『黒の魔導結晶』の在処
そんな一波乱から暫く経った後、落ち着きを取り戻したハーティ達はマクスウェル達を連れて、再び謁見の間へと戻っていた。
「・・玉座に座るハーティを見ていたら不思議な気分になるな」
マクスウェルは壇上の玉座に座るハーティを見ながらしみじみと呟いた。
「まあ、確かに『神界』でも敬愛する主様はいつも戦場を駆け巡ってらっしゃいましたから、わたくしもあまり玉座に座るお姿は見ることがありませんでしたわね」
「はあ、私だってこんな所に座っているのは落ち着かないわ・・よっと!」
そう言うと、ハーティは壇上から降りてきて皆の前までやってきた。
「やっぱり私はこっちの方がいいわ。だって、みんな昔と今を共に戦ってきた仲間達だもの。たとえ、私がどんな存在だとしても、いつまでも私達は対等よ」
ハーティの言葉を聞いた一同は頷きながら微笑み合った。
それを見たハーティは満足げに頷くと、再びリフィアスへと顔を向けた。
「じゃあ、仲間も揃ったことだし・・本題に入るわね、リフィアス」
「リフィアス様が封印されているという、『黒の魔導結晶』のことですね」
ハーティの言葉を捕捉するようにユナが口を開いた。
「・・そ、そうですわね!マクスウェル様の到着が予想より早かったので、うっかりしてましたわ!」
「・・本当はもう少し主様と楽しく過ごしたかったのですが・・」
そう言いながら、リフィアスは表情を曇らせた。
「心配しなくても大丈夫よ!無事に『黒の魔導結晶』を浄化することができて『邪神』の脅威が無くなったら、その後は私自身の身の振り方も考えないといけないけど、きっとあなたのそばにも居られるわ!」
「ふふ、それもそうですね・・」
ハーティの言葉を肯定している筈なのに、リフィアスの表情は暗かった。
「・・それで、『黒の魔導結晶』はいったいどこにあるの?」
「・・・そのことですが、封印された『黒の魔導結晶』を取り出すのに、敬愛する主様の助力をお願いしたいのです」
「助力?そんなの全然問題ないわ!私に出来る事なら何でもするわ!言ってちょうだい?」
「はい・・ありがとうございます。それで早速なんですが・・敬愛する主様は私と一緒に『リーフィア』北部にある、『生命の泉』と呼ばれる場所まで来ていただきたいのです」
「『生命の泉』?わかったわ!そこに『黒の魔導結晶』が封印してあるのね!?」
「・・まあ、そんな感じですわね」
リフィアスはハーティの言葉を聞いてはにかんだ。
「リフィアスの言う通り、私ももっとゆっくりしたいけど、何より『デスティウルス』復活の可能性を潰すのが最優先だわ。だから悪いけど、皆をその場所に案内してくれる?」
しかし、ハーティの言葉を聞いたリフィアスは静かに首を横に振った。
「・・いいえ。申し訳ありませんが、『生命の泉』には、わたくしと敬愛する主様、そして、かつて女神だったリリスの三人で行きたいのです」
(どうして三人?『神界』に存在した私達以外に知られたらまずいことでもあるのかしら?でも、それがリフィアスの望みであるなら仕方ないわね)
「・・わかったわ。じゃあ、その『生命の泉』には三人で行くわよ。悪いけど、みんなは王宮で待っていてくれる?」
「ま、仕方ないわね!でもハーティ?『神界』の仲間達だけだからって、あんまり昔話に花咲かせて遅くならないでよね!」
ハーティの言葉に対して真っ先に答えたのはクラリスであった。
「『リーフィア』に危険なところはないでしょうけど、ハーティルティア様・・お気をつけて」
「わかったわ。ユナ」
「じゃあ、私は街に出て暇つぶしでもしようかな?ナラトス様!ご一緒願えますか?」
「うん?ああ。わかった」
「ではわたくしもマクスウェル様と街を散策しますわ!何と言っても今まで閉鎖的だった『エルフの国リーフィア』ですものね!こんな機会はまたと無いですわ!」
そう言いながら、フィオナはマクスウェルの手を強引に引いた。
「ちょ!?まってくれ!フィオナ嬢!私はまだ行くと返事はしていないぞ!」
「さあさあ、帝国の姫をエスコートするのも王子の立派な仕事ですよ!」
「ちょっとまってくれ!フィオナ!っは!ハーティ!私はすぐ戻るから!」
「いいえ、結構よ。そのままゆっくり二人でデートを楽しんで来てね」
ハーティがマクスウェルにかけた声は、自分でも驚くほど冷淡なものであった。
「なっ!?ハーティ!妬いているのか!?違う!誤解だ!私は・・」
「さあさあ!行きましょう!マクスウェル様!」
「ああ・・ハーティー!?」
悲痛な叫びも虚しく、マクスウェルはそのままフィオナにずるずると引き連れられて行った。
「ふんっ・・・・・。じゃあ行きましょう?リフィアス、リリス!」
フィオナに連れ去られるマクスウェルを、まるでゴミでも見るような眼差しで見送ったハーティは、そのまま踵を返すとリフィアスとリリスに声をかけた。
「え、ええ・・わかりましたわ」
「で、その『生命の泉』にはどうやっていくの?」
ハーティの問いに対してリフィアスはニコリと微笑んだ。
「もちろん、ここから飛んでいきますわ」
「え!?リフィアス、飛べるの!?」
リフィアスの言葉を聞いて、リリスが驚きの表情を浮かべた。
「わたくしはこれでも『ハイエルフ』です。流石に敬愛する主様とまではいきませんが、少々なら飛べますわよ?・・え!?ぷぷっ・・もしかして、リリスは飛べませんの?」
「なんですって!」
「まぁまぁリリス、あなたは私が抱えて飛ぶから!ね?」
ハーティの言葉を聞いたリフィアスは、ぶわっと瞳を潤ませながらハーティにしなだれかかった。
「主様ぁ〜〜実はわたくしも飛べないんです〜〜わたくしも抱えてください!」
「いや、リフィアス!今自分で飛べるって言って、私の事を馬鹿にしていたでしょ!?」
「ちっ・・。ふふーん、ですが主様の手を煩わせる訳にはいきませんよね?ですから私が抱えましょう。ええ、そうしましょう!」
「ぐ・・そう言われると断れない」
「・・二人とも、いいからさっさと行くわよ」
そして、リリスがしぶしぶリフィアスに抱えられる形となって、三人は『生命の泉』に向かうことになった。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
キィィン・・シュタッシュタッ!
謁見の間から『生命の泉』までは数キロしか離れておらず、『飛翔魔導』で向かった三人はあっという間に到着した。
「わあ・・ここも綺麗ね」
ハーティ達が降り立った『生命の泉』は森林が少し開けた場所になっていて、そこには太陽の光を反射してキラキラと輝く美しい泉があった。
「・・ここは、わたくしがこの世界で初めて目が覚めた場所なのです。今から五千二百年も前・・ここから、わたくしの今世が始まったのですわ」
リフィアスは泉を眺めながら、懐かしそうに目を細めた。
「だから『生命の泉』と名付けたのね?でも、こう言っちゃあれだけど、とても『黒の魔導結晶』が封印されている場所には見えないけど・・」
「確かにそうですね・・」
リフィアスは泉を眺めながら首を傾げる二人を静かに見ていた。
「・・・・」
そして、瞳を閉じながら暫く考え事をする様な表情をすると、にわかに微笑んだ。
「いいえ・・確かに『黒の魔導結晶』はここにありますわ」
「そう?泉の中?それとも、またどこかに特別な力を持った樹でもあるのかしら?」
ハーティの問いかけを聞いたリフィアスは再び美しいプラチナブロンドの双眸を開くと、静かに口を開いたわ。
「わたくしが申し上げた通り、『黒の魔導結晶』はわたくし自身が確実に失わない場所に封印しました。つまり・・今、『黒の魔導結晶』はわたくしの身体・・正確には胎内に宿っているのです」
そう言いながら、リフィアスは静かに自らの下腹部に手を当てた。




