聖女さまは乗り掛かった舟を沈める
暑い日が続きますね。
「ご主人様!勇者……じゃなかった。冒険者の方をお連れしました!ビッグホーンと、あの男たちを排除すれば、お嬢様は、あんな奴らに……!」
多少しっかりとした造りの家に入るなり、男は二階の部屋へと飛び込んでいった。
連れてきた私達のことは放置である。
「しっ!そんな大声を出してはいけません!急にいなくなったと思えば何事ですか。」
「冒険者様を連れてきたんです!これでお嬢様は助かります!」
「……あのねぇ。その気持ちは嬉しいけどね、私たちが我が身可愛さに余計な事をして、60頭ものビッグホーンをこの村で暴れさせられたらどうなると思う?どれだけの犠牲が出ると思うんだ。今まで、血の涙を流しながら、身内を差し出してきた人たちに申し訳が立たないだろう。」
「で、ですが……。」
ドアの陰で見えないが、ホブゴブリンの奴隷と、家主が何やら言い合いをしているようだ。
「ゴウ、良いのよ。私が生贄になれば、またしばらくは平和に暮らせるんですもの。」
「お嬢様!それでも、次の満月には再びあの男たちが!!この村は搾取されきって、最後には滅びます!だから……!」
うーん、どうやら、色々ややこしいらしい。
昼間の村のように、あまり適当な事をして事態悪化しても仕方ないからな。
とはいえ、私たちは玄関で放置である。この状況はちょっとよろしくない。
「あのー、すみませーん。」
「あ、すみません、今行きます。」
私が声をかけると、先ほどゴウと言い合っていた主人らしき男性が階段を下りてきた。
40前後のそこそこ整った容姿の男性で、なかなかのイケメンである。堂々とした風貌だが、目の下のクマを見ると、どことなく疲れてぐったりしているときの父様を思い出した。
相当、つらい思いをしているのだろう。
その横には、ハンナより少し上に見える少女が寄り添っていた。
「初めまして、私はこの屋敷の主で、シークスと申します。こちらは娘のナナです。この度はうちの使用人がご迷惑をおかけしまして。」
「いえいえ、丁度似たような話に巻き込まれた後だったので、ついでに来たようなものです。」
「似たような話?」
私たちは、先ほどの村であったことを、ざっと説明した。
冒険者を誘い込み、黒ローブの人たちに生贄を捧げていたこと、劣化竜を処理したら劣化悪魔が出てきたこと、すべてを倒して村を出てきたこと。
勿論ハンナが獣人の先祖返りということや、ゼルと私が魔族で、更に私は聖女だというのは伏せてある。
「な、なるほど。しかし、この程度の人数で劣化悪魔を倒せるなどと、にわかには信じがたいですが、確かにあのあたりで劣化竜を見たという村人もおりますし、きっとすべて事実なのでしょう。」
どうせそんな話をしたところで、信じてもらえないだろうと思ったが、何故かすんなりと受け入れてくれた。
「信じてもらえるとは思っていませんでしたけどね。」
「はっはっは。いやね、私、これでも昔は騎士団に所属していまして。ときには、人間を超えた力を持った冒険者や、魔族にも等しい力を持った勇者を何人も見てきました。特に70代の勇者殿のように劣化悪魔を剣の一振りで屠れる猛者もいた。何となくあなたたちから、それに近い匂いがする、というだけの事です。」
「ほう。」
男の言葉に、ゼルが面白そうに口元だけを持ち上げた。
アレクシスやジークハルトも、驚いたような顔をしながらも、頷いている。
「ババアと一緒にされるのはあれだが、確かに人間の強さを一括りにしないその柔軟な思考は気に入った。」
「……ん?んー?」
そんなアレクシスとジークハルトを交互に見ながら、しばらく考えていたが、ぽん、と手を打つ。
「どこかで見たことがあると思えば、アレクシス様とジークハルト様ではありませんか?」
「なっ!?」
基本的に、それほど顔が知れていないと思い連れてきた二人なのに、こんなあっさりと身バレする!?
「その様子だと、当たりのようですね。」
ふふふ、と、意地の悪い笑いをした後、シークスは言った。
「私、過去に騎士団にいたと言いましたでしょう?結婚する前はナルノバ王国の騎士団にいたんですよ。その伝手で、今でもたまにナルノバ王国の騎士団とは交流があるのです。」
「ええええ!?」
奇遇すぎて、何ともはや。
「王子様と団長のご子息が同行しているとなると、何かの視察ですか?それとも要人の護衛?王子自らとなると何らかの理由が?」
好奇心に満ちた顔で質問攻めにしてくる。
何と答えようか、こちらが考えあぐねていると、かわいい声の助け舟が出された。
「お父様、お客様が困っていらっしゃいます。こんなところで立ち話も失礼でしょう。相手が王族の方となればなおさらです!」
「あ、そうでしたね、失礼。客間へどうぞ。ゴウ、お客様方にお茶を。」
「はっ!」
そんなこんなで客間へと通された私たちは、結局再びシークスの質問攻めにあう羽目になった。
「まあ、ちょっと調べたいこともありまして、極秘任務といいますか……あまり詳しくは言えないのでご容赦ください。」
「そうですか。……残念です。」
ジークハルトの言葉に、心の底からがっかりした様子のシークス。
どうやら、歳の割に好奇心旺盛な性格のようで、私たちを観察するような眼でずっと見ていた。
「それでは猶更、我々の村のために時間を使わせるわけにはいきません。村長として、この村を守るのは私の仕事です。」
「そのために、自分の娘を差し出してでも?」
私が問いかけると、彼は重い沈黙ののち口を開く、が。
それを遮るようにドアの方から別の声が聞こえた。
「……いいえ、私が代わりに行きますから。」
「ヤエ!違う、私が行くから、大丈夫だ!」
少し顔色の悪そうな女性が、ゴウに支えられながらゆっくりと頭を下げる。
年齢的に、奥さんかな?
「王子様、この度は、ご迷惑をおかけいたしまして、けほっ……。」
「お母様、無理しないで。いいの、私がいくから、だから。」
「いいえ、私は病で、もう長くありません。ですから私が……。」
「奥方様!ああ、可能であればわたくしめが身代わりになりますのに!」
「ゴウ。気持ちだけで十分だ。お前には本当に世話になっている。」
うーん、美しい家族愛。
お互いがお互いを思いやっている。こんな姿を見てしまうと、弱いんだよなぁ。
「よーし。いっちょこのティーナ様がまるっと全部解決してあげましょう。」
ニヤリと笑った私を見て、ハンナたち嫌そうに顔を顰める。
「ティーナお姉ちゃんがやる気を出すとろくなことにならないの。」
「ええ、それはもう、長年の経験から、間違いないです。」
ゼルと頷きあって、とても失礼な事を言ってくれているが、放置で。
「まず、そこの奥さん。ここにいい薬があるんですが今なら金貨一枚でお買い得!飲みませんか?」
私は、魔法収納からおなじみの小瓶を一本取りだした。
白く透き通ったその液体は、光を反射してきらきらと光る。聖女特製の特級回復薬だ。
「上級回復薬か。ありがとう。しかし、多少楽にはなっても病気というのはそれで治ることはないんだよ。一応試したことはあるんだが、ダメだったんだ。」
「いいからいいから。お客さん、遠慮せずにグイっといってくださいな。」
「え、ええ、じゃあ、いただくわね。」
私に詰め寄られ、ヤエは小瓶を受け取ると、ぐいっと飲みほした。
同時に、ヤエの身体が淡い光に包まれ、キラキラと輝く。
「え?え??」
その光が収まるころには、すでにゴウの支えも必要なく、背筋をピンと伸ばして立つヤエの姿があった。
「お母様!?そんな!!」
急激に顔色がよくなったこともあり、シークスもナナも何が起きたのかわからずヤエへと駆け寄る。
「あなた!ずっと痛かった胸が、なんともないんです!それどころか、身体が軽くて、力が溢れるようで……!」
「……まさかそんな。今のは……特級回復薬……?」
4人は茫然とした後、大慌てで私に駆け寄った。
「ありがとうございます!!しかし、そのような大金を、すぐには用意できません!どうか、どうか待っていただけないでしょうか!!」
「何年かかっても必ず返します!このご恩は一生忘れません!」
「貴重なエリクサーをくださるなんて……。」
当然だが、四人ともパニックを起こしている。
どんな病気も怪我もたちどころに治すという秘薬。
「ほれみろぉぉ!本来はこれほど崇められる薬なんだぞ!!」
私は、超得意げにゼルたちを振り返った。
そこには、あきれ顔のアレクシス、ゼル、ハンナ、ジークハルト。
……あれ?
「助けるのはいいが、俺たちは責任持たないからな。」
「私の収納の8割が回復薬なんですよ。もう、有難みなんて有るわけ無いじゃないですか。」
「なんか、もう少し威厳とかが欲しいの。私たちが恥ずかしいの。」
「普通は、金貨500枚以上するものですし、そもそも市場に出回りませんからね。」
い、いやまあそうだけどね!
お願い、これ以上私の心を抉らないで!
「ううっ。」
私は、一度頭を抱えたのち、彼らに向かって言った。
「先ほども言ったように、金貨一枚でいいです。ただで、と言いたいところですけど。そこまですると逆に気を使わせてしまいそうなので。」
「ほ、本当にそれでいいのですか?」
「いいの。それでね、前回の失敗も踏まえて、さっさとその変な黒ローブを駆除したいから、協力してくれる?」
頭の処理が付いていっていないシークスに、私は捲し立てるように言った。
「え、ええ、何でも協力いたします。」
「じゃあ、まずこの村の住人の数を教えて?」
「えーっと……?200人ほどです。詳しい人数は名簿を見ない事には……。」
「じゃぁ、これね!」
「は?」
私がテーブルに置いた100本の特級回復薬を見て、彼は間抜けな声を出したかと思うとそのまま気絶した。
「・・・あれ?」
振り返ってみると、ゴウもヤエも立ったまま思考を放棄していた。
かろうじて価値の認識が薄いナナは意識を保っているが、ここに並んでいるものが何なのかは理解しているのだろう。無言で冷や汗を垂らしている。
「お嬢様、やりすぎです。」
「本当に、ティーナお姉ちゃんはやることが無茶苦茶なの。」
そんなわけで、作戦会議を始める前にしばらく休憩が必要になったのだった。
時間がないって言ってるのに、全く。
お盆で更新が遅れて申し訳ありません。次の更新は金曜日を予定しています。
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