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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第3章 1人の愛
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第43話:仲間探し1

北条と話した次の日私は無事退院することができた。

もちろん、その後も月に何度かは検査に来なくてはならないが、目に見える不調などはないので安心だ。

前日の北条と話した後は特にすることもなく、病室で適当に時間を潰し、夕方にはまた紗那が来てくれた。

紗那も大分元気になっているような気がした。

話を聞くと相談室には最近人が集まっていないらしく、皆私を待ってくれているらしい。

紗那には北条との話のことはまだ伝えなかった。

退院した後で、ちゃんと時間を取って伝えるために。

愛那との関係や、愛那がどんなことをしていたかも伝えなければならいし。


と、まぁ、そこそこに長かった病院生活は終了し、私は6月9日水曜日の昼に、仕事を抜けてきてもらった母と一緒に病院を後にした。


「やっっっと退院できたね。学校の先生には私から言っておくから今日はゆっくり家で休んでな。」


母が運転しながら言う。

学校の先生に報告とは、個人的に佐倉先生に連絡するということだろうか。

私が入院している間にどれくらい距離が縮まっているのか気になるところではあるが、敢えて言及はしないでおこう。


「とりあえず、病院の先生の話だと、学校に行けるようになるのは早くても来週になるだろうからって。私は日中家にはいないけど、ゆっくり休んでな。遊びに行ってもいいけどほどほどに!!」


最初の数日は退院扱いではあるがまだ絶対安静なのだ。

土曜日に最後の検査に行って、晴れて何もなければ学校に行けるようになる。

それまでは絶対安静の身ではあるが、私には色々とやることがある。


「はい、着いたよ。私はこのまま仕事に戻るから、また夜ね。」


「うん、ありがとうお母さん。」


そう言って母は車を走らせる。

忙しい身であるのに、本当にありがたい。


私は久しぶりに家の玄関に立った。

玄関のドアノブに手をかける。

私の後ろからも、家の中からも、私の真横からも、走馬灯のように思い出が駆け巡る。

思い出すまでもない。

溢れるように、勝手に、情景が流れていく。

この場所には、どれだけの思い出が募っているのだろう。

この扉の向こうには、もう、愛那はいない。

ここを開けてしまったら、本当に愛那がいないことを、再度感じてしまうだろう。


「…愛那。」


涙をこらえる。

私はもう、前を向いていけるはずだ。


「…ただいま。」


私は玄関のドアを開けた。


***********************


「ただいま!!愛華!!」


玄関が勢いよく開いて、紗那が入ってくる。

どたどたと鳴り響く足音が響く。


「おかえりー紗那。」


私はリビングでテレビを見ながら待っていた。


「いや~。やっと退院したね!!今日は私がご飯作るよ!病院食ばっかりは飽きただろ。」


「うん、ありがとう!まぁ別に美味しくないわけじゃなかったけどね。」


それでも久々の家のご飯だ。

この空間で食べることがなかなか嬉しい。


「うわ、しばらくいなかったし冷蔵庫の中の期限かなりやばい。」


そう言いながら準備を始めた紗那。


「あ!!」


そういえば。

紗那に伝えることがあったのだ。


「紗那!ちょっと待って。話があるから!」


「ん?話??」


ご飯を作り始めてしまったら、しばらく話せなくなる。

今のうちに、話しておかないと。


「…愛那からの話でもあるから。」


ピタッと止まって台所からこちらに来る紗那。

真面目な顔だ。


「よし、なんだ??」


ソファーに座って向き合う。

私も、できるだけちゃんと伝えよう。


「まずは、愛那の話から。」


中学時代の、私も紗那も知らなかった愛那の話をする。

私も知らないし、まったく詳しくは語れない。

あの日、事故の前に聞いた程度のことだが、これを伝えなくては始まらない。


**********************


「…やっぱり、1人で何かしてるとは思ったけどな。そんなことしてたのか。」


内容的には少なかったが、それにしてはゆっくりと時間をかけて説明した。

というより、言葉を選ぶのに時間がかかった。

説明事は苦手だから。


「気付いていたけど、何も言わなかったよ。愛那は、いや、愛華も頭がいいからな。相談してこないってことは、何もしなくてもいいってことだろ。いや、何もしないでくれってことだ。」


「…。そうだね。」


そうだ。

私もそうだった。

誰にも、迷惑をかけたくなかったから、何も言わず、1人で背負っていた。

私がそうだったんだから、愛那もそうだったのだ。


「…あぁ!!ここにいたら1発ぶん殴ってやったのに!!」


「っぷ、あはは。」


なんだか、懐かしかった。

そんな光景が。


「…いてっ。」


紗那が頭を小突いた。

私の体を気遣って、弱く、優しく。

心臓がドクンと鳴った。


「愛華も中学の時、相談しなかったろ。遅くなったけど、その分だよ。」


優しい、表情でそう言われた。


「…ごめんね。ありがとう。」


「っていうことなら、私たちの事も話しとかないとだね。」


「え?」


それは私の知らない中学校部分の事だろうか。

そうだ。

そうだとしたら、私はそれを聞かなければならないだろう。


「私が、いじめられたときの、2人の話だね。」


「…っ。…うん、そうだ。」


私が躊躇なく、その言葉を放ったのはきっと初めてだ。

もちろん、紗那も愛那もそれは知っていただろうけど、私がそう言ったことなどない。

2人が勝手に知ってくれただけだ。

だから、今までその言葉を言うことも、言われることもなかった。


「やっぱり、いじめ、なんて、聞くだけで腹が立つな。」


その言葉は分かっているのと聞くのでは重みが違う。


「…その頃、私と愛那がどんなことをしてたかは知ってるよな。」


「うん。知ってるよ。」


「最初は、愛華の周りの奴だけだった。手を出させないようにさせるだけだった。それなのに、どんどん広がって、気付いたら、ここらの不良にほとんど知られちゃったんだ。中学3年が始まる前の春休みに、ここらのグループと私と愛那とででかい抗争があって、それを最後に私達は何もしないようにしたんだ。」


「…どうして?」


「元々、愛華のためにやってたことが、余計に私等のせいで間接的に愛華に迷惑が掛かったからな。だから、高校では変に噂とか立たないようにしようってことで辞めることにしたんだよ。もちろんその後もちょくちょく喧嘩売ってくる奴はいたけど、それでもそんなのはあの日のでかい抗争以来は数えるほどしかなかったな。もう皆勝てないって思ってんだろ。」


私に、友達ができるように。

噂が立たないようにしようとしてくれたのだ。


「んで、愛華の良く学校を調べて、2人でそこに向けて勉強することにしたんだよ。でも、今の話聞く限りだと愛那はまだやめてなかったんだな。愛那が辞めようっていいだしたのに。」


なんだか悔しそうな表情をする。


「それで、愛那は私達の知らない人達と一緒に戦ってたみたいなんだけど、そのうちの一人と実はこの前話すことができて。」


「え、行動が早いな。」


「それが、他のメンバーを見つけないといけなくなったんだよ。それで…。」


「もちろん!!手伝うよ!」


やっぱり、紗那はそう言ってくれた。


「全然目星はついてないんだけどね。これから探さないと。」


「そうだな。…で、何のために探すんだ?」


相変わらず、私は説明が下手だ。

肝心なことを言い忘れた。


「愛那と最後の約束で、金井さんがいたグループ、かなりでかいらしいんだけど、それを無くすことを目的に私も手伝うって言ったんだ。」


愛那は紗那にも手伝ってもらうつもりだった。

こんな形で伝えることになってしまったが。


「愛那との約束だからね、私と一緒にがんばって欲しい。」


「よし、分かった!!全力で手伝う!!」


紗那が立ち上がって胸を張って言う。

やっぱり頼もしい。


「ありがとう!じゃあまずは、情報集めからだ。」


いつも最初は情報集めから始めているな。


「あ、相談室のみんなにはどうする?…言わないでおくか?」


「いや、言うよ。もう、抱え込むのはやめるから。手伝わせはしないけど、やってることくらいは知ってもらいたい。」


「…ふふ、そうだよな。…愛華、良かったな。」


「え?」


「友達、できたな。」


「…うん。紗那、愛那、ありがとう。」


「あぁ。」


すごくうれしそうに笑う紗那。

愛那も笑ってくれてる、そんな気がした。

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