甘い二人
リフィアスが練り上げたマナは、巨大な塊になって今にも放たれようとしていた。
「あわわ!だめよリフィアス!落ち着いて!」
そして、ハーティは慌てて練り上げたマナによる魔弾をマクスウェルへ放とうとするリフィアスの前に立ちはだかった。
「どいてください主様!そいつを殺せません!」
「だからダメだってば!」
ハーティが必死に止めるが、リフィアスはマナを練り上げるのをやめる様子はない。
「・・・・」
「私は見ていません。これは誤解の生み出した事故なのです・・」
「ふふ、ざまぁですね。いつかこうなると私は思っていました。因果応報です。ええ」
そんな状態を見て、フィオナは恐怖により動けず固まっていた。
そして、狂信者であるリリスとユナは、事態を見なかったことにしたり、ほくそ笑んだりして、この機会にリフィアスによってマクスウェルを亡き者にしてもらおうとしている魂胆が見え見えであった。
そんな様子を見ていたハーティは、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしなさい!リフィアス!!マクスウェルに危害を加えると言うのなら、私が全力で相手になるわ!!!」
ゴォォォ!!!
怒り心頭のハーティは身体から滾る激しいマナの奔流により白銀の長髪を逆立てながら、割れんばかりの声で叫んだ。
「ひいぃ!」
そして、リフィアスはハーティの激しい剣幕にあてられて、練り上げたマナを霧散させながらへたり込んだ。
「うう・・主様に怒られましたぁぁ!しくしく・・!」
ハーティに怒られたのがあまりにショックだったのか、リフィアスはそのまま静かに泣き始めた。
「大丈夫ですか!?マクスウェル様!!」
「あ、ああ大丈夫だ。フィオナ嬢・・」
そして、気を取り直したフィオナは同じくへたり込んだマクスウェルに駆け寄った。
「リフィアス様、いくら高貴な身分とは言え一国の王子に敵意を向けるとは一体どういうことですか!場合によっては国際問題になりますよ!」
「まあ、最終的にハーティルティア様の怒りがあのまま爆発していたら、国際問題どころか『リーフィア』そのものが焦土になっていたかもしれませんが」
リリスはそう言いながらうんうんと頷いていた。
「ひぃ!」
リリスの言葉を聞いたフィオナは、ハーティに目を向けて青い顔をしながら後退りしていた。
「や、やっぱりそんな恐ろしい人とマクスウェル様が婚約者であることを認めるわけにはいきません!」
「ちょっ!?フィオナ嬢!?君は何を言い出すんだい!?」
そしてフィオナは立ち上がると、ハーティの目の前までずんずんと歩み寄った。
「ハーティ様、あなた『女神様』と呼ばれてちやほやされているんですよね?でしたら、あなたの方から『マクスウェル様とは添い遂げられない』とはっきり言ったらいいのではなくて?王国はあなたの言葉なら何でも聞くんですわよね?」
「フィオナ嬢!やめるんだ!君は帝国人だから何とも思わないかもしれないが、ここにいるのはハーティを神聖視する者ばかりだ!これ以上皆を刺激する発言はよしてくれ!」
マクスウェルに嗜まれたことで、フィオナは激しく気落ちした。
「・・わ、わかりましたわ・・マクスウェル様がそうおっしゃるなら・・これ以上は言いません」
しかし、再びフィオナは鋭い視線をハーティへ向けた。
「ですが!わたくしがあなたを認めたわけではないということは、ゆめゆめお忘れなきようお願いしますわ!」
「は・・はぁ・・」
ハーティはフィオナから一方的に突っかかられていることに納得がいかないながらも生返事を返した。
「しかし、ハーティが『リーフィア』の女王になるとは・・しかし、これでハーティはオルクスと身分的には同等・・向こうが『女神教』を信仰しないことを理由に強引に召し上げることはひとまず避けられたわけか・・」
マクスウェルは誰にもはっきりと聞き取れないような声量でぶつぶつと呟いていた。
「どうしたのマクスウェル?急にぶつぶつ言い出して・・」
「ん!?ああ何でもないよハーティ!ただの独り言だ。・・だが、ハーティが一国の主になると言うのなら、我々『イルティア王国』も付き合い方を考えなければならないな」
「正直『女神』として国を導いて欲しかったのは私達の方だったのだがな・・この件については本国に戻ったら父上に相談するとしよう」
ハーティは一人思案しているマクスウェルを見つめると、おずおずと声をかけた。
「・・あの・・ごめんね?マクスウェル。あの時、嘘をついてあなたの前からいなくなったこと・・申し訳なく思っているわ・・」
俯きながら声が尻窄みになって行くハーティの顔を見返していたマクスウェルは、そんなハーティの手を優しく手に取った。
「「「「っつ!?」」」」
それを見た四人ほどの人間が息を呑んでいたが、先程の事があるのでグッと堪えているようであった。
「ハーティ。君には君なりの大切な理由があったんだ。だから、私はこれっぽっちも怒っていないよ?ただ、私だって君の力になりたいんだ。私は君の婚約者なんだからね?」
「そのことなんだけど、私はこんな見た目になってしまって、もう普通の人間として生きていくことも難しいわ・・だからマクスウェルも私のことは・・」
「何を言っているんだハーティ!君はどんな姿になっても『ハーティ』じゃないか!私は『ハーティ』という一人の女の子を心から好いているのだから!」
真っ直ぐ目を向けながら想いを伝えてくるマクスウェルを見て恥ずかしくなったハーティは、思わず視線を逸らしながら頬を染めた。
「も、もう!マクスウェルは昔からそんなことばっかり言うんだから!!でも・・ありがとう」
「ハーティ・・」
「くっ!おのれ・・色ボケ王子め・・!」
「もげればいいのです」
「やはり、先程消し炭にするべきでした!!」
二人の甘い雰囲気を狂信者トリオは悔しそうに眺めていた。
「はあ・・で?この茶番はいつまで続くわけ?」
そんな中、珍しく空気になっていたクラリスのぼやきが虚しく響き渡った。




