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お題:小春日和 あくび 花粉症

うーむ。

終わらせ方が1話に似てしまった気がする。

我ながらワンパターンである。

 世間はようやく暖かくなってきた、俗に言う小春日和である。

 まあ、僕といえば春休みなので呑気なものなのだが、することもなく公園のベンチでただ何もせずにただボーとしている。

 ジジくさいだって?

 放っておいて欲しい。

「ファー…………」

 大きいあくびをしてしまった。

 だんだん自分でも自分がじいさん臭くなっている気がないでもない。

 うら若き高校生男子が公園のベンチで日向ぼっこなぞせにゃならんのだと思わないこともない。

『ふぁー…………』

 するとすぐ横からも大きなあくびが聞こえてきた。

『あくびってうつりますねぇ』

「そうですね……ぇ…………」

 その声につられて僕は右を見て――――


――――さっさとその場を立ち去ろうとする。


『ちょ、ちょっと待ってください。いきなり話しかけたのは悪かったと思いますけど何も逃げなくてもいいじゃないですか』

「後ろが透けないようになってから出直してください!」

 そう、そこにいたのは後ろに風景が透けた僕と同い年くらいの少女だった。

『あれ!? なんで私透けてるの!?』

「こっちが聞きたいわ!」

 本当になんでなんでしょうね。

 少女は半透明のホログラフィックといった感じで彼女の映像を半透明で映し出したかのような見た目だ。

 まあとにかく。

「逃げる」

『逃げないでください! お願いします』

「だって幽霊だろ? 恨めしいんだろ?」

『私だって何がなんだかわからないんです! それと別に恨めしくはありません!』

 それから数分間、幽霊と僕によるくんずほぐれつの格闘があったわけだがその内容は省略させてもらおう。

「わかった、話だけは聞こう。君はどこの誰なんですか」

『えーと、私は……………………』

 む、どうして詰まるのだ。

 まだ考え込むところではないだろうに。

『…………私は誰なんでしょうか?』

「知るか!?」



「記憶喪失に近いのかな」

『かな』

 僕らは歩きながらそう言った。

 歩きながらと言っても幽霊の方は浮いているというか滑っているというかそう言った足を動かさない曖昧な感じの動き方をしているのだが。

 そしてどうもほかの人にはこの幽霊は見えないらしい。

「おい、幽霊。お前から見て生きている人間は見えるのか?」

『? 今、周りに他に人がいるんですか?』

 どうやら見えないらしい。

「じゃあ、幽霊には何が見えているんだ?」

『幽霊、幽霊言わないでください。私にはきちんとした名前が――――』

「ねえだろ」

 少なくとも覚えていないだろう。

「で、どうなんだよ。何が見えているんだ?」

『ん――――。いきものが誰もいない街に私たちだけがいる感じかな』

「…………それだけ聞くとえらくロマンチックだな」

 実際には周りには結構大勢の人がいるのだが。

『名前』

「ん?」

『名前何か決めてくださいよ。幽霊じゃああまりにもあんまりです』

「…………」

 確かにそうだ。

「……じゃあ「ゆう」で」

『「ゆう」……ですか。なかなかいい響きですね。気に入りました』

 幽は名前をもらってえらくはしゃいでいる。

 ここまで喜ばれると名前の理由が「幽霊」からとって「幽」なんだ、なんてとてもじゃないが言い出せないじゃないか。

『それで?』

「ん?」

『あなたはどういう名前なんですか?』

 そういえば自分についてなにも名乗っていなかった。

「…………霊」

『「れい」さんですか。かっこいい名前ですね』

 偽名として「幽霊」の「霊」を答えたとは言えないな。

 見ず知らずの幽霊に本名を名乗るわけにはいかないだろう?

 ほら、言霊を取られるとか言うじゃないか。



 そうこう言っているうちに僕の家に着いた。

 ここに来てしまえば、通りすがりの人々に一人でブツブツ言っているやばい奴、といった視線を向けられずに済む。

 まあ、割と手遅れ感があるけど。

「それで幽はなんで死んだんだ?」

『知らない。覚えてない。というか死んだとは限らないんじゃない?』

「――? そうなのか?」

『生霊とか幽体離脱とかさ』

「あー…………」

 確かにそうだな。

「で、幽は何がしたいんだ」

『うーん。とりあえず自分が誰なのか知りたいかな』

 至極まっとうである。



 さて、奇妙な同居人が増えてから一週間が過ぎた。

 一週間経った今、解ったことといえばおそらく幽は生きている人間ではないかということだった。

 というのも、ここ最近の手に入る限りの新聞等をかき集めて見たところ最近死んだ女子高生といった記事は見つからなかったので、幽が病死でもしたのでなければ生きているのではないか。

 そうなると、希望的観測ではあるが幽は生きている人間である可能性が高い。(?)

 それとわかったことがあと二つある。

 一つ目、幽は現在人間らしい生命活動が一切起きないということだ。

 お腹が減ることもなければ排泄することもないし、眠くなることもないようだ。

 もう一つは幽が触れるものは僕だけということだ。



『で、今日はどこに行くの?』

「昨日言っただろうが。幽が生きている以上、幽本体は意識不明である可能性が非常に高い。だから東京中の病院でそれらしき人を探すんだよ」

 さて、こうしていると自分でも不思議になることがある。

 なぜ自分はこうも熱心に幽の素性を調べるのに必死になっているのだろうということである。

 それについて、自分なりに答えを出してみた。

 最初は自分についてくるこの幽霊が鬱陶しくて、なんとかして追い返そうとして必死になっていたのだろう。

 自分の私生活を誰かにずっと見られているというのは気分の良いものではない。

 だが今はそれとは違うのだと思う。

 自分は知りたいのだ。

 生霊といってよいのかどうかはわからないがという非現実的な不思議な存在について自分は答えを出してみたいのだと。


 そして幽自身について知ってみたいのだと。



「幽」

『なに?』

 今、僕らは次の病院へと向かって自転車を飛ばしているところだ。

「幽はもし自分の体が見つかったとしたら、元の体に戻りたいと思う?」

『ぷえっクシュ! うーん。よくわからないけど戻ってみたいのかな。自分が何者かは知りたいし、知りたいと思うってことは戻りたいと思っているんじゃないかな』

「…………そうか」

 嗚呼。

 自分が嫌になる。

 自分の中に二人の自分がいるような感触がある。

 一人の自分は幽が本当の自分を思い出し、元に戻れることを望む自分。

 もう一人の自分は、幽の体が見つからず、この自分だけの幽霊がずっと自分の側に居ればいいのにと思っている醜い独占欲にまみれたどうしようもない自分だ。


 って。

「今、お前くしゃみしたか!?」

『え? うん、したよ。そろそろ花粉の季節だからね。変なくしゃみが出ちゃったね』

 いや、確かに変なくしゃみだったがそんなことはどうでもいいのだ。

「お前、いつのまに花粉症なんて人間らしいことをするようになった」

『…………あ』

 そう、今までの幽の様子を見る限りは花粉症なんかになるはずがないのだ。

『どうしてだろう?』

「前例が無い以上、考えられることはほとんどないが。一つの考えとしては、実際の肉体に近づいて肉体と幽体がリンクしているのかも」

『て、ことは!』

 そう。

「この先へ進むとお前の体があるかもしれない」



『あー、そっちじゃないちょっと弱くなった』

「こっちか!」

 あれから一時間。

 幽をセンサー替わりにして僕らは進んでいる。

 どうも体に近づけば近づくほどリンクは強くなるらしく、幽の花粉症の症状が強くなるのだ。

 そして、

『また弱くなったよ』

「…………ここから離れようとすると弱くなる。ということは……」

 ということはここに幽がいるのだろう。

 こんな半透明の姿ではない、本当の幽が。

「ここなのか?」

『……うん、ここみたい。ここまでくれば自分の体を感じられる』

「…………そうか」

 幽の体があるらしき場所は、僕の家から十キロほど離れた大きな病院だった。

「ここでお別れだな」

『……そんなのさみしいよ。また会いにいくよ』

「馬鹿だな幽は。幽体離脱した時に記憶を失っていた以上、もとの体に戻ったときに記憶が残ってないほうが自然だ。それに――――」

 それに。

「覚えていない方がいいんだよ。自分が、たとえ一週間だったとしても幽霊だったなんて。お前がもとの体に戻ったとき、幽霊であった事実は存在せず。俺もここをたまたまここを通っただけのただの他人だ」

『…………ありがとう』

 嗚呼。

 幽の姿が消えてゆく。

 僕と一週間を共に過ごした幽霊が。


 僕が愛した幽霊が。


「さようなら」

 そう言った時、既に幽の姿はそこにはなくなっていた。




 それから更に一週間。

 あれから幽は何をしているのだろうか。

 呼吸をし。

 好物を食べ。

 家族とふれあい。

 自分の足で歩き。

 自分の体で生きているのだろうか。

 だがそれも、僕には関係のない話だ。

 ぼく、霊と幽は会ったことすら無い、ただの他人なのだから。

「…………暇だ」

 春休みももうすぐ終わる。

 もうすぐ訪れる新学期に憂鬱になっていると、インターホンが鳴った。

 リビングへと行き、インターホンに出る。

「はい。どなたですか」

『ぷえっクシュ!』


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