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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様と人間の国
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聖女さまは我慢できない

ギィ。

夜中に、ベッドを抜け出し、隣の部屋へ。

ドアをノックするが、返事がない。

ドアノブを回すと、鍵はかかっていなかった。まぁ、かかっていたところで力任せに回せばそれで開くんだけど。


「ゼル。ねぇ、ゼル。」


声をかけても、返事はなかった。

居ない?

いや、気配はある。ベッドに近づくと、ふくらみのある布団の横に腰を下ろして、話しかける。


「ねぇ、我慢できないのよ。付き合ってよ。」


しかし、やはり返事はない。

もう、こんな時に役に立たないんだから!いいわよ、そっちがその気なら、襲ってやる!


「あんたが悪いんだからね!付き合ってくれないから!」


私は、迷わずベッドのふくらみに向けて、タガーを突き立てた。

ん?この感触は。


「お嬢様、流石に夜這いはどうかと思います。」


短剣(タガー)が刺さったのは布団の塊。ゼルの声は、ベッドの下から聞こえた。


「だってだってだって!あんたが毎日鍛錬に付き合ってくれないから!どれだけ我慢してると思ってるのよ!」

「いや、だからって、寝てる人のベッドに短剣刺します?」

「治せばいいかな、と。」

「良くないです。」


よっこらせ、と、ベッドの下から出てきたゼル。下を覗き込むと、丁寧に毛布が敷いてあり、枕まである。どうやら、私が乱入するとか以前にここで寝ていたらしい。


「人間が用意した宿屋って、何があるかわからないので落ちつかないんですよね。」

「だからって、ベッドの下に寝るのはどうかと思うけどね。」

「念には念を入れるタチなんです。」


ゼルは、腰にロングソードを下げ、動きやすく軽い鎧をつけた私の姿をまじまじと見たあと、


「これが、お嬢様の夜這いスタイルですか。」


ため息をついた。


「夜這い?」

「まぁ、夜襲ですね。」


だって、ここのところ、いくら鍛錬に付き合ってとか、模擬戦しようと持ちかけても、バレるのが嫌だとごねて一切やってくれないのだ。

宿屋の庭を借りて素振りはしているものの、相手がいなくては全くもってつまらない。

だから、今日こそ相手をせずにはいられないように、夜襲をかけたのだが。


「あんたが付き合ってくれないのが悪いの!」

「エミール様と違って、貴女と戦って無事で済む気がしないんですもん。」


家では、二日に一回はエミールと手合わせをやっていた。10歳とはいえ、魔王の息子であり勇者である彼は天才的な武器の才能を持っている。そんなわけで、武器の扱いに長けたエミールは、完璧な手加減をしてくれ、楽しく修行が出来ているのだが。家出してからと言うもの、とにかく本気は出せない、魔力は抑えたまま。剣さえも振るう相手がいない。

要は、退屈なのだ。

かといって、回復薬を作ったところで、消費する目処もないのに邪魔なだけである。


「ゼルのバーカ。弱虫ー!」

「はいはい。私たちが本気で手合わせしたら、周りが迷惑でしょうし、場合によったら周りにバレてしまうと言ってるでしょう。」

「だから、夜なの!夜に森に行けば平気だってば!」

「ハンナさんもついてきてしまったら、危険でしょう。逆に、ハンナさんを1人置いていくのはもっと危険です。何があるかわかりません。」

「うっ……。」


頭ではわかっているが、体が疼くのだ。

父様やエミールと手合わせするのが日課だったので、それが出来ないのが思った以上にストレスがたまる。

くそー。ゼルがいるから平気だと思ったけど、そんな甘くないのか。


「わかったら、さっさと部屋に戻ってくださいね。」

「ううっ。いい加減暴れたいよぅ。」

「先日、バシリー相手に戦ったでしょう。」

「あんなの、準備運動レベルじゃん。」


とはいえ、多少なりとも魔法を使ったりして戦うのは楽しかった。ゴブリン退治も、ちゃんとこなせたし。

……あ。


「そうか!ギルドだ!」

「はい?」

「王様達から連絡が来るまでに、依頼を受ければ、退屈しのぎになるじゃん!」

「……。そうですね。明日は、ポーションの処分先を探すのと並行して、ギルドの依頼でも受けてみますか。」

「物分かり良いじゃない。どうしたの?」

「毎晩、人間の襲撃だけでなく、お嬢様の襲撃にまで備えるとなると、命がいくらあっても足りないからですよ。」


ゼルは再び、大きなため息をついたのだった。



☆☆☆☆☆☆



朝になり、私たちはギルドへ向かった。

宿屋で、ポーションの買取先の情報を尋ねると、安くて良いのならギルドで買い取ってることを教えてくれた。

なるほど、確かに。

魔物の中には、荷物ごと人間を食い、倒した時に体内からアイテムが出てくることもあるので、実は様々なものの買取をやっているらしいのだ。


「手間が省けたねー!」

「むしろ、なんで今まで考えつかなかったかが知りたいの。」

「仕方ないじゃん、ギルドのことよくわかってないし。」

「なんども言いましたがとりあえず今回売るのは、下級と中級を少し、ですからね。」


そんなことを言いながら歩いていると、結構すぐにギルドの建物が見えてきた。

最初にいた宿よりも、今の方がギルドには近いらしい。高級とはいえ、少し大きな稼ぎのあった冒険者をターゲットにしているのだろう。

ゼルを先頭に、ドアを開け、中に入る。


「いらっしゃいませー。」


愛想よく受付嬢の声がする。こっちの顔を確認しないまま声をかけたのか、私たちを二度見した後、あっ、と、思い出したように奥へと入っていった。

代わりに、少し奥にいた事務っぽいお姉さんが受付に座る。

先日のお姉さんとは、また別の人のようだ。


「すみません、回復薬を買い取ってくれると聞いたのですが。」

「あ、はい!買い取ります!でも、良いんですか?店で買うよりかなり安くなりますよ?今、お金がなくて売ったとしても、今度欲しくて買うとなると、かなり高くついてしまいますが。」


心配そうに言う受付に、自分は多少回復魔法が使えるから、と説明して買い取りカウンターへと移動していた。


そんな感じでゼルが受付に声をかけている間、私とハンナはいらいのチェックをする。


「うーん?ボルマン商会が出してる依頼がいくつかあるね。なんかこの名前聞いたことある気がする。」

「スラム街であったおじいさんなの。」


ああ!そうだ、思い出した。

なんかちょっと裏がありそうなおじさんで、そのうち依頼でも受けてくれって言ってたな、確か。


「あの人ね。一応借りもあるし、ゼルが戻ってきたら相談してみよう。」


出ている依頼は様々だが、私たちのランクはDなので、Cまでの依頼しか受けることができない。ラードルフさんがいない現状では、誤魔化して、と言うのも難しそうだ。


「こ、こんなにたくさんですか!?」

「はい。そんな多いのですか?」

「最近は、持ち込まれても数個が良いとこです。まとまった量があれば、商店に持っていった方が稼げますしね。本当にいいんですか?」

「はい。また作ればいいので。」

「えええ、作れるんですか!?た、確かに下級は作れる人もいますが、中級ともなると、冒険者なんでやらなくても、一生、回復薬を作って暮らせるんじゃあ?」

「それも良いんですが、まぉ、そんなにたくそんな作れるわけでもないですしね。」


何だかんだ話しながら、ゼルの方は心配しなくても良さそうだ。しばらくすると、お金の入った袋を持ってこっちへと戻ってきた。


「とりあえず下級20個と中級5個買い取ってもらいました。下級が小銀貨4枚、中級が銀貨4枚でしたよ。」


「すごい、これだけでしばらく生活できちゃうじゃん。やっぱり回復薬を作って暮らせば?」

「嫌ですよ。」


そんなことを言いながら、ゼルと一緒に依頼を確認する。一応、Cランクの依頼にも、ボルマン商会の依頼がいくつかあった。

こんなにも色々依頼を出すと言うのは、やはり金があるんだろうな。


「ボルマン商会のをうけようかとおもうんだけど。」

「ああ、スラム街の。」

「そうそう、一応、ね。」

「あ、すみません、ゼルさん、ティーナさん、ハンナさん。」


と、奥から戻ってきた受付嬢に呼ばれた。


「はい?」

「ギルドマスターがお呼びです。奥へどうぞ。」


突然のご指名。何が悪いことしたっけなぁ?そんなことを思いながら、受付嬢に続いて奥へと入っていく。


厄介なことにならないと良いけど。

ま、無理だろうな。



ティーナのストレスが限界のようです。

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