表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/48

19:ふんわりシフォン(7)

「プレゼント?」


 ランドルフが怪訝な表情を浮かべ、クローディアを見る。

 クローディアはこくりと頷いて、寝衣のポケットから小さな包みを取り出した。その小さな包みをランドルフに見せつけながら、えっへんと胸を張る。


「ふふふ、これがあれば、狼にぺろりと食べられなくてすむの!」

「は?」

「じゃーん、シフォンケーキ!」


 包みを開くと、ふわりと甘い香りが広がった。クローディアは包みの中からシフォンケーキを一切れつまみ出すと、それをランドルフの口元へ持っていく。


「はい、あーん」


 そう、そもそもクローディアがシフォンケーキを作ろうと思ったのは、(ランドルフ)の食欲を削ぎたかったからだ。

 これでランドルフのお腹が満たされれば、クローディアは食べられない。

 食べられなければ、この先も安心して一緒に寝られる。


 なんて完璧な計画だろう。今こそ、その計画を遂行するべきだ。

 そう思っていたのに。


「いやいやいや、待て待て待て」


 ランドルフが真っ赤になって後ずさりした。ベッドの端まで下がっていき、壁に背を預けるような格好になる。


「お前、狼に食べられるって意味が本気で分かってなかったんだな!」

「え? 分かってるよ。狼はランドルフなんでしょ?」

「ああ、そこまでは合ってる」

「食べるってことは、お腹がすいてるってことでしょ? だから、大好物のシフォンケーキがあればお腹いっぱいになって、私を食べなくてもよくなるよね? そうしたら、一緒に寝ても大丈夫になるの」

「うん、そこの認識がやっぱり間違ってる」


 ランドルフは遠い目になった。


「これは、俺がクローディアを子ども扱いしすぎたせいなのか? というか、そもそも俺が男として見られてねえのか……?」

「なに一人でぶつぶつ言ってるの? いいから、早く食べて?」


 クローディアはシフォンケーキを持ったまま、ランドルフにじりじり近付いていく。


「はい、あーん」


 もう一度差し出すと、ランドルフは赤い顔をより赤く染め、本当にしぶしぶといった様子で口を開けた。

 クローディアはその口にシフォンケーキを放り込む。


 その時、ランドルフの唇にほんの少し指が触れた。指先に彼の熱を感じてしまい、クローディアの頬もなんだか熱くなってくる。


(あ……まただ)


 ピクニックの時と同じように、とくん、とくん、と心臓が大きな音を立てている。クローディアはランドルフの唇に触れてしまった指を胸元に引き寄せ、もう一方の手で包み込んだ。


 なんだろう、このドキドキ。

 風邪?

 風邪だったら大変だ。一緒に寝たらランドルフにまでうつしてしまう。


 クローディアは慌ててランドルフから離れようとした。

 けれど、クローディアの腕をランドルフが捕まえる。


「クローディア」

「ひゃあ!」


 離れるどころか強く引き寄せられてしまい、クローディアは思いきりランドルフにしがみつく羽目になった。ランドルフはクローディアを腕の中に閉じ込め、耳元で囁いてくる。


「なあ、お前、本当に俺のこと、少しも意識してねえの?」


 ランドルフの(かす)れたような声が耳の奥に響いたその瞬間、クローディアの身体が無意識にびくりと震えた。


「あ、あの、ランドルフ……離して」

「ちゃんと質問に答えたら離してやる。お前、俺のことどう思ってるんだよ」

「ど、どうって」

「男として見てねえの?」


 何を言っているのだろう。

 ランドルフは――どう見ても男性なのに。


「え、ランドルフは男の人でしょ? ……実は女の人なの?」

「そんなわけねえだろ。というか、微妙に質問に答えてねえな、お前」

「なんでちょっと怒ってるの……って、きゃあ!」


 ランドルフの腕から逃れようとすると、ベッドにころんと仰向けに転がされた。そのままランドルフが上から押さえつけてきたので、身動きがとれなくなる。

 部屋の明かりはついたままなので、こちらを見下ろすランドルフの顔がよく見える。

 彼は――今まで一度も見せたことのない表情をしていた。


 鋭い光を宿した翠の瞳。

 今の彼は、まるで獲物を前にした狼みたいだった。


 目を逸らしたくなるけれど、なぜか逸らせない。

 とくん、とくん、と鳴っていたはずの心臓は、今やばくばくと早鐘を打っている。


「ラ、ランドルフ、だめ。私……」


 こんなに激しい動悸がするなんて、これはもう風邪で間違いないだろう。顔も熱いし、頭もぼんやりしている気もするし。

 大変だ、ランドルフから一刻も早く離れないと。彼に風邪をうつしてしまう。


 それなのに、クローディアは動けなかった。

 ランドルフがふっと優しく笑って、頬を撫でてくれたから。


「なあ、クローディア。狼に食べられるっていう意味、ちゃんと教えてやろうか……?」


 頬を撫でたランドルフの手は、少しひんやりしていて気持ちよかった。そのまま大人しくしていると、ランドルフの指がゆっくりとクローディアの唇をなぞる。

 その指の動きはまるで宝物を扱っているかのように優しい。ドキドキは止まらないけど、不思議なことになんだか安心する。


 大丈夫、ランドルフは恐くない。


 風邪はうつってしまうかもしれないけど、許してもらおう。

 クローディアはふにゃりと微笑んで瞳を閉じ、そのまま身を委ねようとした。


「……クローディア。お前、もう少し頑張って抵抗しろよ」

「え?」


 ぱちりと目を開くと、そこにはいつも通りのランドルフがいた。彼は大袈裟にため息をついて、やれやれと首を振っている。


「というか、なんで流れに身を任せようとするんだよ。そんなに素直に俺の行動を受け入れるなんて、食べてくださいって言ってるようなもんだろ。なんだよ、お前は本気で俺に食べられたいわけ?」

「ええっ?」


 ランドルフときたら、さっき大好物のシフォンケーキを食べたはずなのにもうお腹がすいたのか。そんなにクローディアがおいしそうに見えるのか。


「ランドルフは、とんでもない腹ペコさんだったのね……。あ、もう一個、シフォンケーキ食べる?」

「ここまでやっても、お前には全然響かないんだな……」


 ランドルフは半眼になりつつ、クローディアの上から身体を退けた。


「まあ、さっきのでお前が俺のことをどう思ってるのかは、はっきり分かった」

「え?」

「お前は俺に心を許しすぎてる。だからこそ、ここでもう一度言っておく」


 ランドルフはクローディアの目をじっと見つめ、真剣な声音で告げた。


「俺には既に心に決めた存在がいる。だから、俺のことは好きになるな。いや、好きだと言われたら普通に嬉しいんだけど……でも、俺は、その気持ちにたぶん応えてやれないから」

ブックマーク、お星さま、いいね、感想などの温かい応援を、いつもありがとうございます♪

応援のひとつひとつが全部嬉しくて、すごくすごく元気をもらっています!


さて、活動報告でもお知らせしていた通り、2月4日~6日は更新をお休みします。

7日から再開して毎日更新に戻る予定です。



このお話を見つけてくださり、読んでくださり、本当にありがとうございます!

これからもよろしくお願いします♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらのお話も読んでもらえたら嬉しいです!

桃色もふもふ竜の恋のお話。
『溺愛するから、もふらせて』(異世界恋愛・全38話)

イケメンなあみぐるみとの恋物語。
『婚約者様は、あみぐるみ!』(異世界恋愛・全51話)

怪力令嬢の恋物語。
『怪力令嬢は可愛い花嫁に憧れる』(異世界恋愛・全11話)
― 新着の感想 ―
深夜に読んでいたら、まさかの飯テロ……シフォンケーキがすごくおいしそうで、一緒に食べたくなってしまいました。いますぐ(笑) でも、うまく作るのってとても難しいんですね。それができるようになったクローデ…
今回はどきどきしたシーンが沢山ありました。 クローディアがあまりにネンネで驚きました。 年齢が間違えてるのか?と思うくらい。 お城では一体お姫様教育はされてなかったのでしょうかね? でも、お城から出た…
[良い点] 感想を連投してしまい申し訳ありません……あまりにもクローディアがふわふわで可愛くて。 少し狼になりかけたランドルフにもキュンとしました。 いい雰囲気、と思ったらラストの台詞。 切ない予…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ