5章
真っ白な空間が広がっている。
この空間は――そう、あれだ。旧魔王と会話した空間だ。
「旧魔王いるんだろ」
「あれ、バレてた?」
どこからともなく声が響いてくる。ここは自分の精神世界、自分を連れてきた糞野郎と初めて話したところだ。
「なぁ、俺はこれからどうなる?」
「んー、そうだねぇ。百年後に復活出来ていればいいね」
百年後、スライムとゴーレムは生きているかもしれないが、シリンとヴォルディは確実に死んでいるだろうな、あいつらなんだかんだで結婚して子供も生まれていただろうに、会いたかったな。
いや、子供になら会えるのか? 俺はなんて紹介されているのだろう。
「感傷に浸ってるところ悪いけど、今から君に提案がある」
「どんなことだ?」
「二つある。一つは僕と君が元通りの世界に入れ替わる。君は晴れて元の世界に戻れる」
この世界に来たばかりならすぐに縦に首を振っていただろう。
「却下だ」
「だと思ったよ。そこで本当の提案、君の能力を再び百分の一にする」
ちょっとまて、百分の一になるってことはもしかして……。
「……復活時間も相応に経るのか?」
「せいかーい。そして返事は? どうする?」
そんなもの決まっているだろう。俺はスライムやゴーレム、シリン、まぁオマケにヴォルディをいれてやろう。そいつらともっとこの世界で生きていきたい。もっと世界を見てみたい。
「聞かなくても分かるだろ? 百分の一にしてくれ」
「そういうと思ってたよ。僕もこっちの世界で楽しいことを見つけたからね」
「ちょっと気になったから教えてくれ。旧魔王、君も辛かったのか?」
「その答えは君も知っているはずさ」
聞いたのが無粋だった。そう、彼も俺と同じように思い、そして苦しんだのだろう。
「そろそろ君に名前を教えても良いね、僕の名前はデビヒ・コーネル。そっちの世界じゃ最も有名な魔王だったよ。君は?」
「俺は――」
「あー、やっぱりなしなし。魔王も名前は縛られるもの。あ、君は特別に知るだけでいいよ」
喉元にでかけた名前をデビヒの制止で腹の底へ飲み込む。
「ごめんね、僕の名前を最初に知った人は僕の初恋の人なんだ。だから君も初めて名前を告げる人は大切な人であって欲しいんだ。僕ってロマンチック?」
大切な人、か。スライムにゴーレム。確かに大切な人だけど、デビヒの言う大切な人とは違うだろう。その人が出来てから二人にも教えよう。
「おっと、僕も君のいた世界に戻ってやりたいことをやってくるよ!」
「次は世界征服した時になデビヒ」
「頑張ってね魔王君」
白い世界は日が沈むように徐々に暗くなっていった。
百と一魔王目
見慣れた天井、スライム枕ではないがフカフカの枕にベッド。質素な一人机に椅子。少しカビた匂いが懐かしい。身を起こし地面に足を着ける。幽霊ではないようで安心した。
「やはり復活と言えばここだよな」
この部屋の構造は知っている。窓からは燦々《さんさん》と陽か差して眩しい。どれぐらい日が経ったのだろうと窓の外を見ると、麦畑が黄金色に光っていた。
扉に向かうとボロボロで扉の留め具だけが少し綺麗で錆びてはいない。押し開けるとギィっと音を立てる。
「泥棒!」
「まて俺だ、魔王だ」
眼前に液体が飛んでくる。この世界に来た時であれば、確実に命中していた。だが成長した俺にその程度の攻撃を避けるなど造作も無い。飛んでくる液体を余裕で躱す。
「魔王さま! 本当に、本当に魔王さまなのですね!」
泥棒という声を聞きつけた岩の棍棒を持った少女が、もう一つある部屋から飛び出してきた。
「泥棒はどこ!? 私が懲らしめてあげる! ってマオー!」
胸に飛び込んでくるゴーレム、その後ろから構わず抱きつくスライム。会いたかった、心の底から思う。二人を抱きしめ二度と離したくない。ただ一つ、これだけは言わせてくれ。
「ただいま」
拙い文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。
次作はまともな文章を書けるよう頑張りたいと思います。
ほぼ処女作完結!




