聖女さまと変なおっさん
簡単に予想できる展開過ぎましたね。
翌日。
野宿とはいえ、特に不自由はない。
収納に余裕があるので、フカフカの寝袋やマットも持ってきてるし、テントも大きくて広い。
組み立てるのはゼルのお仕事。
面倒なので組み立てたまま仕舞おうかと思ったけど、出す時に目測を誤ったりするし、ロープを地面に打ちつけたりする形状から、流石に無理だった。
次からは、簡易の家でも持ってこようかな。
あ、それいいなー。
ご飯も、新鮮な野菜や仕留めたウサギなどを調理し、なかなかの味のご飯が食べられた。
「で、やっぱり帰りたいんですけど。」
何故か、昨日からやる気のなさに磨きのかかるゼル。もともとあまりやる気を出さないタイプだが、急にどうしたのやら。
「ハンナも、ものすごく嫌な予感しかしないから、帰りたいの。」
「えええ、ハンナちゃんまで!?昨日はあんなにやる気だったのに!?」
竜に対して、期待に胸を膨らませていたハンナもこのテンションの下がり方。
まぁ、昨日、何の成果もなく、変なおっさんに絡まれただけ。そのせいなのかな……。
全部あのおっさんが悪い!
あのおっさん、次あったら速攻で再起不能にしてやる。
「ドラゴンへの期待が過剰すぎたかなとは思うの。」
1日経って、冷静になってしまったか。
まぁ、予約販売とかで、過剰な期待をしすぎると、手に入った時にはテンション下がってることが多いって、エミールが言ってたな。
予約販売の剣とかコレクションする10歳。
お姉ちゃんは将来が心配です。
「さーて、商隊の馬車が来るのはもう少し後ね。先にご飯にしようか。」
「ハンナは、うさぎのパイ!なの。」
「ああ、昨日のね。」
パイ生地は母様特製のものを凍らせてストックしているので、昨日作ったシチューに乗せて魔法で焼くだけの簡単料理。
昨日、何となく思いついて作ったら、ハンナがとても気に入ってくれた。
「じゃあ、焼くからちょっと待っててね。」
シチューを器によそい、そこにパイ生地をのせ、上から魔法でこんがり焼けば出来上がり。
石で簡単なカマドを作り、火の玉を火力調節しながら保持するのが案外難しいけど。
カリカリのパイ生地を崩しながらシチューと混ぜて食べると美味しいんだよね。
「こんがりこんがりきつね色ー。火球」
「ホント、魔力操作の技術だけは神がかってますね。もう少し、有用な使い方が出来れば良いんですが。」
「いちいち棘があるわね!」
「何でそんなに魔力操作が上手いのに、回復薬は上級になってしまうの?調節できないの?」
「うぐ。何故かわからないけど、回復に関しては勝手に効果が上がってしまうというか、キラキラが出そうになるのを抑えるのに意識を割くせいかも。」
「無駄に漏れ出す聖女の魔力……。ホント、役に立つところを探す方が難しいですね。」
「いや、めっちゃ便利だからね!?ほんとは!」
どんどんと、自分が聖女である自信とか優越感みたいなのが削り取られていく気がする。
確かに、魔王城では、エリクサーを作ってみんなに配ったり、手の施しようがないと言われた病や怪我を治したりということをしていたので、持て囃されていたが、いざ旅に出てみると、そんなに頻繁に大怪我をする訳でもなく。
やることと言えば、回復薬を作ったり、狩をしたりご飯作ったり。
現状聖女の価値ゼロ。
「ハンナは、キラキラしているのは綺麗で良いと思うの。うん、綺麗だと思うの。綺麗なの。」
「綺麗なだけ!?」
そんな事を言いながら遅めの朝ごはんを食べていると、思ったより早くボルマン商会の馬車が走って来た。
「どうも、お世話になります。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
どことなく優しそうな雰囲気を持つ男性が荷台から降りてきて、丁寧な挨拶をした。
慌ててこちらも、挨拶を返す。
「しかし、やはり荷馬車がない状態では現れませんでしたか。」
「ええ、昨日はこの辺りを見て回りましたが、ドラゴンらしき影はなく、平和でした。何度か行商らしき馬車も見かけましたが、襲われている様子もありませんでしたね。」
「全く、何故うちの馬車ばかり狙われるのか。確かに、竜が好みそうな積荷も有りますが、それはうちの商隊に限ったことでは有りませんし、何か恨みを買った覚えもなく、ほとほと困っておりまして。」
囮というだけあって、比較的安物の馬車に、積荷が少し。藁や傷んだ鎧などでかさを増している感じだ。
後、女の子が2人と、男の子が1人乗っているが、身なりと手足についた鎖からして、奴隷のようだ。
人間の国では、奴隷が制度として認められているらしい。
魔族が奴隷になっているなら、魔族側としても口を出すところだが、基本は亜人や亜人とのハーフ、たまーに、魔族のような見た目のものもいるが、魔族の血がうっすら混ざった程度で、たまたま先祖返りしただけ。そうなるともう魔族と言うよりは人間である。
それが奴隷になろうとも、人間と亜人の問題であって、魔族が口を出すところではない。
「奴隷も囮ですか?」
しかし、囮として堂々と昼間に走り、襲われてもおかしくない馬車に、わざわざ商品である奴隷を積む意味が分からない。
「いえ、これは商品です。どうしても期日までに納品したい奴隷でして。頻繁に馬車が襲われるせいで、納品が遅れているので、皆さんを護衛がわりにして強引に運んでしまおうと言う会長の案でして……はい。」
「あのおっさん、なかなかにやり手ね。私たちがドラゴンに負けたら、この奴隷も、ドラゴンの餌になるかもよ?」
「倒すことはできないかもしれないが、おそらく負けはしない、と、会長は言っていました。」
「タヌキおやじ。」
「依頼主のことを悪く言うものじゃないの。ちなみに、護衛の任務分も追加で報酬をもらうことになるなの。」
「勿論です。」
「言わなかったら踏み倒す気だったの。白々しいの。」
「いやはや、手厳しい。」
ハンナが睨むと、男は冷や汗をかきながら苦笑する。
まぁ、囮の馬車を守りながらドラゴンを倒すと言うのが打ち合わせの内容とはいえ、壊されてもいい馬車と、全力で守らなければならない馬車とで、わけが違うからなぁ。
「しかし、こんな小さい子が奴隷なのね。」
女の子の奴隷のうちの1人は、ハンナよりも小さかった。
5歳前後だろうか。くりっとした目、緑がかった髪、俯き加減でこちらを見ている。
3人とも整った顔立ちだが、特にこの子は将来有望だなと言う感じである。
もう1人の女の子は、獣人の血を引いているのか、首から肩あたりと手足に毛があり、猫のような耳がある。
男の子の方はがっしりとした体で、ハイオークの血を引いているのか、肌は緑がかっていた。
2人とも私より少し下かな?と言った年齢に見えた。
ま、亜人や獣人の年齢なんてわからないけど。
「親から売られてくる子供は、このくらいの歳でも大きい方ですよ。」
亜人の国では、人間を奴隷として使うこともあるそうだし、人間でさえ人間を奴隷にすることもある。
親に売られた子供や、犯罪奴隷などもいるし、子供を売るような親のところにいるよりは、買われた先できちんと生きていく方がいい場合も多々ある。
基本は、奴隷にも人権があり、必要以上の虐待を行なったり、殺したりすればいくら主人でも裁かれるんだとか。
「親バカのもとで生きていると、子供を売る親なんて想像もつかないけどね。」
「お父上様は、過保護ですからねぇ。」
その時。
「見つけた!見つけたぞおぉお!!」
大きな声が聞こえたかと思うと、地響きと衝撃が走った。どうやら、牽制のような形で前方に攻撃魔法を撃ち込んだらしい。
「うあああ!!ドラゴンだ!!」
御者と商人の男は、慌てて奴隷を下ろし馬車から離れようとする。
「守りにくいから、馬車に全員いて!」
全員がワラワラと逃げ回ったら、3人では守りきれない可能性がある。
それなら、防護壁でも張りながら馬車ごと守った方が早い。
ちなみに、馬たちはなかなか肝が座っているようで、爆発にも驚かず、ドラゴンらしき影を目で追っていた。
暴れないでくれて助かります。
「雷よ、力を示せ。雷撃」
狙いのつけやすい魔法で、古竜を狙う。
空を飛ぶ相手に、広範囲の魔法は、なかなかに危険が伴うが、電撃系なら、うまく当たれば麻痺や気絶も期待できる、が。
「小賢しい!」
竜が片手を振ると、雷は光を残して消滅する。
流石は古竜さん。あっさりは倒されてくれないらしい。
「おおお、おっきいのー!」
ハンナは上を見上げながら、多少テンションが上がり始めた。よかった。現物見てもテンション低かったらどうしようかと思った。
「水よ、集まれ、凍れなの。貫けなの!氷槍!」
喜びながら、魔法を展開する。
そこそこのサイズの氷柱のようなものが空中に現れ、一斉に竜へと向かった。
「流石に護衛を増やしてきたか。だが、我を倒せると思うなよ!火壁」
竜は、前方に炎の盾を展開し、氷の槍は、それに触れると同時に蒸発する。魔法の詠唱もなく的確で早い。
成る程、ハンナやゼルと同じか、それ以上だ。
しかし、なぜ攻撃してこない?
「さぁ、返してもらおうか。」
ばさり、と大きく翼をはためかせ、それは私たちの前に降り立った。
10メートル以上ある巨体。深緑の固い鱗に覆われたからだ、エメラルドグリーンの瞳。
かなりの年月を生きているであろう立派な古竜だ。
商人たちは、プルプルしながら、馬車の中に引っ込んでいる。
「なんなの?返すって、何もとってないって言ってるけど。」
「ふざけるな!!」
怒気を孕んだ咆哮。
商人の方はなんとか耐えたが、御者はそれだけで白目を向いて気絶した。
奴隷も、真っ青な顔をして震えている。
いや、ハイオークの男の子の顔色はよくわからないけど。
「あんまり怒鳴らないでよ。私たちは、馬車を襲う迷惑な貴方を倒しにきただけなんだから。理由があるなら、話し合いで解決できるんでしょ?」
「は!下等な人間が、我と話し合うと!?」
「あまりバカにしないことね。痛い目見るわよ。」
こっちが下手に出てるってのに、竜は鼻で笑う。
あれ?このなんかイラっとする感じ、デジャヴ。
すると、向こうもなんとなくそう思ったのか、少し顔を下げて、私の顔をまじまじと見た。
「ん?貴様は、昨日の小娘ではないか。」
「はい?」
古竜の知り合いなんぞ居ませんけども。
と、思ったが、ハンナとゼルを見ると、やれやれ、と言わんばかりにため息をついていた。
昨日会った人といえば、ゼップルさんたち以外はただ1人。
「……まさかとは思うけど、昨日のおっさん?」
「おっさんとは失礼な!!ぶっ殺すぞ!!」
あー……。
ハンナたちが、急に竜に会いたくなくなった理由って、もしかして。
「昨日の時点から、嫌な予感しかしなかったの。」
「人外の気配を撒き散らしながら、1人でウロウロしている不審な男がいれば、色々疑いますよね。」
「お姉ちゃんは、余程鈍感なの。」
気づいてなかったのは、私だけのようです。
「とにかく、早く我の宝を返すがいい!そのあとじっくり殺してやる!」
何なんだよ、もう。
まとめ。
変なおっさん=問題の古竜。
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