悪魔と踊るのは死んでから 4
3話に続きまして、4話です。
ここからは、本作で主要人物へと昇格したラハティとルーキーを主に物語を進ませていただきます。
彼らの活躍を期待していて下さい!
2067年
サウジアラビア
「ルーキー、震えが止まらないか?」
まだ目的地に着く前のトラックの男と銃がいっぱいに詰まった薄暗い荷台の中、気が付けば隣に座っていたあのデカいラハティを担いでいた男が声をかけて来た。
手で握っていたAKを見ても分かる通り、トラックに揺られてる訳とは全く違う、小刻みとしたまさに恐怖と不安による体の内側に秘められた防衛本能が、ラハティの言う通り震えとして出ていた。
「は、はい...。」
「まあ、誰だって怖いもんさ。と言ってもここに来る連中は皆どこか頭のネジが取れちまってる。それを考えるとこれから行う事に対してまともな反応が出来る君は珍しいのかな?」
「珍しいって、言われても.....。」
やはりここに来るべきではなかったのだろうか、3日前の自分を殴りたく思う。
「これから殺しに行くってんだから己の行う事に対して怯えない奴なんて普通はいないわな。珍しいって言うのは失礼だったな。」
こんな良識をもった感じの大柄ながら優しい感じがするこの人も、何度も戦いに出て、人を殺しているのだろうか.....。
「昔話をしてあげよう。」
ラハティが語り始めた。
「私が初めて戦場に出た話だ。私はね、デカイ図体で周りからはよく強そうって言われるんだけど、臆病だったんだ。」
「え?えーっと、あなたがですか?」
「おっと、まだ名前を名乗っていなかったね。」
「あ、すいません。俺も名乗っていませんでした。名前は“ハーディ”です。ハーディ・イフサーン。」
「イフサーン.....、面白い事もあるんだな。私の名前は“カリム”だ。カリム・“イフサーン”。まさか名前が被るとはな、因みに向かい側に座ってるアイツも...。」
向かい側にガリルを持った男が手を振って
「俺も“イフサーン”だ。ラヒム・イフサーン、宜しくな。」
「宜しくです。にしても名前が同じって凄いですね。」
「学生の頃は名前がダブる奴なんてゴロゴロいたさ、昔はクラスに“ラジード”が5人居たぜ。」
ラヒムがよくあることだから感覚で返してきた。
実際、サウジアラビアは結構名前がダブる事は多い。フルネームで呼び忘れて3、4人振り返るのはよく起きる出来事である。
「それじゃあ、昔話を始めるとするか。あれは終戦して10年たった、いや、10周年の日だったか。」
6年前...
遠くでセレモニーが開かれてる。平和を祈念する10周年セレモニーだかなんかだとか。正直今の私に平和などと言う文字が浮かぶ程頭がお花畑になったつもりはない。終戦から10周年、しかし10年経とうともこの国は、いいや、世界は戦災から復興したようには思えない。大国は潰れ抑止力の無くなった世界では戦後溢れた数々の武力によって意味も無き潰し合いを行っている。
直接的には武力に巻き込まれていなかったこの国ですら今では賊とPMCのはびこる暴力の巣窟へとなり果てている。斯く言う私も銃を手にしている。あのお花畑のセレモニーを、正確にはその主催者であるクズ野郎をぶっ潰す為に。
ここはセレモニーから約300m離れた狙撃ポイントであり、ここは私にとって初めての戦場となる。別に私が主催者を撃ち殺す訳じゃない。
あのセレモニー会場には既に爆弾が仕掛けられており、私の立ち位置は保険だ。しかも狙撃も私がするのではなく、ただの観測手、要は付き人である。時間通り起爆し、問題がなければ撤収する予定だ。後2分で帰宅の荷造りが始まるだろう。
「カリム、やけに冷静でいられるな。」
「私が冷静に見えるならあまり良くないな。」
別にふざけて言ってる訳ではない。私がよく緊張したり、恐怖を感じている時は傍からだとやけに冷静に見えるらしい。今の状況だと緊張の面の方が強く出ているはずだ。主戦場は遠く、AKを握るも直接的な戦闘の可能性は低い。まあ、こんな風に考えている時点で冷静だと思われるのかもしれないが。
「まあ、そんなに気張る必要もねえさ。後少しで会場は吹っ飛んで俺達は家に帰る。何も問題は起きやしない。」
「そうだと有難いんだが。」
「ほんとお前は固いな。」
「後20秒だな。」
「ああ、これでお花畑野郎にも綺麗に花が飾れる。」
ズブチュァッ! .....タァンッ!
訳が解らなかった。
いきなり自分の顔に“何か”がぶちまけられ、視界を遮った。
強烈に血なまぐさくなり、まだ見えない状況ながらも、その臭いが暗に察しさせてくる。
目を開けたくない、だが恐怖よりも好奇心の方が強くなってくる。答えは分かりきっているのに目を開けようとする自分を抑えられない。
そして、 見てしまった。
ヴォオエオエオッ!
今日はまだ何も喉を通していない筈なのに、何かを込み上げさせ嘔吐する。
やはり見るべきではないものだった。
さっきまで隣にいて顔を合わせていたやつは倒れていた。それだけなら良かったのかもしれない。だが彼の肩から上にあるはずのものは無くなっており、飛び散った鮮血や“何か”は綺麗にお花を咲かせているようにも見えてしまった。
そして彼を見てしまった事によって、さっきの出来事がフラッシュバックされてしまう。
ヴォロロ、ヴェオエオェヴォ....
吐くにしても、既に身体の中に残っていたものはなく、胃酸がこみ上げ、喉が痛くなるのみであった。
「あの時は本当に酷かったよ、最近になって気づいたことなんだがあの時撃ち抜かれた奴は吹っ飛ぶのとと射撃音がずれて聞こえたんだが、あれって2km以上離れてたんだよな。私は目の前のことで一杯だったから考えもしなかったがカウンタースナイプした奴はその気になれば私の事も撃ち抜く事ができたんだよ。今生きてることに感謝してるよ。」
「凄まじい初戦ですね....。(やべぇ、想像しただけで俺もなんか込み上げそう...。)」
「大変なのはその後だったよ。」
嘔吐した後、そのままここに留まってるわけにもいかなかった。なんたって狙撃されてたからね、もう隠れ場所はバレていたし、何よりも爆発が聞こえなかったんだ。そして騒ぎも起きてる様子がない。やられたと感じた。急いでこの場を離れようとした。けど敵の方が行動が早かった。
ドゴォォォォンッ!!
下の階段に設置しといたトラップが作動した。もう敵はすぐそこまで来ていた。
この部屋に逃げ道はない、無いというわけでは無いが正直使いたくない。ここはホテルの一室、近代化によって建てられた高層物の一つ。
部屋は4階の一室だが地上から見上げれば15m以上の高さはある。逃げ道と言ったのは要はベランダだ。飛び降りは無謀に近いだろう。
どうするか....
時間はない。 そしてタイムリミットを迎えた。
ガチャッ! ドゴォォォォンッ!!
敵は見事に扉のトラップに引っかかる
その隙を使って私は無茶をした。
隣に部屋のある壁に向かってAKを乱射した。
そしてタックルをかます。
ゴッ!バァァァンッ!!
壁を突き破り、転げる。
だいぶ痛かったが、留まる訳にはいかない。
手榴弾を1つ、元居た部屋へ投げ込む。
ピンッ! カランッカラン!!
「おい!手榴弾だ!隠れろ!」
敵らしき奴の声が聞こえた。
そして私は手榴弾が爆発するのに合わせてドアを蹴破り、下の階へと降りていった。
「あ...あの、初戦ですよね...。」
「ああ、今思い出してもあそこまで死を体験しそうな戦いは無かったな。」
「.............。」
「さて、続きを話すか。」
「(ここまででも凄まじいのにまだあるのかよ。)」
私は下の階へ降りた後、一度手洗い場に向かったんだ。一時的に姿を眩ますのと、身体に付着した残骸や粉塵を落とすためにも、手洗い場は都合が良かったんだ。
良かったんだが....
ガチャッ...ギィィィィ.....
手洗い場を離れようとしたら、ライフルを持った敵らしき者が手洗い場の扉を開けて目が合ってしまった。
「な...?!んなっ?!」
男の銃はスリングにかけられて手には持たれていない。すぐに仕掛けるしかなかった。
男が銃を握ろうとする。私は相手の腕を押さえ込み、右足を相手の足にかけてこちら側に倒そうとする。
相手のバランスは崩れた。だがあんまりうまくいかなかったせいか、私も含めて床に倒れ込む。
だが状況的には私が相手の上にのしかかる様な状態に近い。相手の顔面を殴ろうと手を離す。
それが良くなかった。私が手を話した瞬間を逃さず私を押し返し、起き上がろうとする。
私は抑え込む事が出来ずに相手を立ち上がらせてしまった。
相手はまたも銃を手にしようとする。
トリガー付近に手が来るところで銃を押さえ付けることができた。
相手は右手をグリップに、左手をハンドガードに。こちらは右手をハンドガード左手をストックに手を掛けて互いにつかみ合う感じとなった。
両手が塞がり、相手、私共々にらみ合うような状態になる。だが私は
ゴンッ!!
頭を使って相手をよろけさせる。
そのまま防ぐことが出来ない相手の顔面を私は殴り飛ばした。
相手は気持ちよく吹っ飛んでのびてくれた。
そして私はその男が持っていたL1A1を手にし、なんとかホテルを去ることができたんだ。
「それが私の初めての戦闘だったな。」
「・・・・・・・・・・。」
胃から何か込み上げそうだったのは、話が進むうちに逆に引っ込んだ。やっぱり俺来る所を間違えた気がする。
「おいおい、新入りが青ざめてるじゃねえかよカリム。」
「え?大丈夫かい?!」
「あ、ありがたい言葉ですが内容が私が想像していたものをかなり超えていたので.....。」
「ハッハッハッハッハ。」
ラヒムが大笑いする。俺はどこでも笑われるのか。
「確かにまだ処女切ってねえような奴にはスゲエ話だろうな。だけどコイツにはもっとすげ...」
「それ以上はよそうかラヒム。」
先程の話より更にすごい話があると言っていたがカリムは今までより低い声で静止してきた。
「話も終わったな、お嬢さん達。目的地に到着だ。」
俺はとても甘かった。現場についた時の空気の重さは、さっきの話で落ち着いた空気だと思っていた。そして無知でもあった。
戦いの前の静けさ。
それは生き物同士が命と命のやりとりを行う、まさに嵐の前の静けさである事を、俺はまだ知る由も無かった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
前書きに活躍を期待してくださいと書いておきながら昔話で終わってしまいました。
次回から『ハーディの初めてのお使い』が始まります!
期待してお待ちください!(又も不定期の予感がするので気が向いたら読みに来てください。)




