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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の旅路
24/175

冒険者は苦悩する

ウーリたちのお話。

「なんだったんだ、あれは……」

「正直、人間じゃないと思うんだけど。」

「でも、あいつ、治癒魔法使ってたろ?魔族なら使えないはずだぜ?」


昼間にちょっとした任務を受け、十分すぎる小遣いを稼いだ俺たちは、いつもより高価な宿に泊まっていた。


「そうなんだよなぁ。魔族が回復魔法を使うなんて、聞いたことねぇし。ありえねぇよ。」

「やっぱ、上には上がいるんだな……。」


どうしてこうなったんだろうか。大きめの依頼をこなし、そこそこの実入りがあったので、もともと数日は休養する予定だった。

ちょっとした暇つぶしも兼ねて、ギルドで新規の依頼の確認をしたり、冒険帰りのハンターの話を聞いたりしていた。

すると、受付嬢から声がかかったのだ。ルーキーの試験官をやってくれないか、と。


「新規登録者の試験官ってのは、ルーキーをちょっといじめてやって、実力を見ながら、冒険者の厳しさを教えるって仕事なはずだよな……?」

「お前らはまだいいだろ。俺は、7歳の女の子に負けたんだぞ。」

「あの修羅場をくぐって小金貨6枚……。時間に対しての稼ぎとしては多すぎるけど、死にかけたことを考えると安すぎるような気もするわね。」


小金貨一枚といえば、一般職でそこそこ稼げる人の日当にあたる。冒険者で、1日小金貨一枚稼げれば、その日の寝床と食事と、備品の買い足しまで済ませられる。

なので、ほんの数分初心者と戦っただけで小金貨2枚は、美味しいどころの話では無い。


「本来の報酬は、口止めやら傷んだ衣類、装備の料金を込めても一人当たり小金貨一枚だ。倍ってことは、それだけのことだったんだろ。」

「うーむ。Aランクのラードルフさんの娘が強いのはまだしも、他の二人は何なんだ?」

「あの娘の方は、お嬢様って呼ばれてたよな。どこぞの貴族の娘だろうが、それにしても底が見えない魔力量が恐ろしい。」

「王国直属の極秘部隊の兵士とかだったりしてな!」

「ふーむ。あの男の子、兵役を受けていたそうだし、ありえるかもね。」


強さだけを見れば、彼らは勇者クラスの力を持っているのではないだろうか。しかしながら、勇者は20年に一度しか生まれない。今は、30歳の王子が健在なので、15歳や25歳くらいの勇者がいるわけはない。だからと言って、逆にあのラードルフの娘が勇者と言うには、少し幼い。


「ま、俺らが考えたところでわからねぇよ。」

「回復魔法使えるし、聖女さまだったりしてな!」

「バカ。どう見ても男の子だったでしょ。」

「ま、結果的には短時間で美味しい思いができたんだ。それでいいじゃねぇか。」


ウーリは、いくら考えても答えの出ない疑問を振り払い、リーダーらしく纏めた。


「よーし、今日は飲もうぜ!」

「賛成!」


そうして彼らは、宿屋と一体になっている酒場へと向かった。

ここの酒場は、宿泊客でなくても食事をとることができる。

そしてそこには。


「ずるい!ゼル!それ私のお肉!配下のくせに生意気よ!」

「これは、私が大事に面倒を見た肉ですので、いくらお嬢様の命令でも譲れません。」

「肉ごときで、醜いの。」

「とか言いながら、お父さんのお皿の肉を取ってるのは誰かな?」

「子供の成長が、親の喜びなはずなの。父親なのに女々しいの。ダサいの」

「だ……ださ……。」


見覚えのある一行がいた。


「よう。」


席に着く前に、声をかけた。特に仲良くしたいわけではないが、顔見知り程度の知り合いにはなったはずなので、素通りするのも何となく気まずい。


「あ、昼間の試験の人。」


少女がこちらを見て指をさす。それにつられて、全員がこちらを見た。


「昼間は、どうもすみませんでした。ご迷惑をおかけしまして。」

「いやいや、こちらこそ。無様な姿を見せてしまったな。先輩としていいとこ見せたかったんだが。」


ゼルと呼ばれていた青年がこちらに向かって頭を下げた。


「うちのハンナちゃん可愛いだろー!」


すでに酔っ払い気味のラードルフは突然娘自慢を始める。


「そうですね、将来有望です。」

「あ、てめぇ、ちょっかいかけたらぶっ殺すからな。」

「流石に、そんな趣味はないので……」

「何だと!?俺の娘の何が気に入らないってんだ!」


……。酔っ払いってうぜぇ。

そんな様子を、笑いながら見ているティーナと呼ばれる少女。


「どこも、親父っていうのは面倒よね!」


ああ。もしかしたらこの子は、貴族のかたっ苦しいお家に疲れて、家出同然で出てきたのかな?

ふと、そんなことを思った。


「君の父親も、過保護なのかい?」

「ええ。私に手を出す男がいたら、瞬殺すると思うわ!」

「あはは。それほど愛されているってことじゃない?婿探しは苦労しそうね。」


何となく、世間話のように言ったクリスタ。


「婿?考えたこともなかった。」


うん?貴族の娘で15歳なら、縁談の一つや二つ有りそうなもんだがな。過保護すぎて、親が避けているパターンか。


「お父さんに勝てる男が、いればいいんだけどねー。」


ケラケラと笑う。


「お父さんも冒険者なのかい?」

「うーん、まぁ、そんな感じかな?」


虚空を見ながら顔をしかめるティーナ。貴族が冒険者?強い?かなり大手の商人か?それとも、かなりの権力を持っているのか?

聞けば聞くほどわからない。が、まぁ、あまり詮索しすぎるのも良くないな。


「あんまり、油断してると、クリスタみたいに行き遅れるからな!」

「なんですってぇ!?」

「あ、ちょ、いたっ、いたい!割れちゃう……!」


茶々を入れた罠師の男は、アイアンクローをくらいピクピクしている。


「じゃ、またな。」

「あ、そうだ。」


そう言って、少女はカバンの中から小さな小瓶を取り出した。


「今日のお詫び。そこそこ効果のいい回復薬。」


その様子を見て、驚いた顔をしているラードルフとゼル。ゼルが何か言おうとしているが、ラードルフが止めている。


「お!上級ポーションじゃないか!」


少女が取り出したのは、純度の高そうな回復薬だった。光の加減でキラキラ光って見えるが、瓶が高級なのだろう。やっぱり金持ちの娘だな。

普段俺たちが使うのは下位から中級。上位ともなると一本で金貨1枚以上する。

今日のようなクリスタの怪我でも、これがあれば命の危険はなかったであろう代物だ。


「お前、金持ちの娘だから、知らないかもしれないが、これってすごく高いんだぞ?上位治癒には劣るが、それでも中級治癒よりは上の効果で、末端程度のちょっとした欠損なら治るレベルのすごい薬だぞ?」

「そうなの?でもそれは……ううん、何でもないわ。」


何かを言いかけたが、チラッとゼルの方を見て、やめた。


「いいのか?本当に?」

「うちには、ゼルがいるし。よかったら使って。あ、売り払ったりしないでね?」

「ああ、もちろんだとも。お守りがわりに持たせてもらうよ。」


これはものすごい収入だ。熟練の錬金術師が時間をかけて作る上位回復薬。もちろん市場にはあまり出回らず、特にこの回復職の不足したご時世には、値上がりの一途を辿っている。そうそう一般の冒険者が持っている代物ではないのだ。


しばらくして、ラードルフたちは俺たちに会釈して店を後にした。またそのうち会うだろうか。

そんなこんなで、今日はいい稼ぎになった。

しかし、やはりあんな子供達にぼろ負けしたとなると、プライドがなー。


「明日から、頑張ろう。」

「そうね、ルーキーに負けていられないわ。」

「ああ。俺も、7歳に負けたとなると……」


俺がそういうと、クリスタも同意し、ハンナちゃんに負けたことを相当根に持ってるらしく、ヴァルターも苦い顔でつぶやいた。


「オヤジ!とりあえず酒とツマミを!」


決意を新たに、冒険者は上を目指すのだった。


もちろん、この回復薬は上級などではなく、最上位のエリクサーです。飲んだらどんなに瀕死でも復活し、欠損も治ります。



感想、ブックマーク等ありがとうございます。

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