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section.14_新生活

結局、ラピスはニコルと同室で生活することになった。


ニコルが作業部屋として分けて使っていた部屋を作業部屋兼寝室として、ニコルの寝室だった部屋がラピスの部屋となった。


今のところ、世にいう間違いは起こっていない。


ただ、ラピスに出来ることは少なく、必然的に家事全般はらぴすがするようになっており、父と母がいた時の夫婦生活を思い起こしてしまうのは仕方のないことだろう。



ふっと目が覚めた。

時計を見るとまだ夜中だ。


ラピスは村ぐらしの癖で、眠っていても物音に反応してつい起きてしまう。


イタチやキツネに家畜を荒らされないようにするためだったが、ここでの生活ではあまり必要のない習慣となっていた。


そして、この部屋に住人は他には1人しかいない。


「ニコル……?」


時々だが、ニコルは夜中に起きて何かをしているようだ。最初は夜這いでもされるかと身構えてしまったが、そんなことはなかった。


今のところ何をしているのか確認はできていない。


ラピスは身体を起こす。


翌朝に冷蔵庫の中身を確認したことはあるが、変化がなかったので、つまみ食いしているという訳でも無さそうだった。


「何してるんだろ」


夜半に何をしているのか、確かめるには直接確認するしかなさそうだ。


ラピスは部屋のドアを開けてリビングダイニングに入る。最低限の灯りが点けられた部屋に少年はいた。


上は何も着ていない。半裸だった。


「ほわぁ!?」


「はい!?」


素っ頓狂な悲鳴に少年も驚いたようで弾かれたようにラピスに目を向けた。


ラピスは顔を真っ赤にして抗議の声を上げる。


「ニコル何してるの!?」


「何って、着替えですかね?」


ニコルがラピスのあまりの動転のしかたに首をかしげる。


ラピスは小さな村の育ちで、父親の病死からも1人で暮らしており、同年代の異性との関わりは少なかった。裸など見たことはないし、上半身であっても耐性がなかったのだった。


「な、何でそんな平然としてるの!?」


「何でって……まあ、ズボンはちゃんと着てるわけですから」


あまりに動揺しているラピスを見て、ニコルは乾いた笑いを浮かべた。


それの様子がラピスには、どうにも疲れているように見えた。


「何でこんな時間に……?」


そこで、ニコルの左腹部に大きな痣があることに気付いた。


「ニコル。それ、何?」


「え、ああ、これですか」


すぐに腹部の痣のことだと察したようで、手で痣の円周をなぞる。


「僕の覚えてる限りだと、もともとあったものなんです」


「…そうなの?」


そうはいうものの、痣はそれだけではなかった。右胸にもそれより小振りな痣がある。肩の辺りには切り傷の跡や火傷の跡まであった。背中にもあるのかもしれない。


腹部の痣も、どう見ても生まれつきあるような痣には見えなかった。


しかし、ニコルからは何かを隠して

いる様子は見て取れない。ラピスの視線に頭を掻くだけだ。


「さすがに、ジロジロ見られると変な感じですね」


「あっ」


その言葉にラピスは慌てて毛布で顔を逸らす。妙に気にするラピスがおかしいのか、ニコルは笑みをこぼした。


「そこまで気にしなくていいですよ」


そう言われても、自分でも判るほど顔が熱くなっている。


よく見ると、ニコルは頭にバスタオルタオルを被っていた。シャワーでも浴びていたようだ。少年は少女の視線に気付いたようだ。


「子供っぽいかもしれないですが、夢見が悪いと、夜中に目が覚めてしまうんです。寝汗も酷くてですね」


「そ、そっか……」


「……変な話、あんまり覚えてないんですけどね。起こしてしまってすみません。僕も片付けたら寝ますので、寝てください。明日もあります」


「……わかった。おやすみなさい」


「はい。おやすみなさい」


----------


翌朝、ニコルは仕事があるといって、ラピスが洗顔や着替えをしているうちに出かけてしまった。


ニコルがいない間はセレスとセラがいろいろと教えてくれるらしい。といっても、日用品の使い方は頭に入ったラピスは、あとはそれらを使うことに慣れるだけだ。


トーストにベーコンエッグ、サラダといった簡単な朝食くらいはラピスにも簡単に作れた。そもそも一人で自給自足の暮らしをしていた彼女にとって、必需品の揃ったキッチンでの料理などお手の物だ。


セラとセレスと朝食をとりながらラピスは口を開く。


「今日は何をするの?」


「ラピスちゃんが生活するこの街について。いろんなところに連れて行ってあげるね」


今日一日休みを貰ったらしいセラはとても上機嫌だ。明日は土曜日で三連休となるためだろうか。


何やら彼女の傍らには厚めの封筒がある。


「軍資金もあるし!」


「ラピスの日用品を買うためのな」


「わかってるよ」


はしゃぐ姉をいさめる妹というのは歳の差も相まってなかなか妙な光景である。自分が12歳の時はもっと親に頼りきりだった気がするラピスは首をかしげた。


「…そういえば、2人のお父さんとお母さんは?」


ニコルのことがあり、問うことを少しためらわれたが、セラはにこやかに返した。


「いるよ。忙しくて生活が不規則だからって別々に暮らしてるけど。週1回は様子を見に来るかな」


「まぁ、お前たちの親と私達の親では、少しあり方が違うけどな」


「そこは母さんと一緒に紹介したいかな」


「へえ……?」


セレスの遠回しな言い方の意味が分からず首を傾げるも、セラは話を続けることはなかった。複雑な事情でもあるのだろうか。


また、両親が健在で別々に暮らしているのも不思議に感じるが、セラとセレスの顔には特に不満そうではなかった。寂しそうだなと思うも、本人達がそれに納得している以上は口に出すべきではないのかもしれない。


そして、その結果としてセレスが11歳でこれだけしっかりしているのであれば、誰も文句は言えない。


「シーラさんは……ラルスさんと?」


セラとセレスともまた別に暮らすシーラだが、見ていてラルスと良い仲であることは判った。


セラは楽しそうに頷いた。


「そう。同棲中」


「…あんなののどこがいいんだろうな」


しかし、セレスの方は全くの他人だった男に姉がとられたことがどうにも面白くないらしく毒づいている。


家族の話で盛り上がりつつあるので、ラピスはニコルのことも聞いてみることにした。


「ところでニコルの身体の痣って何か知ってる?」


この質問で、空気が凍りつくとは思っていなかった。


和やかな雰囲気が一変したため、何が駄目だったのか分からなかった。


セラがゆっくりと息を吐いた。


「ニコル君の身体を見るような事、したの?」


一瞬、何を言っているのか分からなかったが、今を理解して少女は顔を真っ赤にする。


「違う!!ニコルが夜中に起きてて!何してるかと思ってたまたま見ちゃったの!!」


全力の否定に、姉妹は安堵の息を漏らした。


「ああ、そういう……」


「なんだ。あいつまだ夜中に目が覚めるのか」


セレスは何やら訳知り顔で納得する。事情を知っているのだろうか。


「知ってるの?」


「ああ、それは……」


「そこは、追々かな」


説明しようとしたセレスを遮る形で、セラに流されてしまった。

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