ハーフ・ドワーフの錬金魔導士
ミウを招待した夕食会から数日が経ち、『白銀の剣』が滞在する屋敷の研究施設は慌ただしく動いていた。
先日ミウから提案があったように、研究施設は商業ギルドから来た技術者や『シノサキ財閥』から派遣された職人たちによって賑わっていた。
「クラリス博士、この資材はどちらへ搬入すれば良いでしょうか」
「ああ、それはあそこに『第二資材置き場』って札を立ててあるスペースに運んで頂戴」
「あのぉクラリス博士ぇ、三番コンソールで接続エラーの表示が返ってくるのですが・・」
「四番コンソールと同時接続していない?あれは四番が優先になっているから同時に繋ぐと三番コンソールを認識しないのよ」
クラリスは魔導省で着慣れた白衣を肩から羽織る研究者スタイルで、技術者たちの質問に対して的確な回答を行いながら矢継ぎ早に指示を出していた。
「クラリス、もう来ていたの?精が出るわね」
「あなた達が遅いのよ。髪型なんてちゃちゃっと括ったら終わりじゃない」
クラリスはそう言いながら、自分のツインテールを弄っていた。
「クラリスも貴族令嬢なんですからそんなんじゃいけませんよ」
「反対にユナは私の髪の手入れに時間をかけすぎよ」
「何を言いますか。侯爵令嬢で『女神様』であらせられるハーティさんの身だしなみには一切の手抜きがあってはならないのです」
「わたしはもう侯爵令嬢じゃないし転生体であって厳密には『女神』じゃないわよ」
「イルティア王国に戻ったときにその言葉が通用したらいいですね」
「・・ぐっ!」
因みに、屋敷付きの侍女が三人の身だしなみを整えようとしたのだが、ハーティはユナが『私の仕事を奪うつもりですか!』と縋り付いてきた為に断り、クラリスは『時間が勿体ないから自分でする』と聞かず、ユナは『私はハーティさんの専属侍女なので、侍女が侍女に身だしなみを整えてもらうのはおかしいですよね?』と遠慮した。
身だしなみの話題が終わってハーティが整備場内を見渡すと、そこには改修が完了した『プラタナ』がハンガーに繋がれていた。
「『プラタナ』の本体はすでに改修完了よ。魔導銀鋼も届いたし、あとはハーティの仕上げだけね」
「『神白銀化』でしょ?全く世話が焼けるわね」
「あなたしかできないんだから仕方ないでしょ。因みに、今『プラタナ』用の『新装備』も作っているのよ?」
「『新装備』とはどんなものなんですか?」
「それは出来てからのお楽しみって事で」
「正直『プラタナ』は普通の魔獣に対しては強力な武器になるけど、浄化魔導でしか有効な攻撃を与えられない『邪神』には打つ手がないわけ」
「だから今『プラタナ』用の対『邪神』兵器を開発しているところなのよ」
「因みに、ユナ用の武器も今考えてるから楽しみにしていてね」
「それは楽しみですね」
「と、いうわけでハーティにはしばらくせっせと頑張ってもらうわよ!」
「全く・・人使いが荒いんだから」
ハーティがため息をつきながら『プラタナ』の横に視線を流すと、隣にはもう一つのハンガーがあり、そこには下半身を失った『メルティーナ』が吊られていた。
「これは・・」
「『メルティーナ』も修理をしてあげようと思っているのよ」
「ニアールとはあんな別れ方をしたけど、あたしは彼女の事をライバルと思っていたし、大切な幼馴染だと思っているのよ」
「だからニアールの全てを賭けた『メルティーナ』を、出来るだけ彼女が望むであろう形で修復してあげたいのよ。いつか『闇の力』から解き放たれて再会した時の為にね」
そう語るクラリスの表情からは寂しさを感じた。
「そう・・私もそんな日が来るのを望むわ」
少し場が湿っぽくなっていたその時、整備場の勝手口からミウがやってきた。
「どれ、調子はどうじゃ?」
「ミウさん、おはよう。おかげさまで整備は順調よ。本当に素晴らしい施設だわ」
「それは何よりじゃ。そうそう、前から言っていた『魔導緋色金』の錬金が出来る錬金魔導士を連れてきたぞ」
「彼が『アーティナイ連邦』随一の錬金魔導士である『カツ・クラマ』じゃ」
ミウに紹介された『カツ』と言う名の人物は、通常の成人男性と比べると身長がかなり低く、割腹の良い体型に顔の半分を隠すほどの髭を蓄えた中年の男であった。
「『カツ』だ。みんなそう呼んでるからお前らもそう呼んだらいい。大体お前らの視線で聞きたいことはわかるから先に言わせてもらう。わしは種族で言えば『ドワーフ』と言われている『モンゴラル民族』と『カームクラン民族』のハーフじゃ」
「『モンゴラル民族』はそのほとんどが『ドワーフ』で構成されている民での。種族的に器用な技術肌が多いのじゃ。だから『カームクラン』の商業ギルドにも多数『ドワーフ』が在籍しているのじゃ」
カツの言葉に続いてミウが補足説明をした。
「そうなんですか!話には聞いていましたが『ドワーフ』の血が入った方を初めて拝見しましたので。私は『ハーティ』と言います。冒険者として国を渡り歩いてます」
「あたしは、『クラリス』。ミウさんにあなたのことをお願いしたのはあたしよ」
「私は『ユナ』と申します。ハーティさんやクラリスと同じパーティで冒険者をしています」
自己紹介を終えたカツは、しかめっ面を崩さないままハーティ達を順番に見定めた。
「ふん、『シノサキ』んとこのお嬢が頼んできたから取り敢えず来るだけ来てみたが、ただの小娘ばかりじゃねえか」
「『魔導緋色金』はわしんとこのご先祖様が長年研究して漸く生み出したものじゃ。素材の配合もシビアゆえ、なかなか簡単に教えられるもんじゃねえ」
「あんたら見た限りじゃ魔導具を作るには素晴らしい人材かも知らんが錬金魔導なんぞさっぱりじゃろ。そんな奴に教えるこたぁねぇな」
「なっ!いきなり失礼ね!それに錬金はあたし達がするんじゃないわよ。錬金に使う素材の配合と術式をあなたから教わったら、それを本国に伝えて帝国にいる高位の錬金魔導士に『魔導緋色金』を錬金してもらうのよ!」
「はん、余計気にくわねぇな。わしんご先祖が苦労して作ったものを、なんでよその国に教えてやらにゃならねえんだよ」
「それはわらわも説明したじゃろ?こちらのクラリス博士を含めた三人はこれから来るであろう『厄災』に備えて対抗しうる力を手に入れようとしているのじゃ」
ミウの話を聞いたカツは尚のこと見下したような表情をした。
「はんっ!そんな与太話を信じろってか?この小娘が『女神ハーティルティア』様の生まれ変わりだあ?わしゃ何度も女神像を見てきたし、わしん家にも祀っているが、いくら嬢ちゃんが別嬪とは言え『女神様』にゃあ敵わんさ。がっはっはっ!」
ピクッ!
カツの言葉に、ユナはすぐさま反応した。
「あなたの節穴な目を私が今すぐくり抜いてあげましょう」
そして、剣呑な表情で『女神の絆』に手をかけたまま間合いを詰めようとするユナをハーティは急いで羽交い締めにした。
「あわわわ!ユナ!落ち着いて!!」
それに反して、クラリスは酷く呆れている様子であった。
「はあ・・そんなに疑っているなら実物を拝んだらいいじゃない。というわけでハーティごめんね、あーらよっと」
クラリスはそう言いながらハーティの髪飾りに手をかけた。
「あ、ちよ!?クラリス!?」
ユナを羽交い締めにしていたハーティは抵抗することが叶わずクラリスに髪飾りを奪われてしまう。
パアァァァ・・。
その瞬間、ハーティの体から白銀の光が溢れ出し、瞳と髪が徐々に白銀色へと染まっていく。
「まあ世話になっているお嬢には悪いがこの話は無かったことぉぉぉぉ!!」
ミウの方を向いていてハーティの『女神化』に気づかなかったカツが言葉の途中でハーティの方を向いた瞬間、彼の顎は外れんばかりの勢いで開かれた。
「めめめめ・・・がみ」
そして、ハーティの正体を知っているミウですら、言葉にならない声を上げながら尻餅をついていた。




