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section.12_都市国家軍事動向

都市は大きく分けて二種類ある。


元々その場にあった都市を利用して建造されたものと、何もない所に1から設計されて建造されたもの。


カルコサは前者に当たり、対してアイアスは後者に当たる。


カルコサのような都市は、元々の都市を利用していることもあり、それを所有していた政府が管理するため歴史が深く、経験も豊富といえる。


しかし元々からあった政治の気質やしがらみまで引き継いでしまう。


アイアスのような都市は、多くの移民が集まり、都市連合の下、政府と法が用意されたものだ。都市連合が形骸化した現在においても、その指針を順守している部分が多い。


例を上げると、アイアスは領土内に資源プラントなどは設けるものの、外部民への不干渉という法を建造初期から変わらず守ってきた。


警察機関のキャパシティの問題もあるが、都市内へのテロや武力行使への制裁以外は、領土、領空、領海内であっても城壁外の組織には干渉しない。


そのため、企業連合やギルド、キャラバンも活動しやすいのか領土内に施設や中継地が設けられ、活動申請までされている。つまり都市の城壁外では税金もとっていないわけだが、他勢力の城塞都市への出入りも多くなっており結果的にお金を落としてくれている。


そして、それは今のところ変わりそうにはない。


クレア・アーノルド、ジャックローレンス含め都市外活動専任特殊部隊、ハウンズの所属隊員はブリーフィングルームに集まっていた。


「不満は分かるけど、警戒態勢を継続。命令がない以上、動けないものは動けないよ」


苦笑を浮かべる男は大げさに肩をすくめた。眦の垂れた目付きと穏やかな口調は優男のような印象を与えるが、クレアやジャックの上官である。


「つまり、ハロルド・キース中佐。われわれ都市外活動専任特殊部隊であるハウンズに、防衛隊紛いの待機任務を継続せよということですね」


「ストロース中尉。その通りだよ」


隊長であるハロルド・キース中佐にわざわざ説明口調で再確認したのはレヴィナス・ストロース中尉だ。穏やかな笑みを浮かべて……いるのは口元だけで目は笑っていない。


不満気な様子を隠さないのはレヴィナスだけではない。先日クレアとジャックと共に出撃したメイア・シトウェル中尉も眉間にシワを寄せていた。褐色で堀が深く眦の上がったキツめの面立ちがより険しくなっている。


「そんな怖い顔は似合わないぜメイア。ようはお休みってことだろ」


「待機任務だボール少尉。仕事中はシトウェル中尉と呼べ」


カーシュ・ウィン・ボール少尉の軽口をメイアが諫める。士官組で不満を表に出していないのは彼ぐらいだ。


クレアとジャック、下士官の面々も微妙な表情をしていた。


「資源プラントの植林エリアを荒らされて、報復も無し……か」


「テロリスト相手なら即粛清なんだが」


「こちらに人的被害はなかったからね。もう少し手を抜いて被害を出すべきだったかな」


隊員たちの軽口に中佐が上官にあるまじき発言を返す。柔らかな笑みから感情の消えうせた表情で発せられた言葉に皆が静かになる。


「キース中佐は冗談がお上手ですね」


にこやかに返すレヴィナスも、この中では特に異質なタイプのように見えた。


異動してきたこの部隊の士官は癖の強い人間が多い。


もともとその手の噂はあり、個人機が割り当てられるメリットを天秤にかけてこの部隊に入ることを選んだものの、想像以上だった。


幸い、下士官の面々は冷静のように思える……というか、元都市の防衛部隊所属のものが多いため、待機任務に慣れているので、特に不満はないのだ。


対して。


「イライラした所で、もう傭兵じゃないんだから仕方ねぇだろ。何もしないで金が貰えるならいいじゃんか」


「ボール少尉。一応、待機任務なんだよ」


「中佐殿が一応ってつけちゃうのどうなんだよ?」


「……」


ハロルドが目スッと細めて睨み付けると、カーシュは無言で姿勢を正した。メイアとレヴィナスも背筋を伸ばす。


ハロルド含めこの4名の士官は元傭兵であるらしい。


「君達の気持も解る。俺達の得意分野は強襲に奇襲に殲滅で、それに特化した編成をしている。それが緊急発進(スクランブル)待機とは税金の無駄遣いこの上ないよね」


つまるところ、最も不満を覚えているのはハロルド・キース中佐その人なのである。


彼の苛立ちを表に出した威圧に、ブリーフィングルームの気温が何度か下がった気がした。


不満を漏らす傭兵組を黙らせると、ハロルドはクレアとジャックに向き直った。


「ああ、アーノルド少尉とローレンス少尉の異動研修は前回の出撃で終わりだよ。次の出撃からは君達にも下士官の隊員を指揮してもらうからね」


「了解」


「了解しました」


打って変わって穏やかな笑みでそう述べると、待機任務の班分けを告げられ、ブリーフィングは終了となった。


「冬が来たらまた忙しくなるだろうから、退屈な長期休暇とでも思ってくれ」


城塞都市や資源プラントへのテロやゲリラの襲撃は燃料や食料が必要になる冬に多くなる傾向がある。城塞都市の防衛隊も城塞都市外を専門とする都市外活動専任特殊部隊(ハウンズ)も、冬が最も忙しくなるのだ。


「ふざけた事を抜かすな。緊急発進(スクランブル)待機は休暇じゃないぞ」


ハロルドの締めの言葉に、忌々しそうな返答が返ってきた。


「おや、情報部のバルドゥル・ブリュール中佐、何か用かい?」


「貴様という奴は……」


ズカズカとブリーフィングルームに入ってきたバルドゥルを見るや、ブリーフィングを終えた都市外活動専任特殊部隊(ハウンズ)の面々は逃げるようにブリーフィングルームを後にした。


クレアとジャックも彼らに続いて逃げるようにブリーフィングルームを出た。


ブリーフィングルームからバルドゥルのハロルドを糾弾する声が聞こえてくる。


「今度は何したんだ、あの人……」


「知らん」


「情報部の女の子に、この前の緊急発進(スクランブル)の書類を押し付けたみたいよ」


クレアとジャックの疑問に答えが返ってきた。声のした方へ目を向けると、クレアより一回り背の低い女性が片手を上げていた。


「アンナ、こんなところで何してるんだ?」


鮮やかなブロンドの情報士官の女性を見付け、クレアは首を傾げた。そんなクレアにアンナ・クライヴ少尉はわざとらしく肩をすくめた。


「何って、私はブリュール中佐の補佐官やってるんだから当り前でしょ」


「いや、あの人は個人的に文句を言いに来ただけだろ」


「まぁそうなんだけど。ここに来たら、あんた達がいるかなと思ってね。お昼食べた?」


「まだだな」


「まだだ」


「時間あいてるなら一緒に食堂いかない?」


アンナの提案に乗り、クレアとジャックは早めの昼食を取ることとなった。


アイアスの都市軍の施設は都市の中にあっても厳重に隔離されている。


訓練での流れ弾が外側に被害を出さないようにするというのが表向きの名目だが、実際は軍人が外出禁止の時間帯に抜け出したり逃亡したりすることを防ぐためだ。


軍事施設の外に出られない訳ではないが、建国記念日や生誕祭、喪中以外の審査は厳しく、一年目の新米の申請はまず通らないといわれている。ただ、そのため施設内には、独身寮に食堂やマーケット、小規模なレジャー施設やスポーツジムなど必要と思われるものは揃っており、わざわざ外に出る必要がないと感じる兵士も少なくはなかった。


食堂の料理も下手に自炊して作った料理よりも美味かったりする。


クレアが持ってきた盆の上の料理の量を見てアンナは呆れ顔をした。


「あんた達の食生活見てると太らないことが不思議でならないわ」


クレアとジャックの盆の上にはチキンとサラダ、ライスの大盛セットに加え、ウインナーやベーコンといった小分けのおかずまで乗せられている。


アンナは日替わりのセットだが、ライスの量は減らされている。


「人を大食漢みたいに……。動かない時は私だってこんなに食べない」


「動かない時が無いから、いつもその量なのね」


「逆にお前はそれでよく持つな」


「私は情報士官なのよ?」


3人は軍学校時代からの腐れ縁である。

クレアとアンナは高等部のクラスメイトであり、クレアとジャックは大学部のゼミが同じだった。そして、アンナとジャックは幼なじみらしい。


そのため、3人は空いた時間に関しては何かと理由をつけて共に行動することが多い。


「それに、ジャックがいると男避けになるのよね」


「それは分からないでもない」


「そうなのか?」


ジャックは首を傾げるものの、顔面を横断するような傷跡があり、左半身は戦闘用義肢の男の傍らにいる女性に声をかける猛者は多くない。


ジャックは2人のそんな会話を他所に、左腕の戦闘義手を使い捨てのお絞りで吹いていた。お絞りがグリスで黒くなっていく。


食器にグリスが付くのを防ぐための手入れだ。


「……不便じゃないそれ?」


「慣れだな。食べ終えたら油を差し直す」


「シリコンカバーとかもあるんだろ?」


「そっちにつくグリス汚れを落とす方が手間だ」


義手を拭き終えたジャックは遅れて料理に手を付け出した。


「にしても、アンナはよく私達の場所が分かったな」


「都市外活動専任特殊部隊(ハウンズ)がブリーフィングルームを予約してたから、分かるわよ」


「……仕事中に調べてるのか?それ」


「片手間でできるわね」


情報士官、オペレーターたるアンナは軍の個々の部隊の情報を扱うことも多いため、クレアの部隊の上官や部下、部隊の別れた同僚のことまで知り尽くしていて、ときどきクレアは末恐ろしく思う。


表情に出ていたのか、アンナが唇を尖らせた。


「何よ。人がせっかくいいこと教えてあげようと思ったのに」


「いいこと?」


「ああでも、いいことじゃないかもしれないわね」


自身のモバイル端末を眺めながらそんな前置きをする。


アンナは、前のめりになり、真剣な表情でクレアにも顔を近付けるように促した。


どうにも、内密な話のようだ。


携帯の画面をこちらに向けているのはプライベートな話に見せるための演出だろう。ただの待ち受け画面だった。


「国境近くにあるカルコサ軍の駐屯地に部隊が集結しているわ」


「…!!」


「声上げるんじゃないわよ」


目を丸くしたクレアにアンナは眉間にしわを寄せた。

ジャックはと言うと、他人事のように聞いている。


「まだ表立って公表してない情報よ。アンタたちなら先に知ってて困る話じゃないでしょ」


「仕掛けてくるのか?」


「通信を傍受しつつ、目的を調べてるところよ。単なる人狩りで動く規模じゃないわね。斥候部隊らしき小隊が国境に向かってきてるわ」


「……すぐに出撃になりそうだな」


「目的を探るために見逃すって話が出てるわ。たぶんだけど、ブリュール中佐の今日の抗議はキース中佐へその件の伝達も入ってるわね」


泳がせて、入ってきた本隊を叩き潰したいというのが軍部のお上の考えらしい。冬になればテロ対策もあるので、不安の種は根こそぎ潰しておきたいのだろう。


話を聞いていたジャックも会話に加わる。


「一般のニュースだが、数日前にカルコサで護送車襲撃のテロもあったらしいな」


「そっちは、ウチに因縁つけるには弱いのよね。可能性はゼロじゃないけど」


別の都市軍との大規模戦闘の可能性。

クレアとしてはあまり歓迎できる話ではない。


「あんまり嬉しい情報じゃなかったな」


「そう?でも、先に知っといて損する話じゃないでしょ」


「まあな」


緊急発進(スクランブル)待機は退屈な休暇にはならなさそうだった。

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