オルクス皇帝の来訪 ~マクスウェル視点~2
「・・・・」
マクスウェルはフィオナの視線に直ぐ気づいたが、なるべく視線を合わせないようにしていた。
そんなマクスウェルの様子を見ていたオルクスは不敵な笑みを浮かべていた。
「ちなみにフィオナは余と年齢が離れていてな。ちょうどマクスウェルと同じ歳だ。隣国での生活に慣れないこともあるだろう。是非面倒を見てやってくれ」
「あ・・ああ」
「うふふっお兄・・陛下、お恥ずかしいですわ」
頬を染めて恥ずかしがるフィオナを一瞥しながら、マクスウェルは自身の父である国王陛下へ歩み寄って小声で話しかけた。
「父上・・」
「うむ、『友好の証』ということでオルクスは自分の妹を差し出したのであろう。国交が無かった国と同盟を結ぶにあたって相手国の信頼を得る為に自国の要人を『人質』として置いて行くのはよくある話だ」
「もっと言えば、これを機会に王太子であるマクスウェルとの婚姻を持ちかけてくるやもしれん。二国の友好を深めるのに互いの王族同士で政略結婚をするということはある意味正しいことだ」
「ですが・・私にはハーティが・・」
「うむ。確かに今は『ハーティルティア様』が婚約者である事は変わらぬし、『女神教』を崇拝している我が国としては何としてもそれを推し進めたい」
「だが、問題になるのは人としての『ハーティ』という点で考えれば、かの御方の身分が『侯爵家令嬢』ということであるな」
「もし帝国がフィオナ嬢とマクスウェルの婚姻を推し進めてきた場合に、『皇女殿下』と『侯爵令嬢』では格が違いすぎる」
「そうなると政略的には自ずと格上である皇女を正妻にせねばならぬだろう」
「よもや『女神教』総本部がある『神聖イルティア王国』が至高なる『女神ハーティルティア』様を側室に据え置くわけには行くまい。それこそ、世界中の『女神教』信者が黙っていないだろう」
そう言いながら国王陛下は顔を顰めた。
「で、ですがハーティは『女神様』ですよ!例え『皇女殿下』であっても格下にはならないはずです」
しかし、国王陛下はその言葉を聞いて目を伏せた。
「確かに我々信者にとってはそうだ。だが、それはあくまで『女神教』上の話だ。帝国は今まで大々的に『女神教』の教えを否定してきた。つまり、オルクス自身が『女神教』信者ではないと公言すれば、彼にとっては『女神様』も唯の『ハーティ』という、一人の少女となるわけだ」
「さらに悪いのは皇帝であるオルクス自身も『独身』と言うことだ。しかも帝国側は『皇女』を差し出すのだ。もし、その対価としてこちらからも婚姻相手を出すのであればそれ相応の身分が必要だ」
「だが、厄介なことに国内の王家はおろか公爵家にすら年頃の令嬢はおらぬ。レイノス侯爵が宰相と言うのもあるが、そんなこともあって『ハーティ』はマクスウェルの婚約者になったのもあるからな」
「最悪は『ハーティ』として、オルクスの妃になることを求められるやもしれん」
「そんな・・」
マクスウェルが顔を青ざめさせていた時、待ちかねたオルクスが二人へ歩み寄ってきた。
「話は終わったかな?」
「あ・・・ああ、すまない」
国王陛下がオルクスの問いかけに取り繕うように応対すると、それに続いてフィオナも書簡を侍従から受け取って歩み寄ってきた。
「では自己紹介も終わったことだし、我が帝国が今回親交の証として持参した品について話をしたい」
「フィオナ」
「はい」
オルクスに呼ばれたフィオナは手にしていた書簡を国王陛下へ差し出した。
「此度帝国が持参した品の目録だ。全てこれらの『魔導車』に積んであるので検めてほしい。ちなみに積んでいる『魔導車』も粗品であるぞ」
「帝国の『魔導車』を粗品呼びとはまったく貴国は恐ろしい国だな」
そう言いながら国王陛下は苦笑いをした。
「いや、目録の筆頭になるのだが、その筆頭の品に比べたら『魔導車』などそれこそ本当にただの粗品だ」
「どれ、一足早いがお披露目しよう。そこの荷台の布を取り払ってくれ」
オルクスが手短な人間に指示をすると、一番大きな『魔導車』が牽引していた荷台に積んだ物に被せられた布が一気に取り去られた。
そして、それまで布に被せられていた大型の発導機らしきものが明らかとなった。
それを見て王国の人間達が刮目する。
「これは・・・」
「これこそが我が帝国の筆頭魔導研究者であるクラリス博士が構想し、『女神ハーティルティア』の協力の上完成させた新型の発導機だ」
「なんと、ハーティルティア様が手ずから支援なさったと・・・」
「それが事実ならこれはとんでもない『神器』なのではないのか」
ザワザワ・・。
皇帝の言葉を聞いて、その場にいた王国の人たちがざわめき出した。
「これは名を『プラティウム・マギフォーミュラ・マナ・ジェネレーター』と言う」
「その名の通り、女神ハーティルティアが生み出した『神白銀』で造られたこれは、定格マナ出力で十五万サイクラを叩き出す凄まじい魔導具だ」
ザワザワ・・・。
「馬鹿な!?そんなの桁違いではないか・・まさに『神器』と言っていいものであるな」
「うむ、余はこれを今回貴国に譲渡し我が国の技術者と貴国の神官や魔導士と共に『対邪神用決戦兵器』を生み出そうと考えている」
皇帝から次々と発せられる衝撃の言葉に場は騒然となる。
「そこでフィオナをそのプロジェクトに加えて欲しい」
オルクスの言葉に続いてフィオナが膝を折った。
「彼女は皇女として公務を行う傍らで我が国のアカデミーの魔導工学においても首席の成績を維持している」
「今回の留学の内容によってはアカデミーを中退する形となるかもしれないが、その実力は『第二のクラリス博士』と言われているほどだ。期待してもらっていい」
「ジル国王、およびマクスウェルよ。どうかわが妹と共にこの品を『邪神討伐』の為に役立ててほしい」
「若輩者ではありますが、わたくしも全力でお役に立てるように頑張ります。どうかよろしくお願いします」
そう言いながらフィオナは深々と頭を下げた。
「わたくし、王国のことをもっと知りたいのです。是非いろいろ教えてくださいね。マクスウェル様!」
「あ・・ああ」
フィオナの上目使いを伴ったお願いに、マクスウェルは気まずそうに頬を掻いた。
そんな空気を払拭するかのように国王陛下が咳払いをする。
「おほん!・・オルクスの思い、しかと受け止めた。我が国は『邪神討伐』の為に今一度貴国との同盟を誓おう」
「では、オルクスよ。こんなところで長話をするわけにもいくまい。調停書を取り交わす為にも我が王宮内へ案内しよう」
「その後は王宮晩餐会も予定しておる。ぜひフィオナ嬢も楽しんで行ってくれ」
「はい、ありがとうございます!初めての王国ですので楽しみにしておりますわ!」
「ではマクスウェルよ。皇帝とフィオナ嬢を案内してくれ」
国王陛下はそう言った後再びマクスウェルへ耳打ちした。
「ひとまずは皇帝の意図はわからぬが、帝国との親交はぜひとも深めたい」
「故に、失礼のないようにな」
「・・・わかりました、父上」
マクスウェルは含みを持った表情を押し隠すと、帝国の皇族を案内するために歩き出した。




