聖女さまは納品依頼をこなす。
お金の価値を修正しました。
金貨1枚→10万
小金貨1枚→1万円
銀貨1枚→1000円
小銀貨1枚→100円
銅貨1枚→10円
くらいのイメージで。古い話の方も後で修正します。
変にテンションの上がったティーナは、即出発しようとしたが、ゼルに止められた。
「納品依頼も、先にやってしまいませんか?」
「あ、そうだね。」
私は、その場でUターンすると、受け付けに向かった。
「すみません、ここに来る前に狩った魔物の素材があるのですが、納品依頼が出てるみたいなので、買い取ってもらえるんですか?」
「ああ、はい。納品の依頼は、手元に納品する対象がある時のみ、討伐と並行して一件まで受けることが可能です。討伐中に手に入れて、討伐まだ終わってないけど納品したい、という時などに活用してくださいね。今回のようにすでに持っている場合は、本当は討伐依頼を受ける前に済ませて欲しかったのですが、私の説明不足でしたし、問題ないです。むしろすみませんでした。」
そういって、受付嬢は依頼一覧の書類を取り出す。どうやら、ほぼ常時の納品依頼はわざわざ張り出された紙を持ってこなくて良いらしい。
「で、何を納品しますか?」
受付嬢の問いかけに、道中倒した魔物の名前を挙げる。
「ブレードラビットと、キラーウルフと、サーベルタイガーと、イビルブルです。」
イビルブルのステーキ美味しいんだよな。人間も、魔物の肉を食べると聞いているし、皮や爪、牙以外に、肉も引き取ってもらえると嬉しい。
キラーウルフは、肉が固くてイマイチだけど、まぁ食べれなくはないし。
大まかに解体して、全部を魔法で収納してある。
「えーっと、どの部位ですか?」
「どこが良いですか?」
「え?」
「え?どこにあるんですか?」
キョロキョロし始める受付嬢。
「……。収納魔法で持ってますけど。」
「えっ?」
「あ、ちょっと待ってくださいね。」
受付嬢の反応を見て、嫌な予感がした。慌ててゼル達の元に戻る。
「人間て、収納魔法使えないとかある?」
「いえ、軍人が使っているのを見たことがありますよ。」
「ハンナも使えるの。お父さんも使えるの。」
ふむ。収納魔法自体は、人間でも普通に使えるらしい。
じゃあ問題ないじゃないか。ああ、でも、魔力の大きさによって収納できる量も違うと聞いたことがあるし、あんまり沢山持てるようなことは言わないほうがいいか。
「ラードルフさんでどの位?」
「このくらいなの。」
ハンナが示したのは、1メートル四方くらいの大きさである。そんなに少ないのか。
でもまぁ、ラードルフは剣士だし。それを考えると、私はもっと大きくてもいいはずだ。正直、どれだけ入るのか試したことがないのでわからないけど、ある程度にしておこう。
収納魔法が苦手なゼルが、イビルブル10頭でギブアップしたから、そのくらいが妥当なのかな。
なぜ、一度ラードルフの量を確認したにもかかわらず、ゼルを基準にしたのか。
「すみません、お待たせしました。ほぼ全身分持ってきたので、何でもあります!」
「全身分……?ちなみに、巾着はどこですか?」
「ポーチ?」
「いや、こういう、魔法の組み込まれた巾着ですよ。」
「何それ?」
「え、いや、収納魔法の。」
だめだ、話が通じない。多分向こうもそう思っている。振り返ると、困った顔のハンナが、近寄ってきた。
「これ、なの。」
ハンナが、リュックとは別に腰につけていた小さな巾着を渡してきた。中を開くと、魔法陣がびっしりと縫い込まれており、薄く光っている。
受付嬢は、それを見ると指をさして言った。
「そう、それです!空間を開く魔法の組み込まれた袋ですよ。それに魔力を流し込むことによって、異空間が開き、物を収納するんですよ。物を入れると常時発動状態になるので、定期的に魔力を流して保持しないといけません。魔力が切れて数日経つと中身が出てきてしまいます。」
「へぇ……。あ、そうか、収納袋!」
また忘れていた。巾着とか言わないし。収納袋だし。
私は、ほぼ使ったことがないのであんまりピンとこないんだよなぁ。
私が不思議そうにその袋を見ていると、ハンナが代わりに話を続けた。
「今ここで全部出すと邪魔なの。納品できそうな物を言ってくれれば出すの。」
「ああ、なるほど。お二方が収納してらっしゃったのですね。」
納得したようにうなづくと、事務のお姉さんに指示を出して隣の部屋に案内するように言った。
いや、持ってるの殆ど私だし。ゼルは、大して持てないし。
どうやら、納品専用の広い部屋に案内してくれるらしい。
「では、こちらへどうぞ!」
案内された部屋は、後ろが通りに面しており、馬車の荷車がそのまま入れるくらいの大きな入口があった。
成る程、大物をそのまま持ってきてもいいように、なのかな。それとも、持って出るときのためかな?
人間には、収納魔法が苦手な、ラードルフみたいな人もいるのだろう。
「では、ある分をこちらに出してもらえますか?」
「はーい。」
言われて示された大きめの机を素通りし、その後ろの作業スペースらしき場所に、取り出した魔物を並べた。だって、あの机に乗せたら大惨事だし。
「……は?」
解体が面倒になってそのまま持ってきたサーベルタイガー二匹。イビルブル五匹。ブレイドラビット七匹。キラーウルフ二匹。
そこまで出したあたりで地面が埋まったので、次を上に乗せるか、どうするか悩んだところで、事務のお姉さんの悲鳴が上がった。
「いやああああ!!何これどうするのこれ!!」
「え、嫌って言われても……」
その声に、慌てて外から中に入ってくる男二人。どうやら、外で出荷分を荷造りしていたらしい。
「どうした、レナちゃん!!って、何だこれ???」
「大口の解体依頼あったか?」
「というか、いつ運び込んだんだよ。」
状況のわからない、イカツイおっさん二人が魔物と私たちとレナと呼ばれたお姉さんを順に見た。
「な、な、んで?こんな?どこ?え?ふくろは?」
パニックを起こすお姉さんはとりあえず置いといて。ゼルの収納だと大体この位だと思うんだけど、これでも多いの……?
「袋って、要は空間魔法を使うときに、補助的な役割を果たしているだけで、あれ自体が魔法の袋なわけじゃないですし、なくても平気ですよ?」
「それは知ってるけど!そんなことができるのは有名な一握りの魔導師だけですよ!」
量じゃなかったか……袋の有無が重要だったのか……。ラードルフさん、そこまで重要だって言ってなかったのに!
「ま、まあ、私昔からこれだけが得意で!」
適当にごまかしていこう。
「そもそも、何ですかこの量!普通の冒険者なら、50キロ運べれば有能だって褒められるレベルですよ!?それをポイポイと、500キロ近いイビルブルが5頭!?何それ!?得意とかそういう問題!?」
量もアウトだった。
50キロ??ブレイドラビット一匹程度しかないじゃない……。そんな程度で生きてるの?人間て……。
「ま、まぁ、まぁ、レナちゃん落ち着いて……」
錯乱するお姉さんを宥めるおじさま、ナイスフォロー。突然きれられまくったら話が進みません!
「世界も広いんだ、なんかよくわからない能力を持って産まれる人もいるだろう。」
「それにしても異常だがな。本当に人間か?」
「魔族にはツノと羽があるらしいし、流石にそれは言い過ぎだろ。そんなこと言ったら、兄貴の酒の飲み方は人間離れしてるしな。」
「お前の大食いも、人間じゃねえよ。」
ガハハ、と笑い合う二人。兄弟なのかな?そういえば、何となく似てるかも。
その様子で、多少正気に戻ったのか、お姉さんが依頼書と魔物を見比べ始めた。
「依頼対象のサーベルタイガーの牙やブレイドラビットの耳、毛皮、イビルブルの肉、キラーウルフの爪などなど。リスト化してチェックしていきますのでしばらくお待ちください。」
そう言って、作業を始めた。私たちは、隅っこで相談を開始する。
「ティーナお姉ちゃん、お父さんの収納の話聞いてなかったの?」
「え、だから、ラードルフさんて、収納が苦手で、あんまり魔法を使わない人の参考サイズでしょ?
「違うの。お父さんは、一般人より魔力が多くて、収納魔法が結構得意で、ほとんどいないAランクの冒険者、なの。」
「……。」
最低ランクだと思っていたのが、最高ランクでした。あはは。どうしよう。
しかしながらもう手遅れ。人に見せてしまったのだから。
でも、流石にこれ以上はまずい。特殊な家系とか何とか言ってゴリ押ししていこう、うん。
このままだと、魔族とばれる日は近そうだし。……怖い。
「では、こちら納品依頼6件分となり、報酬は小金貨25枚と、依頼以外の残りの買取で小金貨4枚と銀貨8枚。ですが、状態がいいので少しサービスしまして、全部で小金貨20枚になります。支払いは、金貨3枚か、小金貨30枚で選べますので、受付にこの証書を持って行ってください。」
「金貨3枚なの!?すごいの!!」
目を丸くして喜ぶハンナ。話を聞くと、普通の家庭の1ヶ月分の稼ぎくらいだそうだ。確かにそれはすごいかも。
「最近、この辺ではイビルブルが減っていまして。どこでこんなに狩ってきたんですか?」
「えっと、魔族領から……もがっ」
突然後ろから口を塞がれる。横目で見ると、笑顔を貼り付けながら、物凄く焦った顔のゼル。あ、そうか、言っちゃダメじゃん……。
「へ?」
「魔族領とのギリギリのところまで行ってきたんですよ。」
「おおお、新人さんなのにすごい勇気ですね!」
「新人なので、どこまで行っていいものかわからなくて。ラードルフさんにたくさん助けてもらいました。」
「ああ、なるほど!それなら分かりました!Aランク冒険者のラードルフさんですね!ああ、ではこの子が噂のラードルフさんの娘さん!」
テストの時の事務のお姉さんとは別人なのに、話は多少通っているようである。
しかし、魔族領から来る途中に居たとか言ったらまずいなんてもんじゃないよね……確かに。
「噂なの?」
「はい!とっても可愛いです!」
そう言ってハンナをナデナデし、詳細を書き込んだ証書を渡してくれた。
「これだけの解体となると、大仕事だな。また、大物が取れたら来てくれよな。」
腕まくりをするおじさん二人に手を振って、私たちは受付へと向かった。換金が済んだら、いよいよ討伐依頼だ!
話がまとまりきらず、時間がかかりました。
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