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聖女さまは魔王を守りたい  作者: 朝霧あゆみ
聖女様の旅路
23/175

聖女さまは困る

ハンナちゃんの番です

「ちなみに、なんだが。」


移動しながらギルドマスターは言った。


「ゼル君もそうだが、一切危なげもなくBランクの冒険者を一方的に倒したティーナ君も私の中では疑問だらけだからね?」


ああああ!!!しまったぁぁぁぁ!!!怪我とか治癒とか云々ですっかり忘れていたけれど、()()()()()()()()()()()()のだ。本気を出してはいけないと思いつつ、一方的に蹂躙してしまった事実。普通に考えれば異常である。


「い、いやーその。うまく倒せたなー!みたいな!偶然てすっごい!」

「後でいっぱいお話ししよう。」

「ひぃぃぃ。」


いい笑顔のギルドマスターに、私はいろいろと言い訳を考えた。しかしまぁ、何にも思いつかなかったけどね!ラードルフはそもそもこの状況で、どうフォローしていいかわからないのであきらめた様子。ゼルも、自分のことで手一杯な模様。役立たずの護衛どもめ!

自分のことを棚に上げながら、とりあえず文句だけをこっそりと頭の中でだけ呟いておいた。


「では、開始する。あくまで言っておくが、テストであって殺し合いではないからな!」


ほんとすみません。

ギルドマスターの痛い視線をなるべく頑張ってそらし、ハンナちゃんの方を向く。準備体操なのか、ぴょこぴょこ飛び跳ねていて、かわいい。動くたびに揺れるツインテールの髪も幼さを強調しており、やっぱり可愛い。語彙があほみたいになってるのは、かわいい以外の表現がないからであって、スルーの方向で。


「それでは、始め!」

「お手柔らかに。」


ギルドマスターの開始の宣言と同時に、罠師らしき男が動く。器用貧乏職とは言われていても、基本は前衛と同じことをこなす。ナイフなどの小回りの利く武器での戦闘、後衛の護衛兼補助、魔法での援護、等。

お手柔らかに、などと声をかけた割には、積極的に攻撃を加えていくスタイルらしく、ナイフを抜くと切りかかった。

30過ぎのおっさんが7歳の幼女にナイフで切りかかる様子の、なんとシュールな事か。まぁ、それが冒険者なんだろうから、突っ込みすぎない方向で。


「お父さんよりは、弱そうなの。」


腰から抜いた短剣で軽く受け止めると、刃先を滑らせそのまま切りつける。

もちろんナイフの軌道はずらし、自分は軽く反対側によけている。思った以上に身軽で、体術の基本もしっかりとおさえている。何この子、将来が怖い。


「なかなか、厳しい評価だねぇ。」


さらにこの男。思った以上に隙がない。名前何だったか忘れたけど。7歳の子供相手なんだから、もっと余裕かましまくって戦うのかと思いきや、こっちまで伝わってくるほどに警戒しており、深追いもしなければ、無理な攻撃もしない。

切り付けられたナイフを、きわどい角度でかわしながら、後ろへと飛び、距離をとる。しかし、休ませるほどお人より出ないらしいハンナは、踏み込んだ足のままでさらに駆け出し、逆手に持ったナイフを数度切りつける。


「これで7歳?初心者?ふざけんなよ・・?!」


すべてを受け止めながらも、斬撃の重さに顔をしかめる。おそらく、相手が子供だからこそ防げているが、自分と同じレベルの腕力であれば、吹っ飛ばされているであろうことに思い至っている。


「おじさんもなかなか、やるの。」


同時魔法詠唱。


「魔法もあるのかよ!!」

「炎の玉、焼き払え。火球(ファイヤーボール)


近距離でナイフと反対の手から叩き込まれる力ある火の玉。普通の火ではなく、圧縮された魔力の火。先程のクリスタの惨状が目に浮かんだのか、一瞬顔がこわばる。とはいえ、隙になるわけではない。やはりB級の冒険者だけあって強いのだろう。


「炎を打ち消せ!氷槍(アイスランス)


そもそも、下位や中位の魔法には、大した詠唱はいらない。というか、上位だっていらないけど。魔法の形をイメージし、それを魔力に流し込んで発動させる以上イメージは重要である。そのイメージを明確にするのが詠唱であり、魔法名である。

彼は水を凍らせ、槍状にして使ったが、ボール状にして使うこともできるし、雨のように細かく作ることだってできる。

なので、一般的に魔導書や教科書に載っている詠唱をそのまま使う冒険者というのはそうそういない。

キィンという音を響かせ、二つの魔法は消失する。


「ティーナ姉ちゃんがやりすぎちゃった気持ちがわかるの。楽しいの。」


消えた魔法を確認する前に、ハンナは後ろへ下がると再びナイフを構えなおす。

でしょでしょ!?楽しいでしょ!?見知らぬ相手と本気で戦うこの感じ!!テンション上がるのも仕方ないって!!


「ほんと、勘弁してくれよ。こっちは必死だってのに、そっちは遊び気分かよ。」


冷や汗をかきながら、男も再びナイフを構えなおす。今度はハンナが先に仕掛けた。ナイフを振りかぶって駆け出し、同時に魔法も使う。


「動きを止めろ。氷の棘(アイスニードル)


地面から突き出た氷の棘。直接は刺さらなかったが、長さが30センチ以上ある。足元にいきなりそんなものが出現すれば、どうしても動きは止まる。が、男も負けてはいない。


「砕け散れ!破砕弾(クラッシュ)!」


すぐに力任せに魔法を地面にたたきつける。飛び散る石と土、そして氷。どうせ動けないなら、足場を悪くしてでも逃げなければ、いけない。男の瞬間的な判断力はなかなかのものだった。しかし、どうしても魔力弾を地面にたたきつけるのだから自分がその余波で飛び上がってしまう。それも、ハンナの計画通り。

どこぞの神がニヤリとしてしまうレベルだ。


「それも、油断なの。」


ティーナは、短剣を持った手で、大きく切りかかり空中で必死に体をひねる男を通り越し後ろへ。

ゆったりとした外套の中に手を入れたかと、その手に握られていたのは三本のナイフ。


「あ、ちょ、まっ!」


男の謎悲鳴を聞く間もなく、完全に体勢を崩した男に向かって投げつけられる三本のナイフ。男も必死に二本ははじいたものの、最後の一本をかわし切れず肩口を大きく切り裂かれる。


「いってぇぇっ!」

「まだまだなのー!」


三本は無理と思ったのだろう。その中でも、一番致命傷にならなさそうな一本を残すあたり、やはり瞬間の判断力も素晴らしい。ナイフを受けた男に向き直ると、ハンナはさらに呪文を唱える。


「炎の玉、焼き払え。火球(ファイヤーボール)!」

「待って、無理無理!!」


一回転して避けるが、そこに迫るのはハンナのナイフ。


「そこまで!」


男の悲鳴を聞き、ギルドマスターの声が響いた。

がっつり肩を切り裂かれている男に、さらに追撃の魔法……止めなかったらナイフでえぐられてたんじゃないだろうか。どこかは想像したくもないけど。

終わると同時に、ラードルフは駆け寄る。ハンナに。


「ハンナちゃん!大丈夫!?怪我は!?」

「ねぇよ。」


切り裂かれて死にかけたおっさんはアウトオブ眼中。毛ほどの傷もついていないハンナを抱きしめるラードルフに、ウーリはひきつった顔で突っ込みを入れた。


「くっそー……お前らほんと、なんなんだよ……」


よろよろと立ち上がる男に、ゼルが駆け寄る。


「冒険者にあこがれるお嬢様と、そのお供と、その友達です。」

「わけわかんねぇ!」

「そうは言われましても……。中級治癒(エクストラヒール)


困った顔をしながらも、ゼルは回復魔法をかけて男の傷を癒した。


「それもだよ!中位や上位の回復魔法を使えるだけでもレアなのに、詠唱無しって何なんだよ!」

「……えー……。大いなる神よ、加護を与えたまえ!エクス……」

「遅いわ!」


既に跡形もなくなった傷に向かって呪文を追加しようとするゼル。こいつもなかなかに抜けているらしい。


「まぁ、ありがとよ。」

「いえ、こちらこそ。」

「じゃ、クリスタの容体が落ち着き次第、受付で報酬をもらってくれ。もちろん、今回のことはすべてにおいて口外禁止な」


そんなこんなで、全員のテストが終わった。ギルドマスターはサクサクと手続きと説明を終え、冒険者たちには、今回のことは基本的に口外しないことを誓わせる。

そもそも、冒険者の戦い方や魔法は口外しないのがマナーだ。ばれてしまえば、仕事がやりにくくなる。


「言ったって誰も信じねぇよ。Bランクの冒険者が、ルーキーにボコボコにされました、なんてな。」


ウーリの言葉に、もう一人の男も頷く。


「じゃ、またな。そのうち会うかもしれねーし。」


男たちは軽く手を振ると、その場を後にした。


「さーてと。後は詳しく説明してもらおうかなぁ?」


ギルドマスターのいい笑顔に、ラードルフと私、ゼルはとっさに目をそらすのだった。

ハンナは、楽しかった戦いの余韻で超ご機嫌です。

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