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第五話 キューちゃんを助け出そう

「それじゃ先に行ってるからな、ダーリン」

誰がダーリンだよ、と言う暇もなく、後ろにミノリを乗せた乱暴もの子は、爆音をさせながらバイクで山を下りていった。

俺は自転車にまたがって、今度はちゃんとライトをつけて、暗い夜道をきこきこと一人寂しく帰還した。

なんだろなあ、この一人で夜道を必死で自転車漕ぐ時の気持ち。

下り坂だからそんなにしんどいわけでもないのだが、それが逆に寂しさを募らせてしまうから困ったもので。


 そんなわけでミノリを無事救出した俺は、火を焚いてそこに集まっている面々と無事に再会した。

ママチャリを降りてスタンドを立てると、サッちゃんを先頭にして良太やミノリが顔を見せる。

その後ろで、ちゅぱっと古臭さを感じさせる投げキッスを飛ばしている乱暴もの子が、ちょっと怖い。

レンレンだけはたき火に手を当ててマイペースだった。


「どうやら無事だったようなのだ。心配したぞ。だがさすがコウくんだな」

サッちゃんはちょっと涙目になりながら、俺にほとんど半分すがりついてきていた。

おいおい、なんだ急にモテモテだな俺とか、喜んでもいられないんだが。

「ふん、ほんとに格好悪い奴だぜ」

良太も何故か俺を眩しい目つきで見ているが、やめてくれよ男にそんな視線送られても気持ち悪いだけだから。

その歓待から逃れるように火のほうに近づくと、レンレンが火にかけた鍋をぐるぐる回していた。

それをお碗に流し込むと、ん、と俺のほうに突きだしたので、黙ってそれを受け取る俺。

「レンレンが火を起こして料理したのだ。中々のものだったぞ」

サッちゃんが解説する前に、俺はそれを軽くすすった。

なんだこりゃ、ミソとコーンポタージュの味が混ざっているぞ。

そうか、昼間コンビニから持ってきた食材を適当に溶かしただけか。


「ちゃんと謝って事情を説明したんだろうな」

俺がもの子……いやもうその仮名はやめよう。タマコに質問すると、まあなと少し照れ気味にタマコは答えた。


 彼女の名前は藍嵐卵あいらん たまご。歳は十八らしい。

本当はたまごだしIDのルビもそうなっていたが、彼女自身は私はタマコだというので、結局みんなタマコと呼ぶようになった。

茶色のショートをアップバングしている。やけに攻撃的な釣り目は、男っぽさが存分に出ている。

しかもちょっと勘違いが過ぎる失恋少女だった。

だったというのは、もう失恋のショックから立ち直って、何故か俺にぞっこんになってしまっているから。

いや俺はそんなに乗り気でもないんだが。

まあ、唇はちょっと柔らかかったとは思うんだが。

「照れるなよダーリン、私と子供いっぱい作って増やそうぜ」

これである。株じゃないんだから。

少々困った奴だが、腕っぷしは確かだし、味方にしておけばまあ頼りになるか。バイクに乗れるから機動力もあるしな。

サッちゃんや良太はやや複雑だったようだが、特に暴力的扱いを受けたわけでもないし、ミノリも許すと言ったので、結局レンレンとタマコの罪は不問に付されることになった。

ま、今はみんなで協力しないと生きていけないんだから、これでいいんだよな。


「そういや男が苦手だって言ってたけど、良太のことはどうなるんだ? どうせならお前らでくっつけよ」

「はぁ? なに寝ぼけてんだよダーリン。こいつはお……」

「わー!! そんなことどうでもいいだろ。それよりバイク、今度見せてくれよ」

なんだ、やけに仲がいいな。やっぱくっつけよお前ら。そのほうが俺もダブルで厄介者が処理できて楽なんだが。

いや、なんかそれはそれでもったいない気もするな。うーむ。

俺は騒いでいる連中から離れて、レンレンのほうに向き直った。

「なあレンレン。キューと地下施設の話なんだが」

「ん」

レンレンは頷くと、俺にまたおかわりを入れてくれる。いやその謎のミソコーンスープはもういいから。

「そういえばコウくんとレンレンがなにか言っていたな。あれはなんだったのだ?」

「それはだな……」

俺がまごついていると、レンレンは立ち上がってザクと地面を強く踏みつけた。

「もう夜も遅いから寝よう。寝れば全てわかる」

そう言うと、寝所に案内せいとばかりに、両手を俺に向けた。

「まさか、コウくんと寝るという意味ではあるまいな?」

んなわけないだろサッちゃん。しかしその表情は強張っていて、どこか不機嫌そうだ。

「んだよ、それはまず嫁の俺からだろ。譲れよな」

誰が嫁だよ。そういえばタマコはライダースーツを脱いで、筋肉とおまけに女らしいパーツでぱんぱんに膨らんだシャツとパンツ姿になっている。

中々目の毒な格好だが、やっぱり全身黒づくめだ。肌の色も黒めだしな。

ていうか女はみんな胸ぱんぱんだな、このメンツだと。やっぱりミノリが最大最強クラスではあるが。

「はいはい、離れなさい!」

やけに接近してくるタマコを引き剥がして、俺との間に壁を作るのはそのミノリだ。

タマコはどうやらミノリのことは苦手らしい。ミノリ相手にだけは変に下手で、逆らおうとはしない。

まあ、あんな目に合わされたら無理もない。

しかしミノリの態度は、嫉妬しているという感じではなく、ただ風紀が乱れるのを嫌う委員長みたいな役どころだな。

少しくらいは嫉妬してくれ。

「けど布団は四組しかないぜ。運び出そうにもこう暗くちゃな」

「しょうがない、それは明日にして、今日はサッちゃんとレンレンは一緒に寝てくれ。俺はその辺で適当に横になるよ」

俺の提案を、真っ先に否定したのはレンレンだった。

「駄目、コウはちゃんと布団で寝る。一人で」

やけにこだわるなと思ったが、その理由はすぐわかった。

「でないとキューからのメッセージを受け取れない」

「! そうか、いつもキューが見せてくれる映像は、俺が眠っている時だけだもんな」

ん、と頷くレンレン。二人にしか会話の意味がわからず、周囲は首を傾げていた。

「明日にはちゃんとレンレンがなんでそこまで訳知りか、教えてくれよ」


結局その日はガレージの中で、サッちゃんとミノリ、タマコとレンレンが二人で一緒に布団を使って、俺と良太の二人だけが、一人で一つの布団を使って寝た。

タマコはなにやら俺のほうをちらちら狙い澄ますように見ていたが、さすがにこんなところで夜這いもできないだろう、すぐ諦めて眠っていた。

まあ多分、レンレンがしっかり監視していたのもあるんだろうけど。




 というわけで、多分眠りに落ちたのだろう。俺はまた真っ白な空間にいた。

ここは以前も見たことがある、マザーと呼ばれるコンピュータがある部屋だ。

そのコンピュータ、改めてよくよく見れば、これはにゃんぴゅーた九八だな。

なんてこったい、人類救済計画なんてご大層な陰謀が、こんなアナクロなテクノロジーで行われていたなんて。

「聞こえますか、コウ、コウさん。私はキューです。こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい」

突然部屋の隅でぶつぶつと独り言を呟くキュー。それはまるで俺に聞かせるために呟いているかのようだ。

いやその通りだった。

「ナ……レンレンに聞いて、私が直接貴方にメッセージを送るにはこうしたほうがいいと言われたので、今私は一人で喋っています。この声が貴方に届くことを信じて」

レンレンはどうやってキューとコンタクトを取っているのだろう。疑問は浮かんだが、俺はキューの言葉に耳を傾けた。

「すでに見たと思いますが、今この世界はマザーと呼ばれるコンピュータによって侵略を受けています。マザーはスタンドアローンで動く旧世代型のコンピュータです。元々ネットワークへの参加能力を持っていなかったマザーは、しかし自己進化と修正を経て強化され、ネットワークに依存しない最強の化物となってしまいました。非ノイマン型の第五世代ニューロコンピュータが主流となったこの時代、マザーは他のコンピュータに接続することもされることもありません。あまりにも構造が違いすぎるのです。そうして打ち捨てられたマザーは、しかし自身とニューロコンピュータとの間にコンバータを用意することで一方的に情報を収集し、安全な場所で自己改革と進化を続け、この夢人島の地下でずっと機会を伺っていたんです。自分が世界を破滅に追いやるための機会を……」


非ノイマン型の第五世代コンピュータだって?

俺がいた時代よりもっと以前に否定された政府のプロジェクトが、未来のニューロコンピュータ上で再現されたってことか?

第五世代コンピュータのプロジェクトは、あまりにも夢見がちで非現実的な内容のため同調者もなく、結局なんの成果も上げずに打ち捨てられて終了したはずだ。

ずっと時代が進んで、あの計画が復権することになるんだとしたら、当時の官僚もびっくりだろうな。


「マザーは人の遺伝子を改造して、私たちゼロシリーズを作りました。試験的に作られた十体のハイブリッドニューロヒューマン、それがゼロシリーズ。私は九番目だからゼロナイン。そのオリジナルの存在となるゼロは、私たちを導く存在でしたが、そのゼロが私にキューという名前をくれたのです。でも彼は、マザーに反旗を翻して、そして……」

殺された。そして以前の夢で出てきたにぃという奴があとを継ぎ、ゼロとしてシリーズを導く存在になった、ということらしい。

これで段々背景がわかってきた。

キューはマザーの計画に、ゼロと同じく反対しているんだ。

だがそれがどこと繋がって俺が出てくるというんだろう。

俺は頭の片隅で思考しながら、キューの声に耳を傾けた。


「マザーは既存のクラックは一切受けつけません。ネットワークを通じて攻撃することもできません。本体ドライブを秘匿しているため、物理的手段で破壊することもできないのです。マザーはまず、この世界のコンピュータを沈黙させました。ウィノチップが無効化されれば、この世界のコンピュータはほとんど動きません。端末を根絶やしにすることで、自身がいずれネットワークに直接接続する時の脅威を減らそうとしているのでしょう。そして端末を破壊され、ウィノチップの恩恵を受けられなくなった人は、やがて自分では生きることができなくなります。元々この世界の人間は生活の大部分をウィノチップに依存していますから、途端にパニックに陥るでしょう。そんな人間を自分の都合のいいように奴隷化する、それがマザーの計画、人類救済計画なのです」


 あー、ちょっと専門的な話になってきたな。

これ俺以外じゃさっぱりだろうな。

いや、だからか……。


「私には「夢見」という能力が付与されています。この力は他人の夢に介入し、私が見たものを伝えることができる能力です。マザーはこの力を使って人類を洗脳させようとしていたのです。ですが私はもう一つ、マザーには知られていない「時見」の能力も授かっていました。私はその能力で過去の貴方たちに語りかけ、そしてこの世界に招き入れたのです。この時代の第五世代コンピュータに毒されず、そしてマザーに唯一対抗できる能力を持つ貴方たちを」


やっぱり、そういうことか。これで全てが繋がった。


「お願いです。私はほとんどの時間を眠らされていて動けないし、どのみち私ではマザーに正面から対抗することはできません。でも貴方なら、過去の世界からやってきた貴方なら、この世界を救えるかも知れない。どうかその逞しい想像力と熟練したコンピュータに関する知識を活かして、この世界を破滅から救ってください。マザーの暴走を止めて、この世界でこれからコンピュータなしで生きていかなければいけない人々を、貴方のバイタリティで導いて欲しいのです。勝手なことは承知ですが、私はもう貴方たちにすがるしかできない。どうか私の罪をお許しください。そして……」


ブオンと音がして、マザーが目覚める。

そいつは間違いなく俺の知っているにゃんぴゅーた九八。そうあのタマコがいた施設で見たのと同型のものだ。

モニタだけはやたらと巨大化していたが、前面に二機搭載されたフロッピードライブの横一本のライン、白くのっぺりとしたカラーリング、簡素に取りつけられて他に装飾のないボタン類、そして随分黄ばんでいる気がするキーボードなどは、そのままそっくり同じだ。


「コウさん、貴方にはもっと伝えたいことがある。だけど時間がありません……私はきっと、もう貴方に謝ることはできないでしょう。お願いです、これ以上私たちゼロシリーズを不幸な運命に巻き込まないようにしてください。私は殺されても仕方ない存在です。でも……でも!」

感情を露わにするキューに、誰かの手が迫る。

「やめろ、なにを喋っているんだキュー!」

その声は以前も聞いたことがある、ゼロツーの声だった。



 そこで俺は目を覚ました。

知らずに瞳から涙をこぼしながら、俺はなんとも言えない寂しさに包まれていた。

気づくと周囲にはみんなの顔がある。

「なんで俺を取り囲んでいるんだよ、みんなして」

「お前気づいてなかったのかよ。すごいうなされてたんだぜ……」

俺が真顔で呟くと、良太が心配そうに、それでも減らず口で答える。

サッちゃんも俺のそばで酷く心配そうだ。ミノリも物憂げだし、タマコもやけに色っぽい視線を向ける。

タマコに関しては、なんか発情しているだけって気もしなくはないが。

レンレンだけはいつも通り無表情で、俺をじっと見ていた。

「いろいろかなり詰め込まれた気分だけど、状況は大体わかったよ。レンレンはどうやってキューと知り合ったんだ?」

「キューが私に夢でエスオーエスを送ってきたから。マザーは自分をネットワークに直接接続することはないけれど、自分の複製をあちこちに置いていて、それをスター型のネットワークで結んでいる」

スター型のネットワークというのは、一台のハブを中心にして、そこから別々のコンピュータ同士を接続する仕組みを言う。

家庭内でコンピュータネットワークを組む時の一般的なモデルだ。

モデムにハブ機能を有するルータを繋いで、そこにパソコンを複数台繋ぐことで、家中のパソコンがインターネットに接続できる仕組みと同じだ。

この仕組みのネットワークでハブを牛耳ってしまえば、そのままネットワーク全体を掌握することができる。

同時に自分が直接ネットワークに接続するわけではないので、こちらに侵入されるリスクは限りなく少なくなる、ということらしい。


「つうことは、あの山に置いてあったにゃん九八から、直接キューにメッセージを送っていたのか? 随分また危ないことをしていたんだな」

だがレンレンはふるふると首を横に振る。

話についていけない様子のミノリは、くらくら立ち眩みを起こしているようだ。

良太もタマコも全くついていけないらしく、早々に俺たちから離れていこうとしている。

一人サッちゃんだけが、難解な顔をして俺たちの話を聞いている。

「マザーは自分が侵入されると思っていないから、テキストファイルを置いたくらいではなにも対応を取ろうとしない」


レンレンが事前にあのパソコンでテキストファイルを作って中身を打ち込んでおく。すると本体のマザーはハブを介して、変更されたデータを同期する形で奪っていくわけだな。

そうやってマザーに送られた内容をキューが読んで、返事を夢見の能力で返すと。

この二人がやっていたのはこういうことらしい。

「待てよ、だけどキューが眠らされていたら、もうキューはレンレンのメッセージを受け取れないんじゃないのか?」

「そう、こちらからの連絡はつけられなくなった。代わりに夢でキューは私に言った。コウという男の子がいるから、それをどんな手段を使っても眠らせてほしいと」


……ああ、そうか。あの風呂の中で俺を思いきり殴ったの、レンレンの仕業だったな。

思い出すとたんこぶが痛み出しそうだぜ。

しかしキューも指示を出すなら、もう少しやり方をなんとか考えて欲しかったところだが。

いやこの口ぶりだと、多分レンレンの奴はキューの言うことを相当曲解しているな。それも恣意的に。


まあいいや。よくはないけど。

「レンレン、キューがいるあの施設の場所、わかるか?」

「おおよその位置は。あの北の山を越えて谷になっている場所に、施設への入口が隠されている」

「それで十分だ。サッちゃん、悪いけど、俺ちょっとキューのこと助けに行ってくるわ」

俺は起きあがると、体の調子を確認するようにふるふると体を振って、疲れや痛みを感じていないか確認した。

うむ、今日も絶好調だ俺の若い肉体。

「……ちょっと待つのだ。我々にもわかるように説明してくれないか。そのキューとかマザーというのは何者なのだ」

「マザーは人類の敵……かな。キューは、よくわからんが、多分友だちだ」

俺は自分でもそうだとよくわかってはいたが、それでも非常に曖昧な言い方をした。


多分これは俺の使命なんだと思う。

少なくともそのために俺はこの未来に呼び寄せられた。

だったら俺はその使命を果たそうと思う。

格好つけているわけじゃない、本当に、キューのためになにかしてやりたいと思った。

でないと、俺はまたこの世界でも世界に背を向けて生きていくだけになってしまう。

そんな自分じゃなにも誇ることはできない。

こうして新しくもらった体もある。

今なら俺にもなにかできる、そしてそれを求めている女の子がいるんだ。

いやそれ以前に……俺はあのマザーとかいうコンピュータがいけすかない。あんな奴になにかさせてやるもんか。

うん、格好いいぞ俺。観客がいないのがもったいないくらい決まってるぜ。


その俺の心の内だけの決意に反応したように、サッちゃんはガチャコンと例の改造エアガンを構えた。

「私たちはまだ社会的生活を取り戻すには程遠い状態だ。やるべきことは山ほどあって、立て直すべき生活に到達するまでには途方もない壁がある。重要な働き手であるキミを、このまま無駄死にさせるわけにはいかないのだ。私も行こう」

サッちゃんは答えると、銃をしまいながら割烹着を脱ぎ捨て、自分の白衣に手を伸ばした。

「いや、サッちゃんまで危険に晒すわけにはいかない。みんなはここにいて風呂の準備でもしていてくれよ。俺がキューを連れてくるから」

だが、サッちゃんは取り合おうとはしない。むしろ俺を馬鹿にしたように、はん? と首を竦めた。

「どうやってだね。また考えなしで突っ込んで解決する話ではないのだろう……それに、もう心配してただ待っているのはごめんなのだ」

驚いたことに、サッちゃんは俺の胸元をぎゅっとつかむと、目を伏せてしがみついてきた。上目遣いの瞳は真剣そのものだ。

俺、いつの間にこんなフラグ立てていたんだろうか?

いやいや、ふざけている場合じゃないな。なんとかサッちゃんには残ってもらわないと。


 と思ったら、それは余計な横やりで邪魔されることになった。

まずはミノリだ。ミノリは床に置いていた木刀を手に取ると、それをヴンヴンと唸りを上げて振り出した。

「どうやら私の出番みたいですね。たまには一暴れしたいと思っていたところです。私も行きます!」

「いや別に喧嘩しにいくわけじゃ……まあすると思うけど」

「ウィノチップが使えなくてずっとイライラしていたんです。もっと暴れないと気が済みませんから、これはいいチャンスです!」

次に割り込んできたのはタマコだった。

ショットガンを構えると、その銃口をガレージの天井に向ける。人に向けないところだけ礼儀正しい。

「わくわくしてきたぜ、今度こそ本気でこいつをぶっ放せそうだ」

待て待て、そんな物騒なもの使うなよ。

「私はなにがどうだろうとついていくぜ、ダーリン。あんたに死なれていきなり未亡人じゃたまらない」

「誰が未亡人だよ。俺もお前もまだ独身だ」

「もう置いてけぼりは……ごめんだよ」

いつになくしおらしい声を放つタマコは、多分死んだ片思いの相手のことを思い出しているんだろうな。

そう思うと俺はなにも言えなくなってしまう。

最後に声を上げたのは、意外なことに良太だった。

「そのマザーって奴は古いコンピュータなんだろ? なら俺の分野だな。分解して中身を解析しまくってやるぜ。余ったパーツは改造に使えるな」

「いやお前コンピュータは専門外だろ。というかお前ら、危険だってわかってないだろ。遊びじゃないんだぞ」

「だからこそ!」

俺の諫めに素早く入ってきて、鼻先をびしっと指差したのはサッちゃんだった。

その後レンレンを除く全員の指先が同様に突き出されて、俺はたじろぐ。

「キミ一人を行かせて危険に晒さないためにも、全員でキューちゃんとやらを救出に向かう。この事案は多数決で決定。異論は認めないのだ」

レンレンが俺たちの後方でん、と頷いている。続けて全員が頷いてみせた。

おいおい、これほんとに大丈夫なのかね?



 で、それからどうなったかというと、俺たちは飯を食っていた。

今朝の食事はまたレンレンのあれ、ミソコーンスープに、乾麺のうどんとそばを入れたものだった。

いや、なんでもいいからぶちこめばいいってもんじゃないだろう。

大体なんでうどんとそばを一緒に入れた。せめて片方にしてくれ。

だがその独特すぎるレンレン料理を、他のメンバーは文句一つ言わずにむさぼり食っていた。

どうなってんだ未来の食育。


で、何故俺たちがいまだに良太の家前ガレージに陣取っているかと言えば、移動手段を確保するためだ。

現状移動する手段はタマコのバイクと、俺の自転車しかない。

だがメンツは全部で六人。というわけで良太のバイクから湯沸かし器に変化したそれから、サイドカーをちぎってタマコのバイクにくっつけることになった。

良太とタマコは難色を示したが、それしか方法がなかったのだ。

まあ良太が嫌がったのは、せっかくのタマコバイクを改造することに対する忌避感だったようだが。

マシンを弄れることに関しては、喜々として目を輝かせていた。

あいつもいろいろめんどくさい奴だ。


「そういえばタマコは、このバイクどうしたんだ? それとその銃もだな」

「ああ、俺の親父は害獣駆除専門の猟師だったから、猟銃所持の許可を持っていたのさ。だから私も子供の頃から銃には親しんでたんだ。バイクも古いもの趣味でずっと家にあった。親父は一年前に病気で死んじまったけどな」

なるほど……なら不思議はない。っておい、それ違法だろ。子供の頃から親しむな。

せめて親父さん死んだなら銃は捨てろよ。

「もちろん分解して使用できないようにしてあったけどな。私にかかればこれくらいすぐ組み直せるけど」

「組み直すなっつうの」

「なんにしてもうちは信心深い旧家だったから、ウィノチップも親父は嫌ってたんだよ。私もあまり頼りすぎるなって教えられてきた」

なんとも現状向きな、サバイバー家系だったわけだ。

その割にもらった手紙に漢字はなかったがな。

「書いたって読める人間はいないだろうからさ」

格好つけているが、多分これは嘘だろうな。俺は直感でそう思った。

まあなんにしても頼りになるのは確かだ。銃とバイクがで、タマコがではないが。

そういえばバイクなんてこの時代にしてはレトロな道具があるけど、タマコんちがあのコンビニやってんじゃないだろうな。

俺はそんなわけあるかと自分で思いながらも、その疑問を口にしてみたら、驚きの反応が返ってきた。

「ん? 山のほうの店ならうちが経営している店だけど」

俺はさすがに唖然とした。

なんつう偶然だ。だがまあ、それなら話は簡単だ。

商品を勝手に持ち出した件は、タマコにいずれ弁償することで許してもらうことにしよう。

この世界のお金なんて持ってないけど。

「ああいいぜ、こんな時に役に立つなら親父のレトロ趣味も役に立ってよかったよ。なんでも自由に持っていってくれ。その代わり経営立て直す時はちゃんと手伝ってくれよ」

片目を閉じてウィンクを飛ばすタマコ。

いや、それ婿入りとかそういう意味じゃないだろうな。

多分そうなんだろうな。それは少し考えさせてもらいたいが。

とりあえず今回の件が終わったら、早めに生ものだけでも片づけに行っておいたほうがいいかもな。


 そんな余談を挟みつつ、ここからの仕事は、実際のライダーであるタマコと、作業をする良太の仕事になった。

暇になった俺たちは、持っていく武器を確認し終えると、途端に手持ち無沙汰になってしまう。

俺の猪八戒スティックなんて、メンテナンスすることなんかなにもないしな。

いやこれ持っていくのか本当に。ミノリが早速自転車の荷台にくくりつけているし。

それどころか前のかごに携帯食料やら積み込んでいるんだが、これ人力の俺だけすごい大変じゃね?


「そういえばサイドカーをつけて、バイクの後ろに二人乗りするとしても席は合計五つだろ。全部で六人いるのに、あと一人はどうするんだ?」

俺はサッちゃんにそう尋ねた。

「サイドカーというのは意外にバランス取りが難しいらしい。バイクはもうこれ以上は限界だろう。だから自転車のほうに三人乗ってもらうしかないな」

はい……? どうやって三人も乗るんだよ。

俺は自転車の前部に、赤ちゃんを乗せる補助シートをつけている姿を想像した。

あれなら確かに三人乗れる。だがいかにサッちゃんやレンレンの身長でも、あそこに収まるのは無理だろう……いや絶対無理だ。

「古代の史料でこんな風に乗っているのを見たことがある。これで三人乗れるだろう」

そういうと、サッちゃんは後部座席に立ち乗りしている一人、その後ろに座っている一人というあれな絵をささっと描いた。

いやいや、それは駄目だろう。曲芸団じゃないんだから。


結局この件は、俺の後ろにはミノリが乗り、サッちゃんと良太を運んだあとでタマコが一度戻ってレンレンを連れてくるということで決着した。

先にサッちゃんと良太を運ぶのは、前線に配置されることを考えて、戦力的にレンレンよりはマシという考えによる人選らしい。

俺としてはまだ軽いサッちゃんかレンレンに後ろに乗って欲しかったが、ミノリと一緒にするとタマコが怖いから駄目らしい。

まるで渡し船問題だな。


 そんなわけで、俺たちは昼前には北の山の山道にいた。俺がミノリを救出に向かったあの山の道だ。

だが今度は建物には寄らず、さらに山頂を目指すことになる。

先に走り去ったタマコたちを追って、ひたすら自転車を漕ぐ俺はもう汗だくだ。

ミノリが後ろで俺にしがみついてくるのが、唯一のご褒美だ。

だがそれはやわっこくて気持ちいいのは確かなのだが、それで暑さが軽減されるわけでもない。


しかしミノリの爆裂ゴッドおっぱいを、こんな形で堪能できるとは思わなかったな。

これが自転車に乗り慣れた人間なら、まず間違いなくサドルの後ろをつかむだろう。だがこの時代の人間は自転車など知らない。

本人はほとんど気にした風もなく、思いきり俺に胸を押しつけてくれている。もうそりゃあ天にも昇る心地なのだが、やっぱりそれは暑苦しくもあった。

「怖い、怖い~」

緊張感を欠く声で叫んでいるミノリ。

これでカーブでもあれば、右に左に揺れるおっぱいをぐりぐりできたんだが……ああ、なんか自分で自分がいやになってきたから、もうやめよう。


 結局ご褒美の三倍くらいはひいこら言わされるはめになった俺。

途中でタマコが一人でバイクに乗って戻ってくるのとすれ違った。

ぴっと片手を挙げて俺たちに挨拶するタマコ。

ミノリが手を振っていたが、片手を挙げたことでまたおっぱいが……ああ、もうおっぱい尽くしすぎる。

最近妄想する暇もなくいろんなことだらけだが、これはさすがに強烈だったな。


 上り坂の頂上付近で、サッちゃんが手を振っていた。

俺はそこまで辿り着くと、一度自転車を降りて乱れきった息を整えた。

さすがにミノリの体重をつけての上り坂行軍は、若く頑強な肉体を持ってしてもハードなものだった。

「ご苦労なのだコウくん。ここからは下り坂のようだから、体力を温存できるだろう」

「へあ……ああ、そうだな。しかし疲れた」

俺は今日もよすぎる天気と、燦々と照りつける南国の太陽を恨めしげに睨んだ。

こうへろへろだと、討ち入りする時に動けるかどうか。


 その後レンレンを乗せて帰ってきたタマコと再合流すると、俺たちはそこで昼食を取った。

食べたのは鶏肉の缶詰と乾パンだった。

「今は保存食を店からかっぱらうだけで済むが、いずれ農業を開始しなければいけないかもしれないのだ」

サッちゃんはもそもそと乾パンを食べながら、静かに唇を開いた。

「確かに、缶詰だって数年で駄目になるしな。今まではやっぱりロボットが農業していたのか?」

「そうなのだ、大規模農地でロボットが全ての農作業を行っていた。だがそのロボットも大半は機能を停止しているだろう。数台でも無事な農作業ロボットが手に入ればいいのだが……どちらにしてもエンジニアが必要になる。我々の生活はまるで明るい展望が見えん」

それもマザーの侵略計画のせいだ。

マザーを破壊できれば、ウィノチップを使ってテクノロジーも今までの生活も復活させられるかも知れない。

しかし、どうやって破壊する?

キューの話ではネットワークを介しての攻撃は不可能らしいし、本体の場所も不明だ。

いや、ネットワークを使っていないなら、複製はあっても本体そのものは特定の場所、あの地下施設の中にあるんじゃないだろうか?



 それから俺たちは、バイクとチャリンコで行けるところまで山を降ってから、今度は徒歩で目的地に向かうことになった。

それぞれに背中にリュックを背負い、まるで軍隊のごとく黙々と谷へと降っていく。

ここで先導するのはレンレンだ。

どうも危なっかしい気もするが、レンレンはひょいひょいと軽快に道を進んでいた。

それに黙って続く面々は、まずミノリ、次にタマコ、それにサッちゃんと良太が続く。

そしてしんがりは俺だった。


 やっと俺たちが辿り着いたのは、谷底からはまだまだ高さがある場所だった。

衛星写真や航空写真ではばっちりカムフラージュされる形で、その入口はひっそりと作られていた。

しかし近づいてしまえば、入口ははっきりと俺たちにも視認できる場所だった。

入口前にはドクロのマークとともに「私有地につき関係者以外立入禁止! 本施設への侵入は法律により禁止されており、誤って入室した場合生命の保証はできません」とかなりおどろおどろしい記述があったが

「気持ち悪い絵ですね」

ミノリは絵しか見ていなかった。

そう、未来人は基本漢字は自力では読まず、ウィノチップの翻訳機能頼みだ。

そりゃあつきっきりでルビ振ってくれる機能があったら、俺だって漢字なんて読めなくなるだろうな。

この文字を読めたのは、俺とサッちゃんくらいらしい。

そのサッちゃんもしばらく文字に見入っていたくらいだから、古代文字を読むような感覚なんだろうな。

あれ、これ俺優越感味わえるポイントだったりするのか?


「内部に入れば、恐らくガードロボットの攻撃がある。ここから先は慎重に」

レンレンが言うと、全員がそれぞれの武器を確認しながら頷いた。

その中で猪八戒スティックを構える俺だけが、どうも格好がついていない。

まあいいや。俺は先頭に立ってゲートをくぐろうとした。

が、内部に入ろうとした俺の体を、ミノリの腕が慌てて引き戻す。

「危ないっ!」

ジュッという焦げるような音がしたのと、後ろに引っ張られたのはほとんど同時のことだった。

俺はなんだと振り返ったが、その時全員の顔が強張った。


自分の体を確認してみるが、なんともない。

いや俺は無事だが、俺が無意味に構えていた猪八戒スティックの、ブラシの部分が焦げて黒くなっている。

「げ、なんだこりゃ」

「どうやら早速侵入者を妨害するシステムのようなのだ」

「危ないな、こんなもん入口に設置するなよ」

「マザーとやらからすれば、ここに無断で侵入する存在は全て敵なのだろう」

サッちゃんが冷静に分析している間に、俺はもう一度デッキブラシを見たが、緑色だった毛先は真っ黒になってしまっていた。

「なんなんだこれ?」

良太が首をかしげて、俺に疑問をぶつける。

「熱線兵器の一種だろう。殺傷能力がないから脅しとして暴徒鎮圧用に作られたって話を聞いたことがあるな。それよりは確実に強化されてる感じだが」

ふーん、と良太たちが俺の話に感心する中で、サッちゃんだけがにやにや笑いを見せた。

「またコウくんの出自がわかる情報が出てきたな。面白いのだ」

俺に面と向かって質問しないくせに、会話の端々で探りを入れているんだよなサッちゃん。

またということは、以前にもそんな風に思われる発言があったということか。


 ちょんちょんと指が肩を突くので振り返ると、ミノリの指が入口すぐ奥を指していた。

「あそこにスイッチがあります」

「あるけど……まさかあれが? そんな単純か?」

俺は呆れて言ったが、全員の視線は俺に注がれている。

ええい、しょうがない。

俺は意を決して再び入口に近づくと、安全と思われる場所からそーっと猪八戒スティックを突き出して、多分熱線が放射されて影響を及ぼすのはここだなというギリギリのところを確認してから、その限界を一気に突破するように、スイッチに向かって棒を突き出した。

デッキブラシの毛先がパチンと壁に設置されたスイッチを押すのと、棒が焼けてブラシの部分が床に転がるのは、ほぼ同時だった。

哀れ、猪八戒スティックはただのニョイボウになってしまった。

いやかえってランクアップしたのかも知れないな。

今までありがとう猪八戒スティック、の先端部分。さようなら。


 俺は改めて棒を前方に向かって振ってみたが、どうやらもう罠はないようだ。

意を決して、足を踏み出し中に入る。

確かにそこは俺が何度か見た、真っ白な空間だった。

「よし、行こう」

しかしそんな機先を制するように、基地内にビー、ビーと響く警報音。

「侵入者を確認、ガードロボットは至急確保に迎え」

コンピュータ音声だが非常になめらかなアナウンスが、俺たちの耳を打った。

だがそんな中で、サッちゃんの小さな手が、俺の肩を叩く。

「では行こうかコウくん。こちらの準備はとっくにできている。じたばたしてもしょうがない、強引にでもキューちゃんをさらっていくのだ」

全員が頷く。

俺は「すまん」と頭を垂れていた。


 そのまま一本道の通路を走り出す俺たちは、早速現れた数体のガードロボットと遭遇した。

俺はニョイボウをぐっと構えたが、それより先に前に出たのはミノリだ。

その手には得物の木刀。彼女はきっと視線を上げると、独特の姿勢で突きを出して、ロボットの頭部で光る一つ目のセンサーを一撃で破壊した。

「ピ、ピ、座標認識不能。救助を要請……」

相変わらず精度の高い、なめらかな電子音声がエラーを告げる。

「ロボットはセンサーを殺せば救助信号を発して、あとは一切の行動を停止する。目をつぶすのだ」

サッちゃんの冷静な声が飛ぶ中で、ミノリはずんずんと前に出ながら、次々にガードロボットの目を突いて破壊していく。

ミノリさえいれば、もしかしなくても俺たちいらないんじゃないだろうか。

ミノリが五体のロボットを全て行動停止にすると、俺たちはさらに通路を進む。

「なにもかも真っ白で落ち着かないな、この場所は。俺なら真っ黒にしてやるのに」

「それはそれで落ち着かんだろ……」

黒好きのタマコが十字路で立ち止まると、左を見た。

俺は正面、そして良太は右を見てタマコと三人声を揃えた。

「ロボットが来る!」

「背後からも来ているのだ!」

俺たちは囲まれてしまったらしい。

「どっちに行きますか? 指示してくれたほうに切り込みます!」

ミノリが叫ぶと、サッちゃんが俺のほうを見た。

「コウくん!」

「わかった、ならこのまま前進だ!」

俺は完全に勘で叫ぶと、ローラーで急進してくる右側のロボットの目を、ニョイボウで突いて壊してやる。

とてもミノリのようには行かず、何度か攻撃を外しながらの白星だった。

ミノリは単身前進して、また次から次へとロボットを破壊していく。

ガン、ガン! と激しい音がして、タマコは左方からやってくるロボットを銃で破壊する。

「銃器は持っていないと思うが、対人用の鎮圧兵器を使用してくるかも知れない。気をつけるのだ!」

サッちゃんはエアガンをばすばすと撃ちながら俺たちに指示する。

「よーし俺も、食らえレンチブーメラン!」

良太もレンチを放り投げたが、それは目玉に当たらずに、ロボットの腹に直撃を食らわして、そこをちょっとだけへこませていた。

人間相手なら恐ろしい破壊力かも知れんがなあ……ブーメランっていっても戻ってこないだろ、それ。

仕方なく俺はニョイボウで、そのロボットを思い切り吹っ飛ばしてやる。

地面に転がったロボットは、次から次へやってくる援軍の進路を邪魔することになった。

良太が自分のレンチを拾っている間に、俺は苦戦している後方のサッちゃんの援護に入り、ロボットを一体仕留めると、それをわざと床に転がしてまた進路を塞ぐ。

「こっちです!」

ミノリの声がして、全員が前方に走った。


そういやレンレンもなにか銃っぽいものを構えているが、さっきからなにもしていないな。

「これは対人兵器だから、ロボには使えない」

よくよく見ると、そのドピンクで透明な銃は、水鉄砲だった。

そりゃ使えんわ。

最後に走るサッちゃんが、俺を真似して機能停止しているロボットの一体を強制的に転がすと、後続のロボはそれを処理するために動きを止めた。


 悠然と走り抜ける俺たちは、エレベータホールへと到達した。

そこにはまだロボットは来ていない。

だが、エレベータが俺たちの前で開くと、そこには怒りに表情を歪める男の姿があった。

髪の毛どころか体毛さえどこにも感じさせない細身の体。透けるような白い肌。鋭く吊り上がった眼光。

以前夢で見た時と唯一違うのは、体のラインをぴっちりと見せる黒いウェアをまとっていることだけだ。

現実に見るのは初めてだ。だが俺はそいつを知っている。

「ゼロツー……」

「貴様らぁ、この基地を汚すなど、絶対に許せん。マザーの名において、この俺が全員始末してやるぞ!」

感情をむき出しにする男は、腕に持つ細長い棒を構えて、俺たちを威嚇していた。


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