第39話:I was mixed
しばらくして母親から連絡があり、私は談話室へと再度向かった。
そこから病院の玄関へ行き、母と会う。
「愛華。もう歩いても平気なの?」
「もともと歩けないようなケガじゃなかったからね。大丈夫だよ。」
「そう。これなら明後日には退院できるね。朝から行くから。それと…。」
そういって自分の鞄の中に手を伸ばす。
中から愛那のスマホを取り出した。
「はい。充電はされてないから点かないけどね。…やっぱり、愛那の物を何か持ちたいっていうと思ったから、持ってて正解だった。」
「あ…そう、そうなんだ。」
そんな理由ではなかったけど、その理由もありだなと思った。
後付けではあるが、愛那の物を一つ持っておくことにしよう。
恥ずかしかったから、母にはその発想に気付かなかったことを悟られないようにした。
「それじゃあ私は帰るけど。さっき紗那から連絡があったわ。来てくれたんだってね。久々に声が嬉しそうでよかった。」
「うん。久々に話せて私もよかったよ。」
そういえば、紗那が来た時に何か言っていたな。
『お母さんも何も言ってないのか…。』と言っていた。
何か、母から聞かないといけないことがあるのだろうか。
「お母さん。それと…。」
「ん?なに?」
「…何か私に隠してない?」
「…!?」
予想してなかった問なのか、めちゃくちゃ取り乱した。
やはり何か隠しているのか。
そういえば、母が見舞ってくれていた時に、何度か言いよどむことがあったが、それの事なのか?
「あのね。実は…。」
意を決したように呼吸をして、話し出す。
「愛華達には父親はいないって言ってたんだけど。ほんとは生きてるのよ。今も。」
「え??…そうだったの??」
すごい驚く知らせ、なんだけど、全然驚けない。
と言うより、今まで父親を気にしたことなんてなかったから今更って感じだ。
「そう。あなた達を宿した時に別れたから、その人は自分が父親になったことも、子供ができたことすら知らなかったんだろうけど…。」
「…へぇ。」
返事に困る。
「私もまったくそいつのことは考えないようにしてたのよ。大学卒業したとたんに、別にやりたいことを見つけて大学に入りなおすから別れてくれ、なんていうのよ?!その時は呆れて何も言えなかったわよ。」
「…それで、それがどうしたの?」
「それで、愛華の父親とこの前偶然会ったのよ。愛那のお葬式で。」
葬式で会った?
だから今この話を持ち掛けているのか。
ということは、私も知っている人なのか?
「その人は…。」
あ、分かったかもしれない。
そういえば、この病院に見舞いに来て、そんなことを言っていた人が一人いた。
「愛華の担任の佐倉健吾って人よ。」
「えぇぇ!?!!!」
やっぱり、思った通り、だけど。
かなり驚いた。
別にやりたいことがあって大学を変えたと言っていたが、それが数学の教師なのか?
もしそうだとしたら、めちゃくちゃ向いてないとか言ってたけど、佐倉先生なりにやりたいことだったということなのか?
それはそれでかなりおもしろい。
っていうか、そんなことより、父親なんだ。
私の!!
そんな風には全く思えない。
血がつながっているとしたら、何を受け継いでいるのだろうか。
今のところ、佐倉先生の分の遺伝子は劣勢として破棄されているのではという予想しかできない。
生物学上そんなことはないだろうけど。
「ほんと、私もあんた達の担任の名前くらい見ておくんだったわ。全く興味がなかったから…。っていうか向こうも私の名前くらい見ておきなさいよ!!そう思わない??」
「え!?いや…え~っと。佐倉先生も知らなかったの?」
「そうよ。葬式で顔を合わせてお互いに『え?』って言っちゃったわよ。」
ラブコメみたいな展開だな。
「その後佐倉先生と話したの?」
「当たり前よ。何してたのとか、なんで連絡してこないのとか…。まぁ愛華と愛那のことも知ってくれたようだし、よかったけど。愛華、あんな男に心開いちゃダメだからね?」
ん?
最終的にそいう感じで接していいんだ。
母と佐倉先生はよりを戻したりはしないのかもしれない。
一瞬、3人で食事をするイメージをしかけたけど、しなくてよかった。
だけど、独身が長い母だ。
というより、結婚すらしてなかったわけだが、そんな母はそういうのに興味はないのだろうか。
それこそ母には幸せになってほしいが、そういう恋愛事は一切聞いたことがない。
と、ここで着信音が鳴り響く。
「…あ、電話。…げっ健吾。」
ちゃっかり電話番号を交換してたようだ。
これは3人で食事も、近い将来かもしれない。
「じゃ、私もう帰るから、また何かあったら連絡してね。」
そう言いながらスマホを片手に、耳に当てながら小走りで帰っていった。
母は前にも言ったが、結構多忙なのだ。
そんな中でも、母には幸せをつかんでもらいたいものだ。
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愛那のスマホを電源にさし、ある程度充電されてから、再度私は談話室へと向かう。
ようやくの本命だ。
私は愛那のスマホの電源を入れる。
ロックは…されていない。
私も紗那も、見られて困るようなものはないため(実際には電話番号とか個人情報があるけど、そもそも見られる恐れと言うのが身近にしかないため)ロックをかけていない。
連絡先を開いて、ある人の電話番号を見る。
このスマホは既にSIMの契約を切っているから電波を受信していないので、私のスマホで電話をかける。
時間は22時と言ったところだ。
さすがにまだ寝ていないだろう。
プルルルルガチャ
一回のコールで出た。
『もしもし?』
「あの…私、渡辺愛華です。」
『…やぁ。あなたから電話が来るなんて驚いたよ。さすがに姉妹揃って、頭がいいなぁ。』
「急にごめんなさい、北条さん。」
北条叶江。
過去、愛那と共に活動していた人。
私の知らない愛那と、私の知らないことを知る人だ。
『話は…愛那の事でも知りたいのかな?でもごめんね。今、あんまり気分じゃないんだ。』
気分じゃない。
多分愛那のことでだろう。
「…愛那が。最後にあなたとのことを教えてくれました。」
『…。』
「何をしてたのかも、何をしようとしてたかも。…それで、それに対して私から提案があるんです。今は無理でも、今度どこかで話すことはできませんか?」
『…明日。昼に…まだ病院でしょ?そこに行くから。この番号で行く前に連絡する。』
「ありがとうございます。それじゃあ、また明日。」
一方的に切られた。
あまり話したことがあるわけではないから、間を持たせるのが辛かったのだろうか。
それとも、本当に気分でないのだろうか。
だが、これでようやく前へ進める。
あの日、私が決意したことを、ようやく。
1人じゃない。
紗那もいるし、他にもいる。
それに愛那もいる。
私の中に、私の心臓に。
愛華と愛那が混ざったこの体で、前に進もう。




