予想以上に厄介?
「私たちなんかよりもよっぽどエンドウの方が異常よね・・・カジウル、もういっそのことエンドウに全部押し付けない?」
「何を言っているんですマーミ?エンドウ様にご迷惑を掛ける気ですか?こんなにもお世話になっている私たちが恩を仇で返すと?」
マーミの発言にミッツがもの凄く「コワイ」笑顔で迫る。
これにはマーミが「ひっ!」と慄いているので、どうやらミッツの滅多に見せない顔であるようだった。
「じょ!冗談よ!本気にしないでミッツ!分かったわ!謝るから!謝るから許して!」
必死になって謝罪をしようとしているマーミだったがミッツの表情は元に戻らない。
「そのような冗談を口に出さないでください。それと、謝るのなら私では無くエンドウ様にでしょう?」
コワイ笑顔はまだ続く。どうやらマーミが俺へと謝罪するまでこのままのようだ。
「ごめんなさい」その一言をマーミから受けた俺はポカンとするだけである。
どうしてここまで彼らが苦い顔をしているのかの理由が俺には知らない事情であるからだ。
「なあ?そんなに不味いのか?・・・過ぎる、って言うのが不味い?」
俺はそこに着目した。強すぎる事は時には目立つ。そうなれば望まない所からも目を付けられて面倒事を引き寄せる。
そうなれば「つむじ風」も確かに苦い顔をせざるを得ない。そこに直ぐに辿り着いて俺は納得した。
「あぁ、なるほど。冒険者の仕事以外で余計な横槍が入ってくる事を懸念してるのか。」
「そうだな。具体的に言うと、国から声が掛かる。ウチの騎士団に入れってな。そうやって自国の戦力増強を狙って俺たちに勧誘が来るだろうな。そうなれば、だ。」
その言葉の続きをラディが説明する。
「俺たちは配属をバラバラにされるだろう。四人で固まっていれば派閥を作りかねない。余計なしこりを作られるのはあちらも勘弁だろう。だからそれぞれ戦力を分散して違う部隊に配置ってな。戦力は欲しい、だけど要らない火種は消しにかかる。」
「戦力が高まればそれを基にして戦争を唱える馬鹿が湧くのよね。このマルマルの都市はシーカク国の所属だし、私たちは今このマルマルの冒険者ギルドに所属してるから国の役人が来るわね。ご苦労な事だわ。」
マーミはヤレヤレと言いたげに溜息と共に肩を落とす。
「私たちが勧誘を断ればこのマルマルでの活動を制限されますね。しかも戦力となる存在を他の国に渡らせないために監視を立てられてしまうでしょう。飼い殺しと言う事ですね。」
ミッツが恐ろしい事を口にする。続いてカジウルも追加で嫌な可能性を言葉にしてくる。
「もしかしたら人質なんてモノを用意して脅しに来るかもしれないってのもヤな感じだな。噂をちょと聞いた事が有るくらいだが、どうやら上の方に目的の為なら手段を選ばないって感じの御役人様が居るって話だしな。」
「私たちには通じないでしょうけどね。身近にそう言った存在は居ないし。でも自由を制限されて飼い殺しは流石にね。自由なはずの冒険者を上から押さえつけようとしたらギルドが反発するでしょ?そこまで考え無しじゃ無いと思いたいんだけどね。」
マーミはそう言って腕を組んでうーんと唸る。
「ここに居て悩んでいても問題は解決しないだろ?どうせなら虚偽をギルド長に造って貰って俺たちの事を隠蔽してもらえばいい。」
俺がソレを口に出したら四人に驚かれた。それこそお説教をされる。
「馬鹿かお前は!そんなことしてみろよ!バレたらマルマルのギルドは終わりだぞ!?信用の上に成り立ってる様な商売なんだぞ!」
「簡単に偽造だの隠蔽だのって言うけど!ソレをギルド長が呑み込むわけないでしょ!?どういう思考してんのよ?!」
「お前は本当に訳が分からない。こうして魔法の常識を覆す様な真似をしておいてその口でギルド長を巻き込んで隠蔽工作させればいいって?どういった神経してんだ・・・」
「いい案です!ギルド長の方もまだ今から向かえば書類の方も正式なものをまだ作成中でしょう!ならば適当に嘘が出ない程度に報告書をでっち上げてもらえば、作って貰えばいいんです。そうすれば私たちの事はそもそも表に出にくくなります!」
違った。ミッツだけは俺の案に賛成した。ミッツは見た目と職のイメージとは違い柔軟でそれでいて腹黒い。
「発見されてから今まで密かに冒険者をギルド長権限で動かして確実にゴブリンを減らしていたと言った感じの書類を作成してもらえばいいです。隠密作戦で混乱を避けるために、とか。オーガが率いていたのですから、その配下のゴブリンを一日一日と地道に駆除、そうしてオーガ単品まで削って討伐。コレで大分誤魔化せます!」
いいアイデアだと思えた。しかしギルド長は警戒のための人手をあの周囲に出していたといっていた。
ならばそれをどう「言い訳」に混ぜるのか?
「二重に冒険者を出していたとすればいいでしょう。その事を追及される場面になったらギルド長に「勘」としれっと言ってもらいましょう。」
ミッツ、予想以上に腹黒である。ギルド長の勝手な判断で冒険者へ依頼をもう一つ個人的に出して隠匿していた、などと言うのはできるものなのだろうか、そう易々と。
でも穏便に済ませるにはこの手はありだと思えなくも無い。他に良い手が浮かばないのであれば早速帰ってギルド長に直談判、もしくは秘密の談合を求めなくてはならない。
「この件が済んだら他のギルドに移籍すればいいんじゃねえのか?せっかくランクを一つ上げてもらうんだからよ。ここじゃない所でまた信頼を積み上げていくにしても、今回の分でランクが一つ上がってる状態なら別段そこまで難しくは無いだろ?」
カジウルは別の提案を出す。しかしこれをマーミが却下する。
「それも一つの手だけれど、私、ここから離れる気、無いわよ?せっかくやっとこ落ち着いて、安定して、将来設計も上手く行きそうだと思えるくらいに馴染んできたのに。この都市を離れるのは勘弁してほしいわ。」
これにはラディがうーんと悩む。
「もし、最悪な展開になったらソレも仕方がないが。今はまだソレは早計だろう。ギルドに先ず戻ってギルド長と話し合う所からまず始めるべきだ。それでダメなときは・・・」
「解散も視野に?・・・それは嫌です。せっかくこうしてここまで四人でやってきたのに・・・」
この四人はかなり以前からパーティーを組んでいたのだろう。上手く行っていたのにここで解散と行くのはどうにも呑み込めないと言うモノだ。ミッツは悲しそうな顔で俯いてしまった。
「俺が原因、なのかねぇ。どうにもそう言った事情を考え無しに動いていたからなぁ。でもここでこうして考えていても先に進まなさそうだし?ギルドに戻ろうか?」
「エンドウ様のせいではありません!コレはこの国の体制の問題です!」
ミッツはそう言って俺の言を否定してくれる。カジウルも。
「しゃーない。俺たちが先ずそもそも強くなりたいからと言ってエンドウに頼んだんだ。ギルドだって俺たちが国に召し上げられちまうのは防ぎたいだろうし。帰るかギルドに。」
「そうだな。ここでうじうじしてたって始まらない。戻ろうギルドに。んで、全部ギルド長にほっぽり投げてやろうぜ。」
ラディはそう言って歩き出す。その後ろをミッツが付いて行く。
「ちょっと!もう少し考えなさいよね。まったく・・・でも、確かにここでうだうだ言って時間だけ過ぎても問題は解決しないのよね。はぁ~もうやんなっちゃう。」
マーミも愚痴をこぼしながら二人の後ろに続く。カジウルも。
「遅くなると書類の処理が進んで後戻りできなくなるかもしれない。急ぐぞ、走ろう。」
四人は既に忘れているようだ。そこに俺は声を掛ける。
「ちょっと待って。戻るにしても忘れて無いか?ほらほら、こっちに集まってくれ。何でそんなに森の中に行っちゃうんだよ。ホントに忘れてるのか?それとも意図的に意識しない様にしてるのか?」
四人がこちらに振り向く。そしてミッツだけ「あっ」と言った感じで思い出したようだ。
残り三人も思い出してはいたようだが苦い顔になっている。
俺はソレに構わずにワープゲートを作り出す。
「前回と一緒、クスイの店の裏に繋がってるから。さあ、行った行った。早くしてくれ。前に言っただろ?コレ魔力結構使うんだからさ。」
四人が俺に近づいてきてそのままお通夜の様な様相でワープゲートをくぐる。
「さて、ギルドに戻ったら盗聴器対策と、それと、後は隠れて盗み聞きしてくる奴対策を・・・」
そう考えながら俺もワープゲートへと入った。
そうすれば当然クスイの店の裏に出る訳だが。二回目なのに現実と向き合えない三人。
「やっぱコレは反則だろう・・・」
「なんだかありがたいやら、おそろしいやら・・・」
「うん、何とも言えない気分にさせられる・・・」
「さあ、急ぎましょう。早く行ってこの問題の件をギルド長と相談しないと。」
ミッツだけは逞しい。というよりも、ワープゲート事なんかよりも今は自分たちのこれからが大事なのだからこれが普通であろうか?
俺たちは少し駆け足でギルドへと向かった。
こうして到着して早速受付嬢にギルド長を呼ぶように伝える。冷静に、落ち着いた声で緊急事態だと付け加えて。
暫くもしない間に直ぐ奥の廊下からギルド長が走ってくる。
「お、お前たち・・・まさかだとは思うが、もう帰って来たのか?いや、早すぎるだろう?何か忘れ物でもしたのか?言い忘れた事が?・・・何でお前たちはそんなに・・・落ち着いている?」
嘘だろう?と言いたげな目をこちらに向けてジッと観察してくるギルド長。
でもどうやら答えは出たようで。
「ここに居ても始まらんな。部屋に来てくれ。」
ギルド長は職員に「暫くは誰も入って来るな」と注意をして俺たちを部屋へと案内する。
入ったのはギルド長の執務室。華美な装飾は無く、正しくキッチリとした仕事部屋と言う感想だ。
ギルド長に促されて来客用のソファにカジウルは座ると話をしようとした。
だが、俺がここでソレを止める。
「カジウル、ちょっと待て。盗聴対策を取るから。・・・ん?ギルド長、ちょっと失礼してよろしいですか?」
俺は魔力探査をしてそれを見つけた。ソファの前に置かれた低いテーブル。その裏側。
「べただなぁ。きっと突然ギルド長が慌てて出てきたのを見て設置したんだろうなぁ。」
そこには見事に黒く四角い箱が取り付けられていた。カジウルがギルドで借りた部屋にあった物と一致する。
「コレ、どうやって機能止めるんですか?・・・壊してしまっても?」
ギルド長は驚きを隠せない顔で俺の手に乗っている箱を見つめる。
「この短時間でどうやって?・・・私を常に監視していた?はぁ~。やってくれるわね。」
「それと、そこの壁、薄く削られて本来の壁の厚さじゃ無くなっているみたいですよ?しかも、小さな穴があけられているみたい。それと、その壁の向こうに人がいる。ぴったりと壁に張りついてますね。」
この言葉にこの部屋に居る全員が驚く。しかしいち早く冷静になったギルド長。
「その箱は壊さないでくれると助かるわ。こちらで回収して利用するから。本来はソレは使用禁止にしてある魔道具なの。かなり厳しめに条件を付けて使用可能にしているんだけど、ね。頭が痛いわ。」
「なあ?エンドウ、壁の奴はこっちを見てるのかその穴から?しかも会話を盗み聞きしてこようとしていた?・・・気分がわりぃぜ。犯人とっ捕まえるか?」
「あ、もうこの部屋の会話は漏れないようにしたから大丈夫。とはいってもギルド長、もうちょっとこちらに、あ、その辺で。まあこれくらいの範囲だけなんだけどね。」
声とは空気の振動である。その振動を止めるためには空気が震えなければいい。そうすれば声は響いてしまう事は無い。俺は魔力でその震えを止めるイメージを持たせて展開しておいた。
音を吸収して響かせない特殊な部屋と言うモノを前にTV番組で見た事が有る。
どれだけ騒ごうともその音を吸収する特殊な「形」をした壁で振動が響かないのだ。
このテリトリーを展開して話し声が壁の向こうの存在に聞こえない様にしておく。
それとその穴を塞ぐために魔力をその壁に通して塞いでしまう事にする。
のぞき見されている場合、読唇術でこちらの会話を読み取られてしまう可能性を潰しておくためだ。
「じゃあ改めて。ギルド長、例の件を解決してきたんで、その事で相談しに来ました。で、もうその書類は正式な処理にかけてしまいましたか?まだなのなら待ってください。俺たちの話を聞いて欲しいんで。」
俺は先ず初めに「待ってくれ」とギルド長に申し出た。
「・・・何を言っているのかは分かったわ。で、書類はまだ作成途中よ。・・・問題が解決したって言ったわね?まさかと思いたいのだけれど。まさかよね?」
縋るようにギルド長はその言葉を口にする。でも現実は残酷だ。
「とりあえずゴブリンも、それを率いていたオーガも、倒した。そしてその巣穴も完全に塞いだ。オーガはどうやら進化している奴だったようだ。・・・証拠もある。」
カジウルの答えに絶句するしかないギルド長。
「・・・そんな事態を、この短時間の間に?あぁ、もう分かったわ。貴方たちの相談って国の件ね・・・。もうやんなっちゃうわ。何であなた達、そこまで急に強くなってるのよ?訳が分からないわ・・・」
「証拠は出さないでいいのか?とりあえず直ぐに確認できるけど?あ、でも、内緒にしていて欲しい技能だから見たら絶対に口外しない様に約束して欲しいんだけど?」
俺はインベントリからオーガを取り出そうと思ったのだが、ギルド長はソレを止めた。
「ちょっと!ヤバい話をしてる時にもっとヤバそうな案件をかぶせてこないで頂戴・・・。ああもう、何なのよ絶対に口外するなっていう程の技能って。貴方たちがこんなくだらない嘘を吐くなんて思ってないわ。出さないで結構よ。はぁ~。」
大きな溜息を吐いてギルド長は頭を抱える。「つむじ風」がこのギルドで長く活動している成果か、信用をされている様子だ。
「で、ギルド長。お察しの通り、国にこの件で俺たちは目を付けられたくないから、隠蔽工作を願いたい。金なら払う。ギルドも俺たちをここで国に持って行かれるのは損害だろ?」
「当たり前でしょう?急にそこまで強くなって、しかもこの件が大々的になれば大いに目立つわ。国がすぐに食いついてきてこちらに人を寄越すでしょうね。今ならそれも隠し通せるでしょう。こちらで書類は完全に誤魔化すわ。」
こうしてギルド長との話し合いでどんな書類を作るのかの話をし口裏を合わせる。
その途中で俺はちょっとした疑問を口にする。
「なあ?そもそも、ランクの高い冒険者はいくらかいるだろ?そう言った奴らはどうやって国に召し抱えられないで済んでるんだ?」
疑問だ。きっと俺たちよりもランクが上の冒険者パーティーというモノが存在しているはずだ。
「あー、その事ね。私たちはCよ。このギルドにはBまでしかいないわ。だってAになった途端に国がちょっかい掛けてくるんだもの。そう言うのを嫌って、他の所にさっさと行っちゃうのよね皆。」
マーミは説明してくれた。他の国では別にそう言った冒険者の徴兵はおこなっていないらしく、多くの冒険者はこのギルドでAに上がる寸前のBで他国へと渡ってしまうらしい。
そのころには実績も資金も溜まっているのでステップアップの意味も込めてもっと上を目指すために違うギルドへと移籍をしてしまうそうだ。
「で、このオーガの件は公になれば国が食いついてくる程の案件ってこった。この数のゴブリンとオーガをたったの五人で短時間で解決。なんてのはそもそもSランク並みの強さが無いとできん。なので、早急に隠しちまいたいんだよ。」
俺はこの時にやっとSランクの強さというモノの基準を知った。
「あーそうだったのか。何も考え無しに腕試しとかやらせてごめんな。俺の認識が甘すぎたな、こりゃ。」
「エンドウ様は気になさらず。私たちも納得の上でしたからあの時は。悪いのは誰でもありません。」
ミッツがそう言って俺の言葉を否定してくれる。
と、ここでギルド長が俺に向かって疑問を呈してくる。
「ねえ?貴方は一体何者なの?以前の時の買取もそうだった。あんなものを持ち込んだ冒険者は今までだって、何処のギルドだって聞いた事も無い。今回の件もそう。新しく最近この「つむじ風」に加入したのよね。そして四人は強くなった?ダンジョンクリアの時もそうだったけど。何をしたの貴方は?・・・あまり追求しない方が精神衛生上良さそうだわ。はぁ~。書類の件、バレたら私もそこでお終いよね・・・それでもやらないと駄目とか、もう一杯一杯よ・・・」
「副ギルド長の件はどうするつもりで?おそらくだけどギルド長もこの盗聴器仕掛けたの副ギルド長の仕業だと思ってるでしょ?」
俺は何者と言う質問に答える代わりに盗聴器の問題を指摘する。
「あいつは前から私の座っている椅子が欲しいらしくてね。何かと私を脅せるネタが欲しいみたいなのよ。今回のこの書類はうってつけね。でもそんな証拠なんか残す程マヌケじゃ無いから安心して。これがバレれば貴方たちも道連れよね。ふふふ、その時には貴方たちにこのマルマルから出ていくための護衛を頼むわ。さあ、書類を真っ先に上げちゃわないとね。今日はここら辺にしましょ。何かあれば私の方から呼ぶわ。」
そんな冗談に聞こえない事を口にするギルド長。こうして解散となり俺たちは部屋を後にした。
ギルドを出てそれぞれ家路に戻る。その際に。
「じゃあまた明日、ギルドに集合して今後の話をしようか。」
カジウルがそう皆に一言。それに誰も異存はないらしく皆頷く。
「んじゃ、また明日」そう言って俺はクスイの店の裏へと向かうのだった。
(すっかりあそこがワープゲート場所になっちゃったな。でも別にクスイからは何も言われていないし、いいか)
能天気にそんな考えをしながら目的地に到着する。
こうして森の家へとワープゲートを繋ぎ帰宅するのだった。
翌朝である。師匠はもう魔力薬をかなりの数作っていたようでもう充分だと言っている。
「最初の売り始めはこんなくらいでいいだろう。後はクスイの方でどのくらい事が進んでいるかだな。」
俺は部屋の冷蔵庫に集められた魔力薬をインベントリに全て回収した。魔力薬販売をするのに俺が運び屋をするのが一番だからだ。
魔力薬はどんどんとインベントリの中にしまうのだが、その際に木箱詰めて一纏めにしていた。箱一つにかなりの数を適当に収めているので本数の総量は知らない。数えるのが面倒になるくらいの数が出来上がっていたのだ。
そんな箱を十、二十とインベントリに入れていく。大分大きな箱なのではあるのだが、身体強化を常時かけ続けているような俺には軽いのである。
「師匠、どんだけ魔力薬作ったんですか?張り切り過ぎなんじゃないですか?まあいいんですけどね。クスイに進捗状況を聞かなきゃいけないなぁ。」
「私はもうそろそろ上がった魔力量の検証がして見たいんだがな。マルマルではまだ私が動くには如何ともし難いか。」
師匠はどうやら大分魔力が自分の中に溜まっている事を自覚しているようだ。
きっと師匠は魔力量が上がる前の自分の最初の魔力量を把握していたのだ。それを基準にして今はその何倍なのかが大体わかっている様子。
「うーん?じゃあ師匠の以前言っていた街に向かってそっちでやってみます?俺も着いて行きますけど。」
俺が一度行った場所はワープゲートで行き来可能になるからこそだ。
当然師匠の心配やら付き添いだけのために着いて行くわけでは無い。
この世界の広さを知るためにもこういった外に出かける機会は積極的にしていきたい。
狭く適当に生きるのもいいかもしれないが、せっかく今俺は魔力を持っているのだからそれを使って様々な事をして見るのも一興である。
冒険者の活動は「つむじ風」の事もあるので今回は師匠の方を優先しようと考えて、この後に集まる四人にこの話をしようと思った。
で、こうしてギルドに来てみると、まだラディとミッツしか来ていない。
「あれ?他の二人は?寝坊?でもまあ、時間の指定はしていないし、どうしようかな。」
「カジウルは別に寝坊じゃない。昨日鍛冶屋に寄ってからギルドに行くと言っていたからな。剣の点検をしてもらってから来るとよ。」
どうやら昨日のゴブリンとオーガをやった時に剣に異常が起きていないかの確認をしてもらうそうだ。
「カジウルって結構神経質?まめ?でも、それ位じゃないと冒険者って奴は務まらないのかね。」
「そうですね。私も昨日のうちに先に鍛冶屋に行って武器の点検をしてもらっていますから。」
ミッツは俺の言葉を認める。自分の命を預ける武器がいざ整備不良で使い物にならない、などとなったら命が幾つ有っても足りないと言える。
「じゃあマーミも武器の件で?」
簡潔に俺はもう一人の事を問う。
「マーミはちょっとした買い物を済ませてすぐに戻ってくると言って出ていきました。昨日帰りに買い忘れた雑貨があるとか無いとか。」
こうして俺たち三人は椅子に座って休憩スペースのテーブルにてお茶を飲んでのんびりと待った。
暫くするとカジウルとマーミがギルドに戻って来た。
「おう、待たせちまったか?武器の方は見て貰って直ぐに大丈夫だってお墨付きをもらったんだがな。そこで掘り出し物を見つけてよ。これだ。」
カジウルはそう言ってその店で買ったであろう装飾の美しい鞘に入った剣を見せてくる。
どうやら金が入って贅沢をしてしまったようだ。装飾の入った鞘などは別に冒険には必要無い。
けれどもこうして心の余裕、お金の余裕を確かめると言うのは精神衛生上は良いのだろう。
「カジウル、馬鹿な所に散財するのは止めろって言ってあるでしょうが?返してきなさいよ。」
マーミが辛辣にモノを言う。でも俺はカジウルのフォローを入れる。
「良いんじゃないか?カッコ良くて。鞘一つで気分が上げられるんなら安い安い。あ、でもその鞘の値段は安くない?」
俺はカジウルをからかう積もりも入れて疑問を口にする。
「これ、そこの鍛冶屋のおやっさんが趣味で作ったもんなんだとさ。売りに出すつもりは無かったらしいんだけどよ。たまたま俺がソレを見つけちまって気に入ったモンだから、これも縁だと言って安く売ってくれたんだ。こういうのが欲しかったんだよ。」
カジウルはいくらだったのかは口にしない。テンション上がって一人で盛り上がって値段の事を忘れているようだ。
コレに呆れたようにラディが仕切り直しと言った感じで話し始める。
「おう、もうその辺にしとけ。俺たちの今後の話し合いだろうが今は。で、誰か何か意見はあるか?」
コレにミッツは一番初めに懸念を口にする。
「ダンジョン、そしてオーガの件と連続でしたからね。今はしばらく落ち着いて様子見するのが良いかと。」
コレは要するにまた何かここで冒険者の依頼やらを受けて動くと目立つと言いたいのだろう。
そして冒険者とやらはそもそも短期間でいくつもの依頼をこなすなどと言った事はしないようだ。
一つの依頼を熟したら、しばらくは休息。それが冒険者のライフスタイル。
でも、安くて簡単な依頼をいくつも幾つも受け続けて仕事をし続ける者もいるそうだ。
でも「つむじ風」は休息を挟むスタイルを採用しているらしい。
「俺は何かと簡単な依頼を受けておきたいんだけどな。ある程度は動いていないと鈍っちまう。薬草集めでもいい。」
ラディはどうやら休息と言えどもある程度は動いておきたい派らしい。
そしてカジウルは。
「ラディはいつも通り真面目だなぁ。俺は朝っぱらから酒飲んでぐうたらして英気を養いたいほうだがな。」
「それでいつも仕事始めは動きが鈍くて死にそうな目に何度も合ってるわよね?学習しなさいよあんたは。全く。私はそうね、このマルマルから少し離れて遠征をするのが良いと思うけど。所属はこのままマルマルで、他の地域のギルドに稼ぎの良さそうな依頼を探しに行くのもアリだと思ってる。」
マーミはあくまでもこのマルマルを拠点として他の地域のギルドへの出張もアリだと主張する。
この発言に乗っかって俺は一つの提案をして見た。
「マーミの意見に一票。で、行きたい所がある。ここから北に国があるって話を聞いているんだけど、そこに行ってみないか?」
この俺の行って見たい発現に皆が「なんで北?」と言った視線を向けてくるのだった。




