたからその装置の設置主が今回の話を盗み聞きしている心配は無いよ。」


 この言葉に全員がギョっとした目をしたのが今日一番面白かった。


「それってあのギルド長が?・・・だとすれば、かなり腹の黒いって事に・・・」


 あの美味しい話には大分裏がある。そう言う事になるとカジウルは言葉に出そうとして止める。


「もしギルド長以外が設置していたとなると、誰になるんだろうな?」


 ラディは犯人は誰か?と言った所に話を持って行く。


「でも、そうするとこの件を他に知っている人物?でもそれって一体?というか、そもそも今回の話を盗聴できなかったと気付けば私たちの事を余計に「そいつ」にただモノじゃないって思われるわよね?」


 マーミは混乱し始める。目立たない様にと思っている矢先に面倒な問題が、と。


「そもそもどう言った目的でいつから設置されているかになるのでは?常時設置されていてこの部屋を使う者の会話をいつも盗み聞ぎしているとか?かなりの悪趣味ですけどね、そうすると。」


 ミッツは自分の予想を不快だと言った顔を隠さずに口にする。


「じゃあとりあえずこいつをギルド長に突き付けようか。そうすれば反応したとしても、しなくとも、それ以上は俺たちの関知する所じゃ無いだろ。宿で一日ゆっくりして、明日にマルマルに戻ろうか。」



 俺はまとめを口にする。考えても出てこない犯人探しや、盗聴器を設置した理由などを追及しようにも答えの出せる有用な情報はそもそも俺たちの手元に今は無い。


 ならばこれ以上ここに盗聴器を知らん顔で置きっぱなしにしないで報告をしてしまえばイイ。

 マルマルのギルド長もこの道具は「管理されている」と言っていた。

 ならばソレがこの部屋にあるのならばギルド長がソレを知っていても知らなくても見つけた者が報告するのは当たり前。

 見つけた事で余計に俺たちへの注目を集めたとしても、「たまたま見つけた」という理由を付けて渡せばそれ以上は余計にこちらに踏み込む事もできないだろう。

 そして盗聴器を設置した犯人がもしここのギルド長だったと分かったとしても、それはソレだ。

 知らん顔で何も気づいていないフリのままに出ていけばいい。

 後でその事を話し合えばいいし、そもそも今回の勧誘の話を蹴ってしまえば問題は無い。そして以降はここに立ち寄らなければいいだけの話だ。


「じゃあコレを俺が渡しに行ってくるから皆は先に宿に戻っていてくれ。」


 盗聴器が設置されていたのはこの部屋にある本棚の隙間。絶対にそんな所に目をやらない、死角になっている場所だった。


「怪し過ぎだろこんな所に。でもまあ、それをたまたま見つけた、何て言い訳しようとしている俺もドッコイかな?」


「大丈夫ですかエンドウ様お一人で。」


 ミッツが心配をしてくれる。猛獣や魔物に対しては「エンドウ様なら大丈夫です!」と普段から言いまくっていたミッツのこの心配は「何に」向けてなのか分からない。


「じゃあ誰かもう一人くらいは一緒について来てくれるか?」


 俺はこのミッツの心配に対してそう口に出す。大丈夫、と言ってしまうのは簡単だが、どういった形の「危険」が潜んでいるか分からない。

 ミッツの「勘」は何故か鋭く、こう言った場面でそのミッツから心配されたので一応警戒を上げておいて損は無い。


「じゃあ俺が付いて行こう。」


 そう言ってくれたのはラディだ。同行者が決まり残りの三人は素直に宿へと向かう。

 ギルドを出る時にミッツが「大丈夫でしょうか?」とまだ心配を口にしていたが、何がそこまで心配なのかがはっきりしない。


「ミッツは何故か時々ああやって過剰な心配をする時があってな。そういう時は何かしら起きるんだ。それは大抵小っちゃい事で、後から考えると「ああ」って感じになるだけのちっぽけな心配しなくてもよさそうな事だったりするんだけどな。」


「警戒は必要かソレ?でも、当たるんだ?なんかヤバい事に巻き込まれないか心配になって来た。」


 どうやら長い付き合いのラディはミッツのその「心配」が「当たるもの」と経験で知っていると言う。

 ラディはそのミッツの警戒を何かあってからでは遅いと捉えているようだ。取るに足らないモノであってもソレがどういったきっかけで大きな障害に発展するかなんて誰にも分からない。

 確かに冒険者であるからにはそう言った「危機」に敏感に反応できるようにならないといけないと思える。魔物を目の前にしていなくとも。

 そう言った取るに足らない「勘」も重要視する事はきっと大事な事だ。

 これは想像でしかないが、こういった勘を見逃さない事も上のランクの冒険者の条件の一つなのでは無いかと思う。


 普通なら誰もが一笑にするミッツの「勘」だろう。理由もわからない、何が心配か見当もつかない。

 だけどソレが「当たる」と分かっていたならソレに対処すべく労を惜しまないと言うのは正しい事なのかもしれない。


「さあ、行こう。何も無ければ良し。有れば在ったで俺たちで何とかしようか。」


 ラディはそう言って先程の受付嬢へと近寄って「重要な話ができた」とギルド長へのアポを取るために話しかける。

 すると受付嬢はすぐにギルド長室へと向かうため、カウンターから立ち上がってサッと奥のドアへと消える。

 そしてすぐに戻って来た。それはたったの十秒ほどで。


「どうぞ、ギルド長室へとご案内します。」


 そう言って俺たちを案内し始めた。そして廊下の一番奥の部屋のドアをノックする。

 そのノックで「入りたまえ」と返事が返ってくる。

 受付嬢がその言葉でドアを開けて俺たちに中に入るように促してくる。


「先程の話とは別かな?重要、とはいったい何かね?」


 ギルド長は重厚なデザインの机の前にいる。椅子に腰深く座り背もたれに体重を預けてこちらを見つめて来ていた。


「こちらを。先程の部屋に隠す様に置かれていました。何者かがあの部屋での会話を盗み聞きしていたようです。」


 俺は手のひらに黒い物体を乗せてソレを見せる。そして「盗み聞きしていた」と。

 実際には俺が魔法で盗聴防止を掛けていたので聞かれている事は無いと思われるのだが、そこは言わないでおく。


 コレにピクリと眉を上げてギルド長が険しい表情になる。


「何処に置いてあったか分かるかな?そして、それを見つけた経緯を教えてくれ。」


 俺は本棚の死角になるような場所にあったと説明をする。そして棚にある本の種類が気になってたまたま近寄った時に見つけたと嘘を吐く。


「そうか。なるほど。この件は重大だ。しっかりとこちらで調査しよう。すまなかったな。私の落ち度だ。今回の会話が聞かれたとなると誰が、どの様な目的なのか。そこら辺の事が有るので犯人の動機が判明されるまでは勧誘の話は凍結としたいのだが、構わないだろうか?」


 コレに俺が少し踏み込んだ話をする。


「犯人の目処は立っていますか?この道具が貴重でギルド内でも管理が厳しいモノだと言う事は知っています。一応なのですが、先程の勧誘の件。俺だけの個人的な意見を言わせてもらえば、話をお受けしてもいいと思っているんです。」


 ラディはコレに俺へと「どう言うつもりだ?」と言った目線を送って来た。しかしそれ以上のリアクションも、文句も口にしない。


「そうか、それは嬉しい答えだ。それならば早く君たちがこちらへの移籍をする事ができるように犯人探しとその掃除はすぐに終わらせられるように努力させてもらおう。で、犯人だが、確かに、心当たりは、ある。だが、証拠が無い。」


 苦い顔でそう応えるギルド長。ここでもう一歩踏み込む俺。


「それは副ギルド長ですか?」


 この一言に非常に驚かれた。この盗聴、マルマルでもほぼ同じ事が起きている。

 なのでもしかしたらあっちもこっちも同じか?と思ってカマをかけたに過ぎない。

 だがギルド長の顔の変化で同じパターンだと言うのが分かってしまった。


(ここのギルドも副ギルド長が悪だくみかよ?どう言う事だ?)


 まさか、まさかな、とそんな事を思いながらもこれ以上は長居は無用だと判断して俺たちは部屋を出る事にした。


「では、私たちはコレで。明日にはマルマルに戻ります。勧誘の話の件は「解決」したら知らせをください。その時に返事をさせていただきます。その時にはこちらも話し合いは充分にし終えているハズですので。全員の納得のいった「答え」で回答させて頂きます。」


「今日は何かと疲れている所を悪かったね。旅の安全を祈っておこう。」


 ギルド長からそう見送りの言葉を言われて部屋を退出した。

 そうして俺たちはギルドを出る。と出た矢先にラディが発言する。


「ギルド長は犯人じゃ無かったな。アレが演技だと言うなら俺の方がソレを見抜けない未熟者だ。んで、エンドウ、お前はあの移籍は賛成でいいんだな?」


「ああ、そうだね。俺には何処にいても移動手段があるしな。マルマルに居ても居なくてもって感じだ。んで、まだ向こうでゴタゴタが片付いて無くて俺たちにちょっかい出されるようなら、さっさとバッツ国に来ちゃっていいと思うんだ。」


 ちょっかいとは国の徴兵関係である。マルマルのギルド長、ミライが上手く隠せていたならば、まだまだその話はもっと先になる事だろう。

 隠蔽がもし、しくじっていた場合。真実が明るみに出た場合。その話が国へと行っていた場合。

 面倒臭い事になる。あくまでも国に仕えろと言うのは断るのは自由だ。しかし現実はそんな事をすると「制限」を受ける事になる。

 そんなのは御免だ。今の俺は自由を謳歌していると感じている。

 昔のサラリーマン時代にはあり得なかったワクワクドキドキがこの胸に。

 ソレを止めようとしてくる者達に関わり合いたくない。国などと言う権力に上から押さえつけられるなんてされたくない。

 俺の心はこの時にハッキリと決まっていた。色んな場所を見て回る。自由に世界を歩き回る。

 こうしてこちらの世界に来てしまった原因が何かは判らない。

 だが、今はこうしてソレを楽しんでいる。元居た日本に戻る事を考えていない。


「俺以外がどう思ってるのかは、まあ、宿に戻ってからにしようか。この話は俺としては受けちゃっていい案件だと思ってる。」


 ギルドの移籍を賛成する俺にラディは待て待てと言ってくる。


「でも、それもこの盗聴の事が終わってからになるだろ?おそらくだが、アレは副ギルド長の仕業だろ?その尻尾が掴めるのがこの先いつになるか、って言うのがな。」


 俺が口にした「犯人は副ギルド長?」という言葉にラディはどうやら腑に落ちたと言った感じである。

 そこに「まさか」の予測を俺はぽろっとこぼしてしまう。


「なあ?マルマルでも同じだっただろ?まさか、さ、まさかだけど。各ギルドの副ギルド長って、繋がってたりするのかね?こんな偶然あるか?」


 俺のこのあんまりな想像に、しかしラディは目を細める。でもソレで終わりだ。もう宿の目の前についてしまった。

 俺たちは宿に入る。すると先に帰ってきていた三人が食事をしていた。

 もう昼だった。俺たちも宿の女将さんに食事を頼んで椅子に座る。


「飯を食い終わったらエンドウの部屋で話し合いをするぞ。まあ明日マルマルに帰るって言っても時間はたっぷりある。議論は充分にしようぜ。」


 カジウルはそう言って食後のお茶を啜った。コレに別に反対は無いので俺もソレを受け入れる。


 こうして俺の取った部屋に全員が集まって会議だ。議題はバッツ国への移籍に関して。


「俺は受けちまってもいいと思ってる。これだけ優遇されるのはこの先無いんじゃないか?って思うんだが。」


 カジウルの意見は全面賛成みたいである。


「私はまだかなり時間を必要と判断するわ。マルマルでの今後も、もうちょっと様子見してから結論を出したいわね。で、そもそも盗み聞きの件はどうなったの?」


 マーミが盗聴器の件の事をちゃんと話してくれと口に出す。

 なので俺はギルド長ジルべが言った事を説明した。


「凍結ですか。確かに犯人を見つけてからの方が安心はできますが。いつになるのでしょうかソレは。」


 ミッツがラディと同じ意見をここで出してくる。確かにこれがわからないとこちらに来たくても無理だ。

 だが解決したら連絡を貰えるようには言ってあるのでそこら辺は「いつか」と言った感じで気楽に待てばいいだろう。

 それよりも今は議論をして皆で納得のいく答えを搾り出しておく方が大事である。


「俺はぎりぎりまでマルマルで活動するのがいいと思う。で、もう限界だってなったらこっちに移って来ればいい。その時はエンドウのアレを使えばあっと言う間だしな。」


 ラディは移籍に肯定はするが、マルマルでの冒険者活動をし続ける事を提案してくる。

 ソレは俺のワープゲートを当てにしている提案だったのだが、コレに皆は頷いた。


「マルマルでの様子次第だな。よし、皆それでいいか?とりあえずもし戻って見て駄目ならまた別の土地に出稼ぎって名目で出ればいいだろう。」


 カジウルはそう話を纏める。もし駄目だった時はまたトンズラすればいいと。


「そうね。次はそうすると南?あっちは毛皮売れるかしら?ハイオークもそうだけど、まだエンドウのアレの中に色々と入ってるからそれを捌いて売り払ってお金にしたいわね。」


 マーミは俺のインベントリの中に入っている「出さない方が良い」と言ってしまっているアレやソレを処分して金にしてしまいたいと言う。


「考えてみたらもうソレを売った金額で暫く遊んで暮らしてられるからなぁ。どうしたモノだろうか?あんまりいっぺんに出してもダメだろう?少量ずつ出しても怪しまれるだろうしな?難しい問題だ。」


 ラディはそれらを売った場合の「騒ぎ」を懸念している。ソレの出所が俺たちだと言うのがバレた場合、近づいてくる者達が出てくると。

 ソレは「良い」も「悪い」もゴチャゴチャに。利用しようとしてくる者達が。


「そうですね。今の私たちの中途半端な「立ち位置」ではそう言った者たちを躱し切るのは難しくなりそうです。静かにしているのが今はまだ無難ですね。」


 ミッツは無理してお金を求めない方が良いと言う意見を述べる。

 俺たちはまだまだ冒険者のランクは高くないし、「有名」でも無い。

 そう言った寄ってくる者たちを選別する、ふるいに掛けれられるだけのモノを持ち合わせていない。


 実績、実力、そう言った一目で分かる看板があれば、寄ってくる有象無象も寄り分けるのに多少は楽になるはずだ。

 そう言ったのが無いと、なりふり構わずにちょっかいを掛けてくる輩、上から目線で命令するように偉そうな態度をする輩、からかい半分で依頼を持ってくる輩などが出てくるのが目に見えている。


 俺はそこでとりあえず言うだけ言ってみる。


「クスイに全部捌いてもらうってどうかな?クスイなら俺たちの事を漏らす事は無いだろうし、それに

 商売人だから市場に出すのに機微やら売値なんてのも適切に対処してくれるんじゃない?」


 これには打算がある。他の商売人に売ったとしてもその金を俺は受け取ったらクスイに丸投げするつもりだから、最初からクスイに全部素材関係は渡してしまった方がその手間が省ける、と言うものだ。クスイの苦労は増えるのだが。

 でもこの意見にどうやら皆は反対は無いようで。


「まあ信用できるし、俺はそれで構わねえと思う。」


「そうね、確かエンドウと一緒に事業を始めるんだったわよね。それ位に密接な関係なら私たちの情報もそう易々と漏らしたりしないでしょうしね。」


「エンドウは俺たちの仲間だしな。そんな俺たちを売るようなマネは無いだろう。そうなると選択肢はそれしかないだろうな。」


「クスイさんに頼るしかなさそうです。そうなると金額はどうなるかですね。」


 俺たちが独自に売り捌くのではなく、委託という形になる。なのでそこから手数料などは引かれるのが当たり前だ。

 でも、そんな事よりも俺たちだけでは捌けないモノを片付ける事ができるのが一番大きいのだから別に幾らになろうとも構わないとカジウルは言う。


「クスイと俺らは知らない顔じゃないからな。そこまでぶっ飛んだ額を分捕られるような事は無いだろ。」


「って言うかさ。そもそも、しまってあるアレやコレは一体相場はいくら?」


「確実にどれもこれもかなりの高値が付くだろうな。それらの総額を五人で割るんだ。今までで見た事が無い位の数字に・・・」


「なるんでしょう。そうするとですよ。急に金周りが良くなったと言って疑ってくる輩が近寄ってこないとも限りませんね。」


 獲らぬ狸の皮算用。こうしてその様な事を話し合っていても意味は無い。

 そんな事を話している余裕は今はあるが、クスイに任せると言うその話も、そもそも向こうのマルマルの状況次第である。


「じゃあこのまま俺は一旦マルマルに戻ってもろもろ様子を見てくる。他に特別なにかあれば今言っておいてくれ。」


 コレに皆は特に何も無いようだったので俺はそのままワープゲートを作ってクスイの家の庭へと飛んだ。


 そこで待ち受けていたのは人がごった返すクスイの店。

 庭には誰も居なかったが、家では無く店の前の方がドヤドヤガヤガヤと騒々しい。

 ソレを何かと見に行けばそこには人だかり。長蛇の列ができていた。


「まさかここまで?凄すぎだろう?ドンダケ世の中待ち望んでたって言うんだよ・・・」


 それらの並ぶ人々はほとんどが冒険者。ゆっくりと、だがしかしその列は減っていく。

 改良された美味しく飲める魔力回復の薬。それらはどうやらお一人様二本までと言う厳しい数量限定での販売になっていた。

 ワンパーティで纏まって列に並んで数を確保しようとする冒険者が幾つも見受けられている。

 そうなれば魔力薬の方はどんどんと売れていき、あっと言う間に売り切れとなる。


「申し訳ございません!本日の販売はお終いとなります!どうぞまたの販売をお待ちくださいませ!」


 列を整理する店員が販売終了を告げる。するとあちこちから不満の声が上がる。


「もうちょっと数を揃えておいてくれりゃいいじゃねーかよ!」

「そうよ!こっちはずっと長い間並んでいたのに!」

「おい、そこの!お前のソレを売ってくれよ!」

「うるせえ!テメエにやるモノはねえよ!」

「また買えなかった!くっそ!予約だってもう一杯で打ち切られてるってのに!」

「こうもいつも突然に何の知らせも無く突発で売るのやめてくれよホント!」

「俺なんてやっと自分の番だと思ったのに!目の前で販売終了言われたんだぞ!泣くだろ!」


 怨嗟が、あるいは喧騒が、不満が、憤りが、悔しさが、怒りが、と、その他ありとあらゆる情が渦巻いている。

「買える者」と「買えざる者」の分かれ、その割れ目は非常に大きい。


「これまたヤベー売り方を・・・鬼かなクスイは?」


 どうやら予約販売もしているらしいのだが、それはもう絞め切り、打ち止めと言った事になっているようだ。

 それとは違ってこうしたゲリラ販売によって話題も作る。購買意欲も煽る。かなりエグイ売り方だ。

 これは買えなかった人たちの声をあまり溜めない様に処理するタイミングを読まないと、暴動も起こりかねない方法である。

 奪い取ると言った犯罪も浮き上がって来るだろう。そう言った事にならない様にする処置も考えないと駄目なヤツだ。


「でもそこら辺もクスイはちゃんと手を打ってるだろうけど。」


 何処までもあくどい商売をするような人物では無いクスイは。それを俺は知っている。

 で、その本人に会って話を聞きたいのだが、どうにも見当たらない。

 そんな中で俺はミルを見つけた。近寄って声を掛ける。どうやら売り子をしていたようだった。

 その魔力薬を売る際に専用の目立つ真っ赤な色の上着を着て店員だと言うのを分かりやすいようにしていた。


「ミルさん。クスイさんはどこですか?」


 俺は端的に、短く、そして他人行儀な感じでそう尋ねる。片付けの最中で忙しそうだったからだ。

 売り上げの金の勘定もしており、ちゃりちゃりと甲高い金属音がこだましている。


「あ!エンドウさん!すみませんが店の方で無くて家の方で待っていて貰っていいですか?こっちは少々忙しくて。お茶も出せずに申し訳ないです。」


 コレに俺は「構いません」とだけ言い、家の方のリビングへと向かった。

 その時に俺の後ろから「誰だあいつ?」と言った声が聞こえたが気にしないでおく。


 そうやってクスイを待つ間に貨幣を簡単に揃えて金勘定がしやすくなるコインカウンターを作っておく。一番単純な構造のヤツではあったが。

 ソレをもう一度店の方に戻ってミルに渡した。もちろん枚数を数えやすくするための目盛付きである。


「何ですかコレ?・・・え!?ええ!?使いやすい数えやすい勘定しやすいいいい!」


 俺が早速渡したソレの使い方を説明するとミルは見る間に貨幣を高速で捌いて行く。ソレはもう手の動きは高速で。

 そして枚数の計算間違いもどうやらせずに幾らの稼ぎになったかの帳票を書き始めた。


「凄いですね・・・こんな簡単なモノでここまで確実で素早くお勘定が終わらせられる道具なんて。革命ですよコレは!今まで誰もこんなものを思いつかなかったなんて!」


 もの凄い目をカッピらいて俺を見つめてくるミル。それは尊敬の眼差しだと言うのは察せられた。だがソレを俺は「落ち着いて」と諫める。


「コレって魔力薬の販売だったんだろ?クスイはどうしてこの場にいないんだ?」


 もう冒険者たちの姿は無い。雇っている店員はその他の仕事に回っているのでいつもの感じで俺はミルにそう聞いた。


「あ、それならテルモさんの方の店舗の方に行っています。」


 どうやらクスイは香草焼きの方も同時に始めたようだ。これに俺は忙し過ぎじゃね?と思わず「ブラック」と口から出そうになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ