聖女さまと恋する乙女
「さっさと我の宝を返すがいい!」
はてさて。
ムカつくほど態度も声も体もでかいドラゴンに怒鳴り散らされているのだけど。
宝って何だよ。
「我々は、竜の住処に行ったこともなければ、宝を奪ったような事もない!」
コソコソ隠れながら、叫ぶ商人。
実際、見つけたと言っていたが、この馬車には宝など積んでいない。本人に思い入れがあったりして、ボロい鎧が宝だと言われれば、もう分からんけど。
「嘘をつけ!我の宝を持って逃げたのは間違いないのだ!」
「ああ、もうしつこいわねぇ!自分で確認すればいいじゃない!」
攻撃すれば、宝を壊してしまう恐れがあるのだろう。古竜は、チラチラと荷車の方を見ながら、苛立っていたが、攻撃を加える様子はない。
しかし、今までは攻撃魔法をぶっ放ちながら、商隊を襲っていただろうに、今回のこの慎重さ。本当に今回積んでいることをわかっているのか。
「ふん。そうさせてもらおう!」
大きな体では不便だと思ったのか、古竜は昨日と同じ暑苦しい感じのおっさんの姿へと変身する。
「ひいっ!?」
ズカズカと荷車に寄ってきたおっさんを見て、商人は中に引っ込みながら震えていた。
しかし、積荷を渡しても殺されるなら、やっぱりこのおっさんをさっさと殺しておいた方が良いのではないかな。
あれ?でも、この姿のまま殺して仕舞えば、素材とかどうなんの?死んだら元に戻るの?
「見ての通り、僅かな装備類しか積んでおりません!」
震えながらも、何とか声を絞り出す商人。
奴隷たちも、3人で集まりながら怯えていた。
そして、おっさんは、中を覗き込むとニヤリと笑って手を伸ばした。
「おー、よちよち。可哀想に、怖かったであろう。もう大丈夫でちゅからねー!キュートプリンセス!パパでちゅよー!」
「はぁあ!?」
「爆破弾!」
私の驚きの声と同時に、馬車が内側から爆散した。
その様子を、のほほんと見つめるハンナとゼル。お前ら、少しは焦れよ。
「うーん。馬車を守りきれませんでしたって報告するにも、内側から魔法をぶっぱなした奴隷がいたわけで、私たちのせいではありませんね。」
「そうなの。ドラゴンの行動には注意してたけど、流石に自爆までは面倒見切れないの。」
煙が晴れたそこには、多少傷を負った程度のハイオークのの青年が、2人の少女奴隷をかばうように立っており、商人は御者をかばって立っていた。
魔法の威力自体は大したことがなかったのかとも思ったが、流石に馬車が爆散するような魔法なら、かばってどうにかなるようなものではない。
おそらく、魔法を放った本人が、人を守るための防護壁も用意していたのだろう。
「どうちたんでちゅか?マイキュートプリンセスたん!」
なんかおっさんが、ものすごいキモキャラに変化してしまったんだが。頭打ってたっけ?
いや、違うな。これはあれだ。とっても見覚えのある人と同じ人種だ。
「もー!良い加減にしてほちいでちゅの!」
舌ったらずな声がハイオーク少年の陰から聞こえた。
「お嬢様、お父上様やラードルフさんと同じ生き物のようです。」
「デジャヴなの。」
「見たらわかるわ!」
ご丁寧に解説してくれるゼルだが、こんなもの、見たらわかる。娘が可愛くて可愛くて仕方のない親バカ親父そのものだ。
「どうちたんでちゅか!?大好きなパパでちゅよー!?はっ!?人間に、洗脳されてしまったのか!?」
「五月蝿いわばかおやぢ!」
そして、その娘というのが、どうやら奴隷の中に混ざっていた、あの幼い緑髪の少女らしかった。
古竜の娘となると、幼い見た目も、本当かどうかはよくわからないが。
「えーっと?つまりは、奴隷にされた娘を取り返しにきた、と?」
「その通りだ!さっさと返すが良い、人間どもよ!」
踏ん反り返るおっさん。
しかし、娘はというと、困った顔のオーク少年の陰に隠れながら、あっかんべーをしている。完全に嫌われてるおっさん。憐れ。
「絶対に帰らないでしゅからね!あたちは、愛と共に生きるのでしゅ!」
「キュートプリンセス!まだそんなことを言っているのか!ダメに決まってるだろう!!」
「あー……。話が見えそうで見えないんですけど、親子ゲンカなら、よそでやってくれません?」
たまたま恋に落ちた娘が、家出をし、それを父親が連れ戻しに来たといったところなのだろう。こうなってくると、もう私たちの出る幕ではない気がする。
「わたちは、いとしの王子様の元へ行くのでしゅ。おかあたんから許可は下りているのでしゅ。」
「ママの許可……。」
絶望的な顔でこっちを見る古竜のおっさん。まさか、私に助けを求めてるのか?
まじ、こっち見んな。
「お、おい、人間の小娘!我がキュートプリンセスを説得してくれ!でないとこの人間たちを灰燼にするぞ!」
「何という横暴なの。」
呆れるハンナ。流石にラードルフさんも、父様も、こんなに勝手じゃないぞ?
「あー、えっと、因みに、お嬢ちゃん、家出してきたのかな?」
「ちがうでしゅ。おかあたんと相談した末に、奴隷のふりをして人間社会にうまく溶け込もうと思ったでしゅ。そうして、王子様に会うのでちゅ。」
「うーん。王子様とか、恋に憧れるには、まだ早いんじゃ無いかなぁ?」
キラキラと笑顔を振りまく幼女に、仕方なく少しだけ説得を試みてみる、が。
「早く無いでしゅの。わたくち、これでも100歳超えてましゅの。」
「は?」
流石に、全員の声がハモった。
舌ったらずな声、5歳児レベルの体。
いくら古竜が長生きな種族とはいえ、生まれてからの成長速度を考えると、数年で、ある程度の成体にはなる筈だ。
100年も生きていれば、立派な成竜になっていておかしく無い。
「何でそんなことに。」
そうなると、この子は、うまく成長できていないことになる。だが、病気などを持っているようには見えない。
まじまじと、少女とおっさんを見比べていると。
突然大きな影が上を横切った。
「それはうちが説明したるわ。」
地響きを伴う咆哮。
また、古竜が現れた。
もう、どうにでもなーれ☆
「おかあたん!」
「ママ!?」
今度は母親の登場のようです。
全力でうろたえるおっさん。
人化が解けて、巨体のまま右往左往している。最初に見たドラゴンの時よりもかなり大きい、このサイズが本来の姿なのだろう。体だけ見れば立派なドラゴンなのに、全身から情けないオーラを撒き散らしていた。
こんなのが伝説の古竜だと思うと、情けなくなってきた。いくら私が聖女だとしても、こんな竜は使役したく無い。全力で拒否する。
ハンナの教育のためにも、立派な古竜に会いたかったよ。
「どうも、うちの旦那が迷惑かけて、ホンマに申し訳ありません。うちがちょっと仕事に出てる間に、逃げ出しよってからに。」
「ぐはっ!」
降り立つと同時に、尻尾でおっさん竜の頭を叩く。
「ヒメは、嫁に出すと言ったやろが。」
「そんなのまだ早すぎる!」
「もう100歳やで!いい加減呪いを解かんか!」
「呪い?」
父親が、娘に呪いをかけた?
こんなに溺愛している娘に、呪いをかけたの?
「ああ、この子が生まれてしばらくした時にな。あまりにも可愛すぎて、『ずっと我のベビーちゃんでいてくれ』なんて言い出しよってん。最初は冗談やと思っとったんやけど、いつまでたっても娘が育たんのよ。おかしい思て問い詰めたら、どうやらあまりに何度も言い過ぎて、言葉に呪詛が乗ってしもたらしいねん。」
「本当に、クソ親父でしゅの。」
「呪いのせいで、体は子供、知能は大人ってヤツですか。」
「一番子供なのは、そのおっさんやけどな!」
「キュートプリンセスはどんな姿でも可愛いのだ!」
「どんな姿でもいいなら、そんな呪詛かける必要ないでしょ。」
「くっ。幼女の可愛さは、桁違いなのだ。」
自警団の皆さん、こちらです。ここに変態がいます。
「因みに、お嬢さんの本当の名前は何なの?さっきから、おっさんはキュートプリンセスって言ってるし、お母さんはヒメって言ってるけど。」
「……。」
「キュートプリティプリンセスジュエルや。」
「は?」
「キュートプリティプリンセスジュエルである。」
「は?」
キラキラネームとかそんなレベルちゃうぞこれ。
「……ヒメとお呼びくだしゃいでしゅ。」
顔を真っ赤にしながらうつむいて、キュートプリティプリンセスジュエルことヒメは言った。
「いやー、うちもな、産まれた瞬間は、なんかネジが飛んでしもてん。可愛すぎるやろー!って。これはもうキュートや、プリティや、プリンセスや!って。今から思うと、ちょっとやり過ぎたかな?」
「ちょっとじゃないの。やばいレベルなの。」
ヒメが可哀想になってきた。うちの親は、本当にあれでいてまともでよかったと、つくづく思う。
「で、まぁ、名前はともかく、この育たない呪いを解きたいんやけど、どうにもかけた本人にさえ解けないらしくてなー。呪詛の主から長く離れることによって、徐々に弱まるのを待つしかないのではないかという結論に至ってん。」
「で、何で奴隷に?」
「普通に、距離的に離れればいいかと旅に出したんやけど、流石に竜の姿では目立つやん?それで、人の姿で外に出したら、あまりにも幼過ぎて人間に保護されてしまってなー。その時にどうやら人間に惚れたらしいねん。」
「とても素敵な方でちた。」
「で、その人間を探したいっていうから、身分を偽るために、売られた子供の奴隷として、大手の商人に引き取ってもらったんやけど。」
「因みに、商人たちには古竜の子供だと伝えました?」
「いや?そんなことしたら大問題になるやん。人間の子供のふりをして渡したけど。」
「そのせいですでに大問題になってるー!」
これは、ゼップルさんもいい迷惑ね。
家出娘と知らずに奴隷を引き取って、それを取り返しにきた父親に襲われている、と。
「何ということだ。」
呆然としていた商人が息を吹き返した。
「流石に、古竜の娘など、恐ろしくて取り扱えないです……。」
「しょ、そんなぁ……。」
「何とかならへんか!?」
「何とか呪いを解いて、人間社会に溶け込み、あの王子しゃまと結婚しゅるのでしゅわ!」
「呪いが解けるまでに、その王子様とやらが死ななきゃいいけどね。」
「いやぁああ!!」
メソメソするヒメ。
ヒメを撫でながら、おっさんを睨む母竜。
「そ、そんなことを言っても。我でも解けないのじゃ。伝説の聖女にでも頼むしか……。」
うん、やっぱり嫌な予感しかしない。
なぜか、関西のおばちゃん的な古竜。
読んでいただきありがとうございました。
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