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aI was mixed  作者: 阿賀野基晴
第2章 aI was mixed
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第40話:紗那ができるまで

私が3歳の時、この場所に引っ越してきたらしい。

それまでの記憶は幼かったせいかほとんど覚えてはいない。

引っ越したその瞬間ももちろん覚えていない。

私の中の最も古い記憶は、あの日からだ。

あの、顔も声もそっくりな2人を見た日からだ。


*************************


引っ越してから、新しい保育園に通うことになった。

新しいと言ってもそれより前を知らないけど。

3歳だからどんな風に園児の輪に入ったかは分からないけど、流れるように輪に入れたと思う。

幼いころの私はあまり発言をする方ではなく、かと言って引っ込み思案なわけではなかった。

そういうわけで、本当に仲がいい子なんていなかったのだ。

朝、保育園に行って、何かしている人達の中に混ざる。

名前もろくに覚えてないくせに。

そんな時に、あの二人がいたのだ。

渡辺愛華と渡辺愛那。

それに気づいたのはあることがきっかけだった。


「あの2人ってお父さんがいないんだって。かわいそ~。」


「へぇ。そうなんだ。」


お父さんがいない。

その時はそれ以上の感覚はなかった。

というより、誰だ?って感じだった。

自分の身の回り以外のことはどうでもよかったのだ。

そんな私が、ある日の休日に、隣の家にあいさつに行くことになった。

そこで、初めてその二人とちゃんと対面したのだ。


「…あ、お父さんがいない子だ。」


はっきり覚えている。

そう言ってしまった。


パチン!!


頭を叩かれる。


「コラ!!すみません!すみません!」


必死で謝る私の父。


「いえいえ!!全然いいんですよ!!本当にいないもんですから。それに、いない理由も面白いんですよ!ささ、中へ入って話しましょ。」


そういって私の両親を家の中へ招き、私はその家の子供二人と、1つの部屋に一緒にされた。


「…かわいそうな子だ。」


懲りてないのか、両親がいないことを良いことに私はまた言ってしまった。

すると、まったく同じ顔が、まったく同じように首をかしげてこう言った。


「お父さんがいないとかわいそうなの?」


「え…分かんない。皆がそう言ってたから…。」


「え!?じゃあ私かわいそうだ!!どうしよう愛那!」


「私は愛華がいるから別にいいよぉ。」


「ダメだって!!愛那はかわいそうじゃないもん!!」


「私はかわいそうじゃないよ。」


「あ、そう?じゃあいいや。」


「…え!?いいの!?」


会話から察するに、多分愛華の後ろに愛那が隠れてこちらを見ているような形。

その時、初めてそっくりな顔を個別に認識できた。

多分この名前もすぐ忘れるだろう、と思った。

いや、覚えるつもりなんてなかった。

そんな女の子二人を前に、ついついツッコミのようなものをしてしまったのだ。


「うん。別にお父さんいなくて困ったことないし。私達はいらないかな。」


「私も別にいいなぁ。」


「なんで!!私は嫌だよ!!!」


2人の、軽んじて言うような態度に、滅多に自分の発言すらしない私は怒鳴るように声を上げてしまった。

ムカついたのかもしれない。

理由はよく覚えていなかったけど、とにかく怒鳴ってしまった。


「…!!なに!?怒ることないじゃん!!」


愛華が私に言う。

本当にその通り。

だが、幼いわけであって、自分がしたことを悪いなんて思うことができない。


「お父さんもお母さんも仕事でいないと寂しいよ!!!今日だって折角のお休みなのに…。」


折角の家族だけの時間なのに。

折角寂しくない日なのに。


「…なに怒ってるの?」


「うるさい!お前らが悪いんだろ!!…ていうか、なんで私もこんなとこ来なきゃいけないんだ!帰る!!!」


と言って帰った。

それはもうすぐに。

親の挨拶について来ただけだったし、この家でやりたいことなんてなかった。

私は渡辺家を出て、すぐ隣の自分の家へと向かう。

だが、幼い私は致命的なミスに、家に着いて、ドアに手をかけるまで気付かなかったのだ。

鍵を忘れた。

もちろん、親が持っている。

私は帰るのも恥ずかしいし、辺りを適当に散策することにした。

道は引っ越したばかりだが近所程度なら親とも歩いたから、わかる範囲までしか行かないつもりだ。

そう思っていたはずなのに。

なぜだろう、幼い時と言うのは誰しも必ず1度は起こるのだろうか。

迷子になってしまった。


***********************


「紗那ちゃん見つけた~!」


誰かの声を聞いたのは、私が迷子になってからおよそ1時間経過した時である。

迷子になったと分かってからはあまり動きはしなかった。

そのせいあってか、幼さあってか、1時間と言う時間は私の不安感を煽るには十分すぎる時間で、私は見たこともない道端に座り込んでべそをかいていた。

そんな中、私を呼ぶ声が後ろからしたのだ。


「ふ~。もう、遠い所行き過ぎ!!」


唐牛で覚えている、その子の名前は愛華だ。

愛華が私に、息を切らしながら言ってきた。


「…うぅ。」


率直に、私は恥ずかしかった。

べそをかいていたところを見られたのも、さっきあんなに突っぱねた相手に見つかったことも。


「はい、帰ろ。」


そう言って手を差し伸べられた。

私はその手を握って立ち上がる。


「…なんで来てくれたの?」


あんなに酷いことを言って、勝手に飛び出たのに。

どうして2人は追いかけてきてくれたんだろう。


「え?う~~~ん。なんていうか…。」


愛華が悩む。


「あれだよ、愛華。紗那ちゃんが寂しそうだから。」


「あ、そうそう。私は愛那がいるから寂しくないけど、紗那ちゃんには愛那がいないでしょ?」


「…ん??」


何のことだ?


「だから!!え~~と…。」


愛華は説明が苦手なようだ。


「えっとね、私達は双子で、寂しくないけど、紗那ちゃんは1人だから寂しいんじゃないかってこと。」


愛那が説明する。


「だからね、紗那ちゃんも私達の双子になればいいんだよって愛華が…。」


愛華の後ろに隠れながらもはっきりしゃべる。


「そう!!だから紗那ちゃん!!いや、紗那!!これからは寂しい時は私達がいるよ!!1人が寂しいときはみんなで駆けつけるよ!!」


今日は折角の両親の休みで、寂しくない日で。

あれ、でも。

今はなんだか、寂しくない。


「…さっきはごめんね。」


私はずっと寂しかったのか。

親と触れ合えないことが。

だから、それ以外なんてどうでもよかったのかもしれない。

今日までは。


「…ねぇ。もう一度、名前を教えて?」


この名前を、私は二度と忘れない。

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