25 希望と希望
登場人物
ジョウ:主人公。異星技術で蘇ったサイボーグ。
リンナ:異星種族アラマーマの少女。
「一つ、頼みたい」
「は、はい。なんでしょう」
ジョウは以前から抱いていた想いを、ここで告げる事にした。
リンナは頷き、必死な目でジョウを見つめる。
そんな彼女に、ジョウは静かに訊いた。
「リンナは俺に、何をして欲しい? 俺は何をすればいい? それを教えて欲しい」
「え? え?」
大きな瞳をぱちくりさせるリンナ。
そんな彼女に、ジョウは静かに訊いた。
「俺は命を拾われて、その後も何かとやってもらってばかり……頼みをきいてもらってばかりだ。その俺は、リンナに何ができる? 何をすればいい?」
呆けていたリンナが、大慌てて掌を、首をもぶんぶんと横に振る。
「いやいやいや、私はしてもらう事なんて! そもそも私達が……」
動揺から大きくなりかけていた声が、急速に萎んでいった。
「……私達が来たのが、元凶なわけですし……」
視線がその心のまま、下に落ちる。
そんなリンナを前に、ジョウは呟いた。
「私達、か」
そこでほんの少し、考えた。
自分の考えを言葉にするため。
ジョウに超能力なんて便利な物は無いのだから、伝えるためには言わねばならない。
だから伝える。
「俺はアラマーマ人という種族を情報として知っているだけで、詳しく理解したわけじゃない。その人達みんなと仲良くしたいとも思わない。彼らが持ち込んだ害悪は――機械奇虫は、全て潰して地球上から消してしまうつもりだ」
「当然ですね……」
リンナは下を向いたままだ。
消されて当然の物を撒いたのは彼女達で、最近までその整備をやっていたのが彼女本人だ。
そのせいで命を落としたのがジョウである。
顔を直視し辛かった。
それでもやはりリンナはアラマーマ人だった。
ジョウへ今感じる胸の痛みは、同胞へ誘ってもらい、今唯一の身内になってもらったが故である。
それまでは地球人に対して、罪悪感など感じた事は無い。
アラマーマ人は、自分の身内と、他の一族・他の種族を同列に考えないのだ。
遠く離れた地で時を重ねてきた別種族同士。根本的な考えが異なった。
そんな異郷から来た異種族の少女に、ジョウは言葉を重ねる。
自分の気持ちを伝えるため。
ジョウに超能力なんて便利な物は無いのだから、伝えるためには言わねばならない。
だから伝える。ジョウ自身が、リンナに。
「君達だからじゃない。君……リンナだからだ。他の奴らが何をしてきたとか、何をしているとかいう話じゃない。リンナにして貰えた事に、俺は何かできないのか? 教えてくれ。何でもする」
嘘である。
アラマーマ人の味方につく事を既に蹴っている。どんな要求にも従うわけではない。
だがここまでの旅で、ジョウは感じていたし、確信していた。
己の知るリンナという少女は、地球人・ジョウが許容できない事を願う人ではないと。相手の言葉につけこみ、我欲でもって他者を踏みにじるような人では断じてないと。
そしてリンナが、おずおずと、躊躇いがちに、少しだけ恥ずかしそうに願った事は――
「……一緒にいてください。ずっと」
一生懸命訴えた。
自分の気持ちを伝えるため。
「私の一族は遠い故郷で、まだ残っているかどうかもわからないし、そこに帰れません。一緒に来た人はみんないなくなりました。それからはこの星でずっと独りでした」
一族で固まり、身内で繋がる比重が地球人よりずっと重いアラマーマ人にとって、周囲全てが敵の地にいる時間はとても長かった。不安と苦痛の底だった。安心など全く無かった。緩慢な時の流れにずっと沈んでいた。
彼女の視線が床の上をさまよう。
「また独りぼっちに戻るのは、もう嫌です……」
リンナにとってこの上なく悲痛な訴えを聞いたジョウは。
小さく、くすりと笑った。
「わかった。ずっと一緒にいる。最期までずっと」
そう言ってリンナの手を取り、掌を握った。
(嫌な事も多い今の世の中だけど……この娘と出会えて良かった)
そう考えながら、リンナの掌を揉む。
ぐにぐに、ぐにぐに。
以前、リンナが自分にしたように。
「ジョウさん?」
驚くリンナが思わず顔をあげてジョウを見る。
二人の視線がかち合った。
微笑んだまま、ジョウはリンナの掌を揉み続ける。
そうしながら訊いた。
「これってアラマーマ族の慣習なんだよな。どういう意味なんだ?」
わかりたいなら訊くべきだ。
訊かれたリンナは、少し照れ臭そうに「えへへ……」と笑ってから答えた。
「明確にどうというわけじゃないんですけど……一緒にいられて嬉しい、ずっと仲良くしたい……ぐらいの感じでしょうか」
わかってもらいたいなら伝えるべきだ。
伝わったから、ジョウは「そっか」と呟き、リンナの掌を揉んでいた。
ぐにぐに、ぐにぐに。
やはり世の中、お互い様でなければな。




