ヒョウガキについて
※ウテン視点
この男の事が良く理解出来ない。
「何でお前の眉間からは皺が消えないんだ」
やれやれと溜息を吐いて、私は奴を見つめた。
奴とは私の向かいで茶を啜る男の事であり、奴は五月蝿そうにこちらへと一瞥を向けてから、開いたままの本へと目を戻す。
見ている本の内容は体の神経についてで、恐らく頁は視神経の辺りだろう。
「おい、無視をするなよ?」
言いながらそっと置いてあった砂糖をカップへ入れてやろうとすると、水掻きのついた大きな掌が己のカップの口を覆う。
何だその行動は。私が毒でも入れるというのか。
むっとした顔をしたのだろう、こちらへともう一度一瞥投げてきた奴は、溜息混じりに口を開いた。
「お前に入れさせたら紅茶ではなくシロップになる。大人しく砂糖を置け」
言われて仕方なく、シチュー用の大きな木製スプーン山盛りに掬い上げていた砂糖を戻し、砂糖を入れてあったタッパーを少し向こうへと押し遣る。
「チノなら喜んで入れさせてくれるのに」
溜息混じりに呟くと、少し強く本が閉じられた。
おや、と視線を向けると、奴がこちらを睨み付けている。
その視線を見返して、何を言わんとしたいか気付いた私は、軽く手を横に振った。
「大丈夫だ、歯磨きはちゃんとやらせている」
「そういう問題じゃない」
「ん?」
どうやら問題は違ったらしい。
首を傾げた私へ、奴が言う。
「お前、チノを糖尿にしたいのか」
寄越された言葉に、私はぱちりと瞬きをした。
「私が大丈夫な間は大丈夫だろう?」
私の方がチノより甘味をとっている。何かあるというのなら、それは私からのはずだ。
軽く胸を張ると、やってられない、とばかりに首を振られた。
先程よりも若干多めの皺が眉間に寄っている。
「……なぁ、ヒョウガキ」
「……何だ」
そのまま、また本を開いた奴へと声を掛けると、今度は無視されずに返事があった。
それに微笑んで、私は尋ねる。
「何でお前の眉間からは皺が消えないんだ」
「……………………………」
最初に戻った私の疑問に、どうやら頭痛がするのか長い指をこめかみへと当てて、奴は答えを紡いだ。
「…………お前達がそうさせてるんだ」
お前達、というのは、私とカルライとセイクウの事だろうか。
失礼な奴め、と呟いて、私は自分用のカップに口を付けた。
口に広がる紅茶の苦味と砂糖の甘みと、ざらりとした溶け残りの感触に、ふう、と息を吐く。
この位は甘くないと美味くないと思うのだが。
やっぱり、ヒョウガキは分からない。
end




