王宮晩餐会 〜イルティア王国視点〜
その後会談の間へと案内されたオルクスと国王陛下は無事に調停書への調印を終え、晴れて二国は正式に同盟国となった。
そして、調停式を終えたその日の夜、王宮にて予定通り記念の王宮晩餐会が開催されようとしていた。
王宮晩餐会は王宮敷地内にある『迎賓館』と呼ばれる夜会専用の建物で開催される。
会場となる迎賓館内の大ホールは数百人の晩餐会参加者を収容できるほど広大で、外国の要人も招くという趣旨から内装は豪華絢爛であった。
その床は一面が絨毯敷となっており、柱や屋根には見事な意匠の彫刻が描かれていた。
会場の奥の一部分は全体が見渡せるように数段高くなっており、そこには王族や主賓が座る座席が設けられていた。
そして、その壇上の奥には更に高い位置に祭壇が設けられており、玉座にあるものより一回り小さいながらも立派な『女神ハーティルティア像』が祀られていた。
既に会場内には王国の主要貴族やその子息子女が集まっており、国王陛下の入場を待っていた。
また、マクスウェルやミリフュージア、ユーリアシスも既に壇上で待機していた。
それからしばらくして、楽団の演奏が始まると王国宰相であるレイノス侯爵が招待者達の前に現れた。
「『神聖イルティア王国』国王、ジル・グレイル・サークレット・イルティア陛下の御成ー!」
レイノスの口上が終わると、会場の大扉が正装した騎士により解放されて国王陛下が会場へ入場した。
そして、そのまま壇上へ上がると、そのまま体を先程自分が入場してきた門へ向ける。
レイノスが国王陛下の配置が完了したのを確認すると、再び口上を述べた。
「それでは主賓であらせられる『魔導帝国オルテアガ』皇帝、オルクス十四世陛下並びに皇女であらせられるフィオナ・エンパイアス・オルテアガ殿下のご入場です」
オルクスの口上が終わると、再び楽団が演奏を始めて場内は拍手に包まれる。
そして扉が開かれると、オルクスとフィオナは真っ直ぐに主賓席へと向かって国王陛下に挨拶をした。
オルクスは黒を基調とした盛装をしており、胸元の上品な白銀色のクラバットが映えていた。
フィオナは先程とは異なるシャンパンゴールドのドレスを着ており、真紅の髪との対比で華やかさを演出していた。
「見て、オルクス陛下・・とてもすてきだわ」
「二十代半ばの皇帝なのに未だ独身だとか・・やはり高貴すぎてお相手がいらっしゃらないのかしら」
「フィオナ殿下も美しいわ、なんでも王国へ留学なさるとか」
「何とかお近づきになりたいわ」
皇族の二人を見た会場にいる貴族達が思い思いの言葉を連ねる。
少し場が騒がしくなる中、それを鎮めるように国王陛下が話し出した。
「皆の者、本日はよく集まってくれた。皆が知るように、此度我が『神聖イルティア王国』は『魔導帝国オルテアガ』と共に手を取り合うことになった」
「これは我らの歴史上未だかつてない大変喜ばしい出来事である」
「これもひとえに我らが敬愛してやまない『女神ハーティルティア様』のお導きによるやもしれん」
「今日はこの記念すべき出来事を祝してこのような場を設けた。是非楽しんでいってくれ」
「では、晩餐会開催前に今日も我々に安寧を下さる女神ハーティルティア様に一同、『最敬礼』!」
ザザッ!
皆が敬虔な『女神教』信者である王国貴族は、まるでそれが魂に刻まれているように一糸乱れぬ動きで『女神像』へ向けて『最敬礼』を行う。
それに取り残されるようにポカンと立っていた皇族の二人はやや遅れて周りに合わせて『最敬礼』をした。
そして、その『最敬礼』を皮切りに晩餐会は始まった。
楽団の優雅な生演奏の中、色とりどりの料理が並んでいる。
今回の晩餐会は二国の友好を大々的に王国貴族に知らしめる為、参加する貴族も非常に多い。
なので、貴族には馴染みのある夜会のようなビュッフェ形式で食事が提供されていた。
そんな中、歓談が始まってすぐにオルクスは王国の貴族達に囲まれていた。
その取り巻く貴族の中でも一際高貴そうな人物が自分の娘を連れ立ってオルクスへ挨拶をするために声をかけた。
「陛下に拝顔叶いまして恐悦至極に存じます。私はこの国で財務大臣をしておりますランサムと申します。本国では侯爵位を賜っております。以後お見知り置きを」
「丁寧な挨拶痛み入る」
「此度の同盟はとても嬉しく思います。これから二国間の交流も深まるばかりでしょう」
「そうであることを余も願う」
「国交が生まれれば財務大臣という肩書き故、これから陛下へ謁見する機会もあるかと存じまして、此度は我先にと挨拶へお伺いした次第です。本日は我が娘を連れておりまして、せっかくの機会なのでご挨拶させて頂いてもよろしいですか」
ランサムは両手を揉みながら饒舌に挨拶の言葉を述べていた。
「うむ、よかろう。挨拶するが良い」
「陛下のお許しが出たぞ。ほれ、挨拶せい」
ランサムが娘に挨拶をする様に促すと、連れ立っていた娘が前に出て膝を折った。
「ご尊顔を拝見出来まして心より嬉しく思います。わたくしはランサム侯爵家が長女、『マーガレット・フォン・ランサム』です」
マーガレットは栗色の緩やかなウェーブの髪をハーフアップにした、ハーティやフィオナとまでは行かないが、なかなかの美人であった。
「なかなかどうしてお淑やかすぎるといいますか、今年二十一になりましたが未だお相手が見つかりませんでな。気立てはとても良いのですが・・陛下も独身でいらっしゃるようですし、折角ですのでお相手させてもらっても良いですかな?」
「なにっ!貴様!抜け駆けは許さんぞ!」
「く、うちに年頃の娘がいれば・・・」
王国の貴族達は帝国との交流により生まれる利権に食い込もうとしたり、独身であるオルクスに年頃の娘を充てがうべくお互いを牽制しながら躍起になっていた。
「オルクス陛下、帝都での襲撃による災害について心中お察しします」
「いや、それはお互い様である。『女神』のお力添えで寧ろ被害は最小限で済んだしな」
「それはようございました。お話を聞きましたら、陛下は此度の晩餐会が終わればすぐに帝国へ戻られるのですね」
「ああ、一国の主が未だ災害の傷が癒えない帝都をいつまでも留守にしているわけには行かぬのでな」
「そうですか・・あの、差し出がましい事と存じますが・・」
そう言いながら、マーガレットは顔を赤く染めながらもじもじと体を動かしていた。
「何かな?マーガレット嬢?」
オルクスに促されたマーガレットは意を決したように口を開いた。
「あ、あの!宜しければ、わたくしの思い出のひとときの為に一曲でいいので一緒に踊ってはいただけませんか!」
マーガレットが発した渾身の言葉を聞いて、オルクスはふっと優しい笑顔になった。
「お誘いありがとう。だけど、申し訳ないがそれはできない。私には心に決めた人がいるのでな。彼女以外とは踊らないようにしているんだ」
「・・そうですか」
それを聞いたマーガレットはもちろんだが、周りの貴族達も一様に落胆の表情を浮かべていた。
「それは初耳ですな。わたくし、ランサムはこれでも情報通だと自負していたのですが・・しかし、陛下でしたら望めばどのような女性でも口説けそうなものですが・・」
ランサムの言葉を聞いたオルクスは表情を曇らせた。
「それがなかなか手強い女性でな?まあ、『世界が平和になった後に改めてお話しましょう』と言っていたから完全に振られてはいないのだろうがな・・」
そう言いながらオルクスはどこともない遠くを眺めた。




