表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールド・トランス・ワールド ~異世界に至る56番目の主人公~  作者: tea茶
第六章:同調闘争 《バトル・ジャンクション》
PR
43/43

エピローグ 旅立ち



「いやあ、おめでとう!」



 パチパチと、目の前で不意に弾ける拍手。

 呆気にとられた表情の柳ヶ瀬綜と、苦い顔で額を押さえた姿のヴィー・クー。


 あれから最後の扉を抜け。

 解錠都市を越えた二人を待っていたのが、この喝采だった。



「なんだ、コレ……?」



 思わず綜は、困惑した声を上げる。


 目の前には異世界の礼服で身を固め、長い髪を後頭部の少し上の方でシニヨン風に纏めた、妙齢の女の姿があった。


 その風貌はさておき、なによりも綜とヴィーを惑わせたのが。女が顔を覆い尽くすように、奇妙な灰色の仮面・・を被っていることだった。


 その無駄な装飾が、目の前で手を叩く女の怪しさを増している。


 そうしていると、女はひとしきり続けていた拍手の嵐をようやく止めた。

 さらに一歩前に出ると、仮面越しに聞き取りづらい、くぐもった声で話しかけてくる。



「よく頑張ったねー、第五十六期・柳ヶ瀬綜。私は『イーストリー商会』の代表で、今回、君の身柄を落札・・した者だよ。いやぁ、これから君には我が社のホープとして活躍してもらうから、今後ともよろしく頼むよー!」



 快活に自己紹介してくる女から目線を逸らし、傍らのヴィーへと問いかける。



「なぁ、ヴィー。なんだコイツ? なんなんだよこれ」


「ちょっ、ちょっと待つんだぞ綜……またアンロックされた情報が……って! ああ! な、なんなの、これ!?」


「ど、どうしたヴィー!?」



 新しい情報の検索から、該当部分に突き当たった途端、ヴィーの怒りが爆発した。



「こいつら! ランサーの協会って、迷宮都市を突破した移人をオークションに賭けて、自分たちの管理下に置いて使役してるんだぞ! なにが市民権だ、バカにして!」


「なに……っ」



 突然もたらされた情報に、綜は我知らず女の方へと振り向く。

 問いただすように鋭い視線を投げつける綜に、女は不敵な笑みを返すだけだった。



「俺たちを使役するって、今の話……本当なのか? あんた」


「ふ、ふふふ……」



 ヴィーの叫びと、綜の怒りを含んだ戸惑いの声を聴くと、灰色の仮面の女は、今までの陽気な態度を翻し。

 ふてぶてしい態度を取ると、まったく悪びれることなく語り出した。



「確かに君の言うとおりだよ、ヴィー・クー。君たちの活躍は、ずーっと見させてもらっていたからねぇ。だからこそ、うちの会社で働いてもらいたいと思ったんだ、分かるかな~? これは奴隷市場じゃないの、純粋なスカウトなんだよ」


「むぎぎ、こいつ!」


「……てめぇ、今更……俺たちに【首輪】を付けようってのか?」



 静かに怒りを表す綜に、気圧されたように仮面の女が一歩下がる。



「ふ、ふん。私を攻撃するって言うの? そうしたらあんたたちは市民権どころか、犯罪者として追われることになるのよ、それが嫌だったらおとなしく――」


「なっ、お前! それはひどいんだぞ!」


「……っのやろう……」


「へっ? あ、ちょっ、ちょっとあんた何を……! あたっ!」



 怒りに震えるヴィーを横目に、綜は一歩前に出ると。

 傷だらけの右腕を天へと掲げ。

 霊力の発光と共に瞬時にオーダーを展開する。


 それを見た途端に、あわあわと腰を抜かし、地べたに尻餅をつく仮面の女。



「上等だ……! 俺たちの首にリード付けたいってんならなぁ! てめえブッ飛ばして、引きちぎってやるまでだよ!!」


「わーっ! タンマタンマ! なんなのよ~この【綜】はー!」



 今にも本気で、その拳を振り下ろしそうな勢いの綜に。

 あわてて仮面をはぎ取ると、その素顔を曝す、元・仮面の女。


 ――その正体は、綜たちもよく知る人物(・・・・・・)だった。








「え、そんな! もしかしてお前、『東雲由宇』……なのか!?」


「は? ――っと、由宇!? いや、それにしちゃ……老けて――」


「おい新人、それ以上言ったら……首ぃ掻っ切るぞ」


「あ、すんません」



 直前まで腰を抜かしていたとは思えないほど、女――【東雲由宇】から放たれた濃密な殺気が、綜を襲う。

 その怒りの波動にあてられ。

 即座にオーダーを解除すると、背筋をしゃんと伸ばす綜。



「まったく、女性の扱いが下手な『柳ヶ瀬綜』ね、本当に失敗しちゃったかなー、これ」


「えっと、お前は……データから参照すると、第三十七期・東雲由宇ってことでOK?」


「そうよ、新しい分霊ちゃん。言葉遣いはなってないけど、あなたの方はまだしっかりしてるわね。しっかし、事務所開いたばかりで、最初に採った新人社員がこんな短絡バカだなんて……やっぱりしくじったかな~」



 仮面の女――第三十七期・東雲由宇が溜め息を吐きながら、綜を見てぼやく。


 その姿が『由宇(親友)』と似通っていたからか。

 それとも同郷・・の者に会えた嬉しさからか。

 綜は短絡バカ扱いされても、さして怒りを感じることもなかった。



「えっと、とりあえず……あんたのこと、なんて呼べば良いのかな?」


「そうね、東雲由宇の名前を使いたくないなら、『社長』って呼びなさいな」


「っ!」



 その科白から、こちらの事情は筒抜けで、考えていることまで見透かされていることを、綜は理解することができた。


 そして、目の前の女性を『社長』と呼ぶことは。

 この世界での自分の進路を決めるのと、同等の意味を持つということも分かっていた。



(まぁ、確かに。モンスターを倒せるような人間を、野放しにするはずもない、か……)



 武器はしっかりと管理する、それが成熟した社会のシステムだ。


 そのシステムが正常に機能してこそ、人々は安心して暮らしていける。

 だから綜に対するこの【管理】も、悪意と言うよりは、この世界でまともに生きていくうえで、必要な措置なのだろう。



「一つ、聞いても良いかな……『社長』」


「綜?」


「……良いわよ、私に答えることができる質問ならね」



 意を決した顔で問いかける綜に、ヴィーは驚き、大人の由宇は静かに頷き返した。



「あんた、事務所を開いたって言ったよな。それって……移人でも独立できるってことなのか?」



 その問いに、色々な意味を含んでいることを。

 目の前の『由宇』は、同じ立場だからこそ理解できた。



「ええそうよ、時間はかかったけどね。元は移人の私も今では独立開業し、いっぱしの経営者よ――と、胸を張って言いたかったんだけどねぇ……」


「あれ? な、なんだよ」



 胸を張っていたかと思うと、不意に辛辣なジト目で見詰められ、狼狽する綜。



「よりによって、雇い主になる私に攻撃しようとするなんてね。他の社長さんが競りに参加しなかったのがよく分かったわ……くぅー! 安く買えてラッキー♪ って、思ってたのにぃ~!」



 今度は涙目になると、くやしげに頭を抱え。

 オーバーなアクションで天を仰いで、嘆く由宇。



「え、安い? ま、まさか、不敗のマレブランケを倒した綜が、そんな……不人気ってことなのか!?」


「…………いや……不人気どころか、入札に参加したの、私だけだしね」


「えー!? なんだそれ! 綜はちゃんと門番も倒したし、外に出てこれたんだぞ!」



 ヴィーの抗議にも、軽く手を振り否定する由宇。

 その姿には若干の呆れが入っていた。



「だって、この子の戦い方を見てみんなドン引きよ。育成するにもクセがありそうだし。いくらエンジンの馬力が凄くても、扱いが不味ければ、みんなまとめて事故るのがオチってものだからねぇ」


「また、残り物扱いなのか、俺は……」



 肩を落とし、嘆息する綜。

 そんな相棒の姿に、ヴィーはおたおたとフォローする。



「で、でもほら! 【シャチョー】は綜が気に入ったから、雇おうと思ったんだぞ!」


「ううん、開始価格が安かったから――うち、事務所建てたばっかりで……まともなランサーを雇うほど資金に余裕が無いのよ……ほんと、お金が無いのって、罪よね……ふふ」



 ずーんと擬音が聞こえるほど、目に見えて落ち込む由宇。

 その姿は見る者に憐憫を誘った。



「あー! もうっ! それなら綜をこき使って、稼げばいいんだぞ!」


「ちょ、ヴィー」


「なによ! 本当はやる気になってるのは、分かってるんだぞ! だから『社長』って、呼んだんじゃないのか? そうでしょ――綜」



 怒鳴り声から一転。

 甘い呼びかけで促すように、真摯な瞳で名前を呼ぶヴィー。


 その水泡のように揺れる潤んだ目に見詰められ、綜の腹も決まった。



「……ああ、まあそうだよな。このままじゃ、この世界で右も左も分からずに無一文のままだし。もちろん、ヴィーも一緒について来てくれるんだろ?」



 綜が唇の端を曲げ笑みを見せる。

 その表情につられるように、ヴィーも目を細める。



「当ったり前だぞ! 綜とアタシは一蓮托生! そうでしょ!」



 憂いを消し飛ばし、満面の笑みを見せる二人の姿に、やれやれと由宇も顔を上げる。



「ふふ……あんたたち、なかなか良いコンビじゃない」



 その言葉に振り向くと、柳ヶ瀬綜とヴィー・クーは笑顔で同時に頷く。

 その仕草につられる様に、東雲由宇も同じように笑った。








「ところでシャチョーは、なんであんな仮面をつけてたんだぞ?」


「え、だって、正体不明の影のフィクサーって、カッコ良くない? 最初が肝心だから、そういう雰囲気で主導権を握ろうと思ったんだけど……って、ちょっと! なんで離れるのよ、あなたたち!?」



 ヴィーの質問に、自信満々で言い放つ社長。

 その姿と言葉に、一抹の不安を抱く二人。



「なんだか……急に心配になって来たぞ、綜」


「奇遇だな、俺も今そう思ったよ」


「ねぇ、待ってよー! あんたたちっ、社長を置いてくなんて、なってないわよぉ!」



 早歩きのスピードで先を歩く二人を、体力不足なのか、涙目で追い掛ける由宇。



「でも、こういうのも悪くないと思うんだぞ」

「ああ、そうかもな」



 置いてきたもの、失くしたもの。

 あの街での小さな頃の思い出に、学校での様々な出会いや、友と共に過ごした日々。


 今までに綜が育んできた、絆を持った人たちの顔が脳裏をよぎる。


 ――まなじりがわずかに、湿った。



「綜?」



 いつの日にか郷愁に囚われた時。

 マガイのように、故郷に再び訪れる日が来るのかもしれない。

 だがそれまでは、決して後ろを振り返らない。



「はぁ……ちょっと、二人とも……はひぃ、待ちなさいっての~」


「息が切れるのが早すぎなんだぞ、本当に大丈夫か? シャチョー」





 すぐ傍から聞こえてくる二人のやり取りに、思わず顔がほころぶ。


 でもそんな顔を二人には見られたくなくて、綜は空を仰ぎ見る。


 抜けるような青空は、どこまでも続き、どこまでも果てが見えなかった。










 はい、なんとか完結まで書き上げることが出来ました。


 こちらの小説家になろうさんで、はじめて書きはじめてから二ヶ月ほど。

 プロットに沿って、最後まで考えていたとおり、無事に書きだすことも出来ました。

 その他にも書きながら思いついたアイデアや、この先の展開なども頭にはあるのですが。とりあえずは、私の書きたかった、ここでの彼らの一つの旅は終わりました。


 ここまでお読みくださって、最後まで付き合って下さった方々に感謝を、本当にありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ