セイクウについて
※三人称
<風王>についてどう思っているか、という問いかけに、三人の精霊王は奇妙な顔をした。
そしてそれぞれが溜め息を吐き、初めに口を開いたのは<地王>だった。
「黒い髪がとっても長くてうざったい」
久しぶりに幼馴染達と集まった一室で、彼女は湯飲みから茶を啜る。
「飄々としていて捕らえ所が無く面倒くさい」
さらりと述べた<氷王>が、ソファに座ったまま、膝の上の本を捲って視線を落とす。
「……親馬鹿?」
最後に残された<炎王>が、赤い髪を揺らしながらこっそりと呟いた。
すぐに左右から視線が返る。
「えっと……駄目?」
「当たり前だろう」
「親馬鹿はお前の代名詞だ」
「代名されちゃうんだ……」
うわぁ、といやな顔をする<炎王>に、とにかくさっさと次の意見を出せ、と<地王>が声を上げた。
2杯目の玉露を湯のみに入れ、それにテーブル端の砂糖入りタッパーから取り出した砂糖を2杯入れる。
「……おい」
その様子を見ていた<氷王>が眼を光らせた。
その視線に気付いて、分かってる、2杯だけだ、と答え、<地王>は3杯目の一掬いをタッパーに戻した。
「うーん……えぇー……っと……あ!」
少し考え込んだ<炎王>は、ようやく思い付いて両手を打ち合わせた。
「何?」
「何だ?」
ほぼ同時に、<炎王>の両隣から声が上がる。
<炎王>は胸を張った。
「俺の親友!」
「………」
「………」
「何だよその目は」
可哀相な人を哀れむ視線を送ってくる両隣の親友に、<炎王>は顔を顰める。
だが、すぐに彼もその視線の意味を理解した。
突然、背後から2本の腕が伸ばされ、首と肩を捕まえたからだ。
その手が誰のものかなど、問うまでもない。
<炎王>の顔から血の気が失せた。
いつの間に現れたのかと、振り返ろうとするがそれも出来ない。
「ありがとう、カルライ! そんな風に言ってくれるなんて……僕は嬉しい!」
声は正しく<風王>のもの。
それから、抱擁と呼ぶにはあまりにも過激過ぎる締め上げが、<炎王>の主に頚椎と肋骨に加えられた。
<炎王>の声無き絶叫が放たれようとして、失敗する。
助ける気も起きないのか、湯のみを持ったまま、<地王>は<氷王>の所まで移動して、締め上げられる<炎王>と加害者を眺めた。
「あいつを一言で片付けると?」
「はた迷惑な感動屋」
「まったくその通り」
迂闊に<風王>を感動させるような事を口にしてはいけない。
それを常に失念しているらしい<炎王>を見る二人の視線は、馬鹿な子犬を眺める時の愛に満ちていた。
end