ハーフ・ドワーフの錬金魔導士2
「めめめ・・女神ハーティルティア様あああああ!!」
改めてハーティの『女神化』を目の当たりにしたカツは、すかさず『最敬礼』の姿勢をとる。
「・・・・」
ハーティが整備場を見渡せば、ミウやユナはもちろん整備に参加していた全員が一様にハーティに向かって『最敬礼』をしていた。
「ぐぬぬ・・正体をわかっていてもこの姿を目の当たりにしたら本能的にひれ伏してしまうのじゃ・・・」
「安心してください。それはミウさんが『女神教』に対して確かな信仰心がある証拠なんですから」
ミウの言葉に、ユナは『うんうん』という感じで頷いていた。
「というか、何でクラリスは平然とハーティの横で立っているのじゃ」
ミウの言葉を聞いたクラリスはきょとんとしていた。
「え?だってハーティはハーティだし?」
「ま・・まあ、私もこの姿を見ても普通にしてくれる人はありがたい存在だけどね・・」
「クラリス、ハーティルティア様の御前で頭が高いですよ」
クラリスへにこやかに声をかけるユナの声は全く笑っていなかった。
「それにしてもクラリス・・いきなり私の髪飾りを外さないでよね!」
ハーティはクラリスの手から自分の髪飾りを受け取ると、いそいそと自身の髪を結い直し始めた。
「お任せください」
それを見たユナが素早くハーティの髪をどこからともなく取り出した櫛で整える。
「あなた収納魔導もないのにいつもどこからそれを出しているのよ・・」
「『侍女』の嗜みですから」
そう言ってユナが意味深な笑みを浮かべながら暫く髪を弄っていると、再びハーティはいつもの桃色髪の姿へと戻った。
ハーティが元通りになったのを確認したクラリスは優雅に自分のツインテールを手で払いのけると、カツへと向き直った。
「どう?これでも彼女の事を小娘扱いする?」
クラリスの言葉を聞いたカツは顔を青ざめさせながら平伏する。
「めめめめ、滅相もございません!わし・・わたくしで出来ることでしたらなんでも協力させてもらいます!」
「す・・すいません、こんなことになりまして・・・ですがご協力頂けてよかったです」
『女神化』を目の当たりにしてからカツの態度が突然豹変したので、ハーティも気まずそうな表情を浮かべた。
「ななな・・・なにをおっしゃいまする!!あなた様は『女神様』であらせられますぞ。あなた様が望むことであればどのようなことでも実現させるのが我々人間の務めです!!」
「と・・とにかく皆さん、普通にしてください。そんな風にされると困ってしまいますので・・カツさんもどうか先ほどまでと同じようにしてください」
「そ・・それは無理でございます!!先ほどの態度はわたくしめが浅はかだったというか・・お恥ずかしい限りで・・」
カツの言葉を聞いたハーティはにっこりと笑った。
しかしその目は全く笑っていない。
「先ほどカツさんは『あなた様が望むことであればどのようなことでも実現させる』と言いましたよね?」
「うぐっ!?」
「言いましたよね?」
「・・・はい」
「私は急によそよそしい態度をされたら悲しくなります。けど・・それでも私への態度を変えてもらえないとなると・・・これは、もっと必死に皆さんへお願いしないといけませんね・・」
ハーティは作ったような悲しみの表情をして髪飾りに手をかけながら地面に膝を突こうとする。
「「「おやめください!!」」」
それを見た整備場にいるほとんどの人間が、悲鳴のような叫びで必死にハーティを制止した。
「では、私のお願い・・聞いてくれますね?」
「わ・・わかりま・・・わかったわい!!ああ、もう!まさかこんなことがあるなど思うまい!!」
カツは、もはやヤケクソといった具合に自分の髪の毛を激しく掻き毟った。
「では、『魔導緋色金』のこともご教授願えますか?」
「なによりハーティル・・ハーティ嬢の頼みじゃ。もちろん全力で対応させてもらう・・じゃがな・・」
「なにか問題があるのかえ?」
ようやく騒動が収まってほっとしながら立ち上がったミウはカツの方へと目を向けて問いかけた。
「さっきも言ったが『魔導緋色金』の錬金は非常に高度な錬金魔導が必要なんじゃ。じゃが、お主らは『魔導緋色金』の錬金を帝国で行いたいんじゃろ?」
「ええ、帝国でどうしても『魔導緋色金』を量産したいのよ」
「じゃったら、ここでそれを伝授するのは無理じゃな。『魔導緋色金』は配合レシピを渡して段取りを教えたらはいお終いと言うわけにはいかんのじゃ」
「それこそ、本当に帝国で量産しようというのなら、わしがそこまで赴かなきゃいかんじゃろな」
「・・そうなのね。さすがにカツさんにそこまでは頼めないわ・・」
クラリスの言葉を聞いて、整備場の空気が少し沈んだようになった。
「おいおい、どうしたんじゃ。じゃからわしが帝国まで行って『魔導緋色金』の錬金方法を伝授すると言っておるのじゃ」
「本当!?」
カツの言葉を聞いたクラリスは、再び表情に笑顔が戻った。
「ハーティ嬢の姿を見てわしはお主らを信じることにしたのじゃ。世界を危機から救う為ならわしは協力を惜しまん」
「ありがとうございます!カツさん!」
ハーティはそう言うとカツの手を両手で優しく包み込んだ。
「あ・・・いや・・・まあ・・」
ハーティに手に触れられたカツは急激に顔を赤らめながら恥ずかしそうな表情をした。
「ならばわらわもカツ殿が帝国に行けるように移動手段や滞在先などについて手配しよう」
「お嬢・・・感謝する」
「まあ、わしも元々帝国の『魔導工学』には興味があったからの。自身が学ぶこともあるじゃろ・・そういった打算もあるわけじゃからの」
「そうと決まれば準備が出来次第、すぐに帝国へ旅立つとしよう」
「感謝するわ!」
そう言いながら次はクラリスがカツと堅い握手を交わした。
そして、それを見たハーティがパンッと手を鳴らした。
「さてと、じゃあ話もまとまったことだし・・『カームクラン』の街に繰り出そっか!!」
「『やきそば』でしょ・・あと『おでん』って言う料理も気になるし・・うふふ・・楽しみだなあ・・」
ガシ・・。
ハーティは話が終わったと言った感じで『カームクラン料理』の屋台を散策しようと歩き出したが、その肩をクラリスにしっかりと掴まれた。
「ちょっと、何しれっと出かけようとしてるのよ。まだあなたの『錬金』が終わってないでしょうが!」
「バレたか・・・てへ」
「『てへ』じゃないわよ!早く『プラタナ』の『神白銀化』をしてよね!!」
「だって・・六十トンもでしょ・・『神白銀』の錬金って、マナは食うし集中しないとだし時間もかかるからお腹すいたらできないよ・・」
「だったらマルコに買いに行かせたらいいでしょ!マルコ!!」
「はい、ただ今」
クラリスの掛け声でマルコが素早くやってきて恭しく礼をした。
「ハーティが好きそうな屋台料理を適当に見繕って買ってきて頂戴」
「かしこまりました」
「このやり取り・・クラリスの屋敷でもあったわ」
ハーティはそう言いながら項垂れた。
「わしも一端の錬金魔導士じゃ。『女神様』の錬金には興味があるぞ。ぜひ見せてくれ」
「是非、わらわも見たいのじゃ」
「うう・・・屋台散策がぁ」
ハーティは涙を呑んで愚痴を漏らしながら、錬金魔導を発動すべく『プラタナ』へと歩み寄って行った。




