聖女さまと回復薬
なんか、長くなったので分割したら、それはそれで短くなってしまいました。
城に一泊したのち、有る程度の資金と物資をもらい、私たちは街へと出た。
ちなみにエミールは、依り代があった訳ではないので、長居は出来ず、食うだけ食って魔剣を貰って、ホクホク顔で帰って行った。
ちゃっかり、代わりのお守りをおいて。
「さーて、始めますか。」
国王が、追加メンバーを選んでくれる間、私たちはかなりの好待遇でこの街に滞在出来ることになった。
更には、この国に住んでいると言うことにする為に、家を提供してくれるとも言われた。とりあえずは物件巡りをしないことには決められないので、とりあえずは比較的高級な宿で過ごすことにした。
王宮で過ごしてもいいと言われたが、流石に落ち着かないし。
旅館ならともかく、よその家に客人として居座るほどの図太さは無いわけで。
「しかし、金貨500枚かぁ」
「目立ってしまうので、売らないでくださいね。」
「わ、わかってるわよ!」
「信用できないの。」
ジト目でこちらを見る2人。確かに、今、魔法収納の中にはかなりの数のエリクサーが仕込んである。
ていうか、その辺に生えている薬草さえあれば、いくらでも作れてしまう。作れる人が、この世に1人しかいないだけで、そんなに高騰してしまうものなのか。
まぁ、私が作った分は、魔王領にしかおいてないし、非売品みたいなもんだからね。
「魔族領では、そんなに目に見えて不足してませんしね。基本は物々交換で、わざわざ使いづらい金銭に変えるという認識もありませんし。」
そんなこんなで、厨房から鍋を借り、そこに薬草を入れ魔力を練り込み、回復薬を作りながら会議をしていた。宿屋の中で。
容器に直接熱を加えているので、わざわざ火を起こしているわけでは無い。だから室内でも安全に制作できるのだ。
正直、時間を潰しているようなものなので、3人がそれぞれ鍋を三つ使って作っている。
作り方のコツを教えると、ハンナも作れるようになった。魔力の質、錬金センス、熟練度、回復魔法の適合性で、できる回復薬の上限が決まる。
「うーん。やっぱり下級なの。」
回復薬の種類は色で見分けられる。赤が下級、オレンジが中級、上級は透明だ。ハンナは下級回復薬。ゼルと私は上級回復薬。
ハンナはもう少し頑張れば、中級回復薬も出来そうだけど、まだ熟練度が足りない感じ。センスと魔力の質は良いけど、あんまり回復魔法の適合は無さそうなので、いくら頑張っても中級が限度だろうけど。
「下級回復薬でも、十分だよ。それすら作れない人はいっぱいいるんだから。」
「そうですよ。私たちは、魔族の中でも回復に特化しているだけです。」
そんなことを言いながら、出来上がった上級回復薬にキラキラを纏わせる。これで、エリクサーのできあがり。
しかし、これだと売れないので……。
「ああっ。お嬢様!不良品にしないでくださいよ!」
ゼルが、自分の作った回復薬までエリクサーになったことに苦言を呈した。
「不良品とは失礼な。エリクサーだぞエリクサー。」
「売れない上に、お嬢様がいたら使う必要もないアイテムなんて、収納の肥やしです!」
「ううっ。聖女の特殊能力を全否定されてる気分。」
「聖女の力がなければ、エミールくんの下級互換なの。」
「なかなか厳しいことを言う少女だね?」
ハンナのほっぺを抓りながら、気を取り直して次のポーション制作に取り掛かる。
「今度はキラキラさせないでくださいよ。」
「わかってるわよ、お茶目なイタズラでしょ。」
こう見えて、遊んでる訳ではない。
ラザン帝国に向かうとはいえ、まだ慌てても仕方ない。
寧ろ、準備を怠って向かうと、何が起きるかなんてわかったもんじゃ無いし。
今は、怪しまれない程度に資金を集めて、紹介してくれるという、人間社会の道案内的な冒険者を待つのが得策で有ると満場一致で可決したのだ。
「下級と中級をメインに、上級も少し売る感じ、なんだから、上位ができた時点で失敗みたいなもんじゃん。」
「とは言っても、中級で止めるのは逆に難しいんですもん。まぁ、特級ほどではないにしろ、上級も、変な詮索されかねませんからね。作りすぎてもあれですが、だからって、不良品にしなくても……。」
「不良品じゃないっ!神聖魔法使える人には、特級の有り難みが分からないのですね。」
「最上級神聖魔法を使える人に言われたくないです。」
呆れ顔のまま、黙々と下級回復薬を作るハンナ。くだらない話や、これからの相談をしつつ、私たちも中級と上級の回復薬を作り続けた。
「しかしなー。回復薬や回復職も不足してる中で、魔王討伐だなんて、なんの嫌がらせなんだろ。」
「不思議ですね。しかもそのほとんどが、瘴気の森の魔物や植物で壊滅する訳で。」
「ハンナ達の住んでる街まで、兵士が来たことは一度もないの。戦争起きてる実感は少ないの。」
ハンナ達の居住区は、人間達の町から見て魔王城よりも奥で有るがゆえに、被害ゼロ。しかも、そこには魔物との混血や逃げ出した兵士、獣人や亜人などが雑多に暮らしているので、実はかなりの戦力があるのだが。
「うーん。でも、安心はできないのよね。私の知人が殺された村は、位置的にはあまり被害にあわないところなんだけど、前回突然襲われたのよ。」
「帝国軍の方針が変わったんですかね。よし、中級。」
「あ、しまった。また上位に……。」
「薬草の無駄なの。」
そんなこんなで、陽が傾く頃には、100本近い下級と、100本以上の中級回復薬が出来た。因みに上級は200本を超えているのはご愛嬌。
空ビンは火と土の魔法の応用で簡単に作れるが、自分で作ると見た目が可愛くないので、空間収納に大量ストックしてある、ドワーフ達が作った薬瓶を使っている。
「各自、全種類5本ずつ持ってね。」
何かではぐれた時などにも、売れば最低限の資金になるし、勿論自分で使ってもいい。
「下級五本、中級五本、上級五本、特級五本、と。」
ゼルが、親切に全員分を1セットずつ並べている。ビン自体は親指より少し太いくらいで、20本ほど持ったところで大してかさばらない。しかも、結構強く叩きつけても割れない特殊構造!仕組みは謎。
残りの回復薬は一旦私の魔法収納に片付けた。
「なんかこれで生計立てられそうですね。楽に。」
「いや、あんた、人間の世界で生計立ててどうするのよ。」
「あ、そうでした。つい。」
単純作業続きでボケたことを言うゼル。一番人間に苦手意識を持ってるのはアンタでしょうに。
特に、鳥系の魔族や獣人は人を嫌う傾向にあるんだよなぁ。
「しかしながら、前も言いましたが、下級の回復薬なんて、少し魔力が高い人なら簡単に作れるはずなんですよね。それなのに、市場で高騰する意味が分からないんですよ。」
「うん。そうなのよね。中級もそう。ここまで値上がりする程に、不足するっておかしい気がする。」
「その辺もまた、ついでに調べるの。」
ていうか、そういえば、ハンナちゃん着いて来る気満々だけど良いのかな?帝国に行ったりしたら怒られそうだけど。うーん。
ラードルフさんが迎えに来る1ヶ月後までに戻って来れば良いか。
「よーし、金策も出来たし、王様からも貰ったし、とりあえず今日はパーっと食べましょ!」
今度の宿は、高級だけあって、良い食堂が付いている。
私たちは、他の客がドン引きするほどの量を食べた後、明日からの予定を練りながら布団に入ったのだった。
回復薬を作るだけの地味回。
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