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やってやれない事は無いけど、やろうと思えないとやる事は無い

「私も今のカジウルみたいな不細工な表情をしなきゃいけないと思うと心底嫌なのよ・・・」


「誰が不細工じゃ!誰が!お前も体験して見りゃ分かるわ!声を上げずにはいられねえよあんなのはよ!」


 どうやらこの方法は本当に効果が高い。既にカジウルが自分の剣へと魔力を纏わせていた。

 カジウルはどうやら魔力の扱いが上手いらしい。ラディが少し苦戦しているので、それと比べると感覚をつかむのが上手いのかもしれない。


「エンドウ、ちょっとこっち来て、ハイそこで止まって。それじゃ頼むわね。」


 マーミは三人に顔を見られない様な位置に俺を誘導してそこでやってくれと背中をこちらに向ける。


「じゃあ始める。説明は聞いてただろうから省くぞ。」


 俺はマーミの背中に手を当てて魔力を流し始める。


「ひゃおう!ひゃひ!ひゃひゃひゃひゃあーーーー!ちょっと!ちょっと!ちょっと!やめてとめてやめてとめてやめてぇェェえぇェ!?」


 こうしてマーミも無事に魔力操作と身体能力向上を会得したはいいのだが、そこからがちょっと難題だった。


「そもそも、あんな爆発、私に作り出せるとは思えないんだけど。」


 そう、矢への爆発を付加するのが難航しているのだ。

 そもそもマーミが自分にはちょっと無理がある、と言ってきている時点でそこから躓いている。

 魔法はイメージ、そこで術を付与する本人が「無理」と言って消極的であると、どうしてもそこから魔力を変化させる流れまで持って行けない。

 何故なら頭の中のイメージを「無理」と決めつけて想像力を萎縮させてしまうからだ。

 マーミは一度、俺が付与した爆破矢を放ってその結果を目にしている。サイクロプスで。

 それを自分の魔力で再現するだけなのだが、いかんせん、はっきりと自らの目で見たビジョンがあるのにも関わらず、それを「再現できない」とマーミの中で決めつけてしまっているのだ。

「出来る」「出来ない」のくだらない応酬はするだけ無駄なので、どうしたらマーミにこれを覚えてもらえるかと考える。


 しかし、そもそも彼女はじっくりと時間をかけて強くなることに意義を感じている。

 性急すぎる己自身の強化はどこかに弊害が出ると主張していたのだ。

 ならばここは俺が引き下がるしかない。マーミのこの考えを無理矢理に抑えてでも習得させようと思えなかったからだ。

 彼女には彼女なりの強さへの追及、と言ったものがあるのだろう。

 ならばここは魔力操作、身体能力向上を覚えてくれただけで良しとするのが上策だ。


「よし、マーミのこの件は後の課題にしよう。今は無理をしないでいいか。んじゃ、一つ、習得した事がどれくらい身についているか、いっちょ駆けっこをして確かめよう。」


 俺の言い出した事に四人とも「・・・は?」と同じタイミングでこちらを見てくるのだった。


 円形の広場を走って周回するのだ。円周は結構長い。それを通常の状態と、身体能力向上を魔力でしている状態とでどれくらい違いが出るのか。その点を検証する。

 先ずはラディに全力を出して走って貰う。通常の状態でだ。

 何故彼にソレを先ずさせるのかというと、一番足が速いのがラディだからだ。

 スタミナの関係もあるだろうからそれも加味してここを五週してもらう。それを基準にしようというのだ。

 ストップウォッチの代わりは俺の脳内スーパーコンピューターに処理してもらう。


「じゃあ、用意は良いか?・・・始め!」


 俺が開始の掛け声をかけた瞬間にラディはスタートダッシュを決める。

 その走りはどんどんと速度を上げてトップスピードまでの時間は早かった。

 そしてなるべく速度を落とさず、しかし、体力が安定して走れるくらいのペースを掴み、ラディはあっという間に五週を終わらせる。


「何だコレ・・・やべえな!?大体200mくらい?だから・・・それを、え?マジか。19秒35?・・・早すぎだろコレ・・・」


 どうやらこの世界で鍛えている冒険者とやらは地球の陸上選手を遥かに超える肉体を持つにいたるらしい。

 ここは円形である。走るラインはカーブしかない。直線は無く、そもそも速度を落とさずに走れば相当な負担が身体に掛かってここまでの速度を出せなくなりそうである。

 しかし、ラディはソレを叩きだしている。そもそも走り終わった後のラディの表情と言えば、涼しい顔である。


「じゃあミッツ、同じく五週走って見てくれ。身体能力向上をしながら。」


「が、頑張ります!」


 コレから走るのがミッツなのは、これでラディの記録にどれだけ迫れるかザックリと測ってみて身体能力向上がどれだけ凄いのかを理解するためである。

 数字でキッチリと出さなくとも、本人の感覚を大事にしていく方針である。

 コレは速さが普段の何倍だとか、力がいつもよりも何倍出るとか、そう言った数字は本人の身体能力向上にどれだけ魔力量を掛けたかによるからだ。

 もうコレは既に俺自身が検証済みである。普段から自分へと掛けている魔法への魔力の量を意図的に減らして実験してみてあるのだ。

 これから先四人の魔力量が上がり、身体能力向上に掛ける魔力量を上げる事ができるようになれば、今回の検証で出る数字などは参考にならなくなる。

 なので今日やるこの検証は本人の感覚の調整の基準を作るくらいの軽いものでいいのである。


 こうしてよーいドンで走り始めたミッツの記録はラディに迫る勢いだった。正直に言ってドン引きである。

 初っ端からミッツは魔力をかなり込めて走ったらしく、20秒55という結果を出している。

 ちなみに普通に走らせたらもの凄く遅すぎて途中で測るのを中止したくらいである。参考にできない位だった。

 それもそのはず。途中で歩き始めてしまったのだ。ミッツはそもそも体力がかなり無い方らしい。途中でその足も止まる程。

 そんなひ弱であるにもかかわらず、魔力をかなり込めた身体能力向上はミッツを完走させるばかりでなく、陸上選手女子の記録を軽く塗り替える速度で走ったのだ。


 自分自身に今もかけ続けている魔法なのではあるが、この効果に自分の事ながらかなりドン引きしてしまったのは誰にも内緒である。


 そんな検証の次は武器への魔力付与である。武器へと魔力が延長して流せるようになれば、その武器の纏う魔力にまでイメージを拡大して作用させれば武器の強化へとつながる。


 コレは既に四人は熟す事ができていた。マーミも矢の貫通力、矢の飛ぶ軌道などの面で強化は成功していた。

 普段から使っている武器の延長的な効果なのですんなりと呑み込めたようだ。しかし爆破はまだ拒否している。

 ラディのナイフも魔力での刃の延長をできるようになり、サイクロプスに止めを刺した時くらいの長さを発揮できるようになった。

 カジウルはと言えば、切れ味を上げる事がまだできないでいる。それは何故かと言えば、上手くイメージができていないからだ。

 刃の部分はそもそも目では見えない細かいギザギザであり、それが食い込んで引き裂く、と言った刃物の原理をイマイチ理解できていないのだ。

 だが、刃の延長はできるようで、しばらくはソレを使って攻撃範囲を伸ばす的な使い方をする事になった。


 で、新たな問題がここで浮上する。長時間ソレを維持できないのだ。

 魔力量がそもそもまだそこまで多くなく、どうやら魔力操作も精緻なコントロールまで極めていない。

 仕方が無い事だ。いきなり「今までにない事」をしているのだからそれがここまで旨くいっている事が奇跡な程である。

 いや、ご都合主義である。


「ここぞと言った場面で使うのが、今の所は精一杯って感じだな。」


「もしくは一番最初の奇襲だな。必殺、使い所はこれだろう。」


 カジウルとラディはそう自分たちの力不足の使い所を話し合う。


「そうなったら私の弓の出番なんて無くなるんじゃないかしら?だって・・・あんたらの踏み込み、アレ、私の放つ矢のそれより早くなかった?」


「マーミ、その心配は杞憂ですよ。だって踏み込みと言ってもそこまでの距離では無かったでしょう?矢の距離をそこまでの速さで駆けて一撃なんてできるはずがありません。・・・ありませんよね?」


 ミッツがどうやら自分の発言に不安になったようで俺へと視線を向けて同意を求めてくる。

 だが、俺はこれにどうにも頷く事ができずに頭を悩ました。


「できるか、でいないか、で言えば・・・それに近い事ができなくも無い?かな?いや、試した事が無いんだけど。ラディ辺りにやって見てもらうか?」


 またしても四人から白い目で見られた。解せぬ。

 そんなこんなで今日の特訓はここまでとなった。というか、もうそもそも基礎は既にマスターできてしまっているので、だからもう後は四人が普段からたゆまぬ鍛錬をしていくだけでいい。

 それを説明してこの場を元に戻す。そうこの円形に広げたこの場所を最初の元の形に。


 周囲からじわじわと迫り戻ってくる木の圧迫感に早々マーミが悲鳴を上げる。


「気持ち悪!」と言って自分の身体を抱くようにして縮こまる。

 ミッツもこれには「ひえっ!」と言ってブルリと固まった。

 カジウルもラディも流石にこんな見た事も経験した事も無い感覚に戸惑って辟易した様子に。


 それが終わるとまだ戻るには早い時間なので俺は提案した。

 そう、考えていた予定の時間より、もの凄く早くここまで四人がマスターしてしまったのでもう一歩踏み込んだのだ。


「なあ?この先にゴブリンの巣があるみたいなんだ。今からそこに出向いて肩慣らしをしていかないか?」


 俺が肩慣らし、では無く、当然魔力の扱いが劇的アップした四人のである。

 本番の戦闘となれば今までの慣れた感覚では無く、戦力が大幅に上がった状態で戦う事になるのだ。

 実践でその感覚に早い所慣れておくに限る。

 だが、これには反対意見が上がった。しかも四人とも反対である。


「おい、エンドウ?この先にって言ったか?・・・ギルドでまだ把握すらしてない巣だろソレ。」


「そうなると先ずはギルドに報告ね。それから駆除依頼が出て、私たちが優先的にソレを受けられる。」


「報酬も出るし、討ち取ったゴブリンの数が多ければ追加報酬もそれなりに出るだろうしな。」


「今から私たちが行って狩ったとしても、ゴブリンの討伐数だけしか報酬は出ないですしね。しっかりと順序も踏まないと。」


 ちゃっかりしている。でも、冒険者とはそう言ったモノなのかもしれない。

 それと不用意にゴブリンの巣をつついて、それが予想外な被害に拡大するような確率も考慮に入れなければいけないと、危険意識を持つ事も説明された。


「なら一通り偵察してから帰って報告した方が早いか?ん?偵察報告は金になる?」


「なるわよ。って言うか、エンドウならここからでも、あのダンジョンみたいに正確な事が分かるんでしょ?なら別に偵察なんてしなくてもいいじゃない。探知魔法?でちゃっちゃとやっちゃってよ。」


 マーミにそう突っ込まれて俺は素直に今の場所からそのゴブリンの巣の方向に魔力を向けて放出した。

 もちろん薄くである。一気にまた魔力を駄々洩れさせると何が起こるのか分かったモノでは無いのだ。

 極力森の生物に影響が出ない様にと本当に金箔の薄さ位を想像して魔力を放った。


「ゴブリンの数は・・・二十体?かな。でもそれとは別に・・・ああ、こいつ、デカいぞ?一体だけなんだ?ゴブリンじゃ無い反応なんだが、相当デカイ体躯の魔物が居る。人型だ。」


「そいつはオーガかもな。もしくはゴブリンの変異体かもしれんが。・・・ジェネラルやキングじゃないとすればそれ位か?」


 カジウルがどうやら俺のその説明だけで当りを付ける。

 そしてソレをそのままギルドに報告する旨となった。


 こうして俺たちは森から出てマルマルの都市に戻って来た。

 そのままギルドに直行して受付にその発見報告をする。調べた情報をそのまま話すと、受付嬢はソレを簡単な報告用紙に書き取り、それをギルド長へと直接出しに行ったのかそのまま奥へと行ってしまった。


「なあ?もしかして、緊急な案件なのかコレ?」


 俺が疑問を口にするとマーミが説明をしてくれる。


「はぁ~。危機感、麻痺してるわね。そうよ。あの森の中ではそこまで慌ててなかったけど。普通の冒険者ならそんなモノ見つけたら大慌てでギルドに駆け込む案件よ。受付の顔見てた?私たちが落ち着いて、それこそ「いつもと変わらない」って感じで報告するから困惑してたでしょ。」


 そう言う事かと俺が納得しているとギルド長、ミライが直接俺たちの所に来た。


「貴方たちが見つけたと言うのは本当なの?そもそも、今日ダンジョンの件の話が終わったばかりでしょう?・・・本当みたいね。すまないけれど、こっちの部屋に来てくれる?直接話を。」


 ギルド長自らがここまで慌てて出てくるくらいには緊急事態であるようだ。

 俺たちを普通に呼び出しするだけでいだろう立場なのにもかかわらず、思わず出てきてしまったと言った感じだ。

 こうしてまたしても俺たちはギルド長と顔を突き合わせて話をする事になった。


「ここ最近、貴方たちが見つけた巣の近辺にゴブリンの目撃情報があるの。報告してくれた二十を超える数を見た、とね。その時の発見者はすぐに引き返して、その後に偵察隊を出しても同じ目撃情報が無いの。そのゴブリンたちはその巣に定住し始めたのかもしれない。そうすれば時間が経てばたつほど、数が倍に増えるわ。最初の目撃から一週間は経過している。最悪の場合、目撃したのはほんの一部で、もっと多く、それこそ百、である可能性も否定できない。大袈裟と言えない数なのよコレは。」


 どうやら予兆はあったようだ。しかしその後が運が悪い。発見ができなかったと言うのは駆除の初動も遅れると言う事だ。

 そうするとゴブリンの数がその経過時間に比例して増加している可能性が高くなっていく、と。


「しかも一体、体躯の大きさがゴブリンを遥かに超える個体が居るって言うけれど。洞窟の内部、顔が陰

 に隠れて見えなかったと言う事だけど、確かなのよねそれは?・・・はぁ~。溜息しか出ないわ。Aランクのパーティーが二つ必要ね。確実性を高めるなら。補助のパーティーも一つ欲しい所よ。」


 俺はさも自分の目で見てきたような報告をしている。もちろん嘘だ。探知魔法で探った情報をさもこの目で見たと言った感じでアレンジして報告したに過ぎない。


 で、どうやら深刻にモノを考えての布陣でゴブリン退治を計画のようだ。

 最悪を考えれば考える程に確実性を上げる布陣で無ければ後が怖い。それは分かる。

 だけど、俺は自信満々に口に出す。


「それなら俺たちだけで片付けるんで、他のパーティーを出すの待って貰えます?こっちは肩慣らしのための獲物の数は充分に確保しときたいんですよ。」


 俺のこの言葉にギルド長はポカーンとし、俺以外の四人が手を額に当てて天井を見上げて「呆れた」と言ったジェスチャーを取る。


 そしてその硬直からいち早く抜け出したギルド長は、座っていたソファからおもむろに立ち上がってゆっくりと「つむじ風」に近寄った。

 そして「がしっ!」っとカジウルの両肩を思い切り掴み、怖い顔をしてまじまじと問い詰める。


「・・・ねぇ?カ・ジ・ウ・ル・君?どう言う事か、説明して欲しいなぁ~?・・・コレはギルド長権限での命令よ?」


 その表情はしっかりと笑顔ではあったのだが、目の奥が笑っていない。

 こんな目で睨まれたカジウルは身体を震わせてただ一言だけ「はい・・・」と呟くしかなかった。


 新たに強力な力を得た、そうとだけ説明をするに留める。

 これには納得いかない表情になるギルド長だが、それ以上は踏み込んでこなかった。


「その力って、ウチのギルドが高ランクパーティーに依頼を出さないで良いだけの相当強力な力と見ていいのね?本当ね?」


 このマルマルのギルドが何処までのランクの冒険者を確保しているのかは知らない。

 このギルド長の様子だとおそらく、先に話していたAランクのパーティーはこのギルドにはいないと見える。

 おそらく緊急要件に相当する案件なのだろう。その分の準備と資金が必要となるはず。期日もだ。

 そうすると俺たちが今日明日にでもこの件を「つむじ風」だけで片付けられるのなら大幅に準備金が安くて済む。もちろん出す報酬も。

 ギルド長はそれをすぐに計算に入れた様子である。


「貴方たちに指名依頼をするわ。「つむじ風」に強攻偵察を。貴方たちの力で出来得る限りの戦力を削ぐ役割をお願いするわ。こういった形じゃないと貴方たちを即座に動かせない。出来得る事なら、そうね、ゴブリンの巣を壊滅させてきて頂戴。コレは、ギルド長の私からの指名依頼よ。私の方で緊急案件として書類は処理しておくわ。・・・はぁ~、仕事が増えるわね。」


 頭痛でもし始めるのか、ギルド長は手を額に当てて苦い顔をする。

 でも、そこに一歩踏み込むマーミ。


「ねぇ、もし、私たちがその巣を潰した時の報酬の件なんだけど。お金は要らないから、私たちのランクを一つ上げてもらえる?もちろんお金ももらえるなら欲しいんだけれど。」


「・・・分かったわ。今日の今日でそんな書類の処理はできないから明日明後日になるけれど。で、どうするの?準備しないといけないでしょ?期日はどれくらいかかりそうなの?」


 どうやらダンジョンの件と今回の件が同日進行では処理できないと言っているらしい。

 で、巣の討伐も時間がかかるだろうと見てギルド長はソレがどれ位の目処になるか聞いてきた。


「ん?今日中にも終わらせられるけど?まだ日は高いし行って帰って来るのに時間も夜まで掛からないんじゃないか?」


 俺は馬鹿正直にそう答えてしまう。これにまたギルド長は「は?」と言った表情になり、それがまた元に戻るとカジウルの側まで行ってまた彼の肩をガシリ!と全力で掴む。まるで「逃がさん!」と言いたげに。


「彼は、な・に・を・言っているのかしら?どう言う事か説明をしてくれるわよね?ここのリーダーは貴方でしょう?貴方の口から答えを聞きたいのだけれど?」


 睨む笑顔とはこの事であろう。苦い笑いしか返せない現状のカジウルは、これには黙って口元を痙攣させて引くつかせる事しかできない。

 そして必死にこれに振り絞って出した答えが。


「で、できるかな?ははは?え、エンドウの言っている事はじ、事実・・・かな?」


 カジウルも自分の身体能力向上の力を感じたうえで俺の言葉を肯定する。

 ギルド長はこの答えにゆっくりとカジウルの肩から手を放し、ソファにドサリと座る。


「それは要するに、彼の力がそれだけ強力って事ね・・・で、貴方たちも、何か他に隠してるわね・・・」


 行って帰って来れる。コレは身体能力向上もあるが、俺のワープゲートも使ってである。

 修行と称してゴブリンの巣までは走って、そして戻ってくる時は俺のワープゲートで。

 こうすればかなり早い時間で片を付ける事が可能だろう。後はどれくらいの数にゴブリンが膨れ上がっているかだ。


 ギルド長には隠し事をしたい訳ではないが、でも今はまだこの「つむじ風」の実力は話さないでおく。

 どうやらゴブリンの事は全て俺が片付けるモノだと思っているようだ。

 ダンジョンの話もしてあることだし、そう言った勘違いもあるだろう。

 だけれどもマーミが要求したランクアップはどういった風に解釈しているのだろうか?

 そんな疑問が顔に出ていたのか部屋を出た時に答えを教えてくれる。


 あの後はギルド長は別にそれ以上は何も追及してこずに書類の整理があると言ってそこで話が終わったのだ。

 そしてすぐにでも今から準備、出発をしてもらいたいと願われた。


「ギルド長からの指名依頼でしょ?それって結構な事なのよ。しかも普通の偵察とは違う。だから、そんな事をさせるのであればランク上げてねって事。これがただのゴブリンの巣だったら何も言わなかったけどね。」


 どうやらオーガであるらしい存在がその場に居るとなると難易度が大幅に変わるそうだ。

 ゴブリンは群れを支配する強力な魔物が居ると一筋縄では無くなるらしい。

 統率と言って良いのか分からないが、そうなると組織立って動く形を拙いながらもし始めるそうだ。

 これが一々面倒らしい。そうなるとまた一段と殲滅が難しさを増す。

 例えゴブリンでも「数」の暴力というのがある。しかも報告されている目撃証言だと、俺の感知した20という数よりも多く居ると証言がある。

 俺の魔法で索敵したあの時は範囲から微妙に外れている場所まで他のゴブリンが離れて狩りをしに行っていたのかもしれない。もしくは俺が意識して無かっただけでどこかに隠れて別動隊などと言った形を取った可能性も否定できない。

 何せ組織立った行動をすると言っている。高度な戦術を使ってくる変異体などと言ったゴブリンが現れる可能性は否定できないと言うモノだ。

 ソレにそうなると俺たちがゴブリンの所に突撃した後にその周囲を包囲するように隠れていた後続が、何て事も考えられるのではないだろうか?


 その話をしたらカジウルに「最悪な事を考え過ぎなんだよ・・・」と青い顔をされた。

 どうやらダンジョンでゴブリンの変異体と見られるモノを倒したおかげで俺のこの発言は「冗談」として笑い飛ばせない真実味を帯びていたようだ。


 そやって話している内に門まで辿り着く。ここからはダッシュである。

 身体能力向上をかけ続けつつ、速度を一定に保ち、かつ魔力量が一番低い者を確認する作業だ。

 魔力が一番少ない者から速度が落ちる。もしかしたら魔力操作が上手く行かずにただ多く魔力を消費してしまっている可能性も出るが、そこはソレ。

 早めにそう言った問題や課題が出れば鍛錬の方向性が見えると言うモノだ。


「じゃあ行きますか。出発進行!」


 そう言って俺は元気いっぱいに言ってみる。だってカジウルは何か微妙な顔だし、マーミは嫌な顔をしっぱなし。

 ラディは苦笑いを続け、ミッツだけがヤル気を見せていたから。

 どうやら走りっパでそのゴブリンの巣まで行く事を拒否したいらしい。

 でも俺がコレも鍛錬だよ?と言って見たら渋々と言った感じで従う態度を示したのである。

 いや、一人だけやる気十分なミッツは最初から「早くエンドウ様のように!」と目標を俺にしている。


 こうして俺が加入したパーティー「つむじ風」は門兵から見えなくなった位置から身体能力向上を掛けて巣まで一本ダッシュとなった。


(そう言えば俺、ギルド長がこのパーティー名を口にしなかったら、そのまま今もずっと知らんままだったな)


 別段そう言った所の事は気にも留めていなかったので、今このパーティー名を知った事は結構良かった。

 何せ後々でパーティーへの指名依頼などを俺一人で見た場合「ん?んん?」となっていたからだ。

 流石にパーティーに加入して今の今までその名を知らなかったのは痛い。

 しかしこの四人が自分たちのパーティー名を俺に教えてくれなかったのもどうなのか?

 そして評判も良く、実力も高いと言った評価を受けている模様。

 そう言うのは早く教えて欲しいな、といった所だ。そう言うのも俺自身がそもそも気にしていなかったと言うのが一番の原因だが。


 こうして走り続けてどれくらいであろうか。目的のゴブリンの巣まで目前と言った所でまずマーミが魔力枯渇になりかけていたようで止まる。


「ちょっと休憩させて。私がこの中で一番魔力量が少ないみたいね。ちょっとシンドクなってきたわ。」


 どうやらマーミが最後に魔力操作を覚えた関係上、ホンの僅かな時間の差であってもこれだけの違いが出てしまった様子だ。

 おそらく魔力の量では無く、身体能力向上に掛ける分量を最小にできていなかったとみられる。

 だって長時間の連続行使が彼らにはできない。そしてそうなると何故門からここまでの距離を走ってこれたのかと言えば、それは長時間使えないなら短時間を繰り返せばいいじゃない、という暴論だ。


 かなりの距離をあり得ない速度でダッシュ。しかも少量の魔力を爆発的に使って。

 俺は魔力の密度を高めると言った操作も教えていた。教えると言っても漠然としたイメージを何とか言葉にしただけであるんだが。

 少量の魔力を小さく小さく圧縮、それを解放する時の「威力」を身体能力向上へと応用するのだが、それを言葉にするのが難しかった。

 魔法はイメージ、それを言葉にする事は難しい。圧縮の件は空気に例えた。

 小学校でやるあの教材である。そう、空気鉄砲だ。空気へ圧力を掛けると圧縮される。その圧縮された力が出口を作ってやるとそこから勢いよく飛び出る。

 一番簡単で単純な拙い説明をしたのだが、これだけで四人は魔力圧縮を習得してしまったのだから「つむじ風」は将来俺がいなかったとしても大成していただろうと思えた。


 こうしてマーミの休憩を入れて魔力の回復を待つのは構わないのだが、あえて俺はここで宣伝を一つする気になった。


「これを飲んで感想聞かせてくれないか?余り物で悪いんだけどな。」


 魔力ポーションだ。もしかしたらの万が一に備えて師匠が製作していたモノをいくつか貰っていた。

 最初に試作品として作っていた分も幾つかインベントリに入れてあったのでソレをここで四人に渡して飲んでみて感想を聞かせてもらいたくなった。

 ここら辺をクスイにばかり任せているのだが、俺も多少は開発した張本人としては生の感想が聞きた買ったのである。

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