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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第3章 1人の愛
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第45話:英梨ができるまで

中学の時から、人付き合いが苦手だった私は、当たり前ではあるのだが友達なんて一人もいなかった。

中学校なんて3年間もいれば必ず誰かと仲良くなるだろうけど、人数の多い学校で、しかも部活もあまり話したりしない美術部だ。

まったく仲のいい子なんていなかった。

そんな私は自分の妹、里奈と話すことしか、日常で口を開くことがなかった。


「英梨ねぇ。今日の夜もお願いしてもいい??」


「うん。しょうがないなぁ。」


だから、私は、里奈の言うことは大抵聞いていた。

私が何をしていたって、誰にも関係ないから。

私自身を使える場所をどこか探していたのかもしれないが、それをその頃は居場所だと思っていた。


「今日はどんな人達が相手なの?」


こんな風な会話があっては、乱闘に行く毎日。

こうなるまでには理由があるのだ。


1ヶ月ほど前に、里奈が作った『巡』と言うチームが別のチームに負けた事件があった。

里奈たちが勝手に作ったチームだし、どこで何していようが、私には全く関係ないのだが、ボロボロになって帰ってきた里奈を見て、私は酷く怒った。

マスクをつけて、慣れないメイクで目を太くし、長い髪をされに顔が隠れるように前面に出す。

絶対に私だとバレないような恰好をして、私は里奈をこんな目に合わせた奴らにお礼参りをしに行ったのだ。

結果は勝ち。

空手を押さない時からやっていたわけだし、そこらの少し度胸のある程度の女達とは根本的に強さが違う。

正直余裕で勝った。


それからと言うもの、チーム『巡』にはめちゃくちゃ強いバックがついていると噂になり、発足したばかりなのに次第に名を売っていった。

もちろん、毎回私は里奈に駆り出されている。


そんな風な日常が続いていく中、ある日のことだった。


「英梨ねぇ…ごめん…ゴホッ。今日、体調悪くて…エホッ!!。あぁ…。今日、1人でお願いしていい?」


「えぇ!?も~毎回毎回私頼み!!自分のチームなんだから自分でやってよ!!」


さすがに私も言ってやった。


「うん…じゃあ…今日だけ…ね??今日はすごい奴らからの呼び出しなんだぁ。」


ニコッと笑いながら言う里奈。


「…もぉ!!!」


ちなみに、里奈も空手はやっていたが、そんなにまじめにやっていなかったし、そこらの人よりはできる程度のものだ。

そんなものでチームを作ってしまうような妹なのだ。

馬鹿である。


「他の子たちは?」


いつもメンバーの動きは里奈が管理しているから、里奈が皆に連絡して、その時これる人が集まるみたいな感じだ。

つまり、当日招集である。

ちなみに、私は他のメンバーと話すことも絡むこともない。

というより、里奈にも私のことは伏せるように言っている。

変なとこから私の素性がばれるのが嫌だったから。


「…里奈?他の子は???」


「…すー。すー。」


寝ていた。


「え!?私だけ!?」


里奈のメンツのためにも行くつもりではあるが、さすがに勝てるだろうか…。

相手もどんな奴らか分からないし…。

行くだけ行って、やばそうだったら帰ろ。

凄い奴ららしいし。


この日、私が1人で行かなかったら、多分あの出会いはなかったんだと思う。


現地に着いた私は物陰から様子を見る。

かなり驚いた。

今まで相手の人数は多くても6人とかだったのに、今日の相手の人数は20人はいる気がする。

規模が違いすぎる。

里奈はこれを相手にどうするつもりだったのだ!?


「うぅ~~。これは私ひとりじゃ絶対無理だよ。なかったことにして…。」


帰ろうとしたとき、一番近くにいた人達の話声が聞こえた。


「今日の奴らの中にめちゃくちゃ強い奴がいるらしい。なんでもロングヘアで素顔も名前も誰も分からない、しかも『巡』のメンバーじゃないらしいし。」


「今日はそいつの腕を見るだけって上に言われてっけど、全然来る気配ねぇな。」


驚いた。

まず、私のことがこんなにも広がっていたことに。

普段不良界隈の話なんて聞かないから、全く知らなかった。

そして、こいつらは私を目当てに来ていたことに驚いた。

そんなに目立つ存在になっていたのか…。


私は、嬉しかった。


「私、有名になったんだ。」


人から思われることなんて、全くなかった。

そんな人生だったら、こんなに注目されてしまうと嬉しくなってしまうのは至極当然ではないだろうか。

自分の特技が花開いたような、世界に自分が認められているような、そんな気持ちになった。

こんな風な気持ちになるのも、初めてなのだ。

自分の能力を過信してしまうのも、間違いではないだろう。


「よし!!」


私は勢いよく飛び出てしまったのだ。

20人相手に。

最初は奮闘するも、5人くらいを地面に倒したあたりでようやく気付く。

人の多さに。

全方位で囲まれた私は、数の力には敵わなかった。

本当に後悔した。


「確かにつえぇけど、この人数に一人は少し甘く見すぎだぜあんた。さて、こいつの顔を拝ませてもらおうかなぁ!!」


私は両手を押えられ体中ぼこぼこにされた。

マスクはまだしているけど、このままでは素顔がさらされてしまう。

でも、動く気力なんてなかった。


マスクを取られる。

その寸前に、彼女は現れた。


「ちょっと待った!!!」


たった一人で。


「確かに強い子だね。少しタイミング遅かったけど…。」


倒れた数人を見ながらその女は言う。


「その子はもう放して、次は私が相手だ!!さ、こい!!!!」


「あぁ??何だお前?こっちは今いいとこ…っ!!!!?!」


1人がその女に倒される。

腹へのパンチ、たった一発で。

それをきっかけに全員が彼女に襲い掛かる。

と言ってもそれは私が倒せなかった人数だから10人は超えている。

なのに、その乱闘はすさまじかった。

複数人の攻撃をかわしながら1人、また1人と倒していく。

両手、両足を余すことなく使い戦っている。

こんなに、強い人がいたのか。

私は痛みも忘れて、それに見惚れてしまっていた。


乱闘が終わり、その女は私の下に来る。

私を肩に持ち上げて、そのまま何も言わずに移動し始めた。


「…あ、あの…。」


その女は片手で口に手を当てて『しーっ』とやる。

口パクで『あとで』と付け加えた。


しばらく運ばれて、さっきまでの場所とは違う、路地裏のようなところに着いた。


「ふぅ~疲れたぁ。」


「あ、あの…。」


ようやく喋ってもいいのかと、口を開くと、そこにはもう一人、上下で揃わないジャージを着た女がいた。


「はぁ。なんで喧嘩じゃなくて、女の子を運ぶことには疲れるんだろうね。愛は。」


「北条の言った通り、この子確かに結構強いよ。」


「当たり前だよ。私の情報力だからね。」


「あ、あの!!!」


無視されそうだったから大きな声でもう一度言った。

元々こんな風にがつがつ話し掛けることはできないが、さっきまであんな乱闘をしていたし、少し気持ちが大らかになってしまっている。


「あ、ごめん!!私達、あなたの噂を聞いて、あなたを勧誘しに来たんだぁ。」


「簡単に言うとだね、ロングヘアの小さな子がめちゃくちゃ強いって最近話題になってたから、私のグループと接触させたんだ。まさか1人で来るとは思わなかったんだけどね。それで様子を見てたんだけど…。」


「北条がバレないように離れてからだったから助けに行くの遅れたんだよね~。」


「それは悪かったって。」


「??あの、全然分からないんですけど。」


「え~とだから!!あなたに一緒にこの街の不良を無くすのを手伝ってほしいの!!!」


「お願いだよ。巡川英梨さん。」


「え!?どうして名前…!?」


「私の情報収集力はなめないようにした方がいい。」


ドヤ顔で言う。


「…でも私、そんなに…。」


喧嘩とか好きじゃないし。

そう言おうとしたけど、これは何の根拠にもならない。

それに、私は気付いたのだ。

これを辞めてしまったら、私の居場所がなくなってしまうことに。


「そんなに深く考えなくてもいいよ!!これからは友達が増えたと思えばいいだけだから!!」


「…え??」


「私達、今日から友達だよ。だから、嫌なことは嫌っていえばいいし、手伝ってくれるときは手伝ってくれたらありがたいなってだけだよ。」


「やれやれ。また愛は勝手にそんなこと。友達なんて言ってなるもんじゃないだろうに。」


「え~そんなことないよ。それは友達になる気のない奴だったらでしょ??私はなりたいと思ってるならいいじゃん?」


「…友達に、なってくれるんですか?」


私は、不良とか、今後のこととか、どんなことをするんだろうとか、そんなことはもうどうでもよくなっていた。

ずっと諦めていたそれを、私は初めて、差し伸べられたのだ。

友達が、ずっとほしかったのだ。


「友達。…へへ。ほんとに…!!」


嬉しくて、笑みがこぼれる。

涙も、こぼれる。


「うわぁ。そんなに!?!?」


私はマスクを外した。


「うわ!!可愛いな!!私の名前は渡辺愛那。こっちの変な奴は北条叶江。よろしくね!英梨!!」


手を伸ばしてにこりと笑う愛那。

涙をぬぐって言う。


「よろしくお願いします。愛那さん。叶江さん。」


今日が、私の今までの人生の中で一番、幸福な日だった。

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