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13:ふんわりシフォン(1)

 シフォンケーキ。


 空気をたっぷりと含んだふわふわの食感は、その名の通り、薄く柔らかい布である絹――「シフォン」にそっくり。

 しっとりとした舌ざわりとあっさりとした味わいは、食べた人みんなを幸せで満たしていく。


 表面は明るい茶色、切り分けた断面はほんのりと黄色が混ざった白。

 見た目も食感も味も、全てがほわんとした優しい印象のケーキ。

 それがランドルフの大好物だ。


「おいしいシフォンケーキを作れるように、頑張らないと!」


 ランドルフにぺろりと食べられるわけにはいかない。クローディアはジルフレードの助言に従って、さっそくシフォンケーキ作りに挑戦することにした。


 シフォンケーキの作り方を教えてくれるのは、騎士団の食堂で働くシンシアという女性。彼女は濃い茶色の髪をひとつに結び、腰に手を当てて堂々と立っていた。年は二十代半ばくらいだろうか。つり目気味の瞳が凛としていてかっこいい。


「あたしのことは、師匠と呼ぶように。いいわね?」

「うん、分かった! シンシア師匠!」

「素直でよろしい!」


 シンシアは、ランドルフとジルフレードの幼なじみなのだという。三人とも、この辺境騎士団が作られるずっと前から一緒にいるらしい。


「それにしても、ランドルフが『ひみつ婚』したって聞いた時は信じられなかったけど……クローディア姫を見てたら、なんか納得したわ。あいつ、こういう子放っておけないタイプだもんねえ」


 腕組みをしながら、シンシアはうんうんと頷く。


「しかも、クローディア姫もランドルフにべったりみたいだし。もうこのまま正式に結婚しちゃってもいいんじゃない?」

「それはダメなの。『この婚姻は半年間だけ。正式なものになる前に必ず白紙に戻す』って約束だもん」


 シンシアの軽口にクローディアが真面目な顔で答えると、シンシアはきゅっと眉間に皺を寄せた。


「でも、クローディア姫はランドルフのことが好きなんじゃないの? あいつのために、シフォンケーキを作りたいんでしょ?」

「えっと、シフォンケーキを作るのは確かにランドルフのためだけど……ランドルフのことは、別に好きじゃないよ。だって、『好きになるなよ』って言われてるもん」

「なんかややこしいことになってるのねえ」


 シンシアはひょいと肩をすくめたけれど、すぐに気持ちを切り替えて、ぱちんと手を鳴らした。


「まあいいわ。雑談はこれくらいにして、さっそくシフォンケーキを作りましょう!」

「うん!」


 食堂に併設された調理室は、お昼の忙しい時間を過ぎて、ゆるりとした雰囲気となっていた。今なら自由に調理室を使うことができる。


 シフォンケーキを作ると決意した時から、もう一週間は過ぎていた。今日は待ちに待ったシフォンケーキの作り方を教わる大事な日。早くシフォンケーキを作りたくてうずうずしてしまう。


 クローディアは今、やる気満々でお菓子職人風の衣装に身を包んでいる。丸っこい帽子やコックコートに似たワンピース、そしてフリルがたっぷりのエプロンは、清潔感のある白色だ。ところどころに赤いリボンがついていて、それがまた可愛らしい。


 動きやすいよう、袖やスカート丈は少し短め。中にペチコートをはくことでふんわりと膨らみを持たせたスカートは、裾が二段重ねになっていて、上は白、下はダークチョコレート色だ。

 パステルカラーの赤とオレンジのチェック柄をしたタイツに、赤いリボンがついた短めの茶色いブーツ。ブーツの上の方には白いフリルがついていて、足元まで可愛らしいデザインとなっている。


 この衣装は、この食堂で働く人たちの制服なのだそうだ。そんなわけで、シンシアも同じ服を着ている。お揃いなのが少し嬉しい。

 シンシアは、調理台の上に次々とシフォンケーキ作りに必要な材料と道具を並べていく。


 そこにやってきたのは、もふもふ竜のヴァルターだった。


「おれさまも、頑張るんだぞ!」


 ヴァルターは可愛いエプロン姿になっている。どこにあったのかは謎だけれど、ヴァルターにぴったりのサイズの小さな白いエプロンが用意されていたので、それを着ているのだ。

 クローディアとヴァルターが揃ったところで、シンシアが説明を始める。


「さあ、シフォンケーキ作りに必要な材料から確認していくわよ」


 シンシアは調理台の上に並べた材料を、ひとつひとつ指さしていく。


「卵、薄力粉、水、油、そして砂糖。この五つがあれば、基本のシフォンケーキが作れるわ。材料がシンプルだからこそ、コツを掴まないと失敗するから気を付けて」


 たった五つの材料でケーキが作れるなんて、信じられない。

 驚いて目を丸くするクローディアとヴァルターを見て、シンシアがくすりと笑う。


「シフォンケーキを焼くには、このシフォン型を使うのよ」


 そう言ってシンシアが手に取ったのは、銀色に光る不思議な形をした入れ物だった。背が高めの丸い器の真ん中に筒のようなものがついているその入れ物は、少しだけドーナツの型と似ている。


「食堂で出すのは大きめの型で作るんだけど……クローディア姫が作るなら、こっちの小さい型の方がおすすめかな。ミニシフォンの型なんだけど、これなら卵一個で作れるから」


 片手サイズの小さな型は、とても可愛らしい。クローディアとヴァルターは揃って目を輝かせる。

 これならとても可愛らしいシフォンケーキが作れそうだ。なんだかすごくわくわくしてきた。


 材料と道具の説明が終わると、いよいよ実践だ。

 シンシアは卵を手に取ると、卵黄と卵白にさっと分けてみせた。


「卵黄は生地のベースに、卵白はメレンゲにするの」


 そう言って、卵白を入れたボウルと泡立て器を構える。そして、卵白に少しずつ砂糖を加えながら、かしゃかしゃと泡立てていく。透明だった卵白はやがて真っ白なクリームみたいになった。


「メレンゲっていうのは、こんな風に卵白を泡立てたもののことよ。ピンと(つの)が立つくらいがちょうどいいの」

「わあ、とっても綺麗! シンシア師匠、すごい!」


 クローディアが歓声を上げると、シンシアがふふんと胸を張る。


「さあ、次は卵黄で生地のベースを作るわよ」


 メレンゲは一旦置いておき、卵黄の入ったボウルを手に取る。砂糖を入れて少し白っぽくなるまですり混ぜ、植物油を加える。卵黄と油をしっかりと混ぜた後、今度は水を加えて混ぜていく。

 最後に薄力粉を入れて混ぜ合わせると、黄色く優しい色合いの生地ができあがった。


「この生地のベースを、さっき泡立てたメレンゲと混ぜて……」


 メレンゲを泡立て器でくるりとかき回した後、三分の一ほどをすくい上げて生地のベースが入ったボウルの中に入れる。メレンゲと生地が軽く混ざると、ゴムべらに持ちかえて、残りのメレンゲの半分を加えてまた混ぜる。


 そうして最後に、生地のベースをメレンゲが入っている方のボウルに入れ、優しく混ぜ合わせた。

 空気をたっぷり含んだ生地はふんわりと滑らかで、とても柔らかそうに見える。


「シフォンケーキの生地はこれで完成。次はこれをオーブンで焼く準備をしましょう!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >卵、薄力粉、水、油、そして砂糖 バターじゃないんだ!あの軽い口当たりは油を使うのね! >ピンと角が立つくらいがちょうどいいの 簡単に言ってるけど、電動がないのにすごいよ~。 シンシ…
[一言] 師匠が付いているから……安心、よな(;'∀') 料理おそらく初挑戦……ワクワクですなぁ(;'∀')
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