『リルヴァ』との戦い2 〜首都『カームクラン』視点〜
ヒュオオオ・・・。
(なんだろう・・すごく嫌な感じがする・・)
リルヴァが『カームクラン』を襲撃し始めたのと同じ時・・。
『霊峰』の頂で『聖斧レガリア』を手にした事で『女神化』を果たしたシエラは、なんとも言えない胸騒ぎを感じていた。
それが、『邪神』を討伐するために備わった『女神』としての本能であるのかは定かではなかった。
そして、シエラは胸騒ぎがする方角に向かって意識を集中する。
それは、『カームクラン』がある方角であった。
ギュウウン!!
「!?」
シエラは意識を集中した瞬間に自分の視界が変化したことに驚愕する。
今現在、シエラの視界には吹雪の向こう側であり十キロ程離れている『カームクラン』上空の様子が鮮明に映っていた。
そして、そこには地上を蹂躙する『邪神』の姿があった。
視界が悪い中、それ程距離が離れたものを目視することなど常人には到底不可能である。
しかし、『女神化』を果たしたシエラの身体能力は格段に上昇しており、彼女は脳内で無意識に光魔導を発動させて遠くの景色を認識していた。
「あれは・・『邪神』!!」
ギリッ・・。
突如目の当たりにした絶望的な光景によって、思わず『聖斧』を握るシエラの手に力が込められた。
(今、ハーティーさん達は『女神教会』の話によると『エルフの国リーフィアへ向かっている筈・・いや、ハーティーさん達ならすでに到着してなんらかの行動を起こしているかも・・少なくとも『アーティナイ連邦』にはいない筈よね・・?だとすれば・・『カームクラン』が危ない!!)
もっと言えば『王都イルティア』や、シエラの住んでいる『帝都リスラム』も現在『邪神』の脅威に晒されているのだが、その事を現在シエラが知る術は無かった。
(『聖斧』レガリアに呼ばれたのはこのことを予見していたから!?それとも偶然?)
(・・いずれにしても、今『邪神』に対抗しうることができるのは・・私しかいない!)
「とは言っても、私はしがない宿屋の娘・・本当に『邪神』と戦うことができるかな・・・」
不安に駆られたシエラは無意識に自分の胸元に落ちる『女神ハーティルティア』のペンダントを握りしめる。
すると、シエラは不安で満たされた心が澄み渡るような気持ちになった。
「・・けど、ハーティーさんに二度も救われたこの命・・この世界を救おうとしているハーティーさん達の為に、決して無駄にはしない!!」
ゴオォォォ!!
直後、更に輝きを増したシエラのマナが溢れ出す。
「・・待っていて!『カームクラン』に住まう皆さん・・今、『聖騎士』シエラが助けに行きます!!」
ドォドォォォォォン!
そして、『邪神』に立ち向かう決意をしたシエラは『聖斧レガリア』を携えながら、猛烈なスピードで『霊峰』から飛び立った。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「うわぁぁ!落ちるでござるよ!!」
『ブースト』の効果がある為、跳び上がったあとは普通に着地したら良いと踏んでいたハンゾウは、突如現れた『奈落』に向かってなす術もなく落ちていく。
「ここまででござるか・・」
そして、自らの死を覚悟したハンゾウは静かに目を閉じた。
ブワッ!!
その時、落下するハンゾウに向かって突如強烈な上昇気流が当たり、その身体を再び高く舞い上げた。
「っ!?これはクウゼンの『エアウィンド』でござるな!!」
自分を救った気流の正体を知ったハンゾウは、クウゼンの方に視線を向ける。
クウゼンは『奈落』の範囲外からハンゾウに錫杖を向けていた。
「助太刀感謝するでござるよ!」
ダアァン!
ハンゾウは聞き取ってもらえるかはからないがひとまずクウゼンに礼を言いながら、まだ完全に『奈落』に飲まれていない家屋の屋根に無事着地した。
シュタ!シュタ!シュタ!
そして、ハンゾウは沈み行く複数の家屋の屋根を器用に渡り歩きながら、やっとの思いで『奈落』の効果範囲から脱出した。
「なんだか最近空中戦ばっかりですね・・・しかも、今回は地上に降りたら即『失われた神界』行きです」
「それはそれで悪くはないですが、ほむらはまだ現世を楽しみたいです!」
ドォォン!!
ほむらは一人でぼやきながら、再びリルヴァへと跳躍する。
ビシュシュシュシユ!!
直後、リルヴァは跳躍するほむらに向かって複数の触手を鞭のようにしならせながら伸ばした。
バシュウ!!
バシュウ!!
ほむらは迫り来る触手を、射出したワイヤーで自身の軌道を巧みに変化させながら回避する。
しかし、回避しきれないものがいよいよほむらへと迫ろうとしていた。
ジャキン!!
「忍刀術!『鎌鼬』!!」
シュババババッ!!
ほむらはそれを、二刀流による目にも止まらぬ速さの刀捌きで斬り刻んで対処した。
シュタッ!
しかし、触手を回避したことによってリルヴァ本体に到達できなかったほむらは、再び家屋の上へと着地することになった。
そして、着地したほむらの方へ再び触手が迫ろうとしていた。
「くっ!このままではジリ貧です!!」
ほむらは悔しさに歯を食いしばりながら、迫り来る触手に対処すべく再び双剣を構える。
ドゥルルルル!!
「っ!あれは!!」
しかし、ほむらに襲い掛かろうとしていた触手は、突如飛来した弾丸の嵐よって弾かれた。
ドゥルルルル!!
「お"の"れっ!小癪な"あ"!」
そして、止むことのない弾幕はリルヴァの動きを妨げ始めた。
その弾幕が味方の攻撃だと判断したほむらは背後に目を向ける。
すると、ほむらの視線の先、『奈落』の範囲よりも遥か遠い場所に、魔導高射機関砲が鎮座しているのが小さく見えた。
そして、その周りには、連邦軍が集結しつつあった。
・・・・・。
・・・・・・・・。
ドゥルルルル!!!
「ヒャッハー!弾はまだまだありますぞ!!撃って撃って撃ちまくるのです!!」
「今回の魔導高射機関砲は前のとは違いますぞおおお!!」
けたたましい発砲音が響き渡る中、ほむら達へ援護射撃をしている魔導高射機関砲の側で、壮年の美丈夫が大声で叫びながら目を血走らせていた。
そして、その様子をミウとシゲノブ、連邦軍の兵士達が唖然とした様子で見ていた。
「・・・シゲノブ殿、マルコは気でも触れたのかえ??」
「いや・・某も少々驚きを隠せないのだが・・・」
ドゥルルルル!!
「ふはははは!『邪神』の好きにはさせませぬぞ!この街にはハーティー様やクラリス様達が生み出した魔導具がたくさんあるのです!やらせはしませんぞおお!さあ!皆さん!今回弾丸は連邦軍持ちです!砲身が焼き切れるまで撃ちますぞお!」
「マルコ殿!その弾丸は付与した魔導を発動させる為に魔導結晶が組み込まれているのだぞ!?一体一発いくらすると・・・ああ、仕方ないとはいえ軍の予算が・・・」
シゲノブは毎分五百発の弾を発射する魔導高射機関砲を眺めながらオロオロしていた。
「・・・まあその予算を決めるのは主に妾なんじゃがな・・」
ミウは無事に今回の戦いが終わった後、どうやって議会を説得しようかと頭を抱えた。




