プロローグ
かつて、この世界を救った英雄がいた。
英雄の名は、ヴェルノ=ランドルフ。魔王の野望を打ち砕いたヴェルノには、2つの最強の装備があった。
右手には、どんな盾でも貫くことができる『最強の矛』。
左手には、どんな矛でも貫くことができない『最強の盾』。
この二つの装備の反則まがいの強さで、圧倒的な戦力を誇っていた魔王軍を全滅させたのだ。
彼は世界を救った後、自分の生まれ育った故郷の村に帰ってきた。
村人達は、彼を勇者として迎え入れ、盛大に宴が開かれた。魔王に支配される前の日常が戻ってきたことに村人達は歓喜した。
ヴェルノもこれまでの疲れを癒した。そして、ある女性との約束を果たそうとしていた。
人生の一大イベント、『結婚』である。ヴェルノは、旅立つ前にプロポーズをしていた。
「この旅から戻ったら、俺と結婚してくれ」
シンプルだったが、彼のプロポーズの言葉は、彼女の心を射止めた。
晴れて勇者の妻となった女性の名は、オリガ。オリガは美人だった。美人なだけでなく、快活明瞭で意思の強い女性であった。
ヴェルノは、家庭を持ち、幸せに暮らした。やがて、ヴェルノとオリガの間に子供ができた。助産婦の話では、双子だという。
しかし、オリガは昔から病弱で、出産に母体が耐えられないと、医師から警告された。ヴェルノは、オリガと二人の生活が幸せだった。
「子供は、諦めよう。僕は君と一緒に暮らせればそれで幸せだよ」
「駄目よ! 私が宿しているのは勇者の子よ! あなたの子孫を残さなければ駄目よ!」
「だが、それではお前が……」
「大丈夫! 私は簡単に死なないわ。必ず元気な子を産んで、一緒に暮らすんだから」
ヴェルノはオリガを止めることはできなかった。いや、できるわけがなかった。
自分の子を産みたいと強く願ってくれているのだ。ヴェルノにとってこんなに嬉しいことはなかった。
「わかった。もう俺はお前を止めない。元気な子供を産んでくれ!」
出産日当日、無事にオリガは、元気な双子の男の子を出産した。
しかし、彼女の夢は叶わなかった。分娩された双子の泣き顏を見たオリガは、安堵した顔で息を引き取った。
ヴェルノは、人生で初めて涙を流した。彼は、一晩中泣き明かした後に決意した。
産まれた子供達をオリガのためにも強く育てると。そしてそれから十七年の歳月が流れた……。