聖女さまは魔術師と戦う
初めて戦う主人公です
はじめて、人間と魔法で戦う。
こんなに楽しそうなことは、そうそう無い。
いくら魔王軍と王国軍が戦っているとはいえ、基本的に戦っているのはしたっぱの兵士だし、勇者パーティと戦うのは側近や魔王の仕事。そもそも、魔王の娘が戦う事態なんてあり得ない。
狩りに行くでもないし、修行や練習すらまともにできない。
生まれつき魔王に次ぐ力を持っているのだから、鍛えると言っても師匠になるのは現魔王だけ。
それもあの過保護おじさんである。
娘に本気など出せるわけもなく、うわーやられたー、ティーナちゃんは強いなーデレデレ、といった感じで終わり、なにも面白くない。
「では始めるぞ?いいか?」
「はーい!」
ギルドマスターの声に、私は杖を構えて元気よく返事した。
「いつでもいいわよ。」
クリスタも、杖を構えて笑う。親戚の相手をするお姉さんといった感じで、感じのいい笑顔だ。
ギルドマスターも他のみんなも、軽く打ち合って終わるだろう、と、のんびり観戦モード。
いくら人間と魔族に基礎能力の差があるとはいえ、そんなに大変なことにはならないだろう。
この結界を壊さない程度でやればいいのよね!
そのなかで一人だけ、ウーリだけは数歩下がったところでいつでも防御できる体制をとっていた。先程のゼルとの戦いで、嫌な予感を感じたから。あいつの仲間なら、万が一もあり得ると。
私は手を前に出すと魔法を発動した。
「氷の槍」
手のひらの前で生まれた氷の槍は、一直線にクリスタに向かう。
次の魔法を用意しながら、ナイフを抜いて正面から突っ込んだ。
「え!?詠唱は!?」
「雷擊!」
受けるでもなく、バリアをはるでもなく、ただ魔法を避けたクリスタに不信感を抱きながらも、魔法のチョイスが悪かったかと違う魔法で追撃する。
「ええええ、おかしい、おかしい!!詠唱は!?水よ盾となれ!水壁!」
この程度の魔法に?詠唱?
小さな雷は、水の壁に阻まれる。様子見だからとはいえ、低級の魔法ではさすがに倒せたりしないよね。
しかし、このおねーちゃん、中級の盾魔法使えるのか!
流石に、中級以上の魔法には周りのバリアが壊れる可能性があるからやめてたけど、そうだよね、こんなんじゃダメだよねっ!
「爆破火炎擊!」
「え?」
じゅわっと水の壁が蒸発する。そのままの勢いで、炎はクリスタに迫った。何これ楽しい!
「いやいやいやぁああ!!!|水の刃よ切り刻め!水刀破斬!!」
「すごい!相殺した!火炎乱舞」
相殺された瞬間に追撃。
エミールなら、すぐに反撃に移るから、逃げ場をなくすために炎で囲った。この後止めを……!
「いやぁ、むりぃ!!」
炎に囲まれたまま、クリスタは気絶した。
「あれ?」
「そこまで!早く助けてやれ!!」
ギルドマスターの声で、我にかえる。楽しすぎて相手をエミールに置き換えてしまっていた。エミールと遊んでたのは小さい頃。最近は、二人で戦うとあちこち焦土になったり凍結したり被害が出るので、禁止されていた。
特に、エミールが剣術特化、私が魔術特化に育ったせいで、あまり二人での練習しなくなったなぁ。
炎の竜巻を解除した瞬間に、ウーリとギルドマスターが駆け寄る。
「しっかりしろ!」
あら?
ギルドマスターは、すぐに詠唱すると、水魔法をぶっかけて応急処置を始めた。
ウーリは布を用意し、もう一人も鞄から回服薬を取り出して口元に持っていき、のませている。
「まさか、防御しなかったの??最後??」
「それはさすがに不味いですね。最低限、体に魔力を纏ってないと人間では耐えられません。」
完全に観戦モードだったゼルが駆け寄ってきた。
ぐったりとしたクリスタを抱きかかえながら、ギルドマスターと事務のお姉さんが叫びまくっていた。
「早く!医療班を呼べ!」
「今は、町の診療所に行っています!」
「急患だ!呼び戻せ!」
「はい!」
事務のお姉さんが駆け出すと、こちらを見ながらギルドマスターは言う。
「誰か、応急処置としてヒール出来るか!?」
ウーリともう一人は首を降り、
気まずそうに顔を見合わせる私とゼルとラードルフ。
ここで色々ばらすのは不味いが、だからと言ってやってしまったのは私だ。後味が悪すぎる。
この程度なら、大ケガだが一応すぐに命を失うほどではない。上級ヒールで事足りる。だが、人間の世界では上位のヒールを使える人すらかなり不足しているとか。目立たないために、なるべくばらしたくはない、が。
小声で三人で相談する。
「1、私が治す。2、ゼルが治す。3、エリクサーをあげる。」
「3は論外だ。そんなもの持ってていいわけがない。1も、下手にばれると面倒だ。」
「いきなりですか。勘弁してくださいよ。私的には、人間が一人死ぬくらい、とも思いますけどね。」
「ゼルぅ……お願いー……」
「そ、そんなかわいくいっても……くっ……。」
頭を抱えながら、一瞬考えたのち、たも息をついていった。
「まぁ、仕方ないですよね……。うまくいけば誤魔化せるかもしれませんし!」
そんなわけで、生け贄はゼル君。ゆっくり前に出て、クリスタの横に片ひざをついた。
「ヒールなら、私が、出来ます。」
「おお、助かる!痛みを和らげるだけでも違うし、ほんの少しでも、治癒のできる人を連れてくるまでになにもしないよりは……!」
下位のヒールは、ちょっとした傷を治したり、痛みを和らげるものなので、大ケガには効果は薄い、が、広範囲の火傷などは特に、少しの差で生死が分かれる。応急処置としては重要だ。
「うーん。」
容態を見ながら、上を向いたり下を向いたり。何故か物凄く悩み始めた。
数秒後、諦めたように首を降る。
ギルドマスターは、手遅れだと言うジェスチャーだと思ったのか、落胆した表情を見せた、が。
「上位治癒」
物凄く小声で、魔法をかける。
ゼルの魔法がクリスタを包み込み、薄く光って消える。
同時に、クリスタはすべての傷が消え、規則正しい寝息をたてて眠るだけとなった。
「は??」
固まるギルドマスター。
しかし、ゼルはしれっと言ってのけた。
「……たいした傷ではなかったようです!下位治癒で治りました!」
「うそつけえぇぇえ!!」
絶叫が響くなか、ゼルはこちらを見て、アイコンタクトで伝えてきた。
『誤魔化しきれませんでした!』
だろうね。
ゼルは生け贄になりました。
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