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ワールド・トランス・ワールド ~異世界に至る56番目の主人公~  作者: tea茶
第四章:外層都市 《ファイヤー・ウォール》
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第二十八話 ボーナス


「それじゃあまず、分霊に関しての基本的なとこから――分霊は神霊の端末である、これははじめに聞いてるハズだよねぇ」


「ああ、それはヴィーも言ってたよ」


「じゃあ話を戻すけどさ、この端末って言うのは比喩でもなんでもなくて、仮に神霊を永久機関の発電所としたら、分霊は電池みたいなものなんだよ」


「電池って……」



 嫌な予感と緊張で、綜の喉がゴクリと鳴る。

 その音がランプの灯りにともされた薄闇に溶けていく。



「そのものズバリ、分霊は使い捨て(・・・・)の乾電池と一緒ってこと~」

「――っ!」



 ギシリと拳を固め、憤りを抑えるように奥歯を噛み締める綜。

 もちろん、ここで怒りをぶちまけるのは筋が違うのはよく分かっている。

 だから耐えた。ただそれだけのこと。



発電所(神霊)は容易く動けないしぃ、基本的に【契約した場所】にしか、その霊的パワーを流せない。でも神霊にだって意志がある。だから、なんらかの目的、欲望、義理、良心――そういった意志を具現化して、自分の代わりに生産した【電池(分身)】を世界にばら撒くのよん」


「それが、分霊?」


「そうよぉ真桜。だからといって少量のエネルギー体でも、際限なくばら撒いていたら、世界のバランスはやっぱり崩れてしまう。ほらチリも積もれば――てやつよん。だから分霊たちには特別な例を除いて、普通はその身に蓄えた分の霊力しか備えていない。それが無くなればぁ……あとは、その身を維持する霊力を失い、消えていくしかないってワケ」


「くっ! それじゃああの時、俺を助けたのは――」




 槍の男の一撃から、身を挺して綜を庇ったヴィーの姿が思い返される。


 悔やんでも悔やみきれない、といった張りつめたその姿に、マガイは声を掛けた。




「ん~、それなんだけどねぇ、いくら霊力が有限って言ってもさぁ、さすがに攻撃を一回防いだくらいで消滅するなんてことは、普通は無いはずなんだけどね~」


「そういや……ヴィーは、割り振られてる霊力が少ないって、ボヤいてたっけ」


「へぇ」



 綜の一言に、なるほど、と腑に落ちた顔を見せるマガイ。



「生物は霊力を自分で作ることができる。でも、分霊などの霊体や一部の人外は【特遺伝因子】という核と、【霊力粒子】と呼ばれるもので形作られてるのよん。力を使うことで霊力は減少するけど、それでも周りの生物や大気から少しずつ吸収して、自然回復することはできる。でも極端に消費し、その身を維持することすら困難なほど枯渇してしまえば――」


「……ヴィーは消える、ってことなのか」



 傍らで毛布に横たわり、身動き一つせずに眠るヴィーを、目を細め見つめる綜。


 ドールのように整ったその横顔を見ていると、不意に泣きたくなるような激情に駆られる。

 だが、立ち止まっているわけには行かないと、綜は意を決してマガイに向き直る。



「それでも、助けることはできるんだよな、確か霊力補給ってボーナスがあるって……」


「うん、車の中では、とにかく街を抜けて市民権を得ること――って、とこまでしか話せなかったけどさ、今なら詳しく話す時間もあるしね~」


「それでボクらはどうすれば? 霊力補給の方法っていうのは……」



 話の続きが気になるのか、急かすように話を振る由宇。

 そんな一同を、マガイは落ち着かせるように、ゆっくりと、丁寧に説明を続ける。




「やることは簡単だよーん、ようは一番乗りで、派手に『解錠都市パラディーゾ』を抜ければいいのさぁ! 賞金の出るレースとかでも同じでしょ、表彰台の一番高い所に居るやつが褒賞もたくさんもらえる、それはこの分霊も一緒! てことで、おそらく一番先に進んでるのは、車を使ってた綜にぃ達だと思うから、ここから速攻で――……って、あれ?」




 ふとマガイが違和感に気付く、綜たちのノリが悪い。

 いや、そもそも誰も話を理解してる素振りが無い。



「…………あの……解錠都市パラディーゾって、なに?」


「は?」



 おどおどとした真桜の質問に、思わず間の抜けた返事を返すマガイ。

 そのどこか滑稽な返事が響く中、気まずい空気が場に満ちていった。



「もしかして、……綜にぃたち、解錠都市は知らなかった?」


「ああ、えっと……なんかヴィーは情報を制限されてるとか言ってたし、実際に聞いたのは、ここと煉獄都市の話までだったよ、なあ由宇」


「うん、そう言ってたね」



 同意を求めるように由宇へと顔を向ける綜。

 それに対し、素直に頷き返す由宇。



「はあー!? なによそれぇ! 私の時より全然情報ないじゃないの、そんな基本的なことも知らされてないって……はぁ~、車とか道具は充実してるってのに……」



 眉をひそめ、めずらしく疲れた表情で額に手を当てるマガイ。

 だがそれも束の間、気を引き締めるように頭を振ると、改めて綜たちに向き直る。



「よっし! じゃあ外に出るまでのルートをぉ、まとめて私が話すよ、それで良い?」



 その言葉に綜は、寝ているヴィーをチラリと横目で流し見た後、姿勢を正し、改めてマガイに向き直った。


「ああ、頼む」


「コホン、とは言っても、次の煉獄都市を抜けたら、実質これが最後の試練になるんだけどねぇ。それが解錠都市――周りを取り囲む最後のカルデラ連山、標高三千メートルを越す山脈を貫く、迷宮都市ダンジョンのことだよーん」


「――っ!」


「えっ?」


「ちょっ!? ええっ、山脈って……そんな、ゲームのダンジョンじゃあるまいし! 迷宮に挑めってことかよ!」



 驚きに声を荒げる綜。

 真桜と由宇も、それぞれ言葉をなくしている様子だ。



「そうだよん、ある意味分かりやすいっしょ? 志麻霧市が転移してきたこの地は、元々巨大な窪地だったのもあってね~、志麻霧市出現と共に、周りの山脈が一斉に隆起して、大規模なカルデラ地帯を形成したらしいのよん。だからぁ、ついでにその山々を移人に対する関門にしちゃおうって、昔の人は考えたんだよねー」


「軽く言うけどさ、山脈貫くってバカげた規模だよ。さすがにボクも呆れるね」


「まあ、それだけ当時は移人に、脅威を覚えてたんじゃないのかなー? どちらにしろ、そういうのは当事者じゃなきゃ分からないけどねぇ」



 由宇の憂鬱そうな溜め息に、軽く肩をすくめて返すマガイ。



「あーそれと、言っておくけど山抜けがゴールじゃないからねぇ。解錠都市はそれ自体が、山をぶち抜いてできた広大な迷宮ダンジョンなんだから、そこにはお約束通りに、凶暴なモンスターが住み着いていたりするのよん、これが」


「はぁ……そのダンジョンを突破するのが、最後の試練ってわけかよ」


「モンスターって、そんな!」



 もはや呆れるしか無いと、ため息交じりに愚痴る綜。

 グールを思い出し、身体の震えを抑えるように、両腕で自身を固く抱きしめる真桜、

 そんな彼らに追い打ちを掛けるように、マガイは容赦なく言葉を紡ぐ。



「綜にぃの言うとおり~……と、言いたいところなんだけど、それじゃあ読みがまだ甘いねぇ、ダンジョンには……ボス戦がつきものってもんでしょー」


「え? ちょっと待てよ……それってまさか――」



 マガイの言葉に、綜は耳を疑いそうになる。



「迷宮都市に入るには、さっき煉獄都市に入るために私たちが訪れた東の門を含めて、それぞれの方角に八つの門番――【カロン(・・・)】と呼ばれる守護役のモンスターが居るのよん。最終的にはそいつらを倒さない限り、出口が開くことは無いんだよね~」


「マジかよ!? 門番? ボスってことは……間違いなく、強いんだろうし……」



 この先の道のりを考え、頭を抱えたくなる綜。

 だがそんな悩める綜を、さらにマガイが突き落とす。



「それにさぁ、分霊を助けるためなら最後の試練を、私は……手伝えない(・・・・・)のよん」




「……え? ちょっとっ、なんでそんなこと今更言うのさ!?」

「由宇っ?」


 マガイの突然の宣言に、即座に切羽詰った顔色で迫る由宇。

 めずらしいその親友の姿に、綜は言葉を詰まらせる。



「いやぁ、だってさー。私が先導してダンジョン抜けても、綜にぃ達は普通に市民権は取れるかもしれないけどぉ、それじゃ特典の霊力補給のボーナスなんて、この子は受けられないのよん」


「あっ! ああ、そういうことか……ヴィーのサポートが、俺個人だから――」


「そっ、あくまでも綜にぃが主導でモンスターを倒さなきゃ、綜にぃをサポートしてるこの子も、おこぼれには有り付けないってワケなのよ」


「……っ……」



 場に沈黙が流れる。

 綜たちの脳裏で思い返される、略奪者の一団を一蹴したマガイの力。


 それは傍目から見ていても圧倒的な力だった。

 その強大な力の恩恵を、次の試練では受けられない。




 一行の安全を保障していた、マガイの知識と圧倒的戦力。


 いつしかそれに依存していたことを、改めて綜たちは気づかされた。


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